クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期:法国

戦後処理:後

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 場面は変わってイロアス達の方。
 数多の戦場を駆け回ってきたイロアスと、神であるニルはおおよその状況を理解しながら転移してきたために状況をある程度理解できていた。
 戦場において暗い顔をした仲間というのはたいてい状況が決まって居る。
 一つは戦況が不利になっているか負けている状況、これに関しては既に勝利していると聞いているので違うという事は分かっている。
 そうなってくると二つ目は味方の死、これが最も可能性として考えられる中で現実的である。
 だが基本的に戦地にあって勝利した軍というのは多少の味方の犠牲であっても勝利の幸福感に負けてしまい、悲しみを感じるまでにそれ相応の時間が必要とする場合が多い。
 よほど身近な者の死でもない限りはそんなものなのだ。

「い、イロアス様。これはその……」

 エラの顔はまるで死者のように青白く、もはやこちらの事すら見えていないのではないかと思えるほどに虚ろな瞳は彼女の心を表しているようでもあった。
 放っておけば自分自身でその命を絶ってしまうかもしれない。

「分かっている。犠牲者が出ないとは思っていなかったが、まさか身内から出るとはな」
「犠牲者はどこに? もしかしたら僕がなんとかできるかも──」

 ニルの言葉に対してエラが無言で指を指した先には小さな人だかりができていた。
 集まっているのは始祖種や桜仙種が数人、レネスの姿なども目に入る。
 まさかとは思いつつもそんなことはありえないと整っていく考えを傍へと捨てて、ニルはまるで亡者の様なとろとろとした足取りで人だかりの方へと向かうとその中の一人を押しのけて横たわっているものに視線を移す。

「……アウローラ?」

 そこに倒れていたのはニルの頭が予想していた通りアウローラであり、致命傷だと思われる胸部の傷は命を絶つのに十分な損傷である。
 明らかな致命傷を前にしてニルは無意識に自分の知りえる中で最高位の回復魔法を使用するが、傷口以外はどうとでもなるのに肝心の傷がどうやっても治らない。

「まさか犠牲者はアウローラだっていうの? レネス教えてよ」
「……そうです。始祖種との戦闘中に背後を取られた結果がこれです」
「レネス、悪いんだけど記憶を覗かせてもらうよ。自制の為に必要なんだ、分かって欲しい」
「もちろん」
「ごめん、協力感謝するよ」

 いつのまにか子供と見間違えるほどに小さくなってしまったニルに手を当てられて、レネスは己の記憶を開示する。
 ニルが目にしたのは心臓を貫かれたアウローラと、楽しそうに笑みを浮かべるスライムの姿。

「まさかアウローラちゃんが……」
「ダレン様には私からお伝えいたします。エルにも後から私の口でちゃんと…責任を持って」
「いや。それは許可しない。エラ、君が責任を感じる必要はない。戦場で一番難しいことは他人を助ける事だ。
 俺は今日エルピスを見捨てるに限りなく近い判断を下した、その結果エルピスが死んだら俺の責任だが、なにもエラはアウローラちゃんを見捨てていないんだろう? 
 なら責任なんて負わなくていい」

 誰がこの場にいたところでも何も出来る事はない。
 どうやったって死ぬ運命に有ったのかと聞かれればそんな訳は無いのだろうが、だとしてもそうとしか思えないほどに不条理なのは何故なのだろうか。
 戦場における死は誰の責任でもない。
 強いて言うのであればその理由はただ単純に運がなかった事、それだけに尽きる。
 だが一つだけアウローラにとって幸運なことがあった。
 それはエルピスの妖精神としての権能が無事開花し、それを十二分に操れるほどエラの権能への理解が早かったことにある。
 普通ならば既に死んでいる状況のアウローラだが、権能によってその命は細い一本の糸でなんとか繋ぎ止められていた。

「お父様気を負わなくても良いかも知れません。幸いなことにまだ彼女は死んでいません」
「本当なのかニルちゃん」
「権能を使ったのは正しい判断だったよエラ。後数分状況が遅れてたら多分二度と生き返らせられなかっただろうけど、これならまだ間に合う」

