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青年期:魔界編
龍の動向
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魔界に来てからエルピスがしていることはそう多くない。
人の世界にいた時に比べれば何もしていないといっていいだろう、朝起きて顔を洗いアウローラ達と会話をし、街に出てふらふらと見物した後に家に帰り床に就く。
何気ない日常をエルピスが過ごすのは、いつかやってくる非日常への微かな抵抗だといってもいい。
そんなエルピスの抵抗むなしく問題というのは大手を振って向こうからやってくるものだ。
「エルピス、動けるか?」
「──復活した?」
扉を押し開けて部屋へと入ってきたのは父であるイロアス。
呼吸も乱れておらず汗もかいていないので緊急事態というわけではなさそうだが、父が自分に対して用事があるという事は、そう考えてエルピスの口からは最悪を想定した言葉が漏れる。
竜が復活すれば龍神のエルピスが気が付かないはずがないが、それでも確認は大切なことだ。
「いや、まだだが怪しい噂を聞きつけた。出来れば出本を探ってはおきたい」
「怪しい噂?」
ひとまずは竜が復活したのではない事に安堵しつつ、エルピスはイロアスに対して疑問を口にした。
怪しい噂など魔界に来てから何度耳にした事か覚えてすらいない。
いわく幽霊でありながら既知の除霊方法が何も通用しない無敵の存在がいるだの、竜の復活に合わせて神がこの世に生まれるだの、金銀財宝を配り歩く羽振りのいい二人組がいるだの信ぴょう性があるのかないのかはっきりとしない噂ばかりである。
(父さんがそんな情報をわざわざ……?)
そうエルピスが思ってしまうのはそんな情報は毎日大量に新しい極秘の情報と銘打って売りに出されているからだ。
エルピス達がこの街で何かを探しているという噂がたってからは更にその特性が顕著になっている。
「噂なんて当てにならないと思うんだけど――」
「――お兄様お兄様!」
エルピスがイロアスに対して疑問をそのまま口にしようとしたその時、扉を押し開けてフィアが満面の笑みを携えて部屋へとやってくる。
兄として甘やかしすぎたエルピスもエルピスではあるが、フィアは日を増すごとにこうして積極的にエルピスに対して何かをしようと部屋にやってきてくれるのだ。
自由な時間も有り余るほどにあるので普段ならば相手をするのだがいまは大事な話の真っ最中、いったん後にしてもらおうと膝を曲げて目線を合わせながら兄としてエルピスはフィアに接する。
「どうしたんだフィア。いまちょっとお父さんと話ししてるからちょっと待ってくれるか?」
「分かりました。すいませんお兄様、お父様」
腰を曲げて頭を下げようとするフィアだったが、それをイロアスが抑えると優しく言葉を投げかける。
「いいんだよ気にしなくて、どうしたんだ? そんなに可愛い王冠をつけて」
「お母様が花の冠を作ってくださいました!」
「似合ってるよフィア。アウローラ達にも見せてあげて」
「はい!」
子供にはべらぼうに優しいい父のそんな行動をみて自分も相手をしてあげるべきだろうと判断したエルピスは、フィアの頭に乗った冠を褒めながらやさしくアウローラ達の方へと送り出す。
本当ならば自分が一緒に居て上げたかったが、そう思って居るのは父も子も変わらないようでお互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべると話は本線へと戻っていく。
「それで怪しい噂って?」
「お前を狙って始祖の魔物達が動き出してるって噂だ」
(始祖……始祖か)
魔物には始祖種と呼ばれる七種の魔物達が存在する。
その物達が魔物を作り出したというわけではないが原初の魔物であるという事には違いがなく、創生神の手によって作られた桜仙種と同じ存在だ。
一番最初の始祖が生き残っていることもあれば代々その種を継承していることもあるらしいが、それはエルピスの知ったことではない。
一番の問題はそんな面倒な存在がエルピスに対して接触をとろうとしているという事事態である。
そしてエルピスが今まで探ってきた中で一度もそのような情報を得たことがなかったので、相当に極秘の情報なのだろう。
「始祖の魔物かぁ。一応因縁はあるね」
「だろうとは思ってるよ、ただ問題はあいつらが動くこと自体だ。あいつらはこの魔物達が住まう魔界を管理する立場にある、言わば王だ。あいつらを敵にすると面倒ごとが多くなる」
「どこだって王様は相手にしてはいけない存在ってことか」
エルピスと因縁がある悪魔といえばフェルだろう。
