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「久しぶりね、アル。元気にしてた?」
「も、もしかして、リリーなの…?」
「そう、もしかしなくても、リリーよ。約束通り、アルを迎えに来たの」
リリーは、辺りを見渡す。
身につけていた真っ白なワンピースが、それとともに揺れた。
「懐かしいわね、ここ」
そう言ったリリーは言葉通り懐かしげに、その目を細めた。
****
「はぁ、はぁ、待ってよ、リリー!」
「もう、アルってば、どんくさいんだから!」
のどかな5月の昼下がり。
クアック公爵の一人娘、リリー・クアックと、庭師の孫、アルは公爵家の庭の隅っこで遊んでいた。
「アルは男の子なんだから、私よりも速く走れるはずよ!ほら、次は、あそこの木まで勝負!」
「えー、そんなぁ」
今年でリリーは七歳、アルは五歳の誕生日を迎える。
本来であれば、公爵令嬢であるリリーは庶民のアルと遊ぶことは、ない。
しかし、リリーの母親と結婚する前から愛人のいたクアック公爵は、政略結婚で結ばれたリリーの母を毛嫌いしており、その延長線上で、娘であるリリーのことも嫌っている。
そのうちにリリーの母は偶然か必然か、病魔に体を蝕まれ、「伝染らないようにするため」と、伝染する病気でないのにも関わらず、敷地内の小さな小屋においやられたのだ。
「あー、疲れた!」
ひとしきり走り回って満足したリリーは、柔らかな芝生の上に、ごろん、と横になった。
「リリー、速いよぉ…」
その横に、やっと追いついたアルがへたりと座り込んだ。
そんなアルを見て、リリーは「そんなんじゃ、一生私に追いつけないわよ!」と得意げに笑う。
「まあ、どんなことがあっても、私がアルを守ってあげる!私はアルよりもお姉ちゃんだからね!」
それから、リリーは空を仰いで、ピョン、と跳ね起きた。
「もうこんな時間。私、ご飯をつくらないといけないから、家に戻るわ、また明日、ここでね!」
「あ、うん、また明日ね!」
一拍遅れて空を見上げたアルは、急いで走り去るリリーの背に向けて、大きな声で返事を返した。
***
弾丸のような勢いで走っていったリリーは、一つの小さな小屋の前で急ブレーキをかけた。
「母様、ただいま帰りました!」
小屋の中で寝込んでいる母親に安心してもらえるようにと、リリーは毎日、家に入る前にただいまの挨拶をする。
ちょうど頭の上にあるドアノブは、リリーには重かったから、今にも壊れそうな、黒ずんだ木の扉をゆっくりと開き、中に入ってから、ゆっくり閉める。
「母様!」
「リリー、おかえり」
入って右側にある、リリーと母の2つ分のベッド、そのうちの奥側に寝ていたリリーの母、シェリルが体を起こし、リリーに柔らかく微笑んだ。
その笑みには、確かな品格があった。
シェリルは男爵家出身だが、公爵夫人としての所作や教養は身につけている。
公爵家に嫁ぐとなったとき、金で売られたのだとわかっていても、血の滲むような努力をして手に入れたものだった。
たとえ病魔に巣食われ、こんな小さな小屋に追いやられ、身分のせいで誰かに助けを求めることもできないような酷い状況だとしても、こんなにも懸命に生きる母のことが、リリーは大好きだった。
「今日は、庭師のじっちゃんにもらったイモで、ふかしいもっていうやつを作るからね!」
「いつもありがとう、リリー。本当に、強い子…」
リリーは胸をはり、「まかせといて!」と笑って、台所へと走った。
その日のふかし芋は、特別においしかったと、リリーは記憶している。
「も、もしかして、リリーなの…?」
「そう、もしかしなくても、リリーよ。約束通り、アルを迎えに来たの」
リリーは、辺りを見渡す。
身につけていた真っ白なワンピースが、それとともに揺れた。
「懐かしいわね、ここ」
そう言ったリリーは言葉通り懐かしげに、その目を細めた。
****
「はぁ、はぁ、待ってよ、リリー!」
「もう、アルってば、どんくさいんだから!」
のどかな5月の昼下がり。
クアック公爵の一人娘、リリー・クアックと、庭師の孫、アルは公爵家の庭の隅っこで遊んでいた。
「アルは男の子なんだから、私よりも速く走れるはずよ!ほら、次は、あそこの木まで勝負!」
「えー、そんなぁ」
今年でリリーは七歳、アルは五歳の誕生日を迎える。
本来であれば、公爵令嬢であるリリーは庶民のアルと遊ぶことは、ない。
しかし、リリーの母親と結婚する前から愛人のいたクアック公爵は、政略結婚で結ばれたリリーの母を毛嫌いしており、その延長線上で、娘であるリリーのことも嫌っている。
そのうちにリリーの母は偶然か必然か、病魔に体を蝕まれ、「伝染らないようにするため」と、伝染する病気でないのにも関わらず、敷地内の小さな小屋においやられたのだ。
「あー、疲れた!」
ひとしきり走り回って満足したリリーは、柔らかな芝生の上に、ごろん、と横になった。
「リリー、速いよぉ…」
その横に、やっと追いついたアルがへたりと座り込んだ。
そんなアルを見て、リリーは「そんなんじゃ、一生私に追いつけないわよ!」と得意げに笑う。
「まあ、どんなことがあっても、私がアルを守ってあげる!私はアルよりもお姉ちゃんだからね!」
それから、リリーは空を仰いで、ピョン、と跳ね起きた。
「もうこんな時間。私、ご飯をつくらないといけないから、家に戻るわ、また明日、ここでね!」
「あ、うん、また明日ね!」
一拍遅れて空を見上げたアルは、急いで走り去るリリーの背に向けて、大きな声で返事を返した。
***
弾丸のような勢いで走っていったリリーは、一つの小さな小屋の前で急ブレーキをかけた。
「母様、ただいま帰りました!」
小屋の中で寝込んでいる母親に安心してもらえるようにと、リリーは毎日、家に入る前にただいまの挨拶をする。
ちょうど頭の上にあるドアノブは、リリーには重かったから、今にも壊れそうな、黒ずんだ木の扉をゆっくりと開き、中に入ってから、ゆっくり閉める。
「母様!」
「リリー、おかえり」
入って右側にある、リリーと母の2つ分のベッド、そのうちの奥側に寝ていたリリーの母、シェリルが体を起こし、リリーに柔らかく微笑んだ。
その笑みには、確かな品格があった。
シェリルは男爵家出身だが、公爵夫人としての所作や教養は身につけている。
公爵家に嫁ぐとなったとき、金で売られたのだとわかっていても、血の滲むような努力をして手に入れたものだった。
たとえ病魔に巣食われ、こんな小さな小屋に追いやられ、身分のせいで誰かに助けを求めることもできないような酷い状況だとしても、こんなにも懸命に生きる母のことが、リリーは大好きだった。
「今日は、庭師のじっちゃんにもらったイモで、ふかしいもっていうやつを作るからね!」
「いつもありがとう、リリー。本当に、強い子…」
リリーは胸をはり、「まかせといて!」と笑って、台所へと走った。
その日のふかし芋は、特別においしかったと、リリーは記憶している。
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