放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生

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1巻

1-3

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 翌日。
 一の鐘の音で目を覚ました俺は、急いで宿を飛び出し冒険者ギルドに向かう。
 鐘が鳴る前に起きる予定だったのだが、どうやら昨日久々に飲んだ酒のせいで寝坊してしまったようだ。
 前世も今世も、俺はアルコールにはあまり強くないので滅多に飲むことはないのだが、やはり久々に会った兄にひどくあしらわれたことに、思ったより精神的ダメージを受けていたらしい。
 ついつい宿の前にあった酒場でさ晴らしのように夜遅くまで飲んでしまったことを後悔しながら、足を速める。

「遅れたらまた明日になっちまう」

 試験とやらに通れば、俺は晴れて念願の冒険者だ。
 遅れるわけにはいかない。

「それにしてもみんな早起きだな」

 まだ日も昇ったばかりだというのに、通りには既にかなりの人出があった。
 食料を大量に積んだ馬車や荷車は、朝市帰りだろうか。
 むさ苦しい男たちがほとんどだった辺境砦と違い、道を歩く人たちの中には、着飾きかざった女性の姿やきっちりした高級そうな服装の紳士しんしらしい姿もちらほら見える。
 いったいどこへ行くのだろうか。
 徒歩ということは貴族ではなさそうだけど。

「王都って朝からこんなに人がいるんだな」

 王都に来たのは十年ぶりで、しかも十年前の俺はまだ子供だったため、貴族街から外に出たこともほとんどなかった。
 辺境砦に放逐されてからは、近くの町や村にはよく出向いたけれど、やっぱり王都は人の数が全然違う。
 俺はおのぼりさんよろしく辺りを見回し、目的の乗合馬車の停車場を見つけると駆け寄った。
 王都内を巡回じゅんかいする乗合馬車は、所謂いわゆるバスのようなものだ。
 大型で十人以上が乗れるその馬車は、広い王都内を何台も巡回していて、人々を目的地まで運んでくれる。
 乗合馬車専用の道路も用意されているため、人混みをかき分けて自分の足で走るより早くギルドにたどり着けるだろう。

「良かった。空いてる」

 その乗合馬車のはしに、なんとか空いている席を見つけ座る。
 そのまま走り出した馬車の車窓から、道を歩く人々を眺めながらギルドへ向かった。やがて、ギルドの建物の前には若者たちが並んで、入り口の扉が開くのを待っているのが見えてきた。
 どうやら俺と同じく試験を受けるために集まっているようだ。

「ひぃふぅみぃよぉ……二十人くらいはいそうだな」

 昨日職員が言っていたが、なかなかの人数だ。
 毎日これだけの人数を試験するのは大変そうである。

「入会試験ってのがどんなものかわからないけど、この中で何人受かるのかね」

 俺はそんなことを呟きながら、とりあえず挨拶あいさつでもしようかと列に近寄っていく。
 そして片手を上げて声をかけようとしたとき――
 ギギギィ。
 ギルドの扉が音を立てて開き始めた。
 耳を痛めそうなその音に、俺が「油くらい差しとけよ」とぼやくと、近くにいた少女が「あれ、わざと音を鳴らしているらしいですよ」と教えてくれた。
 彼女も俺と同じ受験生だろうか。
 お世辞せじにも立派とは言えない杖を大事そうに抱えているところを見ると、魔法使いらしい。
 歳は俺よりも若く、十五か十六くらいに見える。
 しかしこの世界では、見かけだけで年齢を判断することは出来ない。
 なぜならば、人間族以外にも多種多様な種族がいるからだ。
 彼ら、彼女らは見かけは人間族とほとんど変わらなくても、成長速度や寿命の長さが全然違う。
 なので幼く見えても実は俺よりも遙かに歳上なんていうことも珍しくない。
 となると、彼女も実はまだ十歳にも満たなかったりとか、実は既に百歳超えてたりとかする可能性もある。
 とはいえ同じ受験生であることには間違いないだろう。
 なぜなら彼女の手には杖の他に入会試験のチケットが握られていたからだ。

