29 / 41
第二十九話 雪とひまわり
しおりを挟む
「…………ひまわりの、瞳……?」
動きを止めたレイモンドに、アリシアが慌てて囁く。
「レイモンド様! ラストフレーズです、最後のパフォーマンスを……!」
「あ、ああ……」
ワルツの最後の一音が鳴り響くと同時に、レイモンドが力強く床を踏み鳴らした。その瞬間、会場の全ての音を包み込むように、細かな雪が舞い降りてきた。
「なんだ、これは!? 雪……?」
「まあ、なんと綺麗な……」
「室内なのに雪とは……まさか、スノーグース家の魔法……?」
照明の光を受け、雪の結晶が星屑のような光を放つ。
ふわふわと舞う真っ白な雪は、柔らかに優しく、ゆっくりと人々に向かって落ちてくる。
まるで夢の中のような出来事に、会場の人々は口を開けたまま立ち尽くしていた。
粉雪と静かな感動に包まれる会場の中心で、レイモンドはアリシアの瞳を見つめていた。
「やはり、ひまわりがある。……貴方はこんな所まで、『アリシア』と同じなのだな」
久しぶりに呼ばれた自分の名前に、胸が大きく鼓動する。
「レイモンド、様……?」
レイモンドは顔を歪め、アリシアの頬にそっと手を触れた。愛おしそうに、苦しそうに、ひやりとした指先が頬をなぞる。
彼が瞬きをすると共に、温かな雫がアリシアの頬にこぼれ落ちた。
「泣いていらっしゃるのですか……?」
そっとレイモンドの目尻に浮かぶ涙を拭った途端、ギュッと抱きしめられた。
細身ながらも力強い腕と、温かでしっかりとした胸板に包み込まれ、何とも言えない気持ちが湧き上がる。
トクトクと早鐘を打つ心臓の音は、自分のものなのか、レイモンドのものなのか……。
しばらくして、どこからともなく響いてきた拍手の音で、アリシアは我に返った。
いつの間にか雪は降り止み、会場中は温かな拍手と歓声に包まれていた。
アリシアはレイモンドを引き剥がし、顔を真っ赤にしながらお辞儀をする。
(こんな公衆の面前で抱き合うなんて……! しかも一番恐ろしいことが、抱きしめられた嬉しさで、舞踏会の会場にいるのをすっかり忘れていたこと……!)
レイモンドの手を引き、早足で会場の隅まで逃げる。会場では既に次の曲が始まっていて、曲調も変わり激しいダンスが繰り広げられていた。
「……雪の演出は、上手くいったようですね。髪飾りのパフォーマンスのことは、私も知りませんでしたが……」
手近にあったドリンクを口にしながら、アリシアが囁く。顔の火照りが治らず、もう一方の手でパタパタと頬を扇ぐ。
「マールとサリーに、貴方には内緒にするようにと言われていたのだ。貴方は、自分が目立つことはしたがらないだろうから、と……」
「ええ、まあ……注目を集めてしまって、ちょっと恥ずかしかったですが……。それよりも、あの、ハグの方が……」
ごにょごにょと呟くアリシアの顔を、レイモンドが身体をかがめて覗き込んだ。
「どうかしたか? 顔が赤いが……体調が優れないようなら、医務室に運ぼう。また倒れられたら困る」
「ま、ま、ま、待ってください! 大丈夫です、大丈夫ですから! それに体調なら、レイモンド様の方が……」
今にも抱き上げようとするレイモンドと揉み合っていると、トントンッと肩を叩かれる感触がある。
「はい?」
振り向いた途端、小さな人差し指がぷにっと頬をつついた。
「ちょっとよろしいですの?」
そこには、小さな少女が仁王立ちしていた。
アリシアも小柄な方だが少女はもっと小さく、デビュタントの年を迎えているようには見えない。
薄紫色の髪は縦ロールに巻かれ、フリルの多いドレスと相まって、子供が遊ぶままごと人形のような可愛らしさだ。
しかし意思の強そうな紫の目には、大きな丸眼鏡がかけられており、容姿とのギャップを感じてしまう。
アリシアがきょとんと見つめていると、少女はニヤリと口の端を上げ、勢いよくレイモンドに飛びついた。
動きを止めたレイモンドに、アリシアが慌てて囁く。
「レイモンド様! ラストフレーズです、最後のパフォーマンスを……!」
「あ、ああ……」
ワルツの最後の一音が鳴り響くと同時に、レイモンドが力強く床を踏み鳴らした。その瞬間、会場の全ての音を包み込むように、細かな雪が舞い降りてきた。
「なんだ、これは!? 雪……?」
「まあ、なんと綺麗な……」
「室内なのに雪とは……まさか、スノーグース家の魔法……?」
照明の光を受け、雪の結晶が星屑のような光を放つ。
ふわふわと舞う真っ白な雪は、柔らかに優しく、ゆっくりと人々に向かって落ちてくる。
まるで夢の中のような出来事に、会場の人々は口を開けたまま立ち尽くしていた。
粉雪と静かな感動に包まれる会場の中心で、レイモンドはアリシアの瞳を見つめていた。
「やはり、ひまわりがある。……貴方はこんな所まで、『アリシア』と同じなのだな」
久しぶりに呼ばれた自分の名前に、胸が大きく鼓動する。
「レイモンド、様……?」
レイモンドは顔を歪め、アリシアの頬にそっと手を触れた。愛おしそうに、苦しそうに、ひやりとした指先が頬をなぞる。
彼が瞬きをすると共に、温かな雫がアリシアの頬にこぼれ落ちた。
「泣いていらっしゃるのですか……?」
そっとレイモンドの目尻に浮かぶ涙を拭った途端、ギュッと抱きしめられた。
細身ながらも力強い腕と、温かでしっかりとした胸板に包み込まれ、何とも言えない気持ちが湧き上がる。
トクトクと早鐘を打つ心臓の音は、自分のものなのか、レイモンドのものなのか……。
しばらくして、どこからともなく響いてきた拍手の音で、アリシアは我に返った。
いつの間にか雪は降り止み、会場中は温かな拍手と歓声に包まれていた。
アリシアはレイモンドを引き剥がし、顔を真っ赤にしながらお辞儀をする。
(こんな公衆の面前で抱き合うなんて……! しかも一番恐ろしいことが、抱きしめられた嬉しさで、舞踏会の会場にいるのをすっかり忘れていたこと……!)
レイモンドの手を引き、早足で会場の隅まで逃げる。会場では既に次の曲が始まっていて、曲調も変わり激しいダンスが繰り広げられていた。
「……雪の演出は、上手くいったようですね。髪飾りのパフォーマンスのことは、私も知りませんでしたが……」
手近にあったドリンクを口にしながら、アリシアが囁く。顔の火照りが治らず、もう一方の手でパタパタと頬を扇ぐ。
「マールとサリーに、貴方には内緒にするようにと言われていたのだ。貴方は、自分が目立つことはしたがらないだろうから、と……」
「ええ、まあ……注目を集めてしまって、ちょっと恥ずかしかったですが……。それよりも、あの、ハグの方が……」
ごにょごにょと呟くアリシアの顔を、レイモンドが身体をかがめて覗き込んだ。
「どうかしたか? 顔が赤いが……体調が優れないようなら、医務室に運ぼう。また倒れられたら困る」
「ま、ま、ま、待ってください! 大丈夫です、大丈夫ですから! それに体調なら、レイモンド様の方が……」
今にも抱き上げようとするレイモンドと揉み合っていると、トントンッと肩を叩かれる感触がある。
「はい?」
振り向いた途端、小さな人差し指がぷにっと頬をつついた。
「ちょっとよろしいですの?」
そこには、小さな少女が仁王立ちしていた。
アリシアも小柄な方だが少女はもっと小さく、デビュタントの年を迎えているようには見えない。
薄紫色の髪は縦ロールに巻かれ、フリルの多いドレスと相まって、子供が遊ぶままごと人形のような可愛らしさだ。
しかし意思の強そうな紫の目には、大きな丸眼鏡がかけられており、容姿とのギャップを感じてしまう。
アリシアがきょとんと見つめていると、少女はニヤリと口の端を上げ、勢いよくレイモンドに飛びついた。
11
あなたにおすすめの小説
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
【完結】令嬢憧れの騎士様に結婚を申し込まれました。でも利害一致の契約です。
稲垣桜
恋愛
「君と取引がしたい」
兄の上司である公爵家の嫡男が、私の前に座って開口一番そう告げた。
「取引……ですか?」
「ああ、私と結婚してほしい」
私の耳がおかしくなったのか、それとも幻聴だろうか……
ああ、そうだ。揶揄われているんだ。きっとそうだわ。
* * * * * * * * * * * *
青薔薇の騎士として有名なマクシミリアンから契約結婚を申し込まれた伯爵家令嬢のリディア。
最低限の役目をこなすことで自由な時間を得たリディアは、契約通り自由な生活を謳歌する。
リディアはマクシミリアンが契約結婚を申し出た理由を知っても気にしないと言い、逆にそれがマクシミリアンにとって棘のように胸に刺さり続け、ある夜会に参加してから二人の関係は変わっていく。
※ゆる〜い設定です。
※完結保証。
※エブリスタでは現代テーマの作品を公開してます。興味がある方は覗いてみてください。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる