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21話

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 このロベ村のある国の名前は、エクリプス王国。
王が支配体制を築いている国である。
隣国と積極的に貿易したり、農業や教育に力を入れたりと、豊かだと思われる国であった。
しかし数年前に、魔王率いる魔物の軍隊に攻めこまれ、疲弊していた。
魔王国に近い村から焼き払われていた。
王都に避難民を受け入れたが、その王都も攻めこまれるのは時間の問題だった。
「俺が呪われたのは、初期に襲われた村に軍人として向かったときでした」
王族の一員として、村人の混乱を収めるため。
魔物から村を奪還するために、軍を率いていた。
しかし、森で時折出てくる人を害する魔物を狩るときとは、レベルの差が大きかった。
軍には犯罪者とは対峙したことはあっても、魔物とは初めてだという人も多く、一人また一人と脱落していった。
スコルも死にかけの状態であり、何の抵抗もできずに、このまま死んでいくかと思った。
しかし、攻めてきた相手の軍隊に人型の魔物がいた。
その魔物は性格が悪かったのか、理由は知らないが、スコルに呪いをかけ、彼は狼へと姿を変えられたのだ。
「結局その呪いをかけた魔物は見つからなかったんだよね」
「そうだ。だから、完全には呪いを解くことはできなかった」
忌々しそうに、ため息をつく。
「…その、解散したあと、王都に戻ったんだ。父も母も兄上たちも驚いていたよ。あのときの戦いで、俺は死んだと思われていたらしい」
最初期であったため、魔物の強さを把握しきれず、対策を練ることができなかった。
だから、スコルの率いた軍は全滅。
魔物がいなくなった後、国が派遣した軍の人々は、ひどい損傷をした遺体をたくさん見た。
中には食べられて、遺体も残らなかったものがいた。
その中で、王子スコルの衣服だけが残されていた。
それは、スコルは体ごと食べられたのではないかと思われた。
国は魔物に立ち向かった勇敢な王子スコルを盛大に弔った。
「勇者パーティーで有名になったと思ったけど、黒髪の奴なんてごまんといるからな。勇者パーティーにいたときは、最初はまだ呪いがうまく解けずに、狼の姿の時間が長かったから、気づかれなかったらしい」
国王は、スコルの帰還を大いに喜んだ。
また、勇者パーティーの一員として、魔王退治に取り組んだことを誇りにしたという。
王都中では毎日毎夜、魔王退治で平和になり、王子が戻ってきたことをパーティーでお祝いしたという。
本当に平和が訪れたのだと、人々は安堵した。
「俺は三男なんだ。王位は長兄が継ぐこともあって、割と自由が効く。恩人の勇者に会いに行きたいといったら、許してくれた」
そうして、ロベ村へと旅に出たという。
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