「わざと音を?」
「はい。わざと音が鳴るようにあの扉は作ってあるって聞きました」
「どうしてそんな意味不明なことを……」
「今のギルドマスターが『その方が凄そう』だって。わざわざそのために音の鳴る術式まで作ったって、他の冒険者さんたちが話しているのを聞いたんです」
「そりゃまた変わった人だね」

 あんな耳障みみざわりな音を鳴らすことの、いったい何が凄いのか全くわからない。
 この世界の価値観とのズレを感じるのはこういうときだ。
 俺は呆れながら、音を立てて開いていく扉に目を向ける。

「あれ? あの人は」

 重そうな扉を開いているのは、昨日、俺の入会試験書類を作ってくれた受付の女性だった。

「ああいうのはゴツいおっさんがやった方が『凄そう』に見えるんじゃない?」

 いくら音が重厚そうでも、それを細身の女性が一人で軽々と開いていては、演出も何もあったものではない。

「そうですね……って、みんなもう中へ入っちゃいましたよ」

 女の子と扉談義をしているうちに、開いた扉から他の受験生たちは中に入って行ってしまっていた。

「私たちも急ぎましょう」
「ああ。遅れて明日また来てくださいとか言われたらしゃれにならないしな」

 あわてて俺も女の子に続いて、ギルドの中へ入る。
 途中、扉の所で昨日の女性職員に「寝坊せずに来たよ」と言うと、「入会試験の方は一番奥のカウンター前に並んでください」と事務的に返された。
 やはり彼女は俺のことが嫌いなのかもしれない。

「わかった。ありがと」

 とりあえず俺は軽くお礼を口にしてから、女の子と共に奥のカウンターへ向かう。
 既に試験の受付は始まっていた。
 列の最後尾に並んだ俺たちは、自分たちの番が回ってくるまでの時間潰しもかねてお互い簡単な自己紹介をすることにした。
 彼女の名前はニッカ。
 王都の北にある農村から、友人と一緒に冒険者になるために王都までやってきたらしい。

「どうしてその友達と一緒じゃないんだ?」

 友達と入会しに来たというのに一人でいるのが不思議だったので、そう尋ねてみる。

「彼女は試験が第二部だから、まだ宿で寝ていると思います」

 ニッカの話によれば、入会試験は申込書に記入した内容によって『第一部』と『第二部』に分かれて行われているそうだ。

「第一部とか第二部なんて俺は聞いてないぞ」
「そうなんですか?」
「今日の朝から試験だから遅れるなって言われたくらいだよ」
「もしかすると受付の人が言い忘れていたのかもしれませんね。忙しそうでしたし」

 あの女性職員はあからさまに俺の相手を面倒そうにしていたから、忘れていたと言うよりもさっさと追い払いたかっただけなのかもしれない。

「まぁ別に、言われなくても構わないっちゃぁ構わないけど」

 俺は気持ちを切り替えて次の話題に移ることにした。

「それよりも、ニッカは回復師ヒーラーなんだって?」

 魔法使いかと思っていたのだが、ニッカは回復魔法が使える回復師だったらしい。

「はい。まだ初級回復魔法しか使えないんですけど」

 初級といっても、重篤じゅうとくな怪我や病気以外は、時間をかければ治すことが出来る。
 怪我人が多数出るような状況だと力不足かもしれないが、通常はパーティに一人でも初級の回復師がいれば十分だと言われている。
 まぁ、俺も使えるんだけどな。

「回復魔法って習得が難しいしセンスも必要だから、数が少ないって話だけど」

 実際に砦でも、回復魔法を使える者はそれほど多くなかった。
 とはいえ精鋭が集結していたあの場所に来るような人たちだ、全員が中級以上の回復師だったので、少人数でも十分にカバー出来ていたのだが。

