クラス転移で神様に?

空見 大

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幼少期:森妖種王国編 改修予定

力の差

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 セラが戦闘を終える数分前のこと。
 エルピスは崩壊した建物の中にいた。
 先程爆音と共に人がこちらに飛んできたのを感じたが、直ぐに何処かへと行ってしまったのでおそらくはセラも戦闘を始めているのだろう。
 普段なら暗い活気に満ち溢れ人々の欲望が渦巻く闇の奴隷市場は、だが今日限りはそうもいかなかった。
 鉄格子と鎖に繋がれた奴隷がたむろしていたであろう場所には、何処かしらが欠損した氷像や焼け焦げた肉が散乱している。
 それが人なのかそれ以外なのかすら判断がつかず、しいて言うのであれば大半の物が一撃で死んでいるのが多少の救いか。

「炎魔法〈炎獄〉」

 この状況地獄を作り出した少年は、虐殺された様にしか見えない死体の側で頬に着いた血を拭うことすらせず、魔法を使用し全てをチリに返す。
 少年が放った魔法の効果で周囲にあった全ての建物や肉片などは燃え尽き、開けた空間が現れる。
 エラはどうやら護送されたようでもう少し先の通りにいる事は既に先程までそこにいた敵に確認をとっているのでここで魔法を使ってもエラの身は安全だ。
 自身の力によって何もなくなってしまった街の一角を少年は見渡すが、特に何か思うところはない。
 感覚がマヒしてしまったのかと先程死体を眺めてみたりもしたが、いまと同じで邪神の称号が悪歴を見せつけてくるので罪悪感がわいてこないのだ。
 だがせめて人として送ってやろうと神の基本能力の一つである浄化を使う。
 肉体はなくともあのままでは魂だけがここに残り、魔物やそれに類する何かになっていた可能性があるからだ。
 それを使ったことで天に昇って行く魂を目で追っていると、少年は自らの攻撃範囲に人が入ってくるのを感じた。

「まさか生きてたとはね~さすがエルっち。いっぱい殺しちゃって、全員チリにされたから誰が死んだのか分かんないけど。罠も直ぐに壊しちゃうしさー、お返しにメイドちゃんもやっといたら良かった?」
「ーーあぁ、誰かと思えば。別に殺せるもんならすればいい、わざわざ一人で出てきた理由は人質にできないからだろ?」
「……随分と強気だねぇ。本当に俺に勝てると思ってるの? そんな身体でさ」

 そう言いながら目の前の青年ーー元クラスメイトである高宮空ーーが指差すのは、包帯だらけのエルピスの身体だ。
 権能によってボロボロにされた身体は最低限治って居るとはいえ、痛みや無理やりに治した事による脆さはどうしても出てきてしまう。
 こんな状況下で戦って勝てるかと聞かれれば、正直キツイと言うのが本音の部分ではある。
 だがそれは相手を殺そうとせずに、生かしておこうとした場合だ。
 殺していいのならすぐに終わる、傷があろうが無かろうが目の前の敵程度であるならば問題はない。

「気にするなそんな事、殺し屋だろう? やりやすくなってよかったな」
「ーーッ舐められたもんだね!」

 ゆっくりと間合いを詰めながら、両者はお互いの武器を取り出す。
 エルピスは右手に聖剣を、左手に魔剣を持ち、油断のない構えで相手に近寄る。
 空は片手に剣、もう片方に盾を構え、エルピスの攻撃に備えながらもいつでも反撃出来る体制を保っていた。
 武器の相性的に一見長引くかに思われた両者の睨み合いは、業を煮やした様に飛び出したエルピスの剣撃によって開始される。
 首を狙ってはなたれたエルピスの剣を、紙一重で躱しながら反撃に出た空は何かに気づいた様に飛び退く。

「ーーっと、エルっちなんだか剣速上がってるねぇ。つうかなんでそんな怪我してんの? 魔法は撃ったけど対して痛くなかったっしょ?」
「そっちが人攫うから防壁貼るのに身体ボロボロにしてんだよ、それくらい察しろ」
「なるほどな、じゃあもっとさらった方がいいか?」
「言ってな」

 会話が終わり連撃を叩き込もうと詰め寄ってきた空の攻撃を、エルピスは全て剣で受ける。
 半分ほど魔素によって形成された空の剣は、エルピスの剣を受ける度に徐々にその色を変えて行く。
 間接的な手段なのでそれほど効果はないが、エルピスの魔力を剣伝いに吸い取っているからだ。

(面白い効果だな。こっちも効果発動するか)

 聖剣の効果である不壊と絶対切断は、持ち主が真なる資格を持ち得る事でその真価を発揮し、神代に神々が英雄に与えし武器に近しい能力を発揮する事が出来る。
 だが神の力を使えない満足に使えない今のエルピスが振るう聖剣はその能力を失い、例えどれだけ頑張ろうとも真の力を発揮することはないだろう。
 しかしこの世界に来て積み上げた努力の結晶であるエルピスの剣術はなんとか、その効果を少しではあるが一時的に取り戻す。

「水の神ヴァダよ。かの者に御身の力を見せつけ、その大いなる魔力と権能による痛みを知らしめたまえ。超級魔法〈落水〉!」
「火魔法〈鬼火〉」

 中空に現れた大量の水が地上から放たれた太陽によって打ち消され、大量の水蒸気が辺りを包む様に散布する。
 目の前が全く持って見えなくなるほどの勢いであたりに広まった水蒸気は、両者を逃げることすら許さずに襲い掛かり飲み込む。
 一般人がいれば死んでもおかしくない程の熱の中で二つの人影は、特にそれをなんとも思わず仁王立ちしていた。

「魔法もダメかよッ! 技能発動〈限界突破リミデットオーバー〉!」

 技能によって構成された光の粒子が空を包み、空の身体能力を飛躍的に向上させていく。
 この技能は一時的に数日間の自分の能力を前借りすることで、三倍からそれ以上に自身の身体能力を上昇させる。
 確かに思っていたよりは強かった、まさか奥の手である超級魔法を止められるとは思ってもいなかったし、それに何故か瀕死だったのは僥倖だったがそれにしても身体能力が高い。
 これまで人間相手にしか仕事をしていなかったので、これほどまでの身体能力をもった敵は初めての経験である。
 同業者である森霊種は力こそ強いが、からめ手の強さが森霊種の強さであって、暴力的なまでの身体能力は持っていなかった。
 空は確かな実感の元に、攻撃を的確に急所のみに絞りながらその力を遺憾なく発揮する。

(此処に来るまでの間に見えたあの光から考えて、相手も限界突破リミテッドオーバーを使って居ると考えるべきか?)

 そう思いながらも油断なく攻撃を仕掛けていた空の手が、不意に止まる。
 エルピスの身体から薄く光が漏れ始めたからだ。
 初めてみた現象ならば警戒心を抱くのだろうが、空は目の前のそれがなんなのかを知っている。

「どうやらお前もそろそろ限界の様だな!! 気づいて無いか? もうお前の限界突破リミテッドオーバーは切れかかってんだよ!」

 相手も同じ技能を使っていたことを知って、空は心の底から歓喜に打ち震えた。
 限界突破を使用した後の身体疲労はその他の技能とは別格だ、指先一つ動かせず呼吸すらしんどくなる。
 それを実際に体験して知っている空だからこそ勝利を確信していた。
 身体中から溢れ出す勝利に対する幸福感に身を委ね、更なる連撃を繰り出す空の攻撃は両者を包む土煙さえ意に介さず、確かな実感を持ってエルピスの身体を切り裂いていく。

「天地引き裂く無限の剣よ。その神話に従い地上に無限の災いを齎し、確殺の力を持ってして我が前に立つ凡愚を切り払え! 〈無限の剣撃サウザンドエスパーダ〉!!」

 空の手に握られて居た剣と魔力の全てを使用して、彼は自身の能力の1つを使用する。
 本来なら身体に対する負荷が大きすぎて命を賭してようやく使用可能になる魔法も、既に数年前に半死者と化している彼にかかれば造作もない事だ。
 先程までの剣撃など子供の児戯だと言わんばかりのその魔法は、中空から秒間に数万本の剣を放出し、狙った獲物を切り刻み続ける。
 これを食らって無事に生き延びれる生物など、存在する訳が無い。
 しかも限界突破を使用して普段より剣に篭った魔力も多い、例え名のある古龍であっても刈り取れる自信があった。

「任務完了っと。さすがに冷や汗かいたよ、さて焼肉でも食べにーー」
「ーーおい、まだ終わってないぞ」
「ーーへ?」

 空からまるで雨のように降り注ぐ無限の剣撃の間をすり抜ける様にして現れたのは、その攻撃を今も受けている筈のエルピスだ。
 満身創痍で出て来たならまだしも、彼の服には傷が付いていないどころか、先ほど出会ったばかりの時と何の変化も感じられない。
 何度も切りつけたにも関わらず

「な、なんなんだよ!? 可笑しいだろ! 対城戦でも落とせる程の火力だぞ!! なんで無事なんだ!」
「なんでって、全部障壁で弾いたからだよ」
「不可能だ! そんな事出来る訳無いだろ!? 最高位の冒険者でもそんな芸当出来る訳ない! さてはなんらかのスキルを使ったな!?」
「信じるかどうかはお前の勝手だけど、俺はこの戦闘においてまだ一度も技能を使ってはいない」

 ーー体がまともに動かないから使えないし
 そういったエルピスの声は空の耳には届かない。
 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!
 有り得るはずがない!
 数多の剣撃を避けただけではなく、その全てをスキルも使用せず自らの力のみでだと!?
 そんな事有って良いはずが無い!
 そう言いたくなる気持ちをなんとか抑えて、エルピスの事を睨みながら空は何かしてこないかと身構える。

「嘘をつけ、じゃあその身体の光はなんなんだよッ!」
「ん? これはセラが遠隔で回復魔法をかけてくれてるだけだ。まだ身体が本調子じゃないんでね」
「嘘をついてるんじゃねぇ! 回復魔法に光るような効果はねぇよ!」
「知らないよ天使の使う能力なんだから人間基準じゃ測れないかもしれないじゃないか」
「ーーっ」
「じゃあそっちの攻めも終わったようだし、こっちからも攻めるよ。最上級盗魔法〈盗神の隠れ蓑〉」

 空に対する宣言通りに、エルピスは盗神の能力に属する魔法を発動する。
 それは戦闘という局面において、最も悪質かつ狡猾で単純だが卑怯な能力。
 透明化は勿論の事、更に無音無臭そして自身が発する全てを他人の意識の外に置くという物だ。
 結果空の視点からすれば、先程まで居たはずの自らの命を狩るかも知れない脅威がいきなり消えたような感覚だろう。

「り、限界突破リミテッドオーバー!!
「無理するなよ、逆にお前が血だらけになってるぞ」
「うるさいうるさいうるさいうるさいーーうるさい!!! 貴族の子供如きに俺の何が分かるッ!! この世界の辛さを知らないからそんな戯言をほざけるんだ!!」

 自分がいままで殺してきた者達や、自らが負うべき責任からすら逃げた空は、そんな事は関係無いとばかりに吠える。
 だがその吠えに対してエルピスは、心の底からどうでも良いと思いながら、だがちょうどいい機会かと近くの瓦礫に腰を据えて空に話しかけた。

「まぁ落ち着けよ、俺ももうそろそろ終わらせるつもりだけど少しでも長く生きたいだろ?」
「うるさい! 姿を見せろ! とっとと殺してやる!」
「まぁ落ち着けよ空くん。そんな騒ぐキャラじゃなかったでしょ、図書館でよく本読んでたじゃん」

 どこに居るか分からないエルピスに対して空が剣を振り回しながら殺意を振りまいていると、エルピスが落ち着いた声で空の名前を呼ぶ。
 この世界で空の名前を知っているのは同じクラスの人間のみだ。
 それも図書館で空が本を読んでいた事を知っているのは、せいぜいが十人いくかいかないか。
 その内の数人は既に死んでいるし、実際空が殺しているので生きているはずもない。
 ならばそれ以外の人間なのかと聞かれれば、それも違うと断言できた。
 何故ならそいつらがどこに居るのかは把握できていたし、それにこの場にはいま敵であり今回の標的であるエルピス・アルヘオしかいないはずだ。
 そして空の本名を目の前の少年が知っているはずがない。
 鑑定系の能力を使ったとしても、空がこの世界で名乗っている名前が先に出る事は既に実施済みだし、ならばどんな方法で目の前の少年はこちらの名前を知ったのか。

「何故俺の名前を知っている!?」
「単純な話だよ、君と僕が同じクラスだったから。ほら、クラスの隅っこに晴人って居なかった?」
「ーーそんな奴おぼえてないな」
「本当に? 普通にショックだよ。まぁ10年以上経ってるし仕方なくはあるけどさ。それで君と僕はもとおなじクラスな訳だけどさ、そのよしみで聞くだけ聞いておくけど、なんでそんな感じになってんの?」
「何が言いたい?」
「いやだからさ、俺の聞いてた話だとわりかしみんな幸せになってんの。まぁ命令されてたりはしてたけど、でも君いま殺し屋じゃん? なんで?」
「ーーああ、なるほどな。遥希達にでも会ったか? あいつらは良い雇い主に拾われたんだよ、それだけの話だ。俺達は不幸だった」

 そう言いながら空は視線を遠くに移す。
 エルピスの頭の中にその発想は無かったが、ドラフト形式で雇われたのならその中に悪い人間がいてもおかしくはないのだ。
 というより遥希達の雇い主の様な人間の方がまれだったのだろう。
 最後にロームに他の生徒達について聞いたのは三、四年前の話だし、それに神様基準で見れば不幸だと判断されなかった可能性もある。
 そう考えると他のクラスメイト達の事も、もう少し探るべきなのだろうか。
 そこまで考えて一旦その考えを脇に置き、エルピスはこの戦闘を終わらせる為に立ち上がる。

「そっか、長話して悪かったね。エラを襲ったのは許せないけど、せめて最後は同級生として見送ってあげるよ」
「ちょ、待ってくれよ晴人! 助けてくれ、頼む! 友達だろ!?」
「友達って……名前も覚えていなかったのによく言えたね。まぁそれは関係なく助けようと思ってたんだけどさ、邪神の称号が言ってくるんだよ。こいつはもう治らないって、しかも気付いてないかもしれないけど相当怨まれてるよ?」

 空の背後をエルピスは指差し、それに釣られて空も自然と視線を後ろに向ける。
 そしてその瞬間、背筋が凍りつくのを感じた。
 殺したはずの同級生、今まで暗殺してきた標的達、そして遊び半分に嬲って捨てた小さな村の女子供達がただ無言でこちらを見つめていた。
 既に技能で無理やり動いている死体である空だからこそ見えた、殺した本人である空が驚くほどの死者の列。
 その目はただ一つ、許さないとだけ空に告げている。

「諦めなよ、仕方ない」
「ふざけんなよてめぇ! 思い出した、雄二にいつも虐められてたあいつだろお前? 俺達を殺して復讐するつもりなんだな?」
「なんでそういう考えになるのさ。そりゃ雄二はうざかったけど高校卒業したら二度と会わないし、この世界に来た時点でもう俺と関係ない。嫌いだけど会わなかったらどうでも良いよ」
「なぁ嘘だろ? 頼むよ助けてくれよ、なんなら誰か一人くらい同級生連れてきてやるからさ? 天音とか俺達専用の娼婦として毎日腰振ってんだぜ? 他の奴らに頼んでお前専用にしてやるからさ、な?」
「そういうところだよ、考えなよ自分の言動。大丈夫、死ぬのは確かに怖いけど、それで終わりじゃないから〈浄化〉」
「ーーやめっ」

 剣の柄でエルピスが頭を叩くと、空はいくつか転がっている死体のうちの1つと化していた。
 動く死体リビングデットの能力によって、一生意思を持ったままの死体になるよりは良かっただろうと思いエルピスは歩き出す。
 足は軽いが心は重い。
 幸せや不幸の基準を神であるロームに聞いたのは間違いだったか、一度しっかりと他の人達を調べる必要があるだろう。
 そんな事を考えつつ、エラを救う為立ち止まる事なくエルピスはその先へと進んでいくのだった。
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