無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生

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リペア【性能回復】と新たな火種

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「やった……出来た……」

 古い木の板で作った長方形の箱を目の前に俺は感無量でそう呟いた。
 この世界に来る前は学生時代に少しだけ工作のまねごとをした以外は経験すら無かった俺にとって、自分が眠るベッドを作り上げたという達成感は半端ない。

「しっかしやっぱ男手があると違うな。俺様一人で色々作ってた時は一日じゃ何も作れなかったからな」
「一人じゃ無いよ! リリも手伝ったでしょ」
「そういやそうだな。それにしてもそのミストルティンってやつは便利過ぎるだろ」

 ルリジオンはふくれっ面のリリエールの頭を優しく片手で撫でつつ俺の手にした金鎚――ミストルティンを指さす。
 たしかにまだ夕方にも成らないうちに大工でも職人でも無い俺たちが簡易的な物とはいえベッドを作れたのはこいつのおかげだ。

「新しいスキルのおかげで作業効率が更に上がりましたからね」

 俺は答えながら改めてステータス画面を開く。


 ミストルティン

 レベル:4
 EXP:261 NEXT 350

 形 態:デフォルト
 モード:アブソープションモード

 《アイテムスロット》

 1:ノコギリ 2:金鎚(ランクA) 3:かんな

 《スキル》

 アブソープション・使用法理解・経験取得・性能回復・鑑定


 板の切断が終わった後、新たにかんなをアブソープションしたが、重要なのはスキル欄である。
 特に今回活躍したのはそこに書いてある『性能回復』というスキルだ。

 このスキルの効果を簡単に説明すると、アブソープションしたアイテムがどれだけ傷んでいても本来の性能が発揮できる状態まで回復するというとんでもないものだったのだ。

 といっても元のアイテムまで直るわけではない。
 あくまでミストルティンが変化した時の状態がそうなるだけである。

「あのかんなもノコギリも、元々はあんなに切れ味良かったんだな」

 なにせルリジオンは神官であって職人では無い。
 なので置いてあったアイテムを修理する技術は持ち合わせていなかった。

 一応ナイフや剣の簡単な手入れや刃先の修正は旅神官として必要な護身術と共に覚えたらしいが、それと工具の修理は別だ。
 刃先を研石で研いだり、狩った獣などの脂を使ってさび止めくらいはしていた程度である。

「元のノコギリは歯が欠けてましたからね。あれだと時々引っかかって大変だったでしょ」
「なるべく欠けてねぇ所だけで切ろうとしてたからな。そりゃ時間も掛かるってもんだ」

 そして今回もう一つミストルティンについて新しい発見があった。
 というかそれは昨夜実はもうわかっていたことだったのだが、改めて今日認識したことなのだが。

「あんな使いやすい道具を触っちまったら、もう元のボロボロな道具は使えねぇな」

 ミストルティン自体の変形やアブソープション、鑑定などのスキルについては俺以外には使えない。
 だけど変形させたミストルティンを使うことは誰でも出来てしまうのだ。
 試しに今日はかんなに変形させたミストルティンをルリジオンに使って貰ったり、金鎚にしてリリエールに貸したりしてみたのだが。

「あれで時間制限さえ無きゃもっと便利なんだが」
「いきなりばーん!って飛んでっちゃったから、リリびっくりしちゃった」

 そう。
 ミストルティンの貸し出しには時間制限があるのだ。
 多分体感で二十分くらいすると自動的にミストルティンは変形を解いて俺の胸ポケットに飛んで戻ってきてしまうのである。

「まぁおかげで盗まれても無くしても戻ってくるとわかって安心はしましたが」
「でもよ、時と場合によっちゃ結構危ないかもしれねぇから時間には注意して使わねぇとな」

 ルリジオンはそう言うと座り込んでいた床から立ち上がり「それじゃあリリ、そろそろ夕飯の準備するぞ」とキッチンへ向かいかけ。

「兄ちゃんも今日からは客人じゃねぇから手伝って貰うぜ」

 そう髭を撫でながら俺をキッチンに手招きする。

「あ、はい。もちろん手伝いますよ」

 客人じゃ無いということは俺はこの開拓村の一員としてここにいてもいいということなのだろうか。
 彼らにしてみれば突然やって来て異世界人だの勇者だのと世迷い言を口にする怪しい人間だというのに。

 俺は心がほっこりと温まる様な思いでルリジオン達が消えていったキッチンに小走りで向かおうと一歩踏み出し――

「えっ……」

 その時になって初めて気がついた。
 部屋の隅にこの家に来てからずっと置いていたリュックがうっすらと明滅している。
 いや、リュック自体が光っているわけでは無い。
 中に入っている何かが光っているのだ。

「ルリジオンさん! ちょっと来てください」

 俺はリュックに近づきながらキッチンに向けてルリジオンを呼ぶ。
 この世界について全然知らない以上、この現象が何かわからない。
 もしかするとリュックを空けた途端に光を発している何かが爆発したりするかも知れない。

「なんだ、いきなり切羽詰まった様な声出しやがって」
「これ見てください」



※読了ありがとうございます。
※次回、開拓村に危機が迫る!!!!
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