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第四十一話 ハレ巫女の覚醒
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「ハレ巫女の洗礼の儀式はですね……ちょうどこんな風に、真っ白な巫女服を着て行います。巫女の素質があるものが洗礼の儀を行うと、力を使えるようになるんですよ。それで、ええと……」
アリシアは説明しながら、辺りをキョロキョロと見渡した。
この体……「ミーシャ」自体は洗礼を行ったはずだが、アリシアの魂が入る前だったので記憶はない。妹のダリアの洗礼の儀に参列した時のことを必死に思い出しながら、果物の入った籠を手に取る。
「祭壇に、太陽の恵みを捧げます。出来るだけたくさん並べるのですけれど……今回は形だけですし、これだけで良いでしょう。それから巫女になる者が、祭壇の前で踊るのですが……」
果物を捧げてテーブルに戻ってきたアリシアは、レイモンドの手を取ってニッコリと微笑んだ。
「レイモンド様、一緒に踊りましょう? どうせ形だけなんですから、踊りは何でもいいですし……儀式を見たいって言ったのは貴方ですからね、巻き添えです!」
「おお! いいぞいいぞ~!」
「ヒューヒュー!」
手を繋ぎ前に出る二人に、ご機嫌なヤジが飛ぶ。
「全く、貴方には敵わないな。自分が言ったことだから、責任は取るとしよう。それにサリーの作った服を着て、目の前で踊るという約束もあったものな」
レイモンドが諦めの微笑みを浮かべ、アリシアの腰に腕を回した。二人の目と目が合い、何となく恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
「待ってくれよ奥サマ! 踊るんだったら、裾が邪魔だろ? ここをこうして……」
サリーがアリシアのドレスの裾を捲って何やら作業をすると、あっという間に腰を彩る大きなリボンとなった。長く垂れていたはずの裾は、床に付かないほどの長さとなっている。
「わあ、これもとってもかわいいです……!」
「こんなこともあろうかと、裾は捲れる仕様にしといたんだよ。結んでも解いても違和感がないように……いつでも動き回っている奥サマにピッタリだろう?」
「まあ……そこまで私のことを考えて……ありがとうございます、サリー!」
「良いってことよ! それともう一つ変形パターンがあるんだけど……今はいいから、さあ踊んな!」
得意気に鼻の下を擦るサリーの横で、執事のヨゼフが立ち上がった。
「ダンスをされるなら……せっかくなので、これを弾きましょうか」
ヨゼフがゴソゴソと出してきたのは、古びたバイオリンだった。それを見たセドリックが、勢い良く飛び上がる。
「おい、それマシューのバイオリンじゃねえか!?」
「ええ、亡くなった祖父の形見です。弾くのはすごく久しぶりですけど……ダンスを踊るのに、音楽がないのも寂しいでしょう?」
ヨゼフはバイオリンを構え、硬い表情で笑った。
「とは言っても、久しぶりなのでなんだか緊張しちゃいますね……では、いきますよ?」
二人が頷いたのを見て、ヨゼフはゆっくりと弓を動かした。
温室に響き渡るのは、軽やかなワルツ。
それに合わせて、白いドレスとタキシードが蝶のように舞う。
二人が踊る姿を見て、それまで大人しくしていた氷狼のアルが足元にじゃれついてきた。
柔らかに揺れる純白のドレスと、波のようにうねるミルクティー色の長い髪。レイモンドの銀髪とアルの銀色の毛並みも、光を受けて輝いて……その姿は、神話の一ページのように美しかった。
「きれい……」
「ほんと、上手だし息ぴったりね~」
「おい見てくれよエリオット! 回転した時の、あのフリルの広がり方! あそこ苦労したんだ、二人とも想像以上に美しいよ、うう……」
「ぼく、ドレスのこともダンスのことも全然分かんないけど……二人がとっても素敵で、お似合いだってことだけは分かるよぉ!」
ワイワイと皆が歓声を上げながらダンスを眺めている中、セドリックだけが天を仰いで涙を流していた。
「おい……天国からも見えてるか、マシュー。お前のバイオリンの音色と、踊る二人……足元には銀色の子犬もいて、俺はこうして酒を飲んでる。まるで、昔に戻ったみたいじゃねぇか?」
光を受けて踊る二人は楽しそうで、幸せそうで……視界に入る度に、涙が溢れて止まらなかった。
「八年前は……辛かったもんなぁ。結婚式って言ったって、アリィは死んでんだ。冷たいアリィの手に指輪を嵌める坊ちゃんの顔と言ったら……あんなに悲しい結婚式、他にねぇだろうよ。それが見てみろよ、今日の二人の幸せそうな顔!」
ホッホッホ……と、マシューの穏やかな笑い声が聞こえた気がして、セドリックは微笑みながら目を閉じる。
「……すぐにでもお前の所に行くつもりだったが、気が変わったよ。もう少しあの二人の側で見守ってやらなきゃな。なんたって俺が、保護者がわりなんだってからよ」
天に向かってグラスを掲げるセドリックの腕を、突然誰かが掴んだ。
「なに黄昏てるんですか、観客で居られると思ったら大間違いですからね! ……皆、一緒に踊りましょう!」
頬を上気させたアリシアはグイッと力を込めて手を引き、セドリックを立ち上がらせた。
「なんだ、俺はダンスなんて踊れねぇぞ……」
「何だっていいんです! 適当に手足を動かしていれば……ほら、サリーとマール、エリオットも!」
「ええ、アタシたちもかい!?」
「ぼく、運動神経わるいんだけどぉ……」
「いいじゃん、せっかくだから踊ろうよ~。私が教えてあげる~」
座ってケーキを食べていたブルーベルの前には、レイモンドが跪いていた。
「俺と一緒に踊ってくれるか? 小さな花の妖精さん」
レイモンドの穏やかな笑みに、ブルーベルは満面の笑顔を向けて頷いた。
「もちろんよ、お父さま!」
ヨゼフの演奏する音楽の中で、全員が参加してのダンスとなった。踊り方を知らない者達にもマールとアリシアが手ずから教え(マールはダンスも上手かった)、時には足を踏んだり転んだり、ぶつかり合ったりするのも楽しかった。
レイモンドによって高く持ち上げられたブルーベルは、キャーッと嬉しそうな声を上げる。アルも皆の間を縫うようにして駆け回り、尻尾をブンブンと振って楽しそうだ。
パートナーを変えて踊ったり、全員で手を繋いで輪になったり、即興でヘンテコなダンスをしたり……。永遠に続くかと思われた愉快な時間も、一人また一人と力尽き、最後には皆地面に座り込んでお終いとなった。
「はあ、はあ……踊りは、もうこれでいいでしょう……。これほど舞えば、神もお喜びのはずです。では、最後の仕上げに、祈りを……」
アリシアは真っ赤になった頬をパタパタと仰ぎながら、ゆっくりと祭壇へ歩み寄った。
祭壇の前に跪くと、アリシアは静かに指を組んで頭を垂れる。
スゥー……と何度か深い息をして呼吸を落ち着けた後、歌うように祈りの言葉を唱えた。
「天にまします我らが太陽、大いなる神よ。地に恵みのあるように、木に光のあるように、人に喜びのあるように……私に『ハレの力』をお与えください。力を決して悪用せず、人々の希望の為に使うことを誓います……」
──ああ、本当にハレの力が使えたら良いのに……。
祈りながら、アリシアは思った。
この冷たい地に、温かい光と希望が満ち溢れ……この善良な人々が、いつまでも幸せであるように。それが、自分の心からの願いだと……。
その瞬間、胸の中で炎が燃え上がるような、じゅわっと広がる熱い感覚があった。驚きのあまり目を開けると、ミルクティーベージュの自分の髪が、毛先からみるみるうちに赤く変わってゆく。
一瞬にして染まり上がったその色は……淹れたてのアッサムティーのような、深く透き通った紅茶色。
そう……「アリシア」の色だ。
「なん、で……」
そう呟いた途端、頭上から眩しい光が降り注ぎ、思わず強く目を瞑る。
吹雪いていたはずの空は高く晴れ渡り、真っ白な太陽の光が降り注いできた。水晶の形の温室はその光を増幅し、目も眩むほどの白い光が温室中に満ちる。
「わあ……すごい、すごーい!!」
歓喜の声に振り向くと、ピョンピョンと飛び跳ねるブルーベルの足元の地面から、にょきにょきと芽が生え始めていた。それだけではなく……なんと温室中の植物達が、一斉に成長し始めているではないか。
小さかった苗木はぐんぐんと伸び、ポンポンッと音を立てながら花を咲かせ、あっという間に鮮やかな果物が実った。ツタは伸びて東屋を覆い、グランドカバーの花々は一面に茂り……一瞬にして、完成された植物園のような様相になってしまった。
