無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

文字の大きさ
44 / 55

第二部 第1話 新たなる旅立ちと肩の上の女神

しおりを挟む
 ジモティの街が、見慣れた城壁が、そして手を振り続ける仲間たちの姿が、あっという間に土煙の向こうに霞んでいく。

 俺は街道をひた走る。
 文字通り、自分の足で。
 肩の上には、小さな少女サンテア。
 そしてその中には、力を失った駄女神エルラード。
 なんとも奇妙な三人旅の始まりだ。

「うわぁ……速い……! 風がすごいです、アンリ様!」
「へへっ、これでもまだ本気じゃないんだ。馬より速いみたいだぜ、俺の足」
「本当ですか!?」

 肩の上で、サンテアが興奮した声を上げる。
 彼女の小さな手が、俺の頭に巻いた鉢巻きをぎゅっと握りしめているのがわかる。
 落とさないように、というのはもちろんだが、その力強さには初めて見る世界への期待が満ちているようだった。
 ジモティの街のスラムで縮こまっていた頃とは別人のような、生き生きとした表情を想像するだけで、俺の足取りも自然と軽くなる。

『やかましいわ! 少しは乗り心地というものを考えんか、この脳筋が! 我の三半規管がシェイクされておるじゃろうが!』

 不意に、サンテアの声色が変わる。
 いつものエルラードの文句だ。
 脳内に直接響くのではなく、サンテアの口を通して発せられるその声は、少し甲高くて可愛らしいのだが、言っている内容は相変わらずだ。

「うるさいな。文句があるなら降りて歩けばいいだろ。あ、でもサンテアは歩かせないけどな」
『むぐぐ……お、覚えておれよ。力が戻ったら、お主を豆粒にしてくれるわ!』
「はいはい、楽しみにしてるよ」

 いつもの調子で言い返すと、エルラードはぷいっとそっぽを向いた気配がした。
 サンテアの体を借りているとはいえ、その仕草はなんとなく伝わってくる。

「あの、アンリ様、女神様……あまり喧嘩しないでください」

 すぐにサンテアの声に戻り、困ったように俺とエルラードに交互に訴えかける。
 一番板挟みで大変なのは彼女だろう。

「わーってるって。サンテアのためにも、仲良く……は無理でも、喧嘩は控えめにするよ」
『ふんっ。我は別に構わぬが、この小僧がすぐに我をからかうのが悪いんじゃ』
「どっちもどっちですよぅ」

 サンテアは小さなため息をついた。
 十歳そこそこの少女に気を使わせている現状は、我ながら情けない。

 俺は速度を少し落とし、サンテアに話しかける。

「しかし、本当にいいのか? お前も一緒に来ちまって。皆、寂しそうにしてただろ」
「……はい。寂しいです。ディード兄ちゃんやウラニア姉ちゃん、みんなと離れるのは、すごく。でも……」

 サンテアは少し言葉を切って、前方をしっかりと見据えた。

「でも、アンリ様と一緒に、色々な世界を見てみたい気持ちの方が、今は大きいです。それに、女神様を助けるのは、アンリ様が死んじゃった原因を作ったお詫びだって聞きましたから。私にできることがあるなら、手伝いたいんです」
『……サンテア……』

 エルラードが、珍しく感極まったような声を漏らす。
 この女神にも、そういう感情があったのか。

「そっか。ありがとな、サンテア。まあ、俺が死んだのって、こいつだけのせいじゃないんだけどな」
『むっ。今、何か言ったか?』
「なんでもないって。よし、それじゃあ改めて、出発だ! まずは美味い魚を目指して、港町アブリルへ!」
「はい!」

 俺は再び速度を上げる。
 街道は石畳で整備されている部分もあるが、多くは踏み固められた土の道だ。
 それでも無敵の足には関係ない。
 時折すれ違う商人や旅人は、肩に子供を乗せて猛スピードで走り去る俺を見て、目を丸くしていた。
 中には、慌てて道端に避ける者もいる。

「すいませーん! 急いでるんで!」

 一応、謝罪の言葉を叫びながら走り抜ける。
 無敵だからと言って、交通ルールを無視していいわけではないだろう。
 まあ、この世界に道路交通法があるかは知らないが。

 数時間走り続け、陽が傾き始めた頃、俺たちは街道沿いの小さな村に立ち寄ることにした。
 さすがに無敵の俺は平気でも、サンテアは休憩が必要だろう。
 エルラードは……まあ、知ったこっちゃない。

『おい、どこへ行くんじゃ! さっさとアブリルへ向かえと言っておろう!』
「腹減ったんだよ。それにサンテアも疲れただろ」
「あ、ありがとうございます、アンリ様。少しだけ……」
『むぅ……まあ、この娘の体じゃ仕方ないか。しかし、こんな鄙びた村に美味いものなどあるのかのう?』

 村は、街道から少し外れた場所にあり、十数軒ほどの家が点在する、いかにも長閑な場所だった。
 畑仕事をしている村人たちが、見慣れぬ俺たちを少し警戒した様子で見ている。

