【ハレ巫女】妹の身代わりに「亡き妻しか愛せない」氷血の辺境伯へ嫁ぎました〜全てを失った「ハレの巫女」が、氷の呪いを溶かして溺愛されるまで〜

きなこもちこ

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第二十九話 雪とひまわり

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「…………ひまわりの、瞳……?」

 動きを止めたレイモンドに、アリシアが慌てて囁く。

「レイモンド様! ラストフレーズです、最後のパフォーマンスを……!」

「あ、ああ……」

 ワルツの最後の一音が鳴り響くと同時に、レイモンドが力強く床を踏み鳴らした。その瞬間、会場の全ての音を包み込むように、細かな雪が舞い降りてきた。

「なんだ、これは!? 雪……?」

「まあ、なんと綺麗な……」

「室内なのに雪とは……まさか、スノーグース家の魔法……?」

 照明の光を受け、雪の結晶が星屑のような光を放つ。
 
 ふわふわと舞う真っ白な雪は、柔らかに優しく、ゆっくりと人々に向かって落ちてくる。
 まるで夢の中のような出来事に、会場の人々は口を開けたまま立ち尽くしていた。

 粉雪と静かな感動に包まれる会場の中心で、レイモンドはアリシアの瞳を見つめていた。

「やはり、ひまわりがある。……貴方はこんな所まで、『アリシア』と同じなのだな」

 久しぶりに呼ばれた自分の名前に、胸が大きく鼓動する。

「レイモンド、様……?」

 レイモンドは顔を歪め、アリシアの頬にそっと手を触れた。愛おしそうに、苦しそうに、ひやりとした指先が頬をなぞる。
 彼が瞬きをすると共に、温かな雫がアリシアの頬にこぼれ落ちた。

「泣いていらっしゃるのですか……?」

 そっとレイモンドの目尻に浮かぶ涙を拭った途端、ギュッと抱きしめられた。

 細身ながらも力強い腕と、温かでしっかりとした胸板に包み込まれ、何とも言えない気持ちが湧き上がる。
 トクトクと早鐘を打つ心臓の音は、自分のものなのか、レイモンドのものなのか……。

 しばらくして、どこからともなく響いてきた拍手の音で、アリシアは我に返った。
 いつの間にか雪は降り止み、会場中は温かな拍手と歓声に包まれていた。

 アリシアはレイモンドを引き剥がし、顔を真っ赤にしながらお辞儀カーティシーをする。

 (こんな公衆の面前で抱き合うなんて……! しかも一番恐ろしいことが、抱きしめられた嬉しさで、舞踏会の会場にいるのをすっかり忘れていたこと……!)

 レイモンドの手を引き、早足で会場の隅まで逃げる。会場では既に次の曲が始まっていて、曲調も変わり激しいダンスが繰り広げられていた。
 
「……雪の演出は、上手くいったようですね。髪飾りのパフォーマンスのことは、私も知りませんでしたが……」

 手近にあったドリンクを口にしながら、アリシアが囁く。顔の火照りが治らず、もう一方の手でパタパタと頬を扇ぐ。

「マールとサリーに、貴方には内緒にするようにと言われていたのだ。貴方は、自分が目立つことはしたがらないだろうから、と……」

「ええ、まあ……注目を集めてしまって、ちょっと恥ずかしかったですが……。それよりも、あの、ハグの方が……」

 ごにょごにょと呟くアリシアの顔を、レイモンドが身体をかがめて覗き込んだ。

「どうかしたか? 顔が赤いが……体調が優れないようなら、医務室に運ぼう。また倒れられたら困る」

「ま、ま、ま、待ってください! 大丈夫です、大丈夫ですから! それに体調なら、レイモンド様の方が……」

 今にも抱き上げようとするレイモンドと揉み合っていると、トントンッと肩を叩かれる感触がある。

「はい?」

 振り向いた途端、小さな人差し指がぷにっと頬をつついた。

「ちょっとよろしいですの?」

 そこには、小さな少女が仁王立ちしていた。
 
 アリシアも小柄な方だが少女はもっと小さく、デビュタントの年を迎えているようには見えない。
 薄紫色の髪は縦ロールに巻かれ、フリルの多いドレスと相まって、子供が遊ぶままごと人形のような可愛らしさだ。

 しかし意思の強そうな紫の目には、大きな丸眼鏡がかけられており、容姿とのギャップを感じてしまう。
 
 アリシアがきょとんと見つめていると、少女はニヤリと口の端を上げ、勢いよくレイモンドに飛びついた。
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