1 / 5
聖剣『アーヴィン』
しおりを挟む
深い森の奥。
激しい剣戟と魔法、そして複数の男女の緊迫した声が響く。
「アービー! 後ろ!」
「わかっているっ!」
アービーと呼ばれた青年は振り返りざまに剣を振るう。
『ギャアアアアアァァァオオゥ』
彼の剣線は正確に後ろから襲いかかる者を、その手にした棍棒ごと切り裂いて醜悪な叫び声を上げさせた。
彼に後ろから襲いかかったのは緑の体をした醜い化け物――ゴブリンと呼ばれる低級の魔物である。
ゴブリンは手に武器を持ち、集団行動をして出会った人や獣に襲いかかる性質を持っている。
一体一体は弱い魔物ではあるが、数が多くなれば手慣れた冒険者でも手を焼くやっかいな存在だ。
大体は三体から五体で群れを作り獲物を探し森の中を彷徨っているゴブリンたちだが、今彼らを囲んでいる群れは見えるだけでも十体以上。
とてもではないが新米冒険者が戦える数ではない。
「次、まだいるよ」
「ケイン! エリス! お前たちは左、俺は右をやる。マルティは二人の後ろから魔法で援護してやってくれ」
目の前に迫る二体のゴブリンを両断しながらアービーが叫ぶ。
本来であれば全員固まってゴブリンの四方からの攻撃を捌きながらこの場からなんとか逃げる。
それが最善手のはずである。
だが、その常識をアービーは――かれの手に持つ剣は覆す。
その剣は見る者が見れば異常な魔力の輝きを放っているのがわかっただろう。
「任せて良いんだね!」
「ああ。俺にはこの剣が――『アーヴィン』があるからな」
アービーはそう応えながら、また一体ゴブリンを武器ごと断ち切った。
その切れ味はとてもではないが新米冒険者が持つ剣の切れ味ではない。
「わかった。こっちは任せろ。 マルティ! 右から来る奴を押さえられるか?」
「出来ると思う」
「それじゃあエリス、左から順番にいくぞ」
「わかってるって」
ケインと呼ばれた男は、短剣使いと魔法使いの少女二人と共に左右併せて四体のゴブリンに襲いかかった。
その後ろでアービーが退治しているのは五体のゴブリン。
だが、戦いを一方的に進めたのはアービーだ。
「はぁ……はぁ……」
「死ぬかと思った」
「ギルドの依頼内容、大嘘じゃんかよぉ」
「まったくだ。帰ったら文句言ってやる」
結局戦いはアービーたちの勝利に終わった。
だが、楽な戦いで無かったことは彼らの汗と土、そしてゴブリンの返り血にまみれたその姿からわかる。
「しかし今回もアービーは大活躍だったな」
ケインはうらやましそうにアービーの横に置かれた剣を見ながら呟く。
その剣は戦いの最中とは違い、何処にでもある平凡な古めかしい剣にしか見えない。
「私じゃなく『アーヴィン』が凄いんだよ。わかってるだろ?」
「そう言って欲しいのか?」
「いや、それはそれで嫌だな」
「だろ。それにいくら剣の切れ味が凄くても、それを使ってるのはお前だ。少しは自信をもっても良いんじゃ無いか」
ケインが笑いながらそう口にすると、他の二人も口々に「アービーが昔から凄いのは知ってたしね」「かっこよかったよアービー」とはやし立てた。
「それでも私はこの剣のおかげで勝てたと思うよ」
アービーは『アーヴィン』と名付けられた剣を手に取り、その刃こぼれ一つ無い刀身に自分の顔を写しながら呟く。
そして彼はこの『アーヴィン』を蘇らせてくれた一人の少年の顔を思い浮かべた。
「彼は今どこに居るのだろうか……」
「あの鍛冶師か。ギルマスが追い出したせいで何処に行ったかわかんないんだったよな」
「ああ。おかげで私は彼にお礼すら言えてない」
刀身に移ったアービーの顔が哀しみの表情に変わる。
だがそれも一瞬のこと。
彼は決意に満ちた表情を浮かべると剣を掲げ宣言した。
「いつかきっと偉大な冒険者になって彼に礼を返す。それが俺の目標だ」
「俺の? 俺たちのだろ?」
「自分一人だけ英雄にでもなるつもりかしら」
「アービーってそういう所あるよね。先祖は英雄だったらしいけどその血を引いてるからかな?」
「俺、あの話は眉唾だと思ってたんだけど、その剣を見ると本当だったんじゃないかって少しは思ってる」
「少しかよ!」
彼らは笑い合い、思い出していた。
そう、アービーの持つ『アーヴィン』が、まだ朽ち果てたボロボロの剣だったあの日のことを。
そして、その剣の力を唯一取り戻すことが出来た一人の少年鍛冶師のことを。
激しい剣戟と魔法、そして複数の男女の緊迫した声が響く。
「アービー! 後ろ!」
「わかっているっ!」
アービーと呼ばれた青年は振り返りざまに剣を振るう。
『ギャアアアアアァァァオオゥ』
彼の剣線は正確に後ろから襲いかかる者を、その手にした棍棒ごと切り裂いて醜悪な叫び声を上げさせた。
彼に後ろから襲いかかったのは緑の体をした醜い化け物――ゴブリンと呼ばれる低級の魔物である。
ゴブリンは手に武器を持ち、集団行動をして出会った人や獣に襲いかかる性質を持っている。
一体一体は弱い魔物ではあるが、数が多くなれば手慣れた冒険者でも手を焼くやっかいな存在だ。
大体は三体から五体で群れを作り獲物を探し森の中を彷徨っているゴブリンたちだが、今彼らを囲んでいる群れは見えるだけでも十体以上。
とてもではないが新米冒険者が戦える数ではない。
「次、まだいるよ」
「ケイン! エリス! お前たちは左、俺は右をやる。マルティは二人の後ろから魔法で援護してやってくれ」
目の前に迫る二体のゴブリンを両断しながらアービーが叫ぶ。
本来であれば全員固まってゴブリンの四方からの攻撃を捌きながらこの場からなんとか逃げる。
