【ハレ巫女】妹の身代わりに「亡き妻しか愛せない」氷血の辺境伯へ嫁ぎました〜全てを失った「ハレの巫女」が、氷の呪いを溶かして溺愛されるまで〜

きなこもちこ

文字の大きさ
25 / 41

第二十五話 舞踏会への招待状

しおりを挟む
「ぶ……舞踏会、ですか!?」

 驚いて聞き返したアリシアの言葉に対し、レイモンドは静かに頷いた。

「そうだ。なんでも、俺が結婚したのを対外的に知らしめたいらしい。俺と王家の関係は……昨日ヨゼフから聞いたのだろう?」

 王家がレイモンドに常に妻帯を強制するのは……いつでもスノーグース家が、王家で生まれた「呪いの子」を引き取れるように。
 子が生まれた時期と結婚していた時期にズレが生じて、「呪いの子」が王家の子だとバレないように……。

「ご丁寧に、『仲睦まじく見えるように振る舞え』とまで書いてある。全く……滑稽なものだな」

「愛するなと言ったり、仲睦まじくと言ったり……本当に本当に、自分勝手な王!!」

 頬を膨らませながら拳を振り上げるアリシアを見て、ブルーベルはクスクスと笑った。

「貴方が嫌ならば、無理に行く必要もないが……。その、王家主催だからロイもいるだろうし……」

 ごにょごにょと呟くレイモンドを、ヨゼフが呆れた様子で見つめる。

「そんなこと言って……旦那様、貴方が行きたくないだけでしょう? 何度招待が来たって、一度も参加したことはないじゃないですか」

「だって……面倒くさいだろう」

 ヨゼフはため息を吐き、中指で眼鏡を直した。

「そんな調子で人の前に出たことがないから、変な噂ばかり立てられるんですよ! 息を吐いただけで周囲の人間を凍らせるとか、傍若無人で領民を片っ端から氷の牢獄にぶち込んでいるとか、身長が2メートル50もある大男だとか……」

「アタシが村にいた時は、睨んだだけでドラゴンを凍らせて撃ち落とせるって噂だったよ」

「雪男みたいに、全身モッサモッサの毛で覆われてるって聞いたこともあるよぉ」

「冷血で、実は心を持たないゴーレムだとか~」

「……貴方たち、そんな噂を聞いていたのに、よくここに雇われてくれましたね」

 使用人達が聞いたことのある噂話を次々に口にする中、アリシアだけが黙って震えていた。

「……ミーシャさん?」

「…………ません」

「え?」

「私たちのレイモンド様を、そのように勝手に想像して悪いように噂を立てられているのが許せません! レイモンド様は……こんなに、こんなに素晴らしいお方なのに!!」

 アリシアは身を乗り出して、ギュッとレイモンドの手を握った。

「参加しましょう、舞踏会。レイモンド様がいかに美しくて聡明で、優しくてダンスも出来るスーパー領主かということを、世の人々に知らしめましょう!」

 真剣な瞳で見つめられ、レイモンドは少し赤面してフィッと目を逸らす。

「俺は別に、何と言われようと困らないが……」

「いいえ、困ります! これから先、呪いも弱まって領地も暖かくなる予定ですから……領地の発展のためにも、領民が必要です。輸出入が増えれば他の貴族との付き合いも大切になってくるでしょうし……。レイモンド様の正しいお姿を世に伝えて、領地発展への先行投資としましょうよ!」

 アリシアの目には決意が満ち溢れ、炎がメラメラと燃えている。

「あちゃあ、このモードのミーシャさんは誰にも止められないよー」

 ブルーベルは慣れた様子で呟き、大人しくコーンのスープを啜った。

「参加自体は万々歳なのですが……。確か日程が、二週間後でしたよね? 今から王都の仕立て屋を呼んで、ドレスや宮廷服を作っていては間に合いませんね……」

 口元に手を当てて考え込むヨゼフに、アリシアは明るく笑いかけた。

「あら、仕立て屋さんならこちらにいるではありませんか!」

 肩を抱かれたサリーは、目を丸くして飛び上がる。

「アタシがかい!? そりゃ舞踏会服なんて、作れたら嬉しいけど……王城に着ていくもんだろう? アタシが作った服なんかじゃ……」

「いいえ、サリーの服がいいんです。サリーの技術ならば、宮廷お抱えのデザイナーよりも斬新で繊細な服が出来ますよ! まがいなりにも王妃候補だった私が保証するのですから、間違いありません」

「アンタ、王妃候補だったのかい!? まあそこまで言うなら、やってもいいけど……」

 満更でもない顔で頬を掻くサリーに、アリシアはさらに畳み掛ける。

「ゼロからの仕立てが時間的に厳しければ、既製服を調整する形で仕立てましょう。私もお手伝いしますので。それに……」

 アリシアの視線を受けたマールは「ははいよたかいよ~」と、スプーンを咥えながら言った。
 
「センス抜群のマールもいます。色合いとデザインのアドバイスを貰いましょう。もちろん特別ボーナスもお支払いしますから……」

「奥様のポケットマネーではなく、きちんとスノーグース家からお支払いしますからね!」

 念を押すヨゼフの言葉に、アリシアは首をすくめる。

「とにかく、服の点は大丈夫だと思います。それで……お嬢様はどうされますか? 舞踏会、参加なさいますか……?」

 舞踏会に参加するとなれば、必然的にブルーベルの両親とも顔を合わせることになる。いくら自分を捨てたとはいえ……両親は両親だ。会いたい気持ちがあるのか、それとも……。
 
 ブルーベルはしばらく黙り込んだ後、小さく首を振った。

「わたし……いきたくない。会いたくない人がいるの。それに……」

 アリシアに抱きついたブルーベルは、上目遣いでアリシアを見つめた。

「わたしはミーシャさんの『大事』だから……さらわれちゃったりしたら、困るでしょう? だから、ね、行かなくていい……?」

「ええ、ええ! その通りです、可愛い賢いお嬢様! お嬢様は大事大事なので、ユリウス様みたいな輩に拐かされたら大変です! ね、レイモンド様?」

 ブルーベルに頬をすりつけるアリシアに目配せされ、レイモンドは困った様子で呟いた。

「ああ。その、なんだ……お前は日に日に可愛らしくなるし、リチャードが見たら王城に留めて置きたくなるかもしれない。そうなれば、一緒に食事をする相手が居なくなるし……氷魔法も教えられないし……それに……」

「それに?」

「……俺が、寂しい。お前が大事だから……」

 アリシアは感動に胸を熱くし、声を詰まらせながら言った。

「レイモンド様もお嬢様も……ご自分の気持ちをしっかり伝えられるようになられて、本当に素晴らしいです……! ではお嬢様には、氷の温室の管理と、アルのお世話をお任せします。出来そうですか?」

「うん! 任せて!」

 誇らしげに胸を叩くブルーベルに、部屋中がほっこりとした空気に包まれる。

「では……舞踏会大作戦、絶対に成功させましょう!」 
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】私は聖女の代用品だったらしい

雨雲レーダー
恋愛
異世界に聖女として召喚された紗月。 元の世界に帰る方法を探してくれるというリュミナス王国の王であるアレクの言葉を信じて、聖女として頑張ろうと決意するが、ある日大学の後輩でもあった天音が真の聖女として召喚されてから全てが変わりはじめ、ついには身に覚えのない罪で荒野に置き去りにされてしまう。 絶望の中で手を差し伸べたのは、隣国グランツ帝国の冷酷な皇帝マティアスだった。 「俺のものになれ」 突然の言葉に唖然とするものの、行く場所も帰る場所もない紗月はしぶしぶ着いて行くことに。 だけど帝国での生活は意外と楽しくて、マティアスもそんなにイヤなやつじゃないのかも? 捨てられた聖女と孤高の皇帝が絆を深めていく一方で、リュミナス王国では次々と異変がおこっていた。 ・完結まで予約投稿済みです。 ・1日3回更新(7時・12時・18時)

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...