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五話
しおりを挟む────深夜二時刻、千尋が熟睡している頃
家の屋根に佇立している影が二つ見える
人間より耳は尖っていて、瞳の色は月のように明るい金色をして、服装は和風と洋服を上手く組み合わせた動きやすい服を着ている
「……さぁーてと、今日も雑魚共退治しますかぁ」
「家には結界が貼ってるし問題ないだろうけど……あんまり暴れ過ぎないでよ?青鬼」
「わぁーってるっつの!」
呆れ顔で釘を指すと、ムスッとする青鬼
しかし、タイミングが良いのか悪いのか邪気の気配がして二人は真っ直ぐに北方面の方角に振り返る
木しかないただの山の方角にいつもより強い邪気がビリビリと感じとれた
「…なんだ、今回の奴はなかなか楽しめそうじゃねぇかっ」
「待て、青鬼!良く考えて行動しないと……」
「んな事言ってる場合かよっての!」
「ちょっと、まっ…てもう行っちゃったよ…」
戦えるという嬉しさに青鬼は赤鬼の言葉を聞かずにさっさと北方面へと屋根を飛び移りながら行ってしまう
赤鬼はそんな青鬼に呆れて怒りすら沸いてくるのを押さえて後を追いかける
(まったく…青鬼は昔から後先考えずに暴れるんだから……こっちの身にもなって欲しいよ)
追いかけながら、赤鬼は青鬼の問題点について更に呆れた顔になった
ふと数日前の青鬼との会話を思い出た
タイミングの良い具合に千尋が現れて話は途切れたが、もしあのまま千尋が現れていなければきっと青鬼からの質問責めにあっていただろう
しかし、例え千尋が現れていなかろうがその先は言うつもりもなかったので助かったのだが
(…千尋を家に一人で居させたくないんだけど……大丈夫かな…)
いくら強力の結界を貼っているからと言っても、千尋が自ら家の外に出れば意味がない
それに、結界を上回る程の力を持つ者が居れば時間稼ぎにはなるだろうが破られてしまう
だが、千尋には夜中に目覚めても出歩かないように言い聞かせているし、そんな強い力を持つ者が現れるならすぐに分かる
なので心配をするのであれば……自分達が家から遠過ぎる場所に居る事だけ
「っと、ここか?」
「……みたいだね。でも、変だ」
「…………あぁ。微かだが…邪気が弱ったな」
山にたどり着いたは良いがあの邪気が微かに弱まったように感じて、周りを警戒態勢で見渡す
「…っおい……なん、だよ…コレ…」
「っしまった!罠にハメられたっ…」
夜目の効く鬼が目にしたのは、大量の小物妖怪で二人の周りに集まっていた
「クッソ!いくら雑魚っつってもこの量を相手にしてりゃ時間が掛かるぞっ」
「…それが目的だろうね。だから気配を”一つ“にしてたんだ、あの岩に」
「なるほどな…妖気を一点の場所に集めたって訳か…チッ…胸くそワリィなっ」
大量の妖怪の先にある岩で妖気を集められる札のようなモノが貼られているのを目にして冷静に分析する赤鬼だが、内心では焦りで余裕がなかった
罠だと分かった以上、千尋が心配である
自分達を誘き出す為ならば、まず考えられるのは一つだけ
千尋に近付く事だろう
「…くそが……僕らも甘く見られたモンだね…」
「あー、赤鬼?笑うか怒るかどっちかにしてくれねぇかな…オメェのそれ、こえーんだよ」
「元はと言えば、青鬼が原因なんだけど?」
「…………すまん」
「馬鹿まっしぐらに飛び込む癖、いい加減直して欲しいね」
「だから悪かったって!!」
黒いオーラを放つ赤鬼に、申し訳ないと謝る青鬼
千尋の事になると赤鬼は手に負えなくなるので、青鬼はさっさと片付けるべく腰にある刀を抜き取った
「兎に角!コイツら倒さねえと!逃がしてもくれなさそうだしっ」
「………さっさと片付けるよ。全力で」
「おう!」
なんとか気を逸らす事に成功した青鬼は又しても喜々とした顔になり、小物妖怪に立ち向かうのである
赤鬼も、それに続き妖怪を蹴散らしていく
(……千尋、無事でいて…)
何事もなく自分達が戻るまではと、そう強く願いながら
…けれど、赤鬼の願いは届かなかったようだ
「…………」
目覚めた千尋は寝ぼけているのか、ボゥとしている
一瞬、周りを見渡すとベッドから抜け出しパジャマの上からカーデガンを羽織るとトボトボと歩く
「…行かなきゃ……」
玄関に近付くと、小さくそう呟く千尋
ボゥとする視界で扉を開けるとピシャリと家を出て行ってしまった
それに気づいた赤鬼はハッとして家の方を見据えた
「………………千尋…?」
あの、約束を破らなかった千尋が……初めて約束を破った瞬間である
何故、どうして、何かあったのかと考えを巡らしてしまった赤鬼は隙だらけ
「──────っ赤鬼!」
「っ!?」
だから、青鬼に呼ばれるまで気付かなかった
後ろに立つ妖怪に
鋭く尖った爪が、赤鬼に向かって振り落とされる
──────ズシャリッ
山の中で、その嫌に耳に残る音が響いた
「赤鬼ぃ────!!」
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