 アウローラの首元に手を当てて脈を測ってみれば、まだ微かにだが脈も感じられる。
 完全に死ぬ前にアウローラの身体の時間をエラが止めたのだ、そのおかげでなんとかギリギリ助けられる状況には持って行けている。
 問題は先程ニルが回復魔法を使用した時にそれを拒否した傷口の方、そちらさえどうにかなればアウローラを助ける事はそう難しい話ではない。

「本当に……本当にアウローラは助かるの?」
「大丈夫。君の判断は間違ってなかったよエラ、特にエルピスを呼ばなかったのは良い判断だった」
「向こうの状況は?」
「邪竜は討伐したけど破壊神の信徒には逃げられた。それに僕と姉さんの顔馴染みも居たからね、破壊神が力を付けているのは間違いない」

 レネスの言葉に対してニルはただ事実だけを返す。
 本当であれば破壊神の信徒に逃げられたなど恥でしかないことを口にしたくないのだが、味方に隠していても仕方ないだろうとニルはしかたなく口を動かす。

「エルピスの負傷状況は?」
「正直な話をすると一月は絶対安静だね。どれだけ頑張ってもベッドから出るのに一週間はかかる。
 いまはアドレナリンだのなんだのに加えて権能使用後の全能感があるからつ動けてはいるけど、あんなのいつ倒れたっておかしくない」

 エルピスは自分の体だけを心配していた様だが、ニルやセラが気にしていたのはエルピスの力の使い過ぎについてである。
 魔神としての力を持っているエルピスが天災魔法を使うこと自体は前からあった話だし、それはおかしなことではない。
 むしろ魔神が己の権能を使用して戦闘すると言うのは極一般的な話であると言っていいだろう。
 だが天災魔法の同時使用に加えていくつかの権能を同時発動させたエルピスの力は、もはやこの世界の神というよりは全盛期のセラやニルに近い能力を持つに至ってしまった。
 つまりそれは森妖種の国で神としての位を無理やり突破しようとしてしまったあの状況に近い。
 今回に限ってはぎりぎりその状況に至っていないだろうが、少しずつエルピスの力を元の方向性に戻していくのにはそれ相応の時間がかかる事は予想できる。

「確かにそれは呼ばなくて良かったな」
「いま無理して魔法でも使われたらそれこそアウローラよりも先にエルピスが死んじゃうよ。
 姉さんも多分状況は理解してくれてるからある程度時間は稼いでくれるだろうけど」

 アウローラの命とエルピスの命を秤にかけるわけではないが、死ぬ可能性だけを考慮するのであればいまに限ってはエルピスの方が危険である。
 姉がそんなことに気がついていないわけがないだろうからなんとか取り押さえてくれるだろうが、エルピスとて誰かが負傷していることくらい分かっているだろう。
 本人がそうかもしれないと思い続けている間、その間だけがニル達が自由に動ける時間。
それが一体どれまで続くか考えると気が気ではない。
 今後の予定を頭の中で組み立てていたニルのところにふとバーンがやってくる。

「あー…そのなんだ、守れなかった分際で悪いんだが、情報を共有したい。構わないか?」
「バーン君だっけ、別にいいよ、君だって仲間に裏切られた直後で参ってるだろう? 
 幸いなことに期間は空いてるから一度ゆっくりしてきなよ」
「残念だがそうもいかねぇ、誰に話を聞かれてるかも分からないからな。
 話はできるだけ早いうちがいい、それにおっさんが落ち込みを通り越して死にかけてる。次の仕事を上げないと倒れるぞあれ」
「確かレネスと守る約束をしたんだったか、元人の身で頑張った方だとは思うんだけれどね。僕だってあの場にいたら守れてたか怪しいよ」

 ニルとバーンの会話に出てきている男とは始祖種のうちの一人であるヘレディック。
 死した英雄と契約し、その力を部分的に使用できるこの世界で唯一の人物である彼は英雄との間に誓った約束を何にもまして順守する。
 彼が人でありながら始祖と呼ばれるに至った人類への宣戦布告も既に忘れ去られた物ではあるが、英雄との間に結ばれた約束が理由である事は長い時を生きる生物の間ではよく知られる事だ。
 彼にとって約束は守る物、たとえ世界が敵に回ったとしても守ると誓ったのであれば、己の体がこの世界から消え去ることになろうとも守らなければ彼の矜持が傷つけられる。

「違うのだ。友達の名に誓った以上、たとえ不可能であろうとも私は果たさなければいかなかったのだ」
「大変な人生だね。分かった、ひとまずエラはこのままアウローラの側にいてあげて。バーン君は僕と一緒に来て、レネスも一緒にね」
「私もか?」
「僕に何にも言わないで仙桜種の力を使ったでしょ? あれ体への負担が大きいのにさらに無理までしてるから思ってるより体ボロボロだよ。
 治さないと後々響くから」

 全力を出したが故に己の力で壊れてかけている人物の多い事。
 どれだけ簡単そうに見えた戦場であろうともそこは命が賭けられた場所、それに対して全力で答えた物達は軒並みその身体を壊してしまっている。
 治療と同時に今後の会議をするとして、どれだけ時間がかかるものか。

「アーテ君は各地に散らばってる人達を集めてなるべくエルピスの気をそらしてきて、どれだけ時間が稼げるか君に掛かっているよ」
「お任せを」
「とりあえず夜にはアルヘオ家の別邸によるからみんなそこに集合で」

 /

 場面は再び切り替わりエルピスがいまいたのはアルヘオ家の別荘農地の一つ、魔界に用意された自分の部屋の寝室でエルピスは横になっていた。
 その顔は非常に疲れているが、その疲れはどうやら戦闘の疲労からきた物ではなく心身的な疲労のものの様である。

「なんでこんなにいろいろ人くるのかな、さすがにちょっと疲れちゃったよ……」

 体こそ元通りの様に見えるが倦怠感は変わることもない。
 起き上がることも満足にできない状況のエルピスにとってみれば会話しにきてくれるだけでも嬉しいが、丸二日ほどほとんど休まることもなく来客が来ると少しだけ億劫にもなってしまう。

「エルピスが無理して倒れたからでしょう? とりあえずは体の回復を優先させるわよ」
「まさか人生初めての点滴が異世界でなんてね。めちゃくちゃ暇なんだねこれ」
「確かそこら辺に本があったはずだけど……有ったわ、これね」

 渡された本は既に死んだ神について記載された物だ。
 情報収集の一環でいままでも何度か読んできた本の一つだが、ふと適当にページを開けてみればそこにあったのは数千年前に死んだ盗神の記載。
 次に解放予定の能力の持ち主が死んだと言う記載には少し嫌な感情が芽生えるが、偶然開いたのも何かの縁。

「ひとまずこれ読んで時間潰すとするよ」
「回復魔法はかけ続けておくから私も少し席を外すわね。それと権能をいまこっちで全部預かりたいんだけど預かっても大丈夫?」
「うん、どうせ俺いま動けないから別にいいよ。障壁だけ貼っておいて」
「もちろん、私もずっと近くにいるし大丈夫よ。おやすみエルピス」
「気が早いよ、まだ寝れな…い」

 セラへと権能を譲渡した途端にエルピスは静かにその瞳を閉じる。
 権能によって睡眠に対しての抵抗を得ていたエルピスだったが、その権能がなくなってしまったいまたとえ神人であろうとも泥の様に眠ってしまうのは仕方のないことだ。
 エルピスとニルから得た力を一旦エキドナに預けて自分の年齢を抑えながら、セラが向かった先はニルがいる場所である。
 そこはバーンがいる吸血種の城、その中庭で寛いでいたニルの元にセラがやってくると待っていたとばかりに話を始める。

「それで? エルピスは寝たの姉さん」
「ぐっすりと寝ているわ。さすがにお父様特性の睡眠薬はよく効くわね」

 セラが対エルピス用に用意したのはイロアスから借りた睡眠薬、かつてエルピスが爆睡したとお墨付きの一品だったが神人になったエルピスでも十二分にその効果を発揮した様である。

「一週間はこれでとりあえず時間が稼げるとして、起きた時の対処はどっちがする?」
「私がしようと考えていたのだけれど、多分起き上がってきた時にはもう状況を把握しているでしょうし大丈夫でしょう」
「寝てるのに?」
「寝ているからよ」

 寝ている人間がどうやって周囲の状況を把握するのだろうか。
 そんな技能スキルや権能があっただろうかと頭を動かしたニルは、もしかしてと頭の中に浮かび上がった選択肢をセラに対して投げかける。

「──もしかしてまた干渉してきていたの? 意外と世話焼いてくれるよねあの人も。昔から何も変わってなくてちょっと安心しちゃった」

 ニルが口にしたあの人とは創生神の事である。
 もはやこの世界で力を持たない存在でありながら、陰ながらエルピスの事を支えようとしているのはニルもセラも知るところだ。
 だが彼自身にもなんらかの目的があると言う事は二人とも察しがついており、現状においてニルとセラが最も警戒している人物であると言うことも昔の三人の関係を考えると皮肉なものである。
 いまこの時に限っては体を動かせない夢の中でエルピスに事実を伝えられるのは創生神だけ・
彼がやってくれるかどうかすら曖昧な状況ではあるものの、もしやってくれるのであればありがたい。
 変わらない創生神にほんの少しだけ嬉しそうな表情を見せるニルだったが、それに対してセラの反応は冷ややかなものである。

「逆に何も変わっていないところが、彼が自分の特性に絶望しているところでもあるんでしょうけれどね」
「絶望? 聞いたことがない話だな。姉さん悪いけどその話僕にもして貰っても?」
「法国に行く道中で教えるわよ、どうせ教える必要があると思っていたしね。私はいまからレネスに法国でのいろいろを説明してくるから、悪いけどエキドナの件任せたわよ」
「分かった」

 創生神が絶望していたなどと聞くのは初耳である。
 ニルの目にも彼はその生を十分に謳歌している様に感じられた、絶望している様にセラから見えたとするのであればそれもまた彼の一面なのだろうが、それに自分が気づいていない事がニルからしてみればおかしな話であった。
 詳しく話を聞きたいところだがどうやら話すのにも時間がかかる様な話らしく、姉にも心の準備があるだろうと判断したニルは目的を達成するため龍の谷へと向かう。
 転移魔法によってやってきた龍の谷は以前訪れた時よりも随分と清潔になっており、龍神として現在この場に君臨しているエキドナの性格が現れている様であった。
 奥へ奥へと進んでみれば一人で休むエキドナの姿が見え、ニルが近づいていくとその気配を感じたのかエキドナも気だるそうに首を上げる。

『それで? 容体はどうだったのだ』
「安定しているよ、君が心配しなくても死にはしない」
『そうかそれは良かった。ところで何か言いたげな顔だな」
「君について少し疑問に思っていることがあってね。エキドナ、君本当は何者なんだい? 
 龍の谷から来たとエルピスは言っていたが君ここの出身じゃないだろう?」

 ニルがセラから任されていたのはエキドナについて調べる事だ。
 そもそもエキドナはなぜ気高き龍種でありながら、人を背に乗せる龍としてあの様な場所に居たのだろうか。
 ニルは詳しい状況をエルピスから話として聞いただけなのでその龍が飼われていたとされる場所についていまいち把握できておらず、実際に足を運んだりして状況確認をしに行ったこともある。
 その結果分かった事はまずあの場所にいる様な龍ではなかった、ということだ。
 エキドナは確かに龍として元々戦闘能力の高い部類の龍ではないが、こと隠蔽や潜伏という能力に関しては他の龍種を圧倒するだけの才能を持つ。
 その気があれば人の下でなくとも不自由なく暮らす事は出来たはずだ、わざわざあんなところで理由もなく人に飼われ、エルピスに嘘をついてまで同行する理由もない。
 ニルの言葉に対して目を細めたエキドナは、その体を起こすこともなく言葉を返す。

