1 / 5
No.0 記憶に刻まれたモノ
しおりを挟む『────生きて・・・私の分まで、』
死ぬ直前ですら、彼女は笑って私の背中を押してくれた
流れ落ちる涙に・・・血だらけの姿なのに・・・
いつものように素敵な笑顔をしてこの世を去った彼女
私は彼女の分まで生きていかなければならない
そして、こんな悲劇はもう繰り返されてはいけない
炎で焼かれる建物を見つめる一人の少女は、燃え尽くのを見届けながら涙に顔を濡らしていた
助けを乞う人の声すら、炎で焼かれる音と共に消され
少女の悲痛の叫びすら、消しさっていく
─────・・・あれから十二年
「ちょっと!そんなに引っ張らなくてもいいでしょ!?」
「だって早く見たいもん!それにいつチハルの気が変わるか分からないしさっ」
「~~~だからって、こんな朝早くに行ってもまだでしょ!もうちょっとゆっくり歩いてよね、マイク!」
嬉々として目的地まで歩く一人の男と、そうじゃないもう一人の女が朝からそんな会話をしていた
男性の名は、マイク・エバーソンと言い
女性の名は、セナ・チハルと言う
本来なら名前の最初が名で後の方が苗字になるのだが、チハルの場合は苗字が先にきて名前が後の方になる
生まれも育ちもアメリカであるが、チハルは日本人と言うのが理由だ
けれど、何故か両親は居ず孤児として生活したお陰で日本語は全く話せないが私生活には困らなかった
そんなチハルと一緒にいるマイクは、ある日森から突然に現れたチハルを発見し命を救ってくれた恩人である
マイクもまた孤児であり、孤児院で保護された身
その日からチハルとマイクは腐れ縁であり幼馴染みになった
今ではシェアハウスをする程の仲
マイクがしつこく説得したのもあるが
こうと決めた彼に敵う者が居れば、是非とも会って見たいものだとチハルは苦笑を浮かべた
「着いた!ここがあの“自衛隊”かぁ~・・・ワクワクするなっ」
「そう思ってるのはマイクだけだよ。本当、昔から好きだよね」
「だって格好いいじゃんか!悪を倒すヒーローも、人を守る自衛隊も!男なら誰だって憧れるさ」
「・・・忘れてない?私は女なんですけど」
「知ってるさ。でも、君が言った言葉をどうしても訂正して欲しくてね」
「?私、何か言ったっけ??」
呆けるチハルにマイクは不貞腐れたように眉を寄せて、ズィと顔を近付けてチハルとの距離を縮める
あまりの近さに後退るチハルだが、マイクはお構いなしに話し出す
「“野蛮な人間”とか“そんなモノは幻想だ”とか言ってたじゃないか。何も望まず、ただ人を助ける善人なんて居ないって」
「あー・・・言ったかも?え、それだけでワザワザあんなしつこく誘って来た訳?」
「そうだよ!君はもう少し人を信じなよ・・・昔に何があったかは知らないけどさ・・・そろそろ僕以外の人とも仲良くなってもイイんじゃない?」
「呆れた・・・私はマイクが居ればそれでイイの。もう、傷付くのは嫌だもの・・・」
「チハル・・・」
暗い表情をするチハルに、マイクは胸が痛む
彼女は昔からそうだ
誰にも心を開かず、常に独りを好んで人を寄せ付けない
マイクですら最初は彼女に対して苦戦した
何度も話し掛けて、何回も拒絶されて
それでも諦めずに歩み寄ってやっと心を開いてくれた
少しずつではあったが、彼女は笑顔を見せてくれるようになってもう大丈夫だと思った
他の人とも上手くやって行けると思ったのに、彼女はマイク以外に心を開く事はなかった
口数も少ないし、冷たくするし、そのせいで誤解されやすい
だけど本当は、優しくてお人好しで・・・笑った顔がとても可愛い子なんだ
もっと他の人にも彼女の良さを分かってもらえたらイイのにとマイクは密かに思っている
今日だって本気で嫌ならついて来ない
なのにワザワザ来てくれた
優しい彼女だからこそ、マイクは早く彼女の心の闇を取り除いてあげたいと思う
「ほら、もう直ぐで門が開くよ」
「・・・ねぇ、チハル。君は今、幸せかい?」
「ん?急にどうしたの。マイクが居れば幸せよ」
変な事言わせないでよと頬を赤く染めるチハルに、マイクはやっぱり彼女の良さを理解してくれる人がいつか現れたらいいのにと、はにかんで彼女の手を握った
「そっか。僕も君と居れて幸せだよ」
握り締めた手に、戸惑いを見せながらも笑って握り返してくれるチハルは本当に可愛らしい女性だと心がほっこりする
こんな幸せな時間が、ずっとずっと続くのなら
それはそれでイイかもしれないと密かに思う
ギギィィィと錆びた鉄の門がゆっくりと開かれ、マイクはワクワクな気持ちでその先に視線を向けた
嬉しそうにするマイクを横目に、チハルは諦めたように苦笑して彼が喜ぶならそれでイイかとポジティブに考える事にした
今日は待ちに待った『自衛隊・第十五回目の体験&見学できる日』なのだから
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる