無敵チートで悠々自適な異世界暮らし始めました

長尾 隆生

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第2話 畑荒らしの正体と女神の溜息

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「というわけで、今夜はその妙な魔物とやらを捕まえてみるか」
「ええっ!? アンリ様、危ないですよ!」
「大丈夫だって。俺、強いから」

 山の幸亭で腹を満たした後、俺は女主人の話した畑荒らしの件に首を突っ込むことをあっさり決めた。
 サンテアは案の定、心配そうな顔で俺を見上げている。

『だから言わんこっちゃない! お主はすぐに厄介ごとを引き寄せる! 我らの旅はどうなるのじゃ!』

 エルラードがサンテアの口を借りて、いつものようにギャンギャン騒ぎ立てる。

「一晩くらいどうってことないだろ。それに、美味い飯食わせて貰ったしな。ちょっとした恩返しってやつだよ」
『恩返しなぞ、神力回復の旅には何の役にも立たんわ!』
「まあまあ。サンテアも、この村の人たちが困ってるの、気になるんだろ?」
「……はい。皆さん、とても困っているようでしたから……。でも、アンリ様に危険なことをしてほしくないです」
「心配すんなって。魔瘴の森の魔物に比べたら、畑を荒らす程度の奴なんて、屁みたいなもんだろ」

 俺は自信満々に胸を叩く。
 実際に、魔瘴の森で遭遇したドラゴンや巨大熊などに比べれば、村の作物を荒らす程度の存在など、恐れるに足らないはずだ。
 問題は、相手が「気配を感じさせない」という点だが……まあ、なんとかなるだろう。

 結局、俺が折れる気がないと悟ったのか、サンテアもエルラードも渋々納得した。
 夜まで宿屋で休憩を取り、日が完全に暮れてから、俺は一人で村外れの畑へと向かった。
 サンテアには、「何かあったらすぐに宿に戻るから、心配しないで寝てろよ」と言い含めてある。

『まったく……この脳筋は、少しも我の言うことを聞かぬ。これではいつになったらギガが回復するのやら……』

 脳内に直接響くエルラードのぼやきを聞き流しながら、俺は畑を見渡せる少し小高い丘の上に陣取る。
 月明かりが畑をぼんやりと照らしているが、魔物の姿は見当たらない。

「さて、どんな奴が出てくるかねぇ」

 俺はあぐらをかき、腕を組んで待つ。
 無敵の体は夜通し起きていても問題ないし、暗闇でも視力はそれなりに効く。
 あとは、相手が現れるのを待つだけだ。

 風が草を揺らす音、虫の声、遠くで響く獣の鳴き声……。
 静かな夜が更けていく。
 退屈しのぎに、エルラードに話しかけてみる。

(おい、駄女神。暇だからなんか面白い話でもしろよ)
『誰が駄女神じゃ! それに、我は漫才師ではないわ!』
(ちぇっ、使えないやつだな)
『なっ……! この我に向かって使えぬとは! 今度という今度は……!』
(はいはい、力が戻ったらな)

 エルラードがぷりぷり怒っている気配を感じながら、俺は再び畑に意識を集中させる。
 どれくらい時間が経っただろうか。
 真夜中を過ぎ、空気が冷え込んできた頃、ふいに畑の奥の方で微かな物音がした。

「ん?」

 目を凝らすと、暗がりの中で何かが動いている。
 思ったより小さい。
 大型の魔物ではなさそうだ。
 音を立てないように、ゆっくりと丘を下り、畑に近づいていく。

 物音の主は、畑の中央あたりで、地面に植えられた芋のような作物を一心不乱に掘り返していた。
 月明かりに照らされたその姿は……。

「……なんだ、あれ?」

 それは、俺が想像していたような凶暴な魔物とは似ても似つかない姿をしていた。
 大きさは中型犬くらい。
 全身がふわふわとした銀色の毛で覆われていて、大きな丸い耳がぴこぴこと動いている。
 顔立ちは、どことなくウサギと猫を混ぜたような感じで、つぶらな瞳が月光を反射してきらきらと輝いていた。
 長い尻尾が、楽しそうに左右に揺れている。
 畑を荒らしているというよりは、夢中で芋掘りをしているようにしか見えない。

(おい、エルラード。あれ、魔物か?)
『ふむ……見たことのない種じゃな。魔力反応は微弱じゃが、ゼロではない。魔獣、といったところかのう? しかし、あのような愛らしい姿の魔獣が畑を荒らすとは……』
(だよな。どう見ても悪さはしてなさそうなんだが)

 俺が観察している間にも、その銀色の毛玉は次々と芋を掘り出し、その場で美味しそうに齧り始めた。
 カリカリ、シャクシャクと軽快な音が響く。

「……腹減ってただけか?」

 どうやら、この畑荒らしの正体は、単に空腹を満たすために夜な夜なやってくる、迷子の魔獣だったらしい。
 これでは罠も効かないだろうし、人間を警戒して気配を消すのも上手いのかもしれない。

『どうするのじゃ? 一応、村にとっては害獣じゃぞ。退治するのか?』
(退治って……こんな可愛い奴をか? できるかよ)

