真贋の鍛冶師~偽物だとギルドをクビになった伝説の鍛冶師の弟子は、偽物だらけの町から田舎に帰って『本物』を探します~

長尾 隆生

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聖剣『アーヴィン』

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 深い森の奥。
 激しい剣戟と魔法、そして複数の男女の緊迫した声が響く。

「アービー! 後ろ!」
「わかっているっ!」

 アービーと呼ばれた青年は振り返りざまに剣を振るう。

『ギャアアアアアァァァオオゥ』

 彼の剣線は正確に後ろから襲いかかる者を、その手にした棍棒ごと切り裂いて醜悪な叫び声を上げさせた。
 彼に後ろから襲いかかったのは緑の体をした醜い化け物――ゴブリンと呼ばれる低級の魔物である。

 ゴブリンは手に武器を持ち、集団行動をして出会った人や獣に襲いかかる性質を持っている。
 一体一体は弱い魔物ではあるが、数が多くなれば手慣れた冒険者でも手を焼くやっかいな存在だ。
 大体は三体から五体で群れを作り獲物を探し森の中を彷徨っているゴブリンたちだが、今彼らを囲んでいる群れは見えるだけでも十体以上。
 とてもではないが新米冒険者が戦える数ではない。

「次、まだいるよ」
「ケイン! エリス! お前たちは左、俺は右をやる。マルティは二人の後ろから魔法で援護してやってくれ」

 目の前に迫る二体のゴブリンを両断しながらアービーが叫ぶ。
 本来であれば全員固まってゴブリンの四方からの攻撃を捌きながらこの場からなんとか逃げる。
 それが最善手のはずである。

 だが、その常識をアービーは――かれの手に持つ剣は覆す。
 その剣は見る者が見れば異常な魔力の輝きを放っているのがわかっただろう。

「任せて良いんだね!」
「ああ。俺にはこの剣が――『アーヴィン』があるからな」

 アービーはそう応えながら、また一体ゴブリンを武器ごと断ち切った。
 その切れ味はとてもではないが新米冒険者が持つ剣の切れ味ではない。

「わかった。こっちは任せろ。 マルティ! 右から来る奴を押さえられるか?」
「出来ると思う」
「それじゃあエリス、左から順番にいくぞ」
「わかってるって」

 ケインと呼ばれた男は、短剣使いと魔法使いの少女二人と共に左右併せて四体のゴブリンに襲いかかった。
 その後ろでアービーが退治しているのは五体のゴブリン。
 だが、戦いを一方的に進めたのはアービーだ。

「はぁ……はぁ……」
「死ぬかと思った」
「ギルドの依頼内容、大嘘じゃんかよぉ」
「まったくだ。帰ったら文句言ってやる」

 結局戦いはアービーたちの勝利に終わった。
 だが、楽な戦いで無かったことは彼らの汗と土、そしてゴブリンの返り血にまみれたその姿からわかる。

「しかし今回もアービーは大活躍だったな」

 ケインはうらやましそうにアービーの横に置かれた剣を見ながら呟く。
 その剣は戦いの最中とは違い、何処にでもある平凡な古めかしい剣にしか見えない。

「私じゃなく『アーヴィン』が凄いんだよ。わかってるだろ?」
「そう言って欲しいのか?」
「いや、それはそれで嫌だな」
「だろ。それにいくら剣の切れ味が凄くても、それを使ってるのはお前だ。少しは自信をもっても良いんじゃ無いか」

 ケインが笑いながらそう口にすると、他の二人も口々に「アービーが昔から凄いのは知ってたしね」「かっこよかったよアービー」とはやし立てた。

「それでも私はこの剣のおかげで勝てたと思うよ」

 アービーは『アーヴィン』と名付けられた剣を手に取り、その刃こぼれ一つ無い刀身に自分の顔を写しながら呟く。
 そして彼はこの『アーヴィン』を蘇らせてくれた一人の少年の顔を思い浮かべた。

「彼は今どこに居るのだろうか……」
「あの鍛冶師か。ギルマスが追い出したせいで何処に行ったかわかんないんだったよな」
「ああ。おかげで私は彼にお礼すら言えてない」

 刀身に移ったアービーの顔が哀しみの表情に変わる。
 だがそれも一瞬のこと。
 彼は決意に満ちた表情を浮かべると剣を掲げ宣言した。

「いつかきっと偉大な冒険者になって彼に礼を返す。それが俺の目標だ」
「俺の? 俺たちのだろ?」
「自分一人だけ英雄にでもなるつもりかしら」
「アービーってそういう所あるよね。先祖は英雄だったらしいけどその血を引いてるからかな?」
「俺、あの話は眉唾だと思ってたんだけど、その剣を見ると本当だったんじゃないかって少しは思ってる」
「少しかよ!」

 彼らは笑い合い、思い出していた。
 そう、アービーの持つ『アーヴィン』が、まだ朽ち果てたボロボロの剣だったあの日のことを。

 そして、その剣の力を唯一取り戻すことが出来た一人の少年鍛冶師のことを。
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