詳しい種族名を口にされたことはないが経験上エルピスの事を神であると見抜けるのはエルピスが司る神を信奉する種族であること、そしてその種族の中でも最強クラスの存在であることだ。
龍人の中でおそらく最強である母がなんとなくエルピスが龍神であることに気が付いていだが、フェルは最初から確実にエルピスが邪神であると気が付いていた。
召喚陣に込められた魔力の反応から気が付いた説も考えられるが、始祖種という創生神に近い種族の生まれだからこそ確実にそうだろうと気が付けたのだと思って居る。
本人から聞いたわけではないがフェルが気が付くようにエルピスもなんとなくわかるのだ。
「セラとニルを連れて威力偵察でもしてこようか?」
だからこそエルピスは最大限の警戒の意味を含めての提案を行う。
エルピスとセラとニル、この三人が居れば基本的にはどんな事も問題にはなり得ない。
事実上戦闘になれば敵を全滅させる為の面子ではあるが、情報を収集すると言う事だけに限って言えばこれ以上に早い事はないだろう。
「手が速いぞ、クリムに似たのか?」
「母さんに似てたら多分もう滅してるんじゃないかな」
「それは確かにそうだな。だがこれに加えてもう一つ気になることがある」
「もう一つ気になること? なんだか急に色々と動き始めてるね、少し前までは平穏だったのに」
少し前、この話を聞くまでの時間を思い返しながらエルピスがそう言葉を返すと、イロアスは難しそうな顔をする。
「それだけ復活が近いということなのだろう。おれだってお前と話したいことが山ほどある、正直もう少し腰を落ち着けたいがな」
そう言って笑みを浮かべてくれる父の言葉は本心なのだろう、そう思いつつエルピスはイロアスが提出してきた書類を手に取る。
「これは……?」
「ここ一ヶ月の間に俺達が龍を倒した場所付近の依頼を受けてその後行方不明になった冒険者の数だ」
「多いなこれは。でも邪竜の発生に伴って危険な魔物も発生してるでしょ? 未帰還率が上がるのは無理ないと思うけど」
強い魔物が死ねばその後強い魔物が生まれる、それはイロアスの英雄譚にも上がっていた話である。
竜が死んだ後の土地に発生した魔物はなんとかしたと言う話を聞いていたが、その後も安定して強い魔物がいたと言う話は聞いていたし調べたところ古びた依頼書の多くはそこに居た魔物の物であった。
それがそろそろ産まれる予定の邪竜から漏れ出た魔物によって強化され、その結果冒険者達が殺されているのならば別におかしな話ではない。
「あそこら辺が危険地帯なのはみんな分かってるから、ある程度力自慢のやつらしか向かってない。
その中でアレだけ数が上がってきているということはつまり、何かがあるってことさ」
だが考えればすぐに分かる様なそんな話、よほど力に自信がなければもしかしたら邪竜が復活してしまうかもしれない様な可能性すらある場所に人はいかない。
魔物や亜人だってわざわざ死ににいく様な珍しいのはそう多くないだろう。
「じゃあとりあえず調査に行こっか。二人で行く?」
「親子水入らずで、と行きたいが何かあったときに逃げられなかったら問題だからな。誰か一人連れてきてくれ」
何かあったら──邪竜が復活したところでエルピスがいる以上攻撃は無効化されるだろうからそれ以外の何かがいたとしたら、たしかに二人では危ないかもしれない。
ほんの少しの間頭を働かせ、そしてエルピスは決まっていた答えを口にする。
「ならセラかな」
「セラちゃんか……強いのかあの子」
「破茶滅茶に強いよ。俺が勝てるとしたら多分権能使って押し潰すみたいにしないと」
やるとしたら権能を全て取り上げセラをこの世に繋ぎ止めているエルピスの魔力を全てシャットダウンし、吸収されない様に魔法ではなく魔素によって押しつぶす様にして殺すしかないだろう。
エルピスとセラが戦うなどあり得るはずがないのだが、それがあるとすればそうだと言う話である。
「なら安心か。万が一は俺を気にせず逃げろよ?」
「善処するよ」
「……絶対言うこと聞く気ないだろお前」
「父さんが俺の事見捨てて逃げてくれたらそれでもいいよ」
「親が息子を見捨てるわけがないだろ」
「そういう事だよ父さん」
父が子を見捨てないのであれば、子だって父を見捨てるはずがない。
二人が戦っている最中にセラならば三人ごと逃がせる算段をつけられるだろう、エルピスにとってセラは父の命と自分の命を預けるに足りる存在であると言えるだろう。
そのまま部屋を出て装備品を着用しながら外へと出たエルピス達が二人で待っていると、メッセージを受けて転移魔法陣が目の前に現れる。
「ごめんなさいエルピス、待たせたわね」
「待ってないよ、ありがとう。今日は休暇だったのにごめんね」
「いいのよ別に気にしなくても。この世界を見て回っていただけだから」
エルピスと行動を共にしていない時、セラは決まって世界を回っている。
彼女がこの世界を見て回るのは創生神がこの世界を作ったからだろう、魔界にいながら人の世界もそれ以外の場所もいつだってセラは覗き見ている。
創生神が作った箱庭を眺めるのが彼女の趣味なのだ。
眺めていればいつだって創生神を思い出すことができる、そして変わりゆく世界の姿も彼女にとってはまた愛しい物なのだろう。
エルピスはそれを中断させてしまうことが最も嫌なのだが、セラからしてみればエルピスを眺めていられないから世界を眺めているだけだ。
作った本人が横にいるのだからそちらの方がセラにとって気になるのは当然のことと言える。
「それで装備はこれくらいでいいかしら?」
そう言いながらセラが軽く手を振るえば、戦闘服への変身が完了する。
来ているのはエルピスが昔買ってきた軍服のような服、鎧というわけではないがエルピスによって強化されているのでその強度は相当である。
ついでに杖も持てばそれだけでセラの戦闘準備は完了する。
「完璧だよ。それだけの装備だったら大丈夫でしょ、父さん武装は?」
「俺は無いよ、着の身着のままが一番いいからな」
父の装備が見られると喜んでいたエルピスだったが、イロアスは装備を持っていない。
いや、詳しく説明するのであれば持っていない、ではなく持たないと言う方が正しいだろうか。
そしてエルピスも思いたる節がある。
「そんなもんなの? 最高位冒険者みんな武装してなくない?」
「杖はへし折れるし防具は自分で結界張ったほうが硬いからな、そこまでいい装備を持っていること自体凄いんだぞ」
考えてみればなんのことはない。
龍よりも硬い肉体や障壁を持っている物達からすれば防具は必要ないし、魔法使いであるイロアスにとって杖の補助も配列射撃の補助という役割を抜きにするとそれほど必要な物ではない。
合理的な話ではあるがそれでは困る事もあるだろうと、エルピスは己のコネを有効活用する術を思いつく。
「父さんも鍛治神に頼む?」
彼女の力であればエルピスも信用している。
専属鍛治師の件を断ってしまってはいるがそれでも知らない仲ではない。
「あの嬢ちゃんは怖いから遠慮するよ、お前が作ってくれないか?」
「いいの!?」
エルピスの提案を意外な形で返してきたイロアスに対し、エルピスは身を乗り出しながら父に対して嬉しそうな顔を見せる。
冒険者にとって装備とは命をかける道具だ、それを作ってくれと父から頼まれるのは信頼の証でしかない。だからこそエルピスは父から頼まれたそれが嬉しくて仕方がない。
「もちろんだよ。お前が作ってくれたものなら命を預ける価値もある」
「なら今日の夜作って渡すね。とりあえず急拵えだけどこれ持ってて」
「おまっ──これ誕生日の時にクリムが渡したやつだろ? どんだけ魔改造したんだよ」
「ちゃんと原型残した状態で強くしていったんだよ。残念なことに俺もう杖使うことないから父さんが一旦持っててよ」
取り出したのはエルピスが五歳の誕生日にもらった物だ。
普通の亜人ならば一生使えるだけの性能であったが、いまのエルピスにとって杖とはもはや自分の行動を制限するものでしかない。
ならばイロアスは違うのかと言う問題だが、あれには魔神の権能を擬似的に再現して使える様になる魔水晶が後から取り付けられている。
通常の魔法の威力を二倍にするという能力の込められたあの杖は天下一品の代物だ。
「そう言う事なら借りるが……これ何が入ってるんだ?」
「いろいろ入ってるよ。ただ神印入れてないからあんまり使えないらしいんだけどね」
ただそれでも神の印の入った武器には勝てないらしい。
鍛治神の記憶を思い出しながらそんな事を口にしたエルピスに対し、イロアスはそんなものなのかと言葉を返すと杖を腰のホルダーにしまった。
「それでは私が先導しましょう。転移座標は既に割り出しておきましたので」
「お願いするよセラ。行くよ父さん」
「息子の成長ぶりに驚いてたとこだったんだよ、行こうか」
イロアスがくしゃくしゃとエルピスの頭を撫でているうちに転移は終わり、だだっ広い荒野が眼前に現れる。
数百キロ先まで広がる大きな荒野、荒れ果てた大地にはところどころ明らかに自然が作り出したものではない大穴や山が出来上がっていた。
エルピス達がいるのはそんな光景が一望できる少し大きな山の淵である。
いまだに燃え盛る黒炎は邪竜のものか母のものか。
大きな魔物こそ目につかないが、擬態して姿を隠している魔物が多くエルピスの〈神域〉に入り込んでくる。
「転移無事完了よ」
「うっわぁ……なんでこここんな辺な地形してるの?
「かつての戦闘の名残りだよ、お前も気をつけろよ?」
「こうはならないでしょ」
父に全力戦闘時の釘を刺されとっさに否定するエルピスだったが、共和国では眼前のよりもさらに大きな穴を。
連合国では街一つを壊滅させ、土精霊の国では迷宮の破壊。
学園では近海の海に峡谷を作り、修繕された学園を壊したのだって最近の話である。
十二分に物を壊した記憶がフラッシュバックし始め、それを急いで頭のうちから消すとエルピスは黙って索敵範囲を広げた。
これ以上触れないでほしい、そんなエルピスの想いが伝わったのかはあっと一息つくとイロアスはセラに声をかける。
「とりあえずは周囲の索敵だな、結構な距離だったけどセラちゃん大丈夫?」
「問題ありませんお義父様。これくらいならどうとでもなりますので」
「さすがにエルピスが選んだ女の子なだけあるな。エルピス、後ろは任せたぞ」
「もちろん。任せてよ」
超長距離の転移魔法を使用したというのに顔色ひとつ変えないセラに驚きながら、イロアスは岩場から飛び降りると付近の捜索を開始する。
一足でたどり着ける距離を保ちながら、エルピス達は付近の状況を散策するのだった。
「──にしても強い魔物が多いな。これもあいつの影響か」
襲ってきた魔物に対して適切な対処をとりながら、イロアスはそんな事を呟く。
普段イロアスに対して攻撃を仕掛けてくる魔物は存在しない、よほど腹をすかせていても無視しなければいけない相手というのは魔物だって分かっている。
だがここにいる魔物達は動く物であれば見境なく襲う様で、エルピスもセラも同じように何度か攻撃を仕掛けられていた。
各々が各々の方法でそれらに対して対処しているものの、確かにこれだけ血気盛んな魔物が多いと多少腕利き程度の冒険者ならすぐに死んでもおかしくなさそうだ。
だがそんな中でセラはそんなエルピスの予想を否定する答えを口にする。
「普通魔物に殺されたなら死体の一つも残っているものですが、どこにも気配が感じられませんね」
「エルピスはどうだ?」
「同じく。魔物の気配しか感じないよ」
死体の気配というのはよく分かる。
〈神域〉は魂と肉体を別々に感知してくれるので、肉体が存在するのに魂が存在しなければすぐにそれがしたいであるという事を識別できるのだ。
だがこの場にきてから一度も冒険者の死体を確認していない、食べ残しも存在しない程に徹底的に食べられたか、チリも残さず何かに殺されたか。
考えられるとしたら前者の方が現実的だが、後者の方が合っているだろうと思ってしまうのは最近不幸に見舞われすぎてしまったからだろうか。
それからしばらくあたりを探してみたが特にこれといって気配もなく、イロアスは仕方がないかと肉体強化を発動させる。
「ならあの場所に行くしかないか」
「討伐地点?」
「そ。あとついてきてくれ」
武術が得意ではないイロアスは肉体強化の魔法を苦手としている。
魔力の効率が良くない魔法によって削られていく魔力に苦い顔をしながら走るイロアスの後をついていくと、数分もすれば目に見えて徐々に大地が荒れ果てていく。
戦場であったと思っていたところは余波によってできたところだったのだ、実際に戦闘があったであろう場所には巨大な穴がくっきりとできていた。
中心は穴の底すら見えないほどの巨大な穴、それが数キロほどの長さで出来ているのだこの世界が耐えられているのが不思議なほどだ。
「ここが俺達が40年くらい前に戦った場所だ。懐かしいな」
「一番荒れてるね、確かにここにきたら何かわかるかも……ん? セラ、これっている?」
確実に何か竜の気配を感じられるだろうと思ってやってきた場所だというのに、イロアスが頼りにしていたエルピスは不思議そうな顔を浮かべながら首を傾げる。
エルピスからしてみれば先程までは明確に居るという感覚があったのに、この場に来た瞬間に無くなったことが驚きで仕方がない。
一瞬あまりにも大きな気配に呑まれて感知できなくなってしまったのかと軽く足に力を込めて上空から改めて気配を探してみるが、穴の向こう側からは気配を感じるもののくり抜かれた様に穴の部分だけ気配が抜け落ちている。
竜の気配が無くなったというよりは竜の気配を付近にわざとばら撒いていた様な雰囲気にエルピスは言いようのない違和感を感じていた。
そしてそれはセラもイロアスも同じ事である。
「居ないわね、龍の気配を感じないわ」
「復活してないって言うのか?」
「いや、なんとなくだけど近場に強い龍が生まれそうな雰囲気は感じるよ。ただここには生まれないと思うし邪竜とは別の龍だと思う」
「なるほどな……死んだ場所で生まれるわけじゃないってことか。違う龍だとは考えにくいが」
イロアスの言葉は人類の口から出た言葉でしかない。
それは経験則と先人からの知識で得た物であってたしかにそう考えるのが当然だ、だがエルピスの感知に当たっている龍は産まれそうな気配すら感じるがこれではないと勘でしかない感覚が訴えている。
父の意見の方が正しいと思うのだが、この場ですぐに生まれるとしたら邪竜ではない別の何かだろう。
「そこら辺の調査はしておいた方がいいかもね」
「その龍探知機みたいなのは結構精度いいのか?」
「龍神の権能だから絶対だよ」
だらこそエルピスは己の権能が正しいと強く主張する。
そしてイロアスもまた己の知識よりも技能に裏付けされたエルピスの言葉の方が正しいと考えを変えていた。
「それじゃあとりあえず広範囲を探すか」
「いまからここ全部探すの?」
「もちろんだ」
父の言葉を受けてエルピスは眼前に広がる広大な大地を目にする。
飛べば一瞬だ、〈神域〉で全域を探すのもそう難しくはないだろう。
だがそれをする労力と隙を考えれば地道に探していく方が良いだろう、そう思ってしまったからこそエルピスは喉から絞り出すようにして声を出す。
「……頑張るよ」
せめて労力に見合った成果は出てくれますように、そう神に祈りながらエルピスは作業を開始す
人の世界にいた時に比べれば何もしていないといっていいだろう、朝起きて顔を洗いアウローラ達と会話をし、街に出てふらふらと見物した後に家に帰り床に就く。
何気ない日常をエルピスが過ごすのは、いつかやってくる非日常への微かな抵抗だといってもいい。
そんなエルピスの抵抗むなしく問題というのは大手を振って向こうからやってくるものだ。
「エルピス、動けるか?」
「──復活した?」
扉を押し開けて部屋へと入ってきたのは父であるイロアス。
呼吸も乱れておらず汗もかいていないので緊急事態というわけではなさそうだが、父が自分に対して用事があるという事は、そう考えてエルピスの口からは最悪を想定した言葉が漏れる。
竜が復活すれば龍神のエルピスが気が付かないはずがないが、それでも確認は大切なことだ。
「いや、まだだが怪しい噂を聞きつけた。出来れば出本を探ってはおきたい」
「怪しい噂?」
ひとまずは竜が復活したのではない事に安堵しつつ、エルピスはイロアスに対して疑問を口にした。
怪しい噂など魔界に来てから何度耳にした事か覚えてすらいない。
いわく幽霊でありながら既知の除霊方法が何も通用しない無敵の存在がいるだの、竜の復活に合わせて神がこの世に生まれるだの、金銀財宝を配り歩く羽振りのいい二人組がいるだの信ぴょう性があるのかないのかはっきりとしない噂ばかりである。
(父さんがそんな情報をわざわざ……?)
そうエルピスが思ってしまうのはそんな情報は毎日大量に新しい極秘の情報と銘打って売りに出されているからだ。
エルピス達がこの街で何かを探しているという噂がたってからは更にその特性が顕著になっている。
「噂なんて当てにならないと思うんだけど――」
「――お兄様お兄様!」
エルピスがイロアスに対して疑問をそのまま口にしようとしたその時、扉を押し開けてフィアが満面の笑みを携えて部屋へとやってくる。
兄として甘やかしすぎたエルピスもエルピスではあるが、フィアは日を増すごとにこうして積極的にエルピスに対して何かをしようと部屋にやってきてくれるのだ。
自由な時間も有り余るほどにあるので普段ならば相手をするのだがいまは大事な話の真っ最中、いったん後にしてもらおうと膝を曲げて目線を合わせながら兄としてエルピスはフィアに接する。
「どうしたんだフィア。いまちょっとお父さんと話ししてるからちょっと待ってくれるか?」
「分かりました。すいませんお兄様、お父様」
腰を曲げて頭を下げようとするフィアだったが、それをイロアスが抑えると優しく言葉を投げかける。
「いいんだよ気にしなくて、どうしたんだ? そんなに可愛い王冠をつけて」
「お母様が花の冠を作ってくださいました!」
「似合ってるよフィア。アウローラ達にも見せてあげて」
「はい!」
子供にはべらぼうに優しいい父のそんな行動をみて自分も相手をしてあげるべきだろうと判断したエルピスは、フィアの頭に乗った冠を褒めながらやさしくアウローラ達の方へと送り出す。
本当ならば自分が一緒に居て上げたかったが、そう思って居るのは父も子も変わらないようでお互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべると話は本線へと戻っていく。
「それで怪しい噂って?」
「お前を狙って始祖の魔物達が動き出してるって噂だ」
(始祖……始祖か)
魔物には始祖種と呼ばれる七種の魔物達が存在する。
その物達が魔物を作り出したというわけではないが原初の魔物であるという事には違いがなく、創生神の手によって作られた桜仙種と同じ存在だ。
一番最初の始祖が生き残っていることもあれば代々その種を継承していることもあるらしいが、それはエルピスの知ったことではない。
一番の問題はそんな面倒な存在がエルピスに対して接触をとろうとしているという事事態である。
そしてエルピスが今まで探ってきた中で一度もそのような情報を得たことがなかったので、相当に極秘の情報なのだろう。
「始祖の魔物かぁ。一応因縁はあるね」
「だろうとは思ってるよ、ただ問題はあいつらが動くこと自体だ。あいつらはこの魔物達が住まう魔界を管理する立場にある、言わば王だ。あいつらを敵にすると面倒ごとが多くなる」
「どこだって王様は相手にしてはいけない存在ってことか」
エルピスと因縁がある悪魔といえばフェルだろう。
詳しい種族名を口にされたことはないが経験上エルピスの事を神であると見抜けるのはエルピスが司る神を信奉する種族であること、そしてその種族の中でも最強クラスの存在であることだ。
龍人の中でおそらく最強である母がなんとなくエルピスが龍神であることに気が付いていだが、フェルは最初から確実にエルピスが邪神であると気が付いていた。
召喚陣に込められた魔力の反応から気が付いた説も考えられるが、始祖種という創生神に近い種族の生まれだからこそ確実にそうだろうと気が付けたのだと思って居る。
本人から聞いたわけではないがフェルが気が付くようにエルピスもなんとなくわかるのだ。
「セラとニルを連れて威力偵察でもしてこようか?」
だからこそエルピスは最大限の警戒の意味を含めての提案を行う。
エルピスとセラとニル、この三人が居れば基本的にはどんな事も問題にはなり得ない。
事実上戦闘になれば敵を全滅させる為の面子ではあるが、情報を収集すると言う事だけに限って言えばこれ以上に早い事はないだろう。
「手が速いぞ、クリムに似たのか?」
「母さんに似てたら多分もう滅してるんじゃないかな」
「それは確かにそうだな。だがこれに加えてもう一つ気になることがある」
「もう一つ気になること? なんだか急に色々と動き始めてるね、少し前までは平穏だったのに」
少し前、この話を聞くまでの時間を思い返しながらエルピスがそう言葉を返すと、イロアスは難しそうな顔をする。
「それだけ復活が近いということなのだろう。おれだってお前と話したいことが山ほどある、正直もう少し腰を落ち着けたいがな」
そう言って笑みを浮かべてくれる父の言葉は本心なのだろう、そう思いつつエルピスはイロアスが提出してきた書類を手に取る。
「これは……?」
「ここ一ヶ月の間に俺達が龍を倒した場所付近の依頼を受けてその後行方不明になった冒険者の数だ」
「多いなこれは。でも邪竜の発生に伴って危険な魔物も発生してるでしょ? 未帰還率が上がるのは無理ないと思うけど」
強い魔物が死ねばその後強い魔物が生まれる、それはイロアスの英雄譚にも上がっていた話である。
竜が死んだ後の土地に発生した魔物はなんとかしたと言う話を聞いていたが、その後も安定して強い魔物がいたと言う話は聞いていたし調べたところ古びた依頼書の多くはそこに居た魔物の物であった。
それがそろそろ産まれる予定の邪竜から漏れ出た魔物によって強化され、その結果冒険者達が殺されているのならば別におかしな話ではない。
「あそこら辺が危険地帯なのはみんな分かってるから、ある程度力自慢のやつらしか向かってない。
その中でアレだけ数が上がってきているということはつまり、何かがあるってことさ」
だが考えればすぐに分かる様なそんな話、よほど力に自信がなければもしかしたら邪竜が復活してしまうかもしれない様な可能性すらある場所に人はいかない。
魔物や亜人だってわざわざ死ににいく様な珍しいのはそう多くないだろう。
「じゃあとりあえず調査に行こっか。二人で行く?」
「親子水入らずで、と行きたいが何かあったときに逃げられなかったら問題だからな。誰か一人連れてきてくれ」
何かあったら──邪竜が復活したところでエルピスがいる以上攻撃は無効化されるだろうからそれ以外の何かがいたとしたら、たしかに二人では危ないかもしれない。
ほんの少しの間頭を働かせ、そしてエルピスは決まっていた答えを口にする。
「ならセラかな」
「セラちゃんか……強いのかあの子」
「破茶滅茶に強いよ。俺が勝てるとしたら多分権能使って押し潰すみたいにしないと」
やるとしたら権能を全て取り上げセラをこの世に繋ぎ止めているエルピスの魔力を全てシャットダウンし、吸収されない様に魔法ではなく魔素によって押しつぶす様にして殺すしかないだろう。
エルピスとセラが戦うなどあり得るはずがないのだが、それがあるとすればそうだと言う話である。
「なら安心か。万が一は俺を気にせず逃げろよ?」
「善処するよ」
「……絶対言うこと聞く気ないだろお前」
「父さんが俺の事見捨てて逃げてくれたらそれでもいいよ」
「親が息子を見捨てるわけがないだろ」
「そういう事だよ父さん」
父が子を見捨てないのであれば、子だって父を見捨てるはずがない。
二人が戦っている最中にセラならば三人ごと逃がせる算段をつけられるだろう、エルピスにとってセラは父の命と自分の命を預けるに足りる存在であると言えるだろう。
そのまま部屋を出て装備品を着用しながら外へと出たエルピス達が二人で待っていると、メッセージを受けて転移魔法陣が目の前に現れる。
「ごめんなさいエルピス、待たせたわね」
「待ってないよ、ありがとう。今日は休暇だったのにごめんね」
「いいのよ別に気にしなくても。この世界を見て回っていただけだから」
エルピスと行動を共にしていない時、セラは決まって世界を回っている。
彼女がこの世界を見て回るのは創生神がこの世界を作ったからだろう、魔界にいながら人の世界もそれ以外の場所もいつだってセラは覗き見ている。
創生神が作った箱庭を眺めるのが彼女の趣味なのだ。
眺めていればいつだって創生神を思い出すことができる、そして変わりゆく世界の姿も彼女にとってはまた愛しい物なのだろう。
エルピスはそれを中断させてしまうことが最も嫌なのだが、セラからしてみればエルピスを眺めていられないから世界を眺めているだけだ。
作った本人が横にいるのだからそちらの方がセラにとって気になるのは当然のことと言える。
「それで装備はこれくらいでいいかしら?」
そう言いながらセラが軽く手を振るえば、戦闘服への変身が完了する。
来ているのはエルピスが昔買ってきた軍服のような服、鎧というわけではないがエルピスによって強化されているのでその強度は相当である。
ついでに杖も持てばそれだけでセラの戦闘準備は完了する。
「完璧だよ。それだけの装備だったら大丈夫でしょ、父さん武装は?」
「俺は無いよ、着の身着のままが一番いいからな」
父の装備が見られると喜んでいたエルピスだったが、イロアスは装備を持っていない。
いや、詳しく説明するのであれば持っていない、ではなく持たないと言う方が正しいだろうか。
そしてエルピスも思いたる節がある。
「そんなもんなの? 最高位冒険者みんな武装してなくない?」
「杖はへし折れるし防具は自分で結界張ったほうが硬いからな、そこまでいい装備を持っていること自体凄いんだぞ」
考えてみればなんのことはない。
龍よりも硬い肉体や障壁を持っている物達からすれば防具は必要ないし、魔法使いであるイロアスにとって杖の補助も配列射撃の補助という役割を抜きにするとそれほど必要な物ではない。
合理的な話ではあるがそれでは困る事もあるだろうと、エルピスは己のコネを有効活用する術を思いつく。
「父さんも鍛治神に頼む?」
彼女の力であればエルピスも信用している。
専属鍛治師の件を断ってしまってはいるがそれでも知らない仲ではない。
「あの嬢ちゃんは怖いから遠慮するよ、お前が作ってくれないか?」
「いいの!?」
エルピスの提案を意外な形で返してきたイロアスに対し、エルピスは身を乗り出しながら父に対して嬉しそうな顔を見せる。
冒険者にとって装備とは命をかける道具だ、それを作ってくれと父から頼まれるのは信頼の証でしかない。だからこそエルピスは父から頼まれたそれが嬉しくて仕方がない。
「もちろんだよ。お前が作ってくれたものなら命を預ける価値もある」
「なら今日の夜作って渡すね。とりあえず急拵えだけどこれ持ってて」
「おまっ──これ誕生日の時にクリムが渡したやつだろ? どんだけ魔改造したんだよ」
「ちゃんと原型残した状態で強くしていったんだよ。残念なことに俺もう杖使うことないから父さんが一旦持っててよ」
取り出したのはエルピスが五歳の誕生日にもらった物だ。
普通の亜人ならば一生使えるだけの性能であったが、いまのエルピスにとって杖とはもはや自分の行動を制限するものでしかない。
ならばイロアスは違うのかと言う問題だが、あれには魔神の権能を擬似的に再現して使える様になる魔水晶が後から取り付けられている。
通常の魔法の威力を二倍にするという能力の込められたあの杖は天下一品の代物だ。
「そう言う事なら借りるが……これ何が入ってるんだ?」
「いろいろ入ってるよ。ただ神印入れてないからあんまり使えないらしいんだけどね」
ただそれでも神の印の入った武器には勝てないらしい。
鍛治神の記憶を思い出しながらそんな事を口にしたエルピスに対し、イロアスはそんなものなのかと言葉を返すと杖を腰のホルダーにしまった。
「それでは私が先導しましょう。転移座標は既に割り出しておきましたので」
「お願いするよセラ。行くよ父さん」
「息子の成長ぶりに驚いてたとこだったんだよ、行こうか」
イロアスがくしゃくしゃとエルピスの頭を撫でているうちに転移は終わり、だだっ広い荒野が眼前に現れる。
数百キロ先まで広がる大きな荒野、荒れ果てた大地にはところどころ明らかに自然が作り出したものではない大穴や山が出来上がっていた。
エルピス達がいるのはそんな光景が一望できる少し大きな山の淵である。
いまだに燃え盛る黒炎は邪竜のものか母のものか。
大きな魔物こそ目につかないが、擬態して姿を隠している魔物が多くエルピスの〈神域〉に入り込んでくる。
「転移無事完了よ」
「うっわぁ……なんでこここんな辺な地形してるの?
「かつての戦闘の名残りだよ、お前も気をつけろよ?」
「こうはならないでしょ」
父に全力戦闘時の釘を刺されとっさに否定するエルピスだったが、共和国では眼前のよりもさらに大きな穴を。
連合国では街一つを壊滅させ、土精霊の国では迷宮の破壊。
学園では近海の海に峡谷を作り、修繕された学園を壊したのだって最近の話である。
十二分に物を壊した記憶がフラッシュバックし始め、それを急いで頭のうちから消すとエルピスは黙って索敵範囲を広げた。
これ以上触れないでほしい、そんなエルピスの想いが伝わったのかはあっと一息つくとイロアスはセラに声をかける。
「とりあえずは周囲の索敵だな、結構な距離だったけどセラちゃん大丈夫?」
「問題ありませんお義父様。これくらいならどうとでもなりますので」
「さすがにエルピスが選んだ女の子なだけあるな。エルピス、後ろは任せたぞ」
「もちろん。任せてよ」
超長距離の転移魔法を使用したというのに顔色ひとつ変えないセラに驚きながら、イロアスは岩場から飛び降りると付近の捜索を開始する。
一足でたどり着ける距離を保ちながら、エルピス達は付近の状況を散策するのだった。
「──にしても強い魔物が多いな。これもあいつの影響か」
襲ってきた魔物に対して適切な対処をとりながら、イロアスはそんな事を呟く。
普段イロアスに対して攻撃を仕掛けてくる魔物は存在しない、よほど腹をすかせていても無視しなければいけない相手というのは魔物だって分かっている。
だがここにいる魔物達は動く物であれば見境なく襲う様で、エルピスもセラも同じように何度か攻撃を仕掛けられていた。
各々が各々の方法でそれらに対して対処しているものの、確かにこれだけ血気盛んな魔物が多いと多少腕利き程度の冒険者ならすぐに死んでもおかしくなさそうだ。
だがそんな中でセラはそんなエルピスの予想を否定する答えを口にする。
「普通魔物に殺されたなら死体の一つも残っているものですが、どこにも気配が感じられませんね」
「エルピスはどうだ?」
「同じく。魔物の気配しか感じないよ」
死体の気配というのはよく分かる。
〈神域〉は魂と肉体を別々に感知してくれるので、肉体が存在するのに魂が存在しなければすぐにそれがしたいであるという事を識別できるのだ。
だがこの場にきてから一度も冒険者の死体を確認していない、食べ残しも存在しない程に徹底的に食べられたか、チリも残さず何かに殺されたか。
考えられるとしたら前者の方が現実的だが、後者の方が合っているだろうと思ってしまうのは最近不幸に見舞われすぎてしまったからだろうか。
それからしばらくあたりを探してみたが特にこれといって気配もなく、イロアスは仕方がないかと肉体強化を発動させる。
「ならあの場所に行くしかないか」
「討伐地点?」
「そ。あとついてきてくれ」
武術が得意ではないイロアスは肉体強化の魔法を苦手としている。
魔力の効率が良くない魔法によって削られていく魔力に苦い顔をしながら走るイロアスの後をついていくと、数分もすれば目に見えて徐々に大地が荒れ果てていく。
戦場であったと思っていたところは余波によってできたところだったのだ、実際に戦闘があったであろう場所には巨大な穴がくっきりとできていた。
中心は穴の底すら見えないほどの巨大な穴、それが数キロほどの長さで出来ているのだこの世界が耐えられているのが不思議なほどだ。
「ここが俺達が40年くらい前に戦った場所だ。懐かしいな」
「一番荒れてるね、確かにここにきたら何かわかるかも……ん? セラ、これっている?」
確実に何か竜の気配を感じられるだろうと思ってやってきた場所だというのに、イロアスが頼りにしていたエルピスは不思議そうな顔を浮かべながら首を傾げる。
エルピスからしてみれば先程までは明確に居るという感覚があったのに、この場に来た瞬間に無くなったことが驚きで仕方がない。
一瞬あまりにも大きな気配に呑まれて感知できなくなってしまったのかと軽く足に力を込めて上空から改めて気配を探してみるが、穴の向こう側からは気配を感じるもののくり抜かれた様に穴の部分だけ気配が抜け落ちている。
竜の気配が無くなったというよりは竜の気配を付近にわざとばら撒いていた様な雰囲気にエルピスは言いようのない違和感を感じていた。
そしてそれはセラもイロアスも同じ事である。
「居ないわね、龍の気配を感じないわ」
「復活してないって言うのか?」
「いや、なんとなくだけど近場に強い龍が生まれそうな雰囲気は感じるよ。ただここには生まれないと思うし邪竜とは別の龍だと思う」
「なるほどな……死んだ場所で生まれるわけじゃないってことか。違う龍だとは考えにくいが」
イロアスの言葉は人類の口から出た言葉でしかない。
それは経験則と先人からの知識で得た物であってたしかにそう考えるのが当然だ、だがエルピスの感知に当たっている龍は産まれそうな気配すら感じるがこれではないと勘でしかない感覚が訴えている。
父の意見の方が正しいと思うのだが、この場ですぐに生まれるとしたら邪竜ではない別の何かだろう。
「そこら辺の調査はしておいた方がいいかもね」
「その龍探知機みたいなのは結構精度いいのか?」
「龍神の権能だから絶対だよ」
だらこそエルピスは己の権能が正しいと強く主張する。
そしてイロアスもまた己の知識よりも技能に裏付けされたエルピスの言葉の方が正しいと考えを変えていた。
「それじゃあとりあえず広範囲を探すか」
「いまからここ全部探すの?」
「もちろんだ」
父の言葉を受けてエルピスは眼前に広がる広大な大地を目にする。
飛べば一瞬だ、〈神域〉で全域を探すのもそう難しくはないだろう。
だがそれをする労力と隙を考えれば地道に探していく方が良いだろう、そう思ってしまったからこそエルピスは喉から絞り出すようにして声を出す。
「……頑張るよ」
せめて労力に見合った成果は出てくれますように、そう神に祈りながらエルピスは作業を開始す
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