 俺はそっと魔獣に近づく。
 俺の気配に気づいたのか、魔獣は芋を齧るのを止め、ぴくっと耳を立ててこちらを見た。
 大きな瞳が不安げに揺れている。

「よぉ。美味いか、それ?」

 俺はできるだけ優しく声をかける。
 魔獣は一瞬びくっと体を震わせたが、俺が敵意を持っていないことを感じ取ったのか、逃げ出す様子はない。
 ただ、警戒するようにじっと俺を見つめている。

 俺はゆっくりと手を差し出す。

「別に取って食おうってわけじゃないんだ。ただ、村の人が困ってるんでな。畑を荒らすのはやめてくれないか?」

 もちろん、言葉が通じるわけはないだろう。
 だが、俺の声音や態度から、何かを感じ取ってくれるかもしれない。

 魔獣は、俺の手と顔を交互に見比べ、しばらく逡巡していたが、やがておずおずと俺の手に鼻先を近づけてきた。
 くんくんと匂いを嗅ぎ、安全だと判断したのか、ふにゃりと喉を鳴らして、俺の手にすり寄ってきた。

「ははっ、なんだよ、人懐っこいやつじゃないか」

 俺がそのふわふわの頭を撫でてやると、魔獣は気持ちよさそうに目を細める。
 銀色の毛並みは、見た目通り極上の手触りだった。

『おい、アンリヴァルト! 何をデレデレしておる! さっさと捕まえんか!』
(だから、こいつは悪い奴じゃないって)

 俺はエルラードの催促を無視し、魔獣を撫でながら考える。
 この魔獣、一体どこから来たのだろうか。
 首輪などもしていないし、野生……にしては、妙に人馴れしている気がする。

「お前、もしかして誰かに飼われてたのか?」

 問いかけても、魔獣は「きゅーん」と甘えたような声を出すだけだ。

 とりあえず、このまま放置しておくわけにもいかない。
 畑を荒らすのは事実だし、このままでは村人に捕まってひどい目に遭うかもしれない。

「よし、決めた。お前、ちょっと俺と来い」

 俺は魔獣をひょいと抱き上げる。
 思ったより軽い。
 魔獣は一瞬驚いたようだが、すぐに俺の腕の中で大人しくなった。
 むしろ、心地よさそうに体を丸めている。

「よし、帰るか」

 俺は抱き上げた魔獣――とりあえず名前は「ギン」とでもしておこう――を連れて、宿屋へと戻ることにした。
 畑には、ギンが掘り返した芋がいくつか転がっている。

(ま、これくらいは、俺が見逃したってことでいいか)

 俺は少しだけ罪悪感を覚えつつも、村人には「魔物は追い払っておいた」とでも説明することにした。

 宿屋に戻ると、サンテアは心配で眠れなかったのか、部屋の灯りをつけたまま起きていた。

「アンリ様! ご無事でしたか!」
「おう、ただいま。心配かけたな」
「いえ……。それで、魔物は……?」
「ああ、それがな……」

 俺は腕の中のギンを見せる。
 サンテアは目を丸くした。

「きゃっ! 可愛い……!」
「だろ? こいつが畑を荒らしてた犯人らしい」
「えっ? こんなに可愛い子が……?」

 サンテアはおずおずとギンに手を伸ばす。
 ギンもサンテアを警戒することなく、その手にすり寄っていく。

「どうやら、迷子になってお腹を空かせてたみたいだな。悪い奴じゃなさそうだから、連れてきちゃった」
「そうだったんですね……。可哀想に……」

 サンテアは優しい手つきでギンを撫でている。
 ギンもすっかりリラックスしているようだ。

『……結局こうなると思ったわ。お主は甘すぎるのじゃ』
 エルラードが呆れたような溜息をつく気配がした。

「まあ、いいじゃないか。こいつ、結構珍しい魔獣かもしれないし。飼い主が見つかるかもしれんしな」
『飼い主が見つからなかったらどうするつもりじゃ? まさか、この毛玉も一緒に連れて行くつもりではあるまいな?』
「んー、まあ、その時はその時だな」

 俺は呑気に笑う。
 先のことは、あまり深く考えていなかった。

 翌朝、俺は山の幸亭の女主人に「畑を荒らしていた魔物は、もう村には近づかないように言っといたから大丈夫だろ」と適当な報告をした。
 女主人は半信半疑ながらも、何度も礼を言ってくれた。

 そして、俺たちはギンを連れて、再びアブリルへの旅路についた。
 サンテアはギンを抱きしめ、とても嬉しそうだ。

「アンリ様、この子、なんていうお名前なんですか?」
「ん? ああ、ギンだ。銀色だからギン」
「ギンちゃん、ですか。可愛い名前ですね!」
『安直じゃな……』

 エルラードのツッコミは聞こえないふりをして、俺は再び街道を走り出す。
 肩の上にはサンテア、そして腕の中にはふわふわの魔獣ギン。
 ますます奇妙な旅の一行になったが、まあ、これも悪くない。
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