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四話
しおりを挟む夕方頃、日は沈み掛け空が茜色に染まりはじめる
学校が終わって、ある人は部活に行き、ある人は友達と寄り道をしたりしてお喋りなんかをしてて
恋人のいる人達は、別れを惜しんで手を繋いでたりベンチに座ってお話する時間だ
けれど、私は部活もしていなければ恋人もいないし友達もいない
それでも寂しくないのはきっと・・・
「ただいまぁー!」
家に着いて玄関を開けて帰って来たのを知らせると、遠くから返事が返ってくる
「おー、おかえり。今日も早いな」
「おかえり、千尋」
ヒョコッと顔を覗かせるアオちゃんと玄関まで迎えに来てくれるアーちゃんが見えた
きっと寂しくないのは、この二人が家に居てくれるからなんだなと思う
「今日ね、国語の小テストがあったんだよ!」
「へぇー。その様子じゃ、イイ点取れたみたいだな」
「うんっ!」
靴を脱ぎながら笑ってブイサインする私に、アーちゃんが良かったねと頭を撫でてくれた
「ほら、手洗いうがいしてきな?おやつに羊羹買ってあるから」
「はーい」
アーちゃんに言われて部屋に戻り荷物を置くと洗面台に向かってちゃんと手洗いうがいをしながら、今日お昼寝をした時の夢を思い出す
はじめてアーちゃん達に出会った懐かしい記憶
出会った時からアーちゃんは私に優しくしてくれる
でも、アーちゃんに反対していたアオちゃんは凄く意地悪で冷たい態度を私にしてた
(…そういえば、アオちゃんが優しくなったのっていつ頃だっけ…?)
意地悪は今でもあるけど、あの頃に比べたら減ったし酷いものではなくなったけれど
いつ頃だったか、アオちゃんの私を見る目が優しくなって面倒見のいい人になっていた
否、アオちゃんは元々優しくて面倒見のいい人だったのかもしれないけど
あの頃はただ私を受け入れられなくて、どう接したらいいか分からなかっただけなんじゃないかと今では思う
(……なら、今は受け入れてくれたって事かな?)
そう考えると自然と口元が緩む
「おーい!早くしねぇと千尋の羊羹もオレが食うぞーっ」
「え、待って待って!食べちゃ駄目だよアオちゃん!!」
リビングから痺れを切らしたアオちゃんが意地悪に言ってくるから、私は慌ててリビングに駆け出した
たどり着くと今にも口に入れようとするアオちゃんの姿があって顔を青ざめる
「駄目!食べたらアオちゃんの事嫌いになるからねっ」
「…………っ本気で食う訳ねぇだろ、たく…」
半泣きで嫌いになると言ったら、アオちゃんはその手を止めてお皿に戻した
最近は意地悪も減ったかなと思ったけど、やっぱりアオちゃんは意地悪だと思う
でも、なんやかんやで私が泣きそうになったらいつも助けてくれるから嫌いにはならないけど
「…アオ、また千尋イジメ?」
「イジメてねぇよっ!からかっただけだし」
アーちゃんが呆れたように溜め息を吐いて言うと、アオちゃんは不機嫌そうにソッポを向いてしまう
だけど私は、こんな時の”魔法“を知っている
「アオちゃんっ!」
「……んだよ…もうしねーよっ」
「はいっ!半分こ!!」
笑顔を向けてクシで半分こに割った羊羹をアオちゃんの顔の近くに差し出した私
それに驚いたように目を見開き、私と羊羹を交互に見てくる
「ほら、あーんしてっ」
「………………」
「早く早くっ!腕疲れちゃうよー」
「………ッチ…………ん」
「えへへ~、おいし?」
「…おぅ」
嫌そうに舌打ちしてたけど、結局諦めて食べるアオちゃんの機嫌は不機嫌じゃなくなった
だから私も残りの羊羹を自分の口の中に入れてモグモグ食べる
「美味しいねぇ~、アオちゃん」
「……ったく……本当にお前って奴は…」
「ん…あんふぁいった?」
「食いながら喋んなっ」
上手く聞き取れなかったから聞いたのに、アオちゃんは私の頭を朝の時みたいにコツンと叩いてきた
いつものアオちゃんに戻って、羊羹が美味しくて私は今凄く嬉しくて幸せな気持ち
このままずっとずーっと
三人で居れたらいいのになって
二人には内緒だけど、そう思う
おやつを食べてごちそうさまをすると千尋はお皿とコップを洗って部屋に戻り宿題に取り掛かる
アオは千尋がついでに洗うからと言われたので一人何気なくテレビを観ていた
「……いつも思うけど、アオは羨ましい奴だよね」
「はっ?なにが?」
夕飯の支度を終えたのか、リビングに顔を出しアオに話かけるアカ
急になんだと言いたげなアオが聞き返すと、少し不機嫌な顔でアカは口を開く
「だって、アオが不機嫌だって分かるとさっきみたいに千尋が食べさせてくれるでしょ?」
「ッゴホッゴホ!」
「大丈夫?急に咽せないでよ」
「っテメェが急に変な事言うからだろ!」
「そう?僕は正論を言っただけだけどね」
湯のみのお茶を飲もうとしていたアオだが、アカの発言により咽せてしまった
さっきの事を思い出してしまって、千尋の顔が浮かんだからだ
「……そんなに羨ましいなら、アイツに言えばいいだろ」
「んー、そうゆんじゃないんだよねー」
「アイツなら、喜んでしてくれんじゃないの?お前のお気に入りだしよ」
さっきの出来事をなかった事にしようとアオはテレビに視線を戻す
しかし、アカはそんなアオが気に入らないのか指を鳴らしてテレビを消した
「おまっ、今観てたんだぞ!」
「またつければ?」
「ったく……お前って本当に千尋がお気に入りだよな。あん時も俺の反対押し切っちまったし」
文句を言いながらもテレビをつけるアオの言葉に、アカは意味深な笑みを浮かべる
「そりゃあ、ね。でも、アオだってそうでしょ?僕らを怖がりもしない…ましてや裏のある人間でもないし……なにより、あの子は妖にとって”特別“の存在なんだから」
「………お前の、そうゆう所はどうも好きになれねぇ」
「へぇ?それは初耳」
眉間に皺を寄せてアカを睨むが、効果はなく面白そうに見下してくる
「千尋に見せてやりたいぐらいだわ。お前のその黒い部分」
それに腹が立ったのか溜め息混じりに立ち上がり、喉が渇いたのかキッチンに向かいアカの横を通りざまに吐き捨てる
しかし、その発言には言い返して来ず不思議に思って振り向くとなんとも言えない表情をしていた
「見せないよ。……千尋には…”優しいアーちゃん“の僕だけ覚えてて欲しいから…」
「はっ…?お前、それどうゆう─────」
一瞬、アカの言った言葉の意味が分からず理由を聞こうとした
けれど、千尋の部屋の扉が開く音がして無意識に口を閉ざしてしまった
「アーちゃ~ん」
「ん?宿題終わったの千尋」
「ん~・・・あとちょっとなんだけど、お腹空いちゃって集中できなーい」
リビングに来るとグッタリと疲れた様子でお腹が鳴っている千尋にアカはクスクスと笑う
「じゃあ、ちょっと休憩がてらにご飯にしようか。丁度出来上がったし」
「わーい!アーちゃんの料理好き~」
さっきまで元気がなかった筈の千尋は嬉しそうにキッチンへと向かい、アカのお手伝いをし始める
一方、アカに言いそびれたアオは渋々と諦めたように溜め息を零した
「んー?アオちゃん、どしたの??」
「…呆れてんだよ。この色気より食い気の千尋にな」
「わわっ!髪の毛グチャグチャになるからやめて~」
誤魔化すように千尋の頭をクシャクシャに撫で回すとアオも食事の手伝いをする
けれど、頭の片隅には先程のアカの言葉が離れずにいた
(……まさか、な……)
有り得ないと自分に言い聞かせるしか今はないに等しかった
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