「ど、どうなってんだこりゃあ!?」
「なんなのさ、これが『ハレ』……!?」
唖然と辺りを見渡す大人達の中で、レイモンドの瞳だけが、真っ直ぐ前を見据えていた。
温かく包み込むような、浴びているだけで腹の底から力が湧き上がってくるような、この光。
思わず駆け出したくなるようなこの気持ちには、覚えがある。
忘れもしない……アリシアの「まじない」で晴れた日、外に出た時に感じるものだ。
そして目の前には……微笑みを浮かべる、彼女がいる。
「アリシア……なのか」
フラフラと歩み寄ったレイモンドに、彼女は花が綻ぶように笑いかけた。
慈愛に満ちたその眼差し。光を受け、宝石のように輝く紅い髪。今やもう、見紛えるはずもなく……。
「……だからそうだと、最初から言っているではありませんか、旦那様」
二人の体が重なり、ぎゅっと確かめるように抱きしめ合う。
温かい。生きている。触れ合った部分から感じる確かな体温。
ドクンドクンと弾むように動く、心臓の鼓動。
ああ……何度夢見たことか。もう一度、愛しい彼女をこの腕に抱けたらと…………。
「アリシア…………愛している」
「私もです、旦那様……」
二人に、それ以上の言葉はいらなかった。
再び巡り逢った二人を、白い太陽の光が優しく包み込んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!
これにて「ハレ巫女」第一章が完となります。
構想よりもだいぶ長くなってしまいましたが……たくさんの方にお付き合いいただき、本当に嬉しい限りです……!
これからは既に片鱗を見せ始めているレイモンドの溺愛が始まったり、氷の呪いの解除に奮闘したり、アリシア出生の謎に迫ったり、王位継承を争ったり……!? と、まだまだ物語は続いていく予定です。
少し休んでから連載を再開していくつもりですが……区切りの良い所ですので、評価や感想、レビューなどいただけますと、大変大変励みになります……!
(モチベーションが爆上がりし、少し再開が早くなるかもしれません……笑)
どうぞ引き続き、アリシアたちの物語にお付き合いいただけますと幸いです!
ここまでご愛読いただき、本当にありがとうございました。
アリシアは説明しながら、辺りをキョロキョロと見渡した。
この体……「ミーシャ」自体は洗礼を行ったはずだが、アリシアの魂が入る前だったので記憶はない。妹のダリアの洗礼の儀に参列した時のことを必死に思い出しながら、果物の入った籠を手に取る。
「祭壇に、太陽の恵みを捧げます。出来るだけたくさん並べるのですけれど……今回は形だけですし、これだけで良いでしょう。それから巫女になる者が、祭壇の前で踊るのですが……」
果物を捧げてテーブルに戻ってきたアリシアは、レイモンドの手を取ってニッコリと微笑んだ。
「レイモンド様、一緒に踊りましょう? どうせ形だけなんですから、踊りは何でもいいですし……儀式を見たいって言ったのは貴方ですからね、巻き添えです!」
「おお! いいぞいいぞ~!」
「ヒューヒュー!」
手を繋ぎ前に出る二人に、ご機嫌なヤジが飛ぶ。
「全く、貴方には敵わないな。自分が言ったことだから、責任は取るとしよう。それにサリーの作った服を着て、目の前で踊るという約束もあったものな」
レイモンドが諦めの微笑みを浮かべ、アリシアの腰に腕を回した。二人の目と目が合い、何となく恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
「待ってくれよ奥サマ! 踊るんだったら、裾が邪魔だろ? ここをこうして……」
サリーがアリシアのドレスの裾を捲って何やら作業をすると、あっという間に腰を彩る大きなリボンとなった。長く垂れていたはずの裾は、床に付かないほどの長さとなっている。
「わあ、これもとってもかわいいです……!」
「こんなこともあろうかと、裾は捲れる仕様にしといたんだよ。結んでも解いても違和感がないように……いつでも動き回っている奥サマにピッタリだろう?」
「まあ……そこまで私のことを考えて……ありがとうございます、サリー!」
「良いってことよ! それともう一つ変形パターンがあるんだけど……今はいいから、さあ踊んな!」
