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第2章・国作り
第10話・キャストシンセンス!
しおりを挟む――中央都市リベラル。
ハルトは数ヶ月ぶりに、目覚めた砂漠へと帰ってきた。風景は変わらないが、ハルトの目には先の未来が見えていた。
「この砂漠に国を作る」ハルトの大きな夢が始まる。
「皆さんお疲れ様でした!今日はこの水場の近くで休みます!馬車と荷物を集めて下さい!」
「ハルト!テントはどこに積んだんだ?」
「ゼシカ、テントないねぇ」
「ぼく……テントないと虫さんに刺されてしまふ」
「きゅぅぅぅ……」
「大丈夫。これから作るから」
ハルトは用意して来た木材、石、ガラスなどを馬車から降ろし並べる。
「THE・複製」
続けて――
「鋳造合成!」
見る見る木造のコテージが出来上がる。あ然とする一同。前にアリスに教えてもらった鋳造を進化させた合成魔法だ。
アリスが「どやっ!」と腕組みをする。おいしい所は全部持っていく神。
「さぁ、皆、出来たよ!」
「すごい……家が建ってる!」
「中が……ひろーーーーーい!」
「お風呂まであるのかっ!」
「これはすごい。魔法とは思えない……」
コテージは大好評だった。しかし、アリスも知らない仕掛けがまだ隠してあった。
「ふふふ……」
「ハルト、もったいぶらずに早くせぬか。室内とはいえさすがに暑いぞ」
「うん。雨風はしのげるけどさすがに暑いねぇ。風の妖精さん呼ぼうか?」
エルが妖精を召喚しようかとハルトに声をかける。しかしハルトは申し出を断り、馬車から黒い箱を持ってきた。
「名付けてブラックボックス。これが今回の秘策です」
ハルトはそれを専用の棚にセットし、調整器を接続する。皆、不思議そうな顔で見ている。
「それでは……スイッチオン!!」
ブォォォォォォ……
「あぁ……す、涼しい!!」
「冷たい風が!これは何の魔法なんだ!?」
箱をのぞきこむエル。ハルトの顔と箱を交互に見返す。
「これはブラックボックス。箱ごとに火属性、水属性、風属性、光属性の魔力を圧縮して入れてある。この調整器にメーターがついてて残量もわかるようになってるよ」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
エルの耳が嬉しいそうにぴょんぴょん動く。
「――で、このスイッチを押すと水属性の魔力が風属性の魔力で排出されて冷たい風が出るという仕組み。こっちのスイッチを押すと光属性が発動して……」
パチンッ!
部屋に明かりが灯る。
「す、すごい……!!明かりが点いた……」
「後は料理するのにもそこのスイッチを回すだけで火が点くようになっている。お風呂も火属性で水を温めて出すこともできる。ただ水は大量に使うから、すぐ消費してしまう。できれば水は汲んできて沸かした方がいいかな」
「うむ。ハルトよ、何やら小賢しい物を作っているとは思ってはいたが……褒めてやるぞ。だがしかし!わしが一番風呂じゃ!」
お風呂に走り出すアリス。「待てぇぇ!」と追いかけるリン達。
「だから!水は汲んできてよ!燃料すぐ無くなるから!」
アリス達は聞いちゃいない。
ぽかーーーんとしていたマリンがようやく口を開く。
「あ。あまりに驚きすぎて……こんな技術があったなんて……」
「マリンも汗を流してきてください。男性陣で晩ご飯の準備と荷物を運びます」
お風呂場からすでに声が聞こえる。
「ちょっと!おねぇちゃん!シャワーがあるわっ!王宮でも見たことないのにっ!」
「気持ちいい!これはお湯も出るのですね!幸せっ!」
「これっ!プリン!それはわしのタオルじゃ!返せ!」
「ねぇさま!私は疲れているのです!先にシャワーををををを!」
女子達がきゃっきゃきゃっきゃ言っている。
「いやぁ賑やかだ」
ハルトは同じコテージを複製し全員泊まれるように準備する。
「旦那はちょっと休んでて下さい!俺らでこのくらいはやりますよ!」
荷物運びを率先してくれるギル。
「ん?ギル、その子は?」
ギルの後ろで荷物を運ぶ女の子。耳が生えている。いや、生えているというか頭に付いている。そしてしっぽも生えている。
「うちの新入りでしてね!亜人族の女の子なんですが城騎士団を目指してるらしく、うちで預かったんです。何でも元奴隷……いや、よく働きますよ。クルミ、旦那にご挨拶を」
「は、はじめまして。クルミです。い、痛くしないでくださいにゃ」
「……そうか。元奴隷か、怖い目に合ってきたんだな」
ハルトは膝を曲げ、クルミと同じ視線で話しかける。
「クルミ、よろしくな。早速だけど、命令だ」
「は、はいにゃ。旦那様……」
びくっとするクルミ。
「きりんを連れて、一緒にお風呂に入って来なさい」
「え?荷物運びしないといけないにゃ……」
「命令だ。きりんも綺麗にしてやってくれ」
「はいにゃっ!」
「くぅぅぅん!」
きりんを抱っこし、嬉しそうにお風呂へ向かうクルミ。
「旦那すいません、気を使わせて。クルミは親の仇を取るために城騎士団に来たんです。そして門前払いされた所をゼシカ様が保護されたと聞いております」
「亜人ですよね?仇打ちですか」
「はい。亜人は奴隷商の間では高く取引されるらしく……何でもハリス侯爵家のカイ様が関わっているとか」
「あいつがっ!?」
ハルトは怒りがこみ上げる。以前、北の大森林でメリダを魔物のエサにと置き去りにした貴族だ。
「旦那、大丈夫ですかい?」
心配そうにのぞきこむギル。ふぅぅ、とハルトは一息つく。
「わかった。クルミは俺に預けてくれないか」
「それは構いませんが……よろしいのですか?」
「あぁ。ゼシカには俺から話しておく」
「わかりました。それではよろしくお願いします。荷物入れちゃいますね」
そう言うと仕事に戻るギル。
「あいつはどうやって生き延びたんだ。魔物とは接触したはず。アリスにも一応言っておくか……あれ?」
ハルトは違和感を覚える。
「アリス?そう言えばさっき誰と話をしてた?」
………
……
…
「プリン帰ってきてんじゃね?」
――カポーン。
遠くで日が沈む音が聞こえた気がした。
「はぁぁぁ、いい湯だったぁぁぁ」
「はぁぁぁ、いい湯だったぁぁぁ」
アリスとプリンがお風呂から上がってきた。
「ねぇ、プリンさんプリンさん。いつ戻ってきてたの?」
「えぇと。さっき?」
「そうなんだ。何の報告も無かったみたいだけど?」
「どうして?勘違いしないで。私はねぇさまのために動いてるの。あなたに報告の義務はないわ」
「冷たいプリン用意したんだけど食べる?」
「ご主人様。何なりとお申し付けください」
「ちょろい……」
プリンをむさぼるプリン。
「で、飛龍はどうだったんだ?」
「もぐもぐもぐ、ちゅるん。飛龍は紋章を持っていなかった。ただまずいことにもなってた。皆が揃ってから話す。だからもう一個プリンください。ご主人様」
二個目のプリンを美味しそうに食べるプリン。ゼシカ達もお風呂から上がってきた。
「ゼシカ、クルミのこと頼んだよ」
「あぁ、クルミに聞いた。わかった」
クルミはきりんを頭に乗せ、ゼシカと手を繋いでいた。少しは落ち着いた様に見えた。ふと、ハルトが疑問に思う。
「ゼシカ。麒麟って名前つけったけ?」
「え。いや、きりんって呼んでた」
「何て呼んだらいいと思う?」
皆が同時に答える。
「きりん」
「きりん」
「非常食」
「下僕」
「きりん」
「きりん」
「きりん」
「くぅぅぅん」
結局「きりん」に命名した。
荷物の運び出しも片付けも終わり、全員リビングに集まった。
「明日からの予定を伝える前にプリンから飛龍の報告を聞きます」
「我が下僕達よ、よく聞け」
「プリンよ」
「はい、すいません。ねぇさま、調子に乗りました」
根は素直で良い子なんだろう。
「飛龍に関してだが、紋章は見つからなかった。変わりに少々面倒な事が起きている。ここから南のサウスタンの町はほぼ壊滅状態。サウス山には暗黒龍が住み着いたという噂も聞いた。さらに東のドワーフ族とも音信不通だそうだ」
静まり返るリビング。
「そうか。サウスタンの町は確かリンの故郷では?」
「ばば様っ!?」
立ち上がりコテージから出ていこうとするリン。エルがすぐさま止め、アリスがなだめる。
「慌てるな、リン。お主の故郷はサウスタンの集落であろう。町は壊滅かもしれぬが集落とは言っておらぬ。それに昼間の魔法でお主は魔力が空じゃ。出ていくのは自殺行為……じゃが、ほっておくわけにも行かぬか。ハルトよ、国作りに支障がない程度で明日出立できるメンバーを決めよ」
しばし考えるハルト。
「そうだな……リン、ゼシカ、ギルと、マリアも一緒の方が安心か。あとギルの部下を三名選んでくれ。このメンバーで一週間後には戻って来て欲しい。戦闘は避け速やかに生存者の確保を優先してくれ。ゼシカ頼めるか?」
「わかった、私が指揮をとろう。サウスタンの町まではここから二日はかかるか。リン、それでいいか」
「う、うん……」
泣きそうなリン。今は仕方ない。これが最善だと言って聞かせる。
「申し訳ないが、ここにはウェスタン国王と一ヶ月で国の形を作るという約束をしてきた。裏切るわけにはいかない。かといってリンの家族もほってはおけない。最善の選択だと思う。協力してくれ」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!」
「……ハルト、ありがとう。ぐす」
それからハルト達は明日の予定を立て、それぞれが寝床に着いた。
◆◇◆◇◆
――翌朝。
「それでは行ってくる!」
「あぁ、気をつけて!ゼシカ、リンを頼んだよ!」
笑顔で返すゼシカ。ゼシカ達がサウスタウンに行くのを見送り、ハルトは残りの全員をコテージのリビングに集める。
「みんな集まってくれ!」
ハルトはテーブルの上に国の設計図を広げる。それをマリンが隅々まで目を通す。
「こ、これはすごい!!しかしこの規模だと周辺の城壁だけでも数億金貨かかるかもしれませんよ……しかも一ヶ月ではさすがに。三年……いや五年はかかるかと」
「さすがマリンだな。計算が早い」
ハルトは早速仕事を振り分ける。
まず、エルに精霊呪文で水場の確保と地下水路の確認、同行で鼻の効きそうなクルミときりんを任せる。
マリンには図面の確認と指示、休憩などの時間割を任せる。メリダには食事と洗濯など家事全般。
ギルの部下七人には肉体労働班で境界線を決める段取りとした。最初は直径約五キロ圏内の障害物、樹木や岩などを片付けだ。
――中央都市四日目。
方位磁石でウェスタン王国を西に合わせて、中心から二キロ先までロープを張って円を描く。それが出来たらさらに三キロ先までロープを張って円を描く。内壁まで二キロ。外側壁まで五キロがこの国の全体サイズになる。
「よし。始めよう!」
近衛兵と手分けしてロープを張る。炎天下で数キロの円を描く大作業だ。
「暑い……アリス、ここはなぜ砂漠地帯になったんだ?」
「わしも詳しくは覚えておらぬ。確か近くで川が氾濫し、すべて流されたような気がする」
「へぇ……氾濫ねぇ……」
この砂漠地帯は元々、リベラルという大国があったそうだ。そこで祀られていたのが創造神アリスだった。
「アリス。プリンが言ってた暗黒龍て言うのは何者だ?」
「うむ。あいつとは犬猿の仲でな。大昔、何度かガチで戦ったが……正式名称は確か「邪神トカゲネビュラ」元はトカゲじゃ」
ツッコミどころが多すぎて困るハルト。
「神なのか?アリスが勝てないほどの。羽根の生えたトカゲ……」
「正式には神ではない。どこかの血筋で神の血が混ざったのであろう。あいつはわしの嫌いな猛毒を持つ。わしの力でも浄化するのに骨が折れる。それにじゃ……何か臭い。だから関わりたくないのが本音じゃ」
「何か、臭いって……」
「皆、無事で帰って来てくれ」ハルトは南の空を見て願った。
応援ありがとうございます!
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