マリオネットが、糸を断つ時。二

せんぷう

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幸せの等分

結婚式 ノルエフリン中編

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『木で出来たお風呂って良い匂いするんだなぁ。お城のは石だけど、木も良いな』

 湯船に浸かってご機嫌のタタラ様。体を洗う私はなんとか時間を稼ごうといつもよりも丁寧に時間を掛けてみる。

 …先に上がって頂くしかない。

『ノルエフリン早くー。一緒にお風呂入ろう?』

 あ。ダメです、これは逃げられません。

『…先に謝罪をしておきます。申し訳ありません、タタラ…』

『な、なんで急に謝るんだ?』

 無事に元の幼い姿になったタタラ様。持ち上げるのに少しの労力も不要な体の両脇を掴み抱き上げると私の体に背を付け密着させる。そのまま湯船に浸かれば…勢いよく湯が溢れ出して、なんとも少ない量となってしまった風呂にタタラ様が目を白黒させた。

『…すみません本当に。こうなるから普段は湯を張らないので。入れても半分程度でないと無駄になりますから…』

 私が上がれば、湯の量は半分程になってしまう。体を冷やさないようにと熱を与えるように彼の体を抱きしめれば…ぷるぷると震え出す体に申し訳なさが募る。 

 早く出て体を拭かせなければ…。

『ふ、ふふ』

 体の向きを変えた彼は、私の胸に寄り掛かって盛大に笑い出した。

『真剣な顔でっ、謝るから何かと思えばっ…! ふふ、あははははっ面白ーい!! 凄い減り様だな。でも良いよ大丈夫! お前本当に可愛いなっ』

 ギューッと私に抱き着くタタラ様に…私の手は最初戸惑いから何も出来ず動かなかったのに、彼の笑顔を見ると自然と背中と頭に手を置いて撫でることが出来た。それに更に嬉しそうに笑う姿に自分の欠点が、みるみる逆に捉えられているのだと理解してどうしようもない喜びが湧き上がる。

『また一緒に入ろう? ノルエフリンがいたらお湯は半分か。節約できて最高だな!』

『…敵いませんね、タタラには…』

 あなたがいてくれるだけで、私は自分を少しずつ好きになれるんです。

『なぁ。この中なら、どの色が良い?』

『そう、ですね。これでしょうか』

 沢山の色が付いた糸の中から一つの糸を手繰り寄せる。赤い糸。

『…どうして…この色を?』

『私に唯一ある色です。それに…あなたにも、よく似合う色だな、と。黒に赤は映えますから』

 成長してしまった体を、抱きしめる。少し成長したあの姿も好ましかったのですが今の幼いタタラ様こそ我々の原点。

 …暫く抱けなくなってしまったのは残念ですが、また先の楽しみができた。

『…そっか。わかった! ありがとう…オレも好きだよ。ノルエフリンの赤い眼は、いつだって真っ直ぐオレを見てくれるもんな』

『急にどうしたのですか?』

 タタラ様はなんでもないと笑うと私と共に風呂から上がって、夜は…最愛の人と様々なことを語り合った。

 本当は甘いものが苦手なこと。

 タタラ様とこの世界を、私も見てみたいこと。

 …私は、子どもは持てないという気持ちも。

『還り者の血が濃い私では間違いなく、産まれてくる子はそれに近い者となります。

 ただ。髪が。目が。身長が…異なるだけで、まるで化け物のように差別されて自信なんてものは地の底に堕ちる。あんな思い…させたく、ありません…』

『うん。ノルエフリンが嫌なら無理になんて言わないよ。でも少しだけ、寂しいな。

 きっとノルエフリンみたいな、ふわっふわな髪で…優しくて一途な子になる。還り者になってもオレはその子を生涯愛すこと…今、ここに誓う。いつか気持ちに整理が着いたら、またいつでも話してくれ。

 ありがとう。お前は、強い子だ』

 まるで子どものように抱かれて、二人ベッドに横になって眠る。小さなタタラ様の胸にしがみ付いて眠るなど…でも、そこはこの世界のどこよりも優しくて安心できる場所。

 私はずっと。こうしてほしかったのだろうか。

 甘やかな言葉を与えられて、受け入れてもらえる…そんなことをしてくれる人なんて…この方に出会うまでは信じられなかった。だから出会ってからは決して目を離せなかったんです。

『…もしも。子どもが、欲しいと言ったら…あなたに名付けて頂きたい。もしもそうなったら、どんな名を下さいますか?』

『名前? そうだなぁ…うーむ、迷うな。ノルエフリンって名前、オレは好きなんだ。

 …男の子か女の子かすらもわかんないんだろ?』

『直感で良いので、教えて下さい』

 いつか命が宿るかもしれない彼のお腹を撫でれば、擽ったそうに身を捩る。

『…ノエル、うん…ノエルメイト。ノルエフリンとオレのヒメトの文字をいじって、あとは旦那様と文字数をお揃いで。

 …うん、好き。ノエルって好きな響きだ。どうかな、ノルエフリン?』

 ノエルメイト。

 …ノエル、メイト…。

『素敵な名前です。…なんだか、カッコイイですね。タタラの真名を与えられるなんて羨ましい限りです』

 ノエルメイトのことをタタラ様に触れて考えている内に、私は眠ってしまっていた。悪夢以外は滅多に夢など見ないのにその日は珍しく…良い、夢を見たのです。

 家の裏にある丘を登っていると、花が咲き乱れるそこに見慣れた黒い少年と…私ではない巨漢の白髪の者がいた。無骨で荒っぽい手付きで花を毟る男が、背後で白い癖っ毛を楽しそうに編む少年にそれを渡す。

 嬉しそうにそれを受け取った少年は、花を長い髪にどんどん飾っては喜ぶ。面白くなさそうに膝に肘を付く男だが、決して少年の行動を咎めたりしない。

【…母さん。ノエルは可愛いよりカッコイイが良い】

 タタラ様がよく口にする言葉を使った男。少年…タタラ様は、そんな男の頭に手を置き愛おしさに溢れた眼差しを向ける。

【ノエルメイトは、ノエルメイトのお父さんそっくりで凄くカッコイイよ。母さんの前でくらい可愛くいてくれよー!

 …あ! ノルエフリンっ!!】

 都合の良い夢だ。

 わかっている、こんなのは私が思い浮かべたただの理想郷。

 …そう、わかっているのに。

 これが現実ならばと願い、泣き出すくらいには私はこの光景に胸を打たれている。欲しい。こんな未来が。

 この未来を…願っても、良いのだろうか…?



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