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山ちゃんと私と秘密基地と
しおりを挟む中学三年の引退試合は、あっけなく一回戦で幕を閉じ、私はコンクリート山の公園に、ラケットを持ったままやって来た。
相変わらず人気のない公園は、夕暮れということもありますます寂れて、錆びた鉄棒が公園の隅で孤独に佇んでいる。
コンクリート山の中に入ると、ひんやりとした感触に急に気が抜けた。
荷物を放って、仰向けに寝転んで目を瞑る。
まだ蝉の鳴き声もなく、一人きりの秘密基地は馬鹿みたいに静かだった。
瞼の裏では小学生だった頃の私と山ちゃんが、楽しそうに笑い合っているのに――
私はポケットから山ちゃんにもらった石を取り出して、ぼんやりと見つめた。
「試合も負けちゃったし、全然お守りにならないじゃん」
ぽつりと呟く。
「そりゃそうだろ。それはただの石でお守りじゃねぇし」
「へ?」
私は驚いて跳ね起きて、頭をコンクリートにぶつけてしまった。
痛くて悶絶していると、コンクリート山の外からけらけらと笑い声が聞こえる。
聞き覚えのない、低い声だった。
だけど話し方と笑い声ですぐに分かった。
「山ちゃん……!」
私は急いで外に出ると、思わずそう叫んでいた。
「久しぶりだな」
山ちゃんは背が伸びて、少し目を泳がせてからにやりと笑う顔は昔のまま。
「それ、まだ持ってたんだな」
ぽかんと立ち尽くしている私に、山ちゃんは石を指差しながら言った。
「こっ、これは別に! 触り心地良いし?」
石を後ろ手に隠しながら、私は思わずそっぽを向いた。
「バーカ、約束通り返してもらうぜ」
山ちゃんは私の前まで来ると、私の手のひらから強引に石を取ってしまった。
直後、何かを手のひらに押し付けられる。
見ればそれは、先ほどのとほぼ同じような白の奥に緑色が見える石。
「で、これはお前のな」
私は石と山ちゃんを交互に見やった。
イタズラが成功したみたいに、山ちゃんは目を細めて満足そうに笑っている。
「え、なん、なんで?」
「俺の居たとこ、その石めっちゃいっぱいあった」
山ちゃんはそう言ってにししと笑った。
そんな山ちゃんをまだ信じられない気持ちで見つめながら、私は石を握りしめると、少しドキドキしながら恐る恐る尋ねた。
「戻って来るの?」
「来週からな。今日はなんか立ち合い? とかなんとか」
私の目は、きっと爛々と輝いていたに違いない。
胸いっぱいに熱が込み上げ、だけど泣くのは悔しいから、無理やりニヤリと口角を上げてみせる。
「何それ、先に言えし! てか私がいなかったらどうするつもりだったわけ?」
「うっせー! てか別に会うつもりなかったし? たまたまお前が居たんじゃん」
「何それ! 居るに決まってんじゃん! ここは二人の秘密基地なんだから」
私と山ちゃんは顔を見合わせると、同時にニっと笑い合った。
もう日も暮れ始めて、公園のひとつしかない街灯がそんな私達の顔をぼんやりと照らし出している。
私はコンクリート山によじ登ると、てっぺんから山ちゃんを見下ろして、笑った。
「もう少し話せるでしょ! あ、ねぇあのゲームの続編やった!?」
「あったりまえだろ! 二週目いってるぜ」
山ちゃんもコンクリート山に登って来て、二人並んでてっぺんに座る。
あのマンガや、あのゲーム、他にもいろいろ、私達は夢中になってたくさん話した。
コンクリート山から見上げた夜空には、一番星がキラキラと瞬いていた。
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