それが最善手のはずである。
だが、その常識をアービーは――かれの手に持つ剣は覆す。
その剣は見る者が見れば異常な魔力の輝きを放っているのがわかっただろう。
「任せて良いんだね!」
「ああ。俺にはこの剣が――『アーヴィン』があるからな」
アービーはそう応えながら、また一体ゴブリンを武器ごと断ち切った。
その切れ味はとてもではないが新米冒険者が持つ剣の切れ味ではない。
「わかった。こっちは任せろ。 マルティ! 右から来る奴を押さえられるか?」
「出来ると思う」
「それじゃあエリス、左から順番にいくぞ」
「わかってるって」
ケインと呼ばれた男は、短剣使いと魔法使いの少女二人と共に左右併せて四体のゴブリンに襲いかかった。
その後ろでアービーが退治しているのは五体のゴブリン。
だが、戦いを一方的に進めたのはアービーだ。
「はぁ……はぁ……」
「死ぬかと思った」
「ギルドの依頼内容、大嘘じゃんかよぉ」
「まったくだ。帰ったら文句言ってやる」
結局戦いはアービーたちの勝利に終わった。
だが、楽な戦いで無かったことは彼らの汗と土、そしてゴブリンの返り血にまみれたその姿からわかる。
「しかし今回もアービーは大活躍だったな」
ケインはうらやましそうにアービーの横に置かれた剣を見ながら呟く。
その剣は戦いの最中とは違い、何処にでもある平凡な古めかしい剣にしか見えない。
「私じゃなく『アーヴィン』が凄いんだよ。わかってるだろ?」
「そう言って欲しいのか?」
「いや、それはそれで嫌だな」
「だろ。それにいくら剣の切れ味が凄くても、それを使ってるのはお前だ。少しは自信をもっても良いんじゃ無いか」
ケインが笑いながらそう口にすると、他の二人も口々に「アービーが昔から凄いのは知ってたしね」「かっこよかったよアービー」とはやし立てた。
「それでも私はこの剣のおかげで勝てたと思うよ」
アービーは『アーヴィン』と名付けられた剣を手に取り、その刃こぼれ一つ無い刀身に自分の顔を写しながら呟く。
そして彼はこの『アーヴィン』を蘇らせてくれた一人の少年の顔を思い浮かべた。
「彼は今どこに居るのだろうか……」
「あの鍛冶師か。ギルマスが追い出したせいで何処に行ったかわかんないんだったよな」
「ああ。おかげで私は彼にお礼すら言えてない」
刀身に移ったアービーの顔が哀しみの表情に変わる。
だがそれも一瞬のこと。
彼は決意に満ちた表情を浮かべると剣を掲げ宣言した。
「いつかきっと偉大な冒険者になって彼に礼を返す。それが俺の目標だ」
「俺の? 俺たちのだろ?」
「自分一人だけ英雄にでもなるつもりかしら」
「アービーってそういう所あるよね。先祖は英雄だったらしいけどその血を引いてるからかな?」
「俺、あの話は眉唾だと思ってたんだけど、その剣を見ると本当だったんじゃないかって少しは思ってる」
「少しかよ!」
彼らは笑い合い、思い出していた。
そう、アービーの持つ『アーヴィン』が、まだ朽ち果てたボロボロの剣だったあの日のことを。
そして、その剣の力を唯一取り戻すことが出来た一人の少年鍛冶師のことを。
10
あなたにおすすめの小説
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ
天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。
彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。
「お前はもういらない」
ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。
だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。
――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。
一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。
生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!?
彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。
そして、レインはまだ知らない。
夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、
「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」
「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」
と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。
そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。
理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。
王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー!
HOT男性49位(2025年9月3日0時47分)
→37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる