『独り鬼ごっこ』

東雲皓月

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九話

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翌日、夜遅くに起きていた千尋だったが何事もなく朝を迎えていた


「んー、今日もいい天気だねぇ」


ベッドから起き上がると、閉め切っていたカーテンを開けて背伸びを一つする

まるで何もなかったかのように清々しい朝である

あの数時間の出来事など、幻にすら感じてしまう程に千尋は普通にしていた

部屋を出るとまずは顔を洗う為に洗面所へと向かう


「あっ、クロさん!」

「……おぅ」


洗面所に辿り着くと既に顔を洗ったあとのクロと目か合い、千尋はパァッと花を咲かせるような笑顔になる

肩にタオルを置いていたクロは、まだ慣れていないのかぎごちない挨拶をして視線を逸らした


「……あれから、ちゃんと寝れたか?」

「うん!でも夜更かししちゃったからさっきまで寝てたけど」


エヘヘと照れたように笑う千尋にクロはポンと頭に手を置いてフッと微笑む


「今日は土曜日だし、いいんじゃないか?アイツらもまだ寝てるし」

「そうなの?珍しいなぁ~」


普段、千尋より早起きの二人がまだ寝ていると聞かされキョトンとしていると疲れたような表情で溜め息を零すクロはヤレヤレと言うように話す


「あの後、歓迎会だとか言って酒呑みまくってたからな」

「あー、二人共お酒好きだからねぇ。お祝い事以外に呑めないからハメはずしちゃったんだ」


真相を知った千尋は申し訳なさそうに微笑むと、テキパキと顔を洗う


「祝い事以外?」

「そーだよー。飲み過ぎたら身体壊すでしょ?だからお祝い事以外駄目ってルールにしたの~」

「へぇ。じゃ、俺をダシに酒呑んでたのかアイツら」


顔を洗い終わった千尋に自分の使っていたタオルを渡すと千尋はお礼を言い顔を拭く

クロは酒のダシにされたと微かに怒りと呆れをみせるが、差ほど怒っている様子でないと分かり千尋は嬉しそうに笑う

「でも、クロさんが居てくれて良かった~。これから先も宜しくね!」

「…お前って、いつもそうなのか?」

「ん?なにがぁ??」

「昨日会ったばかりの妖を簡単に家にあげるわ。挙げ句に家族にするとか。……もし俺が悪い奴ならどうすんだよ」

「クロさんは大丈夫だよ。それにね?家族になって欲しいって思ったのはクロさんが初めてだから」


二人並んで廊下を歩きながら疑問に思った事をクロが聞くと千尋はまるで心配などしてないと言わんばかりに衝撃的な発言をした

驚いて進む足を止めて千尋を見返すクロ


「…初めて?」

「うん!……ほら、私は人間だからアーちゃん達みたくずっとは生きられないでしょ?だから、もし私が居なくなっても……クロさんが居たら寂しくないかなって」

「お前……」


元気に頷いたかと思えば、少し俯きながら寂しそうな表情でそう言った千尋にクロは胸が締め付けられる感覚を感じた

人間は誰しも自分勝手で己さえ助かればいいと思っている人らとばかり思っていたからだ

なのに、目の前に居る人間は自分が居なくなった時の事まで考えて寂しくないようにと言う

昨日も思ったが、千尋は自分ではなくまず相手を思いやる心が強いのかもしれない

たとえ、自分が傷ついてもクロを見捨てる事をせずに守ろうとするだろう

だが、尚更不思議に思う

そんな心優しくて思いやりがある千尋に、どうして同じ種族の人間は手を差し出さないのかと


「あ、エヘヘ~。なんか暗い話になっちゃった。でもね、二人には凄く感謝してるんだぁ。だから、二人の事も宜しくね」

「………あぁ。お前が…千尋がそう望むなら努力してやるよ」


クロは思った

人間が差し出さないのなら、自分がそういう存在になればいいと

千尋の望みを叶えられるだけ叶えたいし、一番近くに居て悩んだり悲しんだりと同じように痛みを分かち合いたいと

だから、まずは千尋の友として家族として側でやれる事をしようと強く思った


「なんだか嬉しそうだね?千尋」

「あ、アーちゃん!おはよー」

「おはよう。って言ってもお昼前だけどね」


ヒョコリと現れたアカに微笑む千尋の頭を撫でて苦笑すると、横に居たクロにも挨拶をする


「昨日はごめんね。つい飲み過ぎちゃって」

「…気にしてないって言ったら嘘になるが平気だ」

「アハハ~、結構ストレートに言うね。まぁ、それはそうと千尋」


苦笑したあと、話題を変えようと千尋に向かって口を開くアカ


「んー?」

「今日は確か山で妖狐の子供達と約束があるんじゃなかったっけ?」

「あっ……それね、延期になったんだよ。昨日言わなかったっけ?今日は狐の嫁入りだからって」


少し残念そうに言う千尋にアカは思い出したように呟きまた苦笑を零す


「そう言えばそうだったね。んー・・・じゃあ今日はどうする?」

「そうだねー・・・どうしようかなぁ」


どうするか悩んでいると、家のインターンホーンが鳴りだして三人共が顔を見合わせる


「ん?今日って誰か来客いたっけ??」

「……この気配は…多分アイツだよ」

「アイツ?」


気配を確認したアカは少し嫌な顔をしながら溜め息を吐く

クロは昨日の事もあり、それが誰かが分かり気まずそうな表情をする

暫くすると、痺れを切らしたのか訪ねて来た者は差ほど大きい声ではないが呼びかけた


「ちー?居るんでしよー。あーけーてー」

「っ天ちゃんだ!」


その声が誰か分かると嬉しそうに玄関まで駆け寄り扉を開けにいく千尋

開けた先に居たのは、家の敷地外で佇む男性の姿が見えた


「えっ…誰?」


千尋を追って同じく玄関まで来ると、クロは一瞬固まり眉を寄せる

無理もないだろう

昨日と同じ気配であるのに千尋の目の前に佇む男性の姿は見覚えがないのだから


「…人間に化けた昨日の天狗だよ。もっとも正確に言えば鴉天狗なんだけどね」

「………なんか、見た目かなりチャラくないか?」

「まぁ、天狗では珍しいよね。髪が金髪だし、だらしない服装だし」

「昨日とは別人だな。しかもピアスまでしてるし」

「はぁ・・・だから嫌いなんだよ。千尋に悪い影響与えないか心配で心配で」

「その言い方はまるで親だな」

「戸籍上、僕は千尋の親だからね」


なら仕方ないかとクロは無理矢理納得して、仲良く会話をしている二人を見つめる


「ねぇねぇ!天ちゃんが今からご飯食べに行こーって!」

「因みに千尋以外は奢らないから。来るなら自腹だよ?無理に来なくていいし」

「……僕が千尋と二人にすると思う?」

「ならさっさと用意してよ。ボクだって暇じゃないんだから」

「はぁー・・・。千尋、アオを起こしてくれる?」

「うん!」


皆で外食ができると喜ぶ千尋はアカの言いつけの通りにアオを起こしに中へと戻っていく

それを見送るとアカはチラッと天狗の方を見る


「…で、昨日の妖は?」

「ちゃんと始末した。の、前にそこの黒猫を狙ってた理由はちゃんと聞いたよ」


急に雰囲気が変わった二人にクロは目をパチクリさせて、天狗が自分を指差してきたので今度は困惑したような表情をして話の内容を聞く


「それで?」

「別に対した理由じゃなかった。化け猫を殺すのが趣味でそこの黒猫を追ってただけらしい」

「ふぅーん……で、アンタはそれで納得してるの?」

「してないよ。実際、千尋にも手を出してるんだから」

「そう。やっぱり、ココ最近の騒ぎは何かあると思って良さそうだね」

「ん。それで、少し気掛かりな事も聞いたんだけど…」


段々と分からない事ばかり話す二人にクロは申し訳ないような感じで手を上げる


「…なに?」

「えっ、いや……俺にも解るように説明して欲しいんだが」

「あぁ、だから君は多分巻き込まれただけの可能性が大きいって事だよ」

「巻き込まれた?なにから」

「……それはまだ分からない。でも、僕らの予測通りなら多分──────」


アカの最後の言葉に、クロは信じられないとばかりに驚くのだった

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