『独り鬼ごっこ』

東雲皓月

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八話

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チクタク、チクタクと掛け時計の針が進む音がリビングに響く

アカとアオを向かいに座るクロは、まだかまだかと気が気でなく緊張をしている


「……単刀直入に聞くけど、」

「お、おう」


たった数分が何時間にも感じられる静けさを破ったのは湯のみに入ったお茶を啜っていたアカだった


「千尋が君を探しに行った?」

「…俺を助けに来たって言ってた」

「………はぁー、なるほどね。ま、だろうと思ったけど」


やはりと言わんばかりに納得するアカだが、クロ自身はさっぱり分からないという表情をしている

それに気付いたアオが呆れ顔で溜め息を吐いた後に話してくれた


「あー、千尋はな?三年前に親に捨てられちまって、そのせいかは分かんねぇけど困ってる妖や助けを求める妖に敏感なんだよ」

「親に捨てられたって………てか、そんなんアリか?」


あまりに信じがたい千尋の過去を聞かされクロは目を見開く

だが、そのせいで困っている妖なんかに敏感だなんて流石に有り得ないだろうという気持ちが大きかったクロは聞き返す


「まぁ、千尋だからって納得するしかないな。けど、今回みたいな夜中に外出は初めてだったからちょっと焦ったけど。主にアカが」

「仕方ないだろう?まさか千尋が自分で結界の外に出るなんて思わなかったんだから」

「結界…?」

「ああ。この家にはアカの結界が貼ってるんだ」

「なんで?」

「なんでって……じゃあ逆に聞くけどよ、お前はなんで今日会ったばかりのしかも人間に着いて行こうと思った訳?」

「それは…」

「理由は些細な事だろうけど、千尋には妖を引き寄せるような力があるんだよ。僕らみたいな奴も居れば、それを利用もしくは邪魔だと思って消そうと企む奴もいる」

「だから、親代わりの俺らはアイツを危険から守る為に色々苦労してんだよ」


クロはなんとなく二人が言いたい事が分かった気がした

確かに、理由は些細なモノだが千尋には妖を惹きつける”何か“がある

だからここまで着いてきた訳だし、助けてやらないとと思った

まぁ、結果は天狗が現れて助けて貰ったのだが


「……で、ここからが本題なんだけど」

「まだあんのかよっ」

「当たり前でしょ。…君、これからどうしたいの?」

「…はっ?」

「勿論、千尋の言ったようにここで家族として暮らすのもアリだよ。でもそれは君自身の意思じゃない」

「………俺、は…」


突然のアカの言葉に、クロは直ぐに言葉が出てこない


「僕もアオも、自分の意思で今ここに居る。誰かに言われた訳でもましてや千尋に言われたからでもない。だから君の本音を聞きたいんだよね」


正論過ぎるアカの台詞はクロの胸を締め付ける

けれど、脳裏に浮かぶ千尋の笑顔とあの言葉が思い出されてグッと拳を強く握り締めた


「…俺は、アイツを守るって言ったんだ。それに結果はどうあれアイツは恩人だし、他に行く宛もない。これは俺の本音でこれからもアイツの側に居たいのも本音で俺の意思だ」


真っ直ぐと二人を見る瞳は確かに強い意志が伝わってくる

そう、クロは守ると千尋に言った

そして、これはただの自己満足かもしれないが…

千尋から絶対に離れていかない誰かが必要な気がした

だったら自分が、その存在になればいいのではと


「………本気で、それがお前の本音なんだな?」

「ああ」


鋭い眼差しに負けじとクロはアオを同じような眼差しで見返す


「…分かった。なら、もう言う事はねぇ」

「…………」

「ただ、千尋を傷付けたら…そん時は覚悟しとけよ?」

「あぁ、分かってる」

「フンッ……いいツラしてんじゃねぇか。嫌いじゃねぇ」


話は終わり一件落着と思えた

しかし、アカの表情は未だに真剣さを崩さず何かを考えている様子である

気付いたクロが視線をアカに向けると、アカは重い口を開く


「……君と千尋を助けたのって全身黒い姿の仮面を付けた天狗だったりする?」

「え、そうだけど…」

「チッ……やっぱりアイツか…」


眉間に皺を寄せて舌打ちするアカは、千尋に見せたような穏やかで優しいアカでないくらい性格が変わったとさえ錯覚してしまうくらい黒いオーラを放っていた


「はっ、え…な、なんだ?」

「あー、気にすんな。アカはその天狗が超嫌いなだけだから」

「………そ、そうか」

「ったく、アイツのお陰で千尋が無事だって分かったから返り血を洗い流せる時間が取れたってのに…」

「だとしても、アイツだけは無理。腕は確かだけど千尋を狙ってるゴミだよ?汚わらしい手で触れてほしくないくらいだ」


人が変わったようになるとは、まさに今のアカなのだろうとクロは改めて知ってしまう

それから、千尋を助けるのに天狗が触れたと言えばきっと何が起こるか分からないと判断し、それは己の心に仕舞う事にするクロであった


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