12 / 12
山ちゃんと私と秘密基地と
しおりを挟む中学三年の引退試合は、あっけなく一回戦で幕を閉じ、私はコンクリート山の公園に、ラケットを持ったままやって来た。
相変わらず人気のない公園は、夕暮れということもありますます寂れて、錆びた鉄棒が公園の隅で孤独に佇んでいる。
コンクリート山の中に入ると、ひんやりとした感触に急に気が抜けた。
荷物を放って、仰向けに寝転んで目を瞑る。
まだ蝉の鳴き声もなく、一人きりの秘密基地は馬鹿みたいに静かだった。
瞼の裏では小学生だった頃の私と山ちゃんが、楽しそうに笑い合っているのに――
私はポケットから山ちゃんにもらった石を取り出して、ぼんやりと見つめた。
「試合も負けちゃったし、全然お守りにならないじゃん」
ぽつりと呟く。
「そりゃそうだろ。それはただの石でお守りじゃねぇし」
「へ?」
私は驚いて跳ね起きて、頭をコンクリートにぶつけてしまった。
痛くて悶絶していると、コンクリート山の外からけらけらと笑い声が聞こえる。
聞き覚えのない、低い声だった。
だけど話し方と笑い声ですぐに分かった。
「山ちゃん……!」
私は急いで外に出ると、思わずそう叫んでいた。
「久しぶりだな」
山ちゃんは背が伸びて、少し目を泳がせてからにやりと笑う顔は昔のまま。
「それ、まだ持ってたんだな」
ぽかんと立ち尽くしている私に、山ちゃんは石を指差しながら言った。
「こっ、これは別に! 触り心地良いし?」
石を後ろ手に隠しながら、私は思わずそっぽを向いた。
「バーカ、約束通り返してもらうぜ」
山ちゃんは私の前まで来ると、私の手のひらから強引に石を取ってしまった。
直後、何かを手のひらに押し付けられる。
見ればそれは、先ほどのとほぼ同じような白の奥に緑色が見える石。
「で、これはお前のな」
私は石と山ちゃんを交互に見やった。
イタズラが成功したみたいに、山ちゃんは目を細めて満足そうに笑っている。
「え、なん、なんで?」
「俺の居たとこ、その石めっちゃいっぱいあった」
山ちゃんはそう言ってにししと笑った。
そんな山ちゃんをまだ信じられない気持ちで見つめながら、私は石を握りしめると、少しドキドキしながら恐る恐る尋ねた。
「戻って来るの?」
「来週からな。今日はなんか立ち合い? とかなんとか」
私の目は、きっと爛々と輝いていたに違いない。
胸いっぱいに熱が込み上げ、だけど泣くのは悔しいから、無理やりニヤリと口角を上げてみせる。
「何それ、先に言えし! てか私がいなかったらどうするつもりだったわけ?」
「うっせー! てか別に会うつもりなかったし? たまたまお前が居たんじゃん」
「何それ! 居るに決まってんじゃん! ここは二人の秘密基地なんだから」
私と山ちゃんは顔を見合わせると、同時にニっと笑い合った。
もう日も暮れ始めて、公園のひとつしかない街灯がそんな私達の顔をぼんやりと照らし出している。
私はコンクリート山によじ登ると、てっぺんから山ちゃんを見下ろして、笑った。
「もう少し話せるでしょ! あ、ねぇあのゲームの続編やった!?」
「あったりまえだろ! 二週目いってるぜ」
山ちゃんもコンクリート山に登って来て、二人並んでてっぺんに座る。
あのマンガや、あのゲーム、他にもいろいろ、私達は夢中になってたくさん話した。
コンクリート山から見上げた夜空には、一番星がキラキラと瞬いていた。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【親子おはなし絵本】ドングリさんいっぱい(2~4歳向け(漢字えほん):いろいろできたね!)
天渡 香
絵本
「ごちそうさま。ドングリさんをちょうだい」ママは、さっちゃんの小さな手に、ドングリさんをのせます。
+:-:+:-:+
ドングリさんが大好きな我が子ために作った絵本です。
+:-:+:-:+
「ひとりでトイレに行けたね!」とほめながら、おててにドングリさんを渡すような話しかけをしています(親子のコミュニケーションを目的にしています)。
+:-:+:-:+
「ドングリさんをちょうだい」のフレーズを繰り返しているうちに、子供の方から「ドングリさんはどうしたらもらえるの?」とたずねてくれたので、「ひとりでお着がえできたら、ドングリさんをもらえるよ~」と、我が家では親子の会話がはずみました。
+:-:+:-:+
寝る前に、今日の「いろいろできたね!」をお話しするのにもぴったりです!
+:-:+:-:+
2歳の頃から、園で『漢字えほん(漢字が含まれている童話の本)』に親しんでいる我が子。出版数の少ない、低年齢向けの『漢字えほん』を自分で作ってみました。漢字がまじる事で、大人もスラスラ読み聞かせができます。『友達』という漢字を見つけて、子供が喜ぶなど、ひらがなだけの絵本にはない発見の楽しさがあるようです。
+:-:+:-:+
未満児(1~3歳頃)に漢字のまじった絵本を渡すというのには最初驚きましたが、『街中の看板』『広告』の一つ一つも子供にとっては楽しい童話に見えるようです。漢字の成り立ちなどの『漢字えほん』は多数ありますが、童話に『漢字とひらがなとカタカナ』を含む事で、自然と興味を持って『文字が好き』になったみたいです。
童話絵本版 アリとキリギリス∞(インフィニティ)
カワカツ
絵本
その夜……僕は死んだ……
誰もいない野原のステージの上で……
アリの子「アントン」とキリギリスの「ギリィ」が奏でる 少し切ない ある野原の物語 ———
全16話+エピローグで紡ぐ「小さないのちの世界」を、どうぞお楽しみ下さい。
※高学年〜大人向き
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる