クラス転移で神様に?

空見 大

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青年期:極東鬼神編(12月更新予定)

島の勢力図

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 鬼神との戦闘と後継者との邂逅。
 二つの重大なイベントを一日の内にこなしたエルピス達は、穂叢ほむらの家に集まっていた。
 先に入って待っていたエルピス達に少し遅れてセラ達が合流する。

「随分と無茶をしたのねエルピス」

 そう口にするのはセラだ。
 エルピスの事を嗜めるようなその口調は無理をしたエルピスの事を思ってのものだろう。
 様子見をしに行くとエルピスが言い出した時からこうなることはセラにとって想定の内だったが、ニルがエルピスの行動を止めるのではなく後押しするのは彼女にとって予想外であった。
 破壊神の信徒が相手であればアウローラの身を案じて戦闘させないと思っていたのだが、妹の考えはセラでも見抜くことができずただ見過ごすしかない。

「本当はここまでするつもりなかったんだけどね。気付いたら戦闘になってて」
「まさか鬼神のジジイに手を出す命知らずがいて、しかも生きて帰って来る奴がいたなんてな。遍鬼超童子だ、よろしく」
「エルピス・アルヘオといいます。よろしくお願いします」

 差し出された手を握りエルピスは目の前の人物が話に聞いていた鬼神の後継者である事を理解する。
 立派な角を生やし一眼見て鬼とわかる風貌だが、どうにも鬼神とは違い威圧感のようなものは感じられない。
 彼自身の持つ力の問題というよりは、どちらかというと彼自身の性格由来のものだろう。

「よろしく頼むぜエルピス、俺のことは好きに呼べ。俺もお前を好きに呼ぶ、敬語も必要ない」
「ならこれから頼むよ遍鬼超。それで一応話を聞く前に……アケナは?」
「お姉ちゃんはいま外でお母さんと話してるです」
「……そっか。なら一旦話し合いを始めるとしよう、これからのこの島の運命を決める話し合いを」

 アケナと穂叢ほむらの確執はいまさら部外者が入って行ってどうこうできるものではない。
 すれ違いをしているのであれば話し合えばいい、お互い生きている内に会話できるのであればやり直すチャンスはどこにだって転がっているのだ。

「つってもよぉ、アンタはこの島をどうしたいんだ?」
「どうしたいというと?」
「俺達はこの島を良くしたい。鎖国状態のこの島を解放し、外の世界と同じかそれ以上に良い場所に変えたい。その為に俺は戦うが、アンタはなんの理由があってこの島のために戦うんだ?」

 当然の疑問だ。
 神を相手に戦うのだからそれ相応の理由があるはず、遍鬼超童子がそんな思いから発した言葉にエルピスは言葉を出そうとして躊躇う。
 破壊神のことを話して信徒だから討伐するというのはエルピスとして何も間違ったことではない。
 鬼神だって破壊神の信徒としての役目を果たす為にエルピス達をこの島に呼んだのだろう。
 そういった意味では鬼神とエルピスの目的は互いを討伐することで分かりやすいのだが、それら全てを説明することは遍鬼超童子をもれなく破壊神達との戦争に巻き込むことになる。

「……話してもいいけど、この話を聞けばこの島全体が俺の関わってる戦闘に強制参加することになるんで聞かない方がいいよ。俺達の目的は鬼神を倒すことだけ、それ以外に目的なんてない」
「気に入らないが、島が関わってるんならそれでもいい。邪竜殺しの英雄が味方になるんならこれ以上に心強いことはないからな」
「耳が早いな。この島って外の情報得られないんじゃないの?」
「俺は外に耳が沢山あるからな。アンタんとこの諜報部と同じだよ」

 アルヘオ家の諜報部とニルが個人的に所有している諜報部の二つが現在のエルピスの耳だが、彼が語っているのは前者の方である。
 商人として各地に散りばめられた遍鬼超童子の手下達は、エルピス・アルヘオという一大トピックをしっかりと報告していた。
 森妖種の国での英雄との戦闘から始まり、それ以降遍鬼超童子はエルピスの事を重点的に報告するように指示すら出している。
 エルピスに嫁がいるという情報はまだ入っていなかったのでセラ達がアルヘオを名乗った時は名字が同じの別人だと思っていたが、同姓同名の上に神を撃退した人物が目の前にいるのだから目の前の人物が情報の人物だと判断するのになんら問題はない。