「センス?」

 俺の言葉にニッカが首をかしげる。
 そういえば、この世界にはセンスという言葉はなかったのだった。

「えっと、生まれ持った感覚というかそういうやつだよ」
「生まれ持った感覚……私、昔から普通に回復魔法が使えていたのであまり気にしたことありませんでした」
「それは凄いな」

 辺境砦での回復魔法修業を思い出して、俺は苦笑する。
 なんせ俺には、ニッカのようなセンスも才能も何もなかったのだから。
 そして同時に、そんな俺に根気よく回復魔法を教えてくれた人たちの姿も頭に浮かんだ。
 彼らには感謝してもしきれない。
 センスのない俺が回復魔法を覚えるためには、基礎となる知識――人の体の構造をしっかりと覚えることから必要だった。
 特にきつかったのは、実際の怪我を治す様子を目の前で見せられたことだ。前世では血を見ることが苦手で、スプラッタ映画も見られなかった俺には地獄だった。
 何度も吐きながら無理矢理知識を叩き込まれた後は、実際に病気や怪我をした人を、他の回復師に手伝ってもらいながら治療ちりょうした。
 そうやって、常に怪我人が運び込まれる辺境砦の医務室で数え切れない数の患者を治療し続けて、俺はやっと回復魔法が使えるようになったわけである。
 なのにニッカは、そんな地獄を見ずとも生まれ持った能力として最初から回復魔法が使えたという。
 仕方ないこととは言え、持たざる者としては悲しい。

「回復魔法を覚えるのはかなり難しいんだぜ。だからニッカみたいに自然と回復魔法が使える人は珍しいんだ」
「そうなんですか? 私はてっきり、初級の回復魔法なら誰でも簡単に覚えられるものだと思ってました」
「ははは……」
「トーアさん、表情が引きつってますけど何か――」

 俺の乾いた笑いと表情を気にしてか、ニッカがその理由を尋ねようとしかけた。

「次の方どうぞ」
「あっ、はい。私です」

 だがそれは、彼女の順番が来たという職員の呼び出しのせいで中断することとなる。

「チケットを拝見します」

 職員にかされ、ニッカが手にしていたチケットを慌てて手渡す。

「ニッカさんですね。ニッカさんの試験は、二階の第三教室で行われますのでそちらに向かってください。階段を上がってすぐ正面になります」

 流れ作業のような職員の言葉に階段を確認したニッカは「お互い絶対に合格しましょうね」と俺に言い残し試験会場へ向かっていった。

「次の方、どうぞ」
「はいはい」

 ニッカの背を見送りながら女性職員の前に進み出る。

「チケットを拝見します……トーアさんですね。貴方の教室は――」

 女性職員はそこまで言って一瞬口を閉ざし、なんとも言えないような表情を浮かべた。

「どうかした?」
「い、いえ。トーアさんは三階の第十教室へどうぞ」
「二階じゃないのか?」
「ええ、滅多に使われませんけど……」

 滅多に使われないってどういうことだろう。
 もしかすると目的を『全部』にしたのが俺だけだからだろうか。

「急いでください。試験に遅れれば、明日再試験になりますよ」
「早いな。もう始まるのか?」
「ええ、第一部の受験生は貴方で最後ですから。さぁ、急いで」

 俺は釈然しゃくぜんとしないままに職員に急かされ、急いで階段を駆け上がった。
 三階に上がると、いくつかの扉が廊下の左右に並んでいた。
 俺は教室を探すために表札をチェックしていく。
 といっても三階に部屋は四つしかなく、一つはギルドマスター室、残る三つのうち二つは会議室と大会議室らしい。

「え? ここ?」

 そして残る最後の一部屋。
 その扉の上には間違いなく『第十教室』と書かれていた。
 だが、廊下の長さと扉の間隔かんかくからして、他の部屋は広そうだったのに対し、目の前の部屋はビジネスホテルのシングルルームほどの広さしかなさそうに見える。

「とりあえず入ってみるか」

 俺は戸惑いながらその扉を開く。

「狭っ」

 そこは予想通り、教室というにはあまりに狭い部屋で、窓すらなかった。
 中にあるのは机と椅子二つだけという質素さだ。
 これを『教室』と言い張るには無理がある。百歩ゆずって物置だ。
 だが、その二つの椅子の片方には、既に先客が座っていた。
 彼が試験官なのだろうか?

「やぁ、君がトーアくんだね」

 俺を見て口を開いた彼は、どう見ても子供にしか見えない。
 たぶん、立ち上がっても俺の胸までくらいしか背丈がなさそうだ。

「僕はこのプレアソール王国ギルド本部、魔法担当講師のテオだ」

 だが俺はこの子供が見た目通りの年齢ではないだろうということはわかっていた。
 なぜなら――

「……エルフ」

 俺は目の前に座る少年の長くとがった耳を見て、思わず呟く。
 エルフ族は人間族より遙かに長い寿命を持つ種族だから、見た目で年齢はわからない。であれば、子供のように見えても、講師をするだけの実力があってもおかしくはない。
 だとしても、他種族と関係を持つことを嫌うエルフ族が王都でギルドの試験官をやっているということに驚きを隠せない。

「どうしてエルフがこんな所に」

 そんな俺の言葉に、テオは怒るでもなく「エルフだって冒険者になる者もいるよ。そのことは知ってるだろう? そんなところに立ってないで座りなよ」と促した。

「あ……そうですね」

 たしかにエルフ族の冒険者はいるが、主に人間族が住む街ではあまり見かけない。
 それは彼らが、他種族の中でも特に人間族をみ嫌っているからなのだが、目の前で人なつっこい笑みを浮かべているテオからは、そんな雰囲気は微塵みじんも感じない。
 俺が対面に座ると、テオは机の上の書類に目を落とし、そこに書かれた内容についていくつか確認のために質問をしてきた。
 その全てに答え終えると、彼は「間違いないみたいだね」と書類をしまい込む。

「それで、試験ってのは何をやれば良いんですか?」
「試験? ああ、試験ね。それじゃあ今から試験会場に移動してもらおうかな」
「試験会場ってここじゃないんですか?」

 俺の問いにテオは小さく首を横に振る。

「ここじゃ色々と不便だからね。だから試験はね――」

 そう口にして大きく両手を広げた。

「僕の異層いそう空間くうかんで行うんだ」

 そんな言葉と同時に、俺の……いや、教室の中の空間がゆがむような感覚を覚えた。
 次の瞬間には、机と椅子、そして椅子に座ったままの俺とテオの周りの景色が、狭い部屋の中から全く別物に変わってしまっていた。
 どこまでも広い、果てのない草原。
 空は薄紫色うすむらさきいろで雲一つ浮いていない。
 そしてその地には、既に四人の男女が俺を待ち構えていた。

「ここが試験会場の異層空間で――」

 俺は周囲を確認しつつ口に出しながら、男女の方を見る。

「そしてあの人たちが試験官?」
「そう。察しが良いね」

 テオは薄い笑みを浮かべて立ち上がると、その四人の側まで歩いていく。

「まぁ、僕たちは試験なんてしないし、君も永遠に試験に受かることはないんだけどね」

 そして彼らの前でくるりと振り返り、そう言い放った。

「どういうことだ?」

 俺はゆっくりと立ち上がって問う。
 その質問に、テオを含めた五人の試験官らしき男女は馬鹿にしたように笑い声を上げた。
 そして一番右に立つ筋骨きんこつ隆々りゅうりゅうの巨体の男が一歩前に出て、俺を指さし俺の問いに答えた。

「テオは察しが良いと言ったが、全然察せてないではないか。お前は今日ここで俺たちに殺されて、そのままこの異層空間ごと消されるんだよ」
「どういうことだ。なぜ俺がお前たちに命を狙われなきゃならないんだ?」

 そう口にしながらも、俺は大体の理由は予想出来ていた。
 それでも僅かばかり「間違いであってほしい」と願っていたのだ。
 だが――

「貴族に生まれるのも大変だな。不必要になった途端とたんに処分されちまうんだからな」
「しょうがないわよ。下手に仲の悪い親類縁者を残しておくと、自分の身が危ないってんだからさ」
「貴族同士の跡取り争いはみにくいったらないねぇ」
「ま、そういうわけだ。恨むんなら俺たちじゃなく、お前の兄貴を恨むんだな」

 試験官たちが口々に、俺が聞きたくなかった言葉を紡ぐ。
 だがその口調はとても軽く、これからよってたかって一人の人間を殺そうとしている者のものとは思えなかった。
 やはりか。
 貴族の中には、自らが得た地位をうばう可能性のある親類縁者を恐れるあまり、排除はいじょしようとする者もいる。
 それがまさか身内にいるとは思わなかったが。

「俺は別に貴族家の当主なんてなりたくもないんだけどな」
「そんなことは関係ないよ。口ではなりたくないと言いながら、裏から手を回して暗殺、当主の座を奪い取った……なんて話は珍しくもないからね」

 テオはそう言って肩をすくめると「さて、無駄話も終わりにしよう。ギルマスが出勤してくるまでに、いつものようにさっくりと『処理』させてもらうよ」と片手を俺に向けた。
 それを見て、周りの四人も各々武器を取り出して構える。
 その慣れた動きを見るだけで、彼らが今まで何度も、今回と同じようなことを繰り返していることがわかる。
 そして彼らの顔には、先ほどまでと同じく馬鹿にしたような笑みが浮かんでいた。
 今回もいつもと同じ簡単な仕事だとあなどっていることが、手に取るように伝わってくる。
 プロ意識が低いなと呆れつつ、俺も収納から杖と剣を取り出して、杖を左手で持ち、剣を右手で構えた。

「杖と剣? おいおい、両方持つ奴なんて初めて見たぞ」
「魔法と剣術のどちらも極めると言っていきがる若い奴はたまにいるが、両手に同時に構える輩はさすがにな」
「杖は両手で持ってこそ本来の力を出せるって知らないのか?」
「短剣ならまだしも、あの状態で振れるわけがないでしょ。馬鹿なんじゃない?」

 俺の装備を目にした試験官……いや、暗殺者たちは嘲笑ちょうしょうした。
 たしかに奴らの言う通り、その方が魔力の効率も良くなるし、剣速も上がるだろう。
 だが俺にとっては、これが多数と戦うときには一番楽なのだからしょうがない。

「心配してくれてありがとう。でもそれは要らないお世話ってやつだ」

 俺はそう言うと右手の剣を持ち上げ、その剣先を五人に向ける。
 そして杖でポンポンと自らの肩を叩きながら顔に余裕の笑みを浮かべ――

「さてと、人の命を狙うってことは自分たちも命を失う覚悟があるってことだよな。だったら俺も遠慮えんりょなくぶちのめすから、覚悟が出来た奴からかかって来いよ」

 俺は奴らが浮かべている嘲笑を真似て軽くわらい返してから、五人を挑発する。

「けっ、生意気なガキだ」
「強がってんのよ」

 口では俺の挑発をバカにしながらも、その目には先ほどより強い殺意が浮かんでいる。
 どうやら効果はあったらしい。

「強がりかどうか、かかって来たらわかるだろ?」

 俺は今度は杖の先を暗殺者どもに向けてくるくると回し、更に挑発をする。
 正直、普通に戦っても負ける気は一切しない。
 だが完璧かんぺきを期すならば、ここで相手の冷静さを奪っておいたほうが良いだろうという単純な理由だ。
 怒りは人に力を与えるが、同時に冷静な判断を出来なくさせる。
 その言葉の意味は、身をもってわかっているつもりだ。

「俺が怖くて攻撃出来ないってんなら仕方ないな」

 こちらをにらんだまま動かない暗殺者に向けて、魔法を放とうと俺が杖を構えた瞬間だった。
 暗殺者の中で唯一俺の挑発に表情を変えなかった男――テオが動いたのである。


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