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No.0 記憶に刻まれたモノ
しおりを挟む『────生きて・・・私の分まで、』
死ぬ直前ですら、彼女は笑って私の背中を押してくれた
流れ落ちる涙に・・・血だらけの姿なのに・・・
いつものように素敵な笑顔をしてこの世を去った彼女
私は彼女の分まで生きていかなければならない
そして、こんな悲劇はもう繰り返されてはいけない
炎で焼かれる建物を見つめる一人の少女は、燃え尽くのを見届けながら涙に顔を濡らしていた
助けを乞う人の声すら、炎で焼かれる音と共に消され
少女の悲痛の叫びすら、消しさっていく
─────・・・あれから十二年
「ちょっと!そんなに引っ張らなくてもいいでしょ!?」
「だって早く見たいもん!それにいつチハルの気が変わるか分からないしさっ」
「~~~だからって、こんな朝早くに行ってもまだでしょ!もうちょっとゆっくり歩いてよね、マイク!」
嬉々として目的地まで歩く一人の男と、そうじゃないもう一人の女が朝からそんな会話をしていた
男性の名は、マイク・エバーソンと言い
女性の名は、セナ・チハルと言う
本来なら名前の最初が名で後の方が苗字になるのだが、チハルの場合は苗字が先にきて名前が後の方になる
生まれも育ちもアメリカであるが、チハルは日本人と言うのが理由だ
けれど、何故か両親は居ず孤児として生活したお陰で日本語は全く話せないが私生活には困らなかった
そんなチハルと一緒にいるマイクは、ある日森から突然に現れたチハルを発見し命を救ってくれた恩人である
マイクもまた孤児であり、孤児院で保護された身
その日からチハルとマイクは腐れ縁であり幼馴染みになった
今ではシェアハウスをする程の仲
マイクがしつこく説得したのもあるが
こうと決めた彼に敵う者が居れば、是非とも会って見たいものだとチハルは苦笑を浮かべた
「着いた!ここがあの“自衛隊”かぁ~・・・ワクワクするなっ」
「そう思ってるのはマイクだけだよ。本当、昔から好きだよね」
「だって格好いいじゃんか!悪を倒すヒーローも、人を守る自衛隊も!男なら誰だって憧れるさ」
「・・・忘れてない?私は女なんですけど」
「知ってるさ。でも、君が言った言葉をどうしても訂正して欲しくてね」
「?私、何か言ったっけ??」
呆けるチハルにマイクは不貞腐れたように眉を寄せて、ズィと顔を近付けてチハルとの距離を縮める
あまりの近さに後退るチハルだが、マイクはお構いなしに話し出す
「“野蛮な人間”とか“そんなモノは幻想だ”とか言ってたじゃないか。何も望まず、ただ人を助ける善人なんて居ないって」
「あー・・・言ったかも?え、それだけでワザワザあんなしつこく誘って来た訳?」
「そうだよ!君はもう少し人を信じなよ・・・昔に何があったかは知らないけどさ・・・そろそろ僕以外の人とも仲良くなってもイイんじゃない?」
「呆れた・・・私はマイクが居ればそれでイイの。もう、傷付くのは嫌だもの・・・」
「チハル・・・」
暗い表情をするチハルに、マイクは胸が痛む
彼女は昔からそうだ
誰にも心を開かず、常に独りを好んで人を寄せ付けない
マイクですら最初は彼女に対して苦戦した
何度も話し掛けて、何回も拒絶されて
それでも諦めずに歩み寄ってやっと心を開いてくれた
少しずつではあったが、彼女は笑顔を見せてくれるようになってもう大丈夫だと思った
他の人とも上手くやって行けると思ったのに、彼女はマイク以外に心を開く事はなかった
口数も少ないし、冷たくするし、そのせいで誤解されやすい
だけど本当は、優しくてお人好しで・・・笑った顔がとても可愛い子なんだ
もっと他の人にも彼女の良さを分かってもらえたらイイのにとマイクは密かに思っている
今日だって本気で嫌ならついて来ない
なのにワザワザ来てくれた
優しい彼女だからこそ、マイクは早く彼女の心の闇を取り除いてあげたいと思う
「ほら、もう直ぐで門が開くよ」
「・・・ねぇ、チハル。君は今、幸せかい?」
「ん?急にどうしたの。マイクが居れば幸せよ」
変な事言わせないでよと頬を赤く染めるチハルに、マイクはやっぱり彼女の良さを理解してくれる人がいつか現れたらいいのにと、はにかんで彼女の手を握った
「そっか。僕も君と居れて幸せだよ」
握り締めた手に、戸惑いを見せながらも笑って握り返してくれるチハルは本当に可愛らしい女性だと心がほっこりする
こんな幸せな時間が、ずっとずっと続くのなら
それはそれでイイかもしれないと密かに思う
ギギィィィと錆びた鉄の門がゆっくりと開かれ、マイクはワクワクな気持ちでその先に視線を向けた
嬉しそうにするマイクを横目に、チハルは諦めたように苦笑して彼が喜ぶならそれでイイかとポジティブに考える事にした
今日は待ちに待った『自衛隊・第十五回目の体験&見学できる日』なのだから
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