得意気に鼻の下を擦るサリーの横で、執事のヨゼフが立ち上がった。
「ダンスをされるなら……せっかくなので、これを弾きましょうか」
ヨゼフがゴソゴソと出してきたのは、古びたバイオリンだった。それを見たセドリックが、勢い良く飛び上がる。
「おい、それマシューのバイオリンじゃねえか!?」
「ええ、亡くなった祖父の形見です。弾くのはすごく久しぶりですけど……ダンスを踊るのに、音楽がないのも寂しいでしょう?」
ヨゼフはバイオリンを構え、硬い表情で笑った。
「とは言っても、久しぶりなのでなんだか緊張しちゃいますね……では、いきますよ?」
二人が頷いたのを見て、ヨゼフはゆっくりと弓を動かした。
温室に響き渡るのは、軽やかなワルツ。
それに合わせて、白いドレスとタキシードが蝶のように舞う。
二人が踊る姿を見て、それまで大人しくしていた氷狼のアルが足元にじゃれついてきた。
柔らかに揺れる純白のドレスと、波のようにうねるミルクティー色の長い髪。レイモンドの銀髪とアルの銀色の毛並みも、光を受けて輝いて……その姿は、神話の一ページのように美しかった。
「きれい……」
「ほんと、上手だし息ぴったりね~」
「おい見てくれよエリオット! 回転した時の、あのフリルの広がり方! あそこ苦労したんだ、二人とも想像以上に美しいよ、うう……」
「ぼく、ドレスのこともダンスのことも全然分かんないけど……二人がとっても素敵で、お似合いだってことだけは分かるよぉ!」
ワイワイと皆が歓声を上げながらダンスを眺めている中、セドリックだけが天を仰いで涙を流していた。
「おい……天国からも見えてるか、マシュー。お前のバイオリンの音色と、踊る二人……足元には銀色の子犬もいて、俺はこうして酒を飲んでる。まるで、昔に戻ったみたいじゃねぇか?」
光を受けて踊る二人は楽しそうで、幸せそうで……視界に入る度に、涙が溢れて止まらなかった。
「八年前は……辛かったもんなぁ。結婚式って言ったって、アリィは死んでんだ。冷たいアリィの手に指輪を嵌める坊ちゃんの顔と言ったら……あんなに悲しい結婚式、他にねぇだろうよ。それが見てみろよ、今日の二人の幸せそうな顔!」
ホッホッホ……と、マシューの穏やかな笑い声が聞こえた気がして、セドリックは微笑みながら目を閉じる。
「……すぐにでもお前の所に行くつもりだったが、気が変わったよ。もう少しあの二人の側で見守ってやらなきゃな。なんたって俺が、保護者がわりなんだってからよ」
天に向かってグラスを掲げるセドリックの腕を、突然誰かが掴んだ。
「なに黄昏てるんですか、観客で居られると思ったら大間違いですからね! ……皆、一緒に踊りましょう!」
頬を上気させたアリシアはグイッと力を込めて手を引き、セドリックを立ち上がらせた。
「なんだ、俺はダンスなんて踊れねぇぞ……」
「何だっていいんです! 適当に手足を動かしていれば……ほら、サリーとマール、エリオットも!」
「ええ、アタシたちもかい!?」
「ぼく、運動神経わるいんだけどぉ……」
「いいじゃん、せっかくだから踊ろうよ~。私が教えてあげる~」
座ってケーキを食べていたブルーベルの前には、レイモンドが跪いていた。
「俺と一緒に踊ってくれるか? 小さな花の妖精さん」
レイモンドの穏やかな笑みに、ブルーベルは満面の笑顔を向けて頷いた。
「もちろんよ、お父さま!」
ヨゼフの演奏する音楽の中で、全員が参加してのダンスとなった。踊り方を知らない者達にもマールとアリシアが手ずから教え(マールはダンスも上手かった)、時には足を踏んだり転んだり、ぶつかり合ったりするのも楽しかった。
レイモンドによって高く持ち上げられたブルーベルは、キャーッと嬉しそうな声を上げる。アルも皆の間を縫うようにして駆け回り、尻尾をブンブンと振って楽しそうだ。
パートナーを変えて踊ったり、全員で手を繋いで輪になったり、即興でヘンテコなダンスをしたり……。永遠に続くかと思われた愉快な時間も、一人また一人と力尽き、最後には皆地面に座り込んでお終いとなった。
「はあ、はあ……踊りは、もうこれでいいでしょう……。これほど舞えば、神もお喜びのはずです。では、最後の仕上げに、祈りを……」
アリシアは真っ赤になった頬をパタパタと仰ぎながら、ゆっくりと祭壇へ歩み寄った。
祭壇の前に跪くと、アリシアは静かに指を組んで頭を垂れる。
スゥー……と何度か深い息をして呼吸を落ち着けた後、歌うように祈りの言葉を唱えた。
「天にまします我らが太陽、大いなる神よ。地に恵みのあるように、木に光のあるように、人に喜びのあるように……私に『ハレの力』をお与えください。力を決して悪用せず、人々の希望の為に使うことを誓います……」
──ああ、本当にハレの力が使えたら良いのに……。
祈りながら、アリシアは思った。
この冷たい地に、温かい光と希望が満ち溢れ……この善良な人々が、いつまでも幸せであるように。それが、自分の心からの願いだと……。
その瞬間、胸の中で炎が燃え上がるような、じゅわっと広がる熱い感覚があった。驚きのあまり目を開けると、ミルクティーベージュの自分の髪が、毛先からみるみるうちに赤く変わってゆく。
一瞬にして染まり上がったその色は……淹れたてのアッサムティーのような、深く透き通った紅茶色。
そう……「アリシア」の色だ。
「なん、で……」
そう呟いた途端、頭上から眩しい光が降り注ぎ、思わず強く目を瞑る。
吹雪いていたはずの空は高く晴れ渡り、真っ白な太陽の光が降り注いできた。水晶の形の温室はその光を増幅し、目も眩むほどの白い光が温室中に満ちる。
「わあ……すごい、すごーい!!」
歓喜の声に振り向くと、ピョンピョンと飛び跳ねるブルーベルの足元の地面から、にょきにょきと芽が生え始めていた。それだけではなく……なんと温室中の植物達が、一斉に成長し始めているではないか。
小さかった苗木はぐんぐんと伸び、ポンポンッと音を立てながら花を咲かせ、あっという間に鮮やかな果物が実った。ツタは伸びて東屋を覆い、グランドカバーの花々は一面に茂り……一瞬にして、完成された植物園のような様相になってしまった。
「ど、どうなってんだこりゃあ!?」
「なんなのさ、これが『ハレ』……!?」
唖然と辺りを見渡す大人達の中で、レイモンドの瞳だけが、真っ直ぐ前を見据えていた。
温かく包み込むような、浴びているだけで腹の底から力が湧き上がってくるような、この光。
思わず駆け出したくなるようなこの気持ちには、覚えがある。
忘れもしない……アリシアの「まじない」で晴れた日、外に出た時に感じるものだ。
そして目の前には……微笑みを浮かべる、彼女がいる。
「アリシア……なのか」
フラフラと歩み寄ったレイモンドに、彼女は花が綻ぶように笑いかけた。
慈愛に満ちたその眼差し。光を受け、宝石のように輝く紅い髪。今やもう、見紛えるはずもなく……。
「……だからそうだと、最初から言っているではありませんか、旦那様」
二人の体が重なり、ぎゅっと確かめるように抱きしめ合う。
温かい。生きている。触れ合った部分から感じる確かな体温。
ドクンドクンと弾むように動く、心臓の鼓動。
ああ……何度夢見たことか。もう一度、愛しい彼女をこの腕に抱けたらと…………。
「アリシア…………愛している」
「私もです、旦那様……」
二人に、それ以上の言葉はいらなかった。
再び巡り逢った二人を、白い太陽の光が優しく包み込んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・
あとがき
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました!
これにて「ハレ巫女」第一章が完となります。
構想よりもだいぶ長くなってしまいましたが……たくさんの方にお付き合いいただき、本当に嬉しい限りです……!
これからは既に片鱗を見せ始めているレイモンドの溺愛が始まったり、氷の呪いの解除に奮闘したり、アリシア出生の謎に迫ったり、王位継承を争ったり……!? と、まだまだ物語は続いていく予定です。
少し休んでから連載を再開していくつもりですが……区切りの良い所ですので、評価や感想、レビューなどいただけますと、大変大変励みになります……!
(モチベーションが爆上がりし、少し再開が早くなるかもしれません……笑)
どうぞ引き続き、アリシアたちの物語にお付き合いいただけますと幸いです!
ここまでご愛読いただき、本当にありがとうございました。
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