『私がスパイかどうか、勘ぐっているのか?』
「違う、それならもうとっくに殺してる。ただ多産の女神の名をもつ君が、一人も子を成していないことが違和感だっただけさ」

 神の名前は共通する様に作ったと、事前にセラから聞いているニルはエキドナの性質について違和感を持っていた。
 共通の名前を持つからと言って神になれるわけではない、だが性質自体は似通ったものになるはずだ。
 それが運命と呼ばれるものであり、名前とはそれくらいに重要な代物である。

『ふむ、そう言うことまで分かるのだな。愛の女神というものは』
「権能のうちの一つだからね。それで答えは?」
『作る気がないからだな、私は転生体だ。もとよりこの世界の竜の一匹であったが、かつてとある冒険者に殺されこの様な姿でこの世に産まれたのだ。
 性別などあってない様なものだが、さすがに自分の腹に子を宿してもいいと思えるほどの雄に巡りあってはおらんな』

 エキドナから返された言葉を自分の中で吟味し、おかしいところはないだろうと判断したニルはその場に腰を下ろす。
 それと同時に別の疑問が浮かび上がり、ついでに聞いておくかと口を開く。

「面白いね、まさか君が転生体だったなんて。昔はなんて呼ばれてたの?」
『赤竜と呼ばれていた。赤き竜の血脈は私が最後だったが、私が一番強かった。
 冒険王と互角の試合を繰り広げた私の勇姿はそれは素晴らしいものだったぞ、まぁ今の方が強いがな』

 赤竜に冒険王と言えばヴァンデルグ王国建国秘話の最も有名な戦いの一つである。
 かつて冒険王と呼ばれた転生者、冒険王ヘンデリス・ヴァン・デスタルト・ヴァスィリオとエキドナが戦ったともなれば王国に居た理由も分からなくはない。
 自分の体の最も大切な部分である魔石、それを使って築き上げられた国こそ王国であり、人の国の中で王国を特別視する理由も理解できないわけではなかった。

「出身地を偽った理由は? なんであそこにいたの?」
「出身地を偽った理由については言いたくないな、あそこにいたのはただ単純に破龍を一眼見ておきたかったのだよ。
 まさか龍神も出てくるとは思っていなかったが」
「そっか……うん、まぁいいかな。ありがとうエキドナ、とりあえず聞きたいことは聞けたよ。
 引き続き竜の谷の方は任せるから、何かあったらすぐに連絡してきて」

 嘘はついていない様である。
 どう言った理由からこちら側にあの場所にいたのか説明したくないのか不明だが、なんにしろ答える気がないのであれば無理に問いただしたところで時間の無駄だ。
 敵対する気がないのは十二分に理解できたので、であるならばいままでの信頼も踏まえて今日のところは何も口出ししなくてもよいだろう。

「了解した。ああそれと一つ」
「何があった?」
「最近やたらと皇帝が外に出ている。公的な記録では外に出ていないはずだからな、何かあるのやもしれん」
「なるほどね、ありがとう参考になったよ」

 エキドナからの言葉を受けてニルはその場を後にする。
 向かった先は空の上。
 遥か上空から世界を見下ろしながら、ニルは己の考えをまとめる。

「動き出した皇帝に捕まった第一皇女、死にかけの法皇にエルピスを呼び出す法国の神。
 時を止めたアウローラと裏切り者の始祖種。うーん、ちょっとこれは本格的に作戦練らないとまずいかもな」

 あり得なくはない状況。
 偶然こうなったとしても十二分に考えられるが、全てが同時に起きる可能性は途方もなく低い。
 知らぬ間に進んでいった物語はいつしか完全に終わりの道へと向かい始めるが、いまならばまだそれを止めることもできるだろう。
 己の使命を忘れぬ様に小さく思いを吐き出して、ニルは世界へと溶けていくのだった。
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