「こんちわー。ちょっと休憩させて貰えませんか? あと、腹減ってるんで、何か食えるとこ、ありませんかね?」

 一番近くにいた、鍬を持った初老の男性に声をかける。
 男性は俺の姿をまじまじと見て、少し戸惑ったように答えた。

「旅のお方かね? 食いもんなら、村の入り口に一軒だけ、飯屋兼宿屋があるが……まあ、期待はせんほうがええぞ」
「はは、正直で助かるな。どうもありがとう」

 俺は礼を言って、教えられた方向へ向かう。
 確かに、看板も古びた小さな建物があった。
「山の幸亭」と書かれた看板が、風でギシギシと音を立てている。

『うげっ。なんじゃこの寂れた店は。絶対まずいじゃろう』
「文句言うなら食わなきゃいいだろ」
「い、いえ! 私、お腹空きました!」

 サンテアが慌ててエルラードの言葉を打ち消す。
 俺は苦笑しながら店の扉を開けた。

 中は思ったよりも清潔で、数組のテーブルとカウンターがあるだけのシンプルな作りだった。
 客は誰もいない。
 奥の厨房から、人の良さそうな恰幅の良い女主人が顔を出した。

「あら、お客さんかい? 珍しいねぇ。さ、どうぞ座って」

 俺たちは促されるまま、一番手前のテーブルにつく。
 サンテアを肩から降ろし、隣の椅子に座らせてやる。

「何かおすすめとかありますか?」
「おすすめねぇ……。うちは山の幸しか出せんよ。今日は獲れたての山鳥の串焼きと、茸のスープが美味いかねぇ」
『茸じゃと!? まさか、あの……』

 エルラードが妙な反応を示す。

「おい、まさか死の茸(デスマッシュルーム)とかじゃないだろうな?」
「え? デス……なんとか? さあ、そんな物騒な名前の茸じゃないよ。そこらの山で普通に採れるやつさ。毒もちゃんと抜いてるから安心しな」
「だよな。ははは」

 俺は冷や汗をかきながら笑って誤魔化す。
 エルラードはまだ何か言いたそうだったが、サンテアが小声で「女神様、静かに」と窘めているようだ。

「じゃあ、その串焼きとスープを二人前。あと、水も貰えますか?」
「あいよ。ちょっと待っといで」

 女主人は愛想よく言うと、厨房へ戻っていった。
 しばらくして、香ばしい匂いと共に、山鳥の串焼きと湯気の立つスープが運ばれてきた。

「うわぁ、美味しそう!」
「本当だ。見た目はシンプルだけど、いい匂いだ」

 串焼きはこんがりと焼かれ、塩胡椒だけのシンプルな味付けのようだ。
 スープは数種類の茸と野菜が煮込まれている。

「いただきます!」
「いただきます」

 サンテアと声を合わせて、まずは串焼きにかぶりつく。

「ん! うまい!」
「はい! すごく歯ごたえがあって、味も濃いです!」

 野趣あふれる、しっかりとした肉質だ。
 噛むほどに旨味が出てくる。
 スープも、茸の出汁がよく効いていて、滋味深い味わいだ。

『ふむ……まあ、悪くはないのう。しかし、もっとこう、洗練された……』
「うるさいな。黙って食ってろよ」
「はい……」

 サンテアはエルラードの小言を気にしつつも、夢中で料理を食べている。
 よほどお腹が空いていたのだろう。
 俺も黙々と食べ進める。

 食事が終わり、女主人がお茶を持ってきてくれたタイミングで、俺は少し気になっていたことを尋ねてみた。

「この村、なんだか人が少ないみたいだけど、何かあったのか?」

 俺の言葉に、女主人は少し表情を曇らせた。
「ああ……実はね、最近、村の畑を荒らす妙な魔物が出るんだよ」
「魔物?」
「そうなんだ。夜になると出てきて、作物をめちゃくちゃにしていくんだが、誰も姿を見たことがなくてね。罠を仕掛けても、全部壊されちまうし、見張りをしても気配すら感じられないんだ」
「そりゃあ、困ったな」
「まったくだよ。おかげで、今年の収穫は期待できそうもなくてね……。若いもんは、もう村を出て街で働こうかなんて言い出してるし」

 女主人は深いため息をついた。
 見たところ、この村は農業で成り立っているようだ。
 畑がやられれば、死活問題だろう。

「ふーん。妙な魔物ねぇ……」

 俺は顎に手を当てて考えるふりをする。
 面倒ごとに関わるつもりはなかったが、サンテアが心配そうな顔で女主人を見ている。

『おい、アンリヴァルト。まさか、また厄介ごとに首を突っ込むつもりではあるまいな? 我らの目的はギガ回復じゃぞ!』
(うるさいな。ちょっと気になるだけだって)

 俺は内心でエルラードに悪態をつきながら、女主人に笑顔を向けた。

「その魔物、今夜も出るのかもな」
「だろうねぇ……。本当に困ったもんだよ」

 さて、どうしたものか。
 ちらりとサンテアを見ると、彼女は期待のこもった目で俺を見つめていた。
 ……仕方ない、か。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

処理中です...