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二話
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トイレから戻って来た私はカフェに入る入り口で固まった。
何故って?
そりゃ、私が座って居たテーブルにチャラそうなド金髪の男性が居たからですよ。
(はっ?……他にも席空いてるのに……まさか、財布を盗む気?)
ジィーっとその席を見ていると、彼は何か手にノートを持っていてペラペラとめくっては笑っていて不思議になった。
財布を盗む気なら、さっさと盗んで消えればいいのに居座って何かを可笑しそうに見ている。
だが、私は気付いてしまった。
(…えっ、あれって!?)
急いで自分の席に戻って、彼の後ろからノートを見た瞬間に私は顔が熱くなるのを感じた。
そう、テーブルに置いていた私のお絵描きノートだったのだ。
「えっあの?何してるんですか…?」
「…ん?もしかしてここの席の人?」
「え、あっ、はい…そう、ですけど」
「じゃあこれ、アンタが描いたの?」
「そう、ですけど……えっあの、本当に何してるんですか」
この人見知りで他人と会話なんかまともに出来ない私が、こんなにも初対面の人と話せるなんて尋常じゃない。
それくらい今テンパってるんです!
勝手に席に居座って、勝手に人のノートを見るこの男の第一印象は最悪のものだ。
「へぇー、なかなかいい絵描いてんじゃん」
「あ、ありがとうございます…?じゃなくて!何勝手にみてるんです!?」
「いやー、でもこの絵はないよな。うん。超暗いし」
「話し聞いてます!?」
「細かい事は気にすんなって。俺、三神アキトってんだけどアンタは?」
ペラペラとノートを見ている彼の名前は三神アキトだと自己紹介された。
いや、だから!
話し聞けっての!
私は今、そんなのどうでもいいんですよ!
「返して下さい」
「アンタの名前聞くまでヤダね」
「…っ東雲輝です」
「それって本名?ペンネームじゃなくて?」
「何故バレた!?」
「いや、これに書いてあるし」
くっそう!ノートにペンネーム書くんじゃなかった!
しかも思いっきり()書きでペンネームとか書いてるわ!
なんだ、この男は。
さっさと消えてくれ。
私は仕方なく本名を名乗る事にした。
はよ消えて欲しいあまりに。
「……宮本リナです」
「へぇー、今度は偽名じゃないの?怪しいなぁ」
「っもういい加減にして下さい。ちゃんと言ったんですから返して下さい。ついでに消えて貰えるとかなり有り難いです」
頭を抱えたくなるとは、まさに今の状況の事なんだと改めて思い知った私。
パタンとノートを閉じる音がして、私はやっと返してくれるのかと顔を上げる。
けれど、ノートはテーブルに置かれていても男がその席から立ち去る事はない。
「えっ、ちょ…なんでまだ居るんですか」
「えっ、ノートはちゃんと返したじゃん?」
「イヤイヤイヤ。さっきの聞こえてましたよね?消えて貰えるとかなり有り難いんですけど」
「まぁまぁ、そんな堅いこと言わないで」
「………店員さんにヘルプしますよ」
「はっ、ちょ!待った待った!本気で呼びに行こうとしないでっ」
「なら早く消えて下さい」
冷めた視線で男をみると、彼は仕方ないとばかりに溜め息を吐いた。
いや、溜め息吐きたいのこっちなんですけど?
「…実は、前々からここのカフェの前通ってたんだけど」
(…なんか語り始めたんだけど!?)
「時々通る度に、アンタがこの席に居るのが目に止まったんだよね」
(それがどーしたってんだ)
「で、いつも何かしてて見てて飽きないからついつい目で追うようになってさー。それで今日も居るかなって思って覗いたらリュック置いてるのに居ないから待ってたんだよ」
「……はぁ……で、勝手にノート見てたんですか。ドン引きなんですけど」
なんの話を聞かされたのか正直どうでもいい。
それよりも、私の許可なしにノート見るわ居座るわしている彼に本気で引いている。
どうしたらこのデリカシーのない男を追い払えるだろう。
やっぱり店員さんに頼むべきか?
「ところでリナって今何歳?」
「…呼びすてとか更にドン引きです」
「俺はねー、二十六歳♪」
「だから話しをっ…はぁ……もういいです。私が退きますから」
そうだ、私が諦めてカフェから出ればいいんだ。
でもどうしようかな。
ここ今でても後数時間どこで時間潰そう。
喫煙所に行くか。
そう考えながら荷物をまとめようとした私の手首を彼は焦るように止めてきた。
「駄目」
「っ!?」
あまりの急に私はビクリと身体を震わせた。
ゴツゴツした暖かな手の温もりと、真剣な表情の男を前に私は血の気が引いた。
「お願いだから、俺の話をちゃんと聞いて」
「っ……は、離して下さい…」
「無理。だって逃げるだろ?」
怖いと思った。
急に低い声で、真剣な表情で、掴まれた手首に入る手の力に。
早くどうにかしないと、息も苦しい。
私はとっさに無意識でこの手を退かして欲しくて言ってしまった。
「わ、分かりましたから!だから、離して…」
「マジッ!?」
とっさに出た言葉に、彼は嬉しそうに笑顔になり手を離してくれた。
その安堵に私は自分が座っていた彼の向かいの椅子にドスっと崩れるように座る。
(…マジでなんなんだ、この人…)
未だにニコニコしている彼に、私は既に諦めた。
十二月十一日の冬。
私はド金髪でチャラそうな男に捕まったのだった。
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