「なや俺が前回やった戦法もどうせ知ってるよね。今回それで行こうと思ってるんだけど」
「法国で起こしたクーデターの件なら、そりゃあ残念だが不可能だな」
「というと?」
「この国には兵士というものが存在しねぇ。この島に特権階級は鬼神を除いてなく街中を歩く人間全員が兵士だ。前回と同じ轍を踏めば待ってるのは収集のつかない混乱だけだぞ」
「鬼神の基本戦闘能力の高さ馬鹿にならないな。そういやさっきの火球でも危なそうなやつ一人もいなかったし」

 鬼神が放った火球は魔法換算で言うのであれば超級程度の威力のもの。
 広域拡散型でエルピスに捕縛されないよう速度重視で放っているのもあって威力は上級魔法程度だったが、それでも人間なら当たればもれなくミンチである。
 それを火傷や怪我こそあれど軽傷で済ましているあたり国民が等しく兵士であることに疑問など湧かない。
 どうしようかと悩むエルピスだったが、そんなエルピスにニルは意を決して自らの作戦ではどうかと提案する。

「その話なんだけどエルピス、悪いんだけど今回は僕の作戦で動いてもらえないかな」
「ニルが作戦あるなら俺はそれでいいよ。好きに動かしてくれ」
「僕がいうのもなんだけどエルピスもうちょっと心配した方がいいんじゃない? いくら僕の言うことでも無茶苦茶な事言い出しかねないよ」
「嫁の言葉を信じない旦那なんていないよ。ニルがいつも裏で色々やってくれてるのは知ってるしな」

 そう言いながらエルピスがニルの頭を撫ぜると、ニルはそれに対して抵抗することなく甘んじて受け入れていた。
 ニルが秘密主義なのは彼女が神であった頃に理由を置いている。
 無から突然発生し戦争に参加した彼女は常に一人で生きてきた。
 他人を信頼することはこの世界に来てからようやくできるようになったのだが、自分の考えを他人に伝えるのが彼女は特に苦手なのである。

「ありがとうエルピス。遍鬼超童子、悪いけどこの戦いが終わったらどんな手法を取ってもこの島は大きく変わる。それは島民が君の目を見る目も、君はそれでいいかい?」
「それで鬼神が倒せるなら、俺はなんだっていい」

 ここまで自分が積み重ねた足跡。
 人生の軌跡すら投げ出す覚悟を遍鬼超童子は持っている。
 初対面の人間に全てを差し出せるその豪胆な性格にニルは少しだけ呆気に取られたような顔をしながら、にこやかに笑うのだった。

 /

 鬼神との戦闘を想定して頭の中で盤面を作り出しながら、ニルは一人遍鬼超童子の住まう芙蓉峰の山の頂上から島の全貌を目に入れていた。
 鬼神を倒すだけでいいのなら今回の戦闘はすぐに終わらせることができるとそうエルピスは思っていたようだが、ニルの考えとしては少し違う。
 今までの対戦相手は全て力によるゴリ押しで何とかなる相手ばかりだったが、今回の相手は神である。
 純粋な力とは別にして、神としてこの国に長期間滞在していた鬼神はこの地にいる限り神としての力が強化されているのだ。
 この世界にいる神が方々を転々とするのではなく自らの居住地を見極めそこに腰を下ろすのにはもちろん意味があり、神として信仰されることによって自らの肉体を強化するためである。
 信仰心によって神が強くなることはないが、信者からの恐れや考えというものは神そのものの性質を大きく変貌させる。
 たとえば入れ替わりの期間が激しく迷宮を作ることに躍起になっていた鍛冶神は、土精霊達の迷宮を完成させることができる才能あるものを求める思いが形になった物である。
 海神が場所によって年齢や口調にブレが生じるのは海に住まうものたちが海神は時間に縛られない存在だと、そう認識しているからに他ならない。
 では鬼神はどのように認識されているのだろうか。
 それは彼自身が口にしていた通りの者だった。

(まさか体の大部分が無くなっても復活してくるなんて、さすがに予想外だったな)

 鬼神は自らの種族を卑怯で卑劣で最強であると定義した。
 卑怯や卑劣に関してはこの際大きな問題ではないので無視するとして、問題は鬼神が自分を最強と定義し島民にも己こそが最強であると吹聴しているところだ。
 神を強者であると認識するのは世界の共通認識であるが、己こそが最強であると宣言する神など世界中を探してもそうはいないだろう。
 我の強い神々の前で自分こそが最強であると宣言することは喧嘩を売っているようなものだし、実際この話がもっと早く知られていたら鬼神は他の神々によって再起不能になるまで打ちのめされていたこと間違いなしである。
 だが鎖国によってこの島の情報が漏れることはなく、加えて冬眠に似たような行為を鬼神が行っていることによって他の神も本当にそんなことを吹聴しているのかどうか確認が取れずにいた。
 こうして最強と定義されてしまった鬼神はこの島に限って言えば不死という形で最強となったのである。
 神の力の外側の力まで行使できるようになったわけではないが、死ななければ試合は終わっていないのだから負けていない。
 負けなければそれはすなわち最強であるという考え方なのだろう。
 いくつか手は頭の中に浮かんでくるが、それらすべてが100パーセントの確率で誰も死なずに幸せな最期を迎えられるかと聞かれると怪しい所である。

「──対抗策は見つかった?」

 ふとニルの背後から声がかかる。
 どうしようかと悩んでいたとはいえ、ニルの背後を取れる人物はそう多くない。
 まるで簡単な事のように自分の背後を取ってきた姉に対して、ニルは少しだけ頬を膨らませながら言葉をかける。

「笑いに来たの? ……いくつかはあるけど、リスクがどうにもね。不確定要素が多すぎて頭痛くなってきたよ」
「情報が足りていないうちから大見え切るからそうなるのよ」

 神として長い時間を生きてきたニルはいままでの世界で見てきた経験則と、神懸かっている野生的な本能によって未来を予測するニルはその精度の高さから上手く計画をねれないでいた。
 エルピスと周りにいる数人が助かるだけでいいのなら、必勝方法はいますぐこの島ごと海に沈めて海神の力を借りて根絶やしにする事だ。
 破壊神の信徒がいようと海神に事前に連絡を取れるのなら、10秒もあれば島ごと全員殺すのはそう難しい話ではない。
 だが無罪の民まで皆殺しにし、島を丸ごと海に沈めてはやっている事は破壊神とまるで変わらない。
 エルピスに求められているのは英雄ほどの救いがある話ではないにしろ、惨殺や虐殺からは程遠い世界のはずである。
 狂愛の女神として、エルピスの為に自分が在すべき事は何か。
 少なくともプライドにかまけて職務を放棄することではないとニルは知っている。

「情報、まとめて置いたわ」
「──っ!! 姉さん!!!」
「ちょっと、抱きつくのは良いけどこれ紙でしか保存してないんだから無くさないようにしなさい」

 自分の方に向かって飛びかかってくるニルを腕一本で押さえつけながら、セラは重要な書類をニルの服のポケットに無造作に突っ込む。
 見栄を張りたくなる気持ちはわかる。
 セラだってニルと同じように暗躍しなんとかエルピスを助けられないものかと頭を回しているのだ。
 可愛い妹の為に自分の手柄を譲ってあげる事はセラにとってそんなに難しいことではない。

「まったく、ニルはエルピスにそっくりね。好きな人のために無茶をするのはいいけど、しすぎは良くないわよ」
「エルピスが困ってるならなんとかしてあげたいのが人情ってものでしょ?」
「……破壊しかできなかった貴方が随分と成長したものね。」
「これも愛の力って事で」

 実際そうなのだろうが、そう言い切れる辺りニルらしい。
 ポケットから書類を取り出し、目を通し始めたニルは一枚一枚をじっくりと眺める。
 この島のこと、この島の住民達のこと、出島のこと、鬼神のこと、トコヤミとアケナ、そしてその両親のこと。
 鬼人達だけに留まらずセラの情報はさらに続く。
 かつてエルピス達と何度か対戦した亜人種、雄二が率いたそれらの出生、皇帝の突然の失踪、世界各地で起こり始めている暴動。
 表面上には上がってきていなくても情報を持つもの達は知っている。
 世界は着実に小さな火種を大炎へと変化させていっていること、そしてその変化の中心にはいつもエルピスがいることを。
 セラから渡された書類に目を通し、一通り通し終わったのか書類を処分したニルはゆっくりとではあるが立ち上がる。

「いい案は浮かんだ?」
「そりゃもう飛びっきりに良いのがね」

 *********

 神の計画書に失敗という二文字はありえない。
 彼女達が結託して何か事をなそうとするのであれば、たとえ不可能で積みの状況であろうともそれら全てを翻して成功に変えてしまうだろう。
 それが出来るだけの力と知恵、そして恐ろしいまでの冷徹さがある事を人々は未だ知らない。
 街中を歩く鬼人達は自分達の島に大きな変革の時が来る事を、知識ではなく本能として理解していた。
 亜人としてこの世に生を受け、自分達しか知らない彼らはだからこそ普段の自分達とは違う事を敏感に察知する。
 一体何が変化したのか、勘がいいもの達ほど何かが変わっていったことに気がつくが、それがなんなのかという確証に至れるものは一人たりとていない。
 風が吹いたからといって桶屋が儲かるなど迷信だと、そう論じてしまうようなもの達には到底理解できないだろう。
 月夜の番に灯を元にして生活している彼らは、島の覇者であるがゆえに夜の恐怖というものを忘れてしまっていた。
 神の前でそのような弱点をさらせば、簡単にそれらを突かれるのは道理である。

「変化を起こすには大衆の心を突き動かす必要性がある。人気者を生み出すよりも簡単なのは悪者って事だよねエルピス」
「俺本当に英雄の子供なのか疑問になってきたよ最近」

 都の遥か上空から見下ろすのは二人の人影。
 万が一にでも下から見られないように複数の魔法と技能によって姿を隠ぺいしている上に黒色のローブを身にまとった二人は、楽しそうにそんな事を口にしながら作業する手を止めることはない。
 下から時折聞こえてくる悲鳴はいま現在エルピスが引き起こしている恐怖によって作り出されたものだ。
 邪神の権能を持つエルピスは任意の相手に対して恐怖を与えるという特徴がある。
 これは無差別に周囲に存在し得る生命を持つ者すべてに作用するためエルピスはその権能を無意識化で無効化していたのだが、今日の昼頃ニルはエルピスに接触してその権能を使用した作戦をエルピスに説明した。
 いわく鬼神の持つ無敵の特性を解除する方法は現状即効性のあるものはなく、無理な手段を用いて作戦を行えば必然的にそれらすべてが予測の出来ない要素となり、それらは後々作戦に大きな影響を及ぼす。
 これから1週間をかけてこの都だけでなくこの島の全ての生物に悪夢や幻視、怪奇現象に実態を伴った幽霊や妖怪の召喚までありとあらゆる方法でこの島を恐怖に墜とし、そしてこの島にエルピスは恐怖の対象であるとそう認識させるのだ。
 種族そのものの脅威になればそれは神の称号にだって大きな要素として取り込まれる。
 この島にいる限りは鬼神はエルピスに出せる手が完全になくなるだろう。

「積みになる前に襲い掛かってくるだろうから、やってくるとしたら1週間以内に来るって事か。それももちろん計画の内だってことでいいんだよね?」
「もちろんだよ。こっちから攻撃を仕掛けるのと、相手が仕掛けてくるのじゃ話が違う。犠牲を最も押さえつけて、僕とエルピス、そしてみんなが幸せになる結末を引き寄せて見せるよ。だからエルピスも頑張ってね」

 任せるとそう言われてエルピスは素直に首を縦に振る。
 全員を幸福にしたうえでなるべく犠牲者を減らしそれでいて周囲が納得を行く結果を生み出しつつ、きっちりと鬼神を討伐するというだけのこと。
 英雄にしか許されない偉業であり一歩間違えれば英雄願望を抱いて死んだ愚者として扱われてもおかしくないような行動も、もはやエルピスにとってはやりなれたことである。
 出来ることを出来るだけやる、その結果がどうなるかは誰にだって分からないのだから。
 いまはただ少しでもその確率を上げるためにエルピスは邁進するのだった。
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