47 / 51
第十一王子と、その守護者
帰る場所
これは夢だろうか。
いいや、今までのが夢で……ここが現実?
『多々良場ぁー! 何してんだよ、置いて行っちゃうぞー!』
眩しい夏空。痛いくらいに照らす太陽。爽やかに体を撫でる風。青々とした草木の匂いに、額から流れる汗。遠くから聞こえる蝉の鳴く音。靴に触れた砂利道。
そう、これは……自分が最後に覚えている前世の記憶。だけど、あまりにも鮮明なそれに呆然としたまま立ち尽くす。両手は自転車を支え、着ているのは守護魔導師としての服ではなく高校の制服。白いシャツに黒いズボン……背負っているのも、ビローデアさんに貰った鞄ではなく通学カバンだ。
『え……? なに、オレ……え!?』
『オーイ。どしたん、お前さん本当に置いてくよーん』
ハッとして目の前を見れば、そこにいた人たちを見て思わず自転車を支えるのも忘れて倒してしまった。何故か顔が見えないものの……そこにいたのは自分と小学生の頃から連んできた三人の仲間たちだった。
そして、
『多々良場。具合でも悪いのか?』
自分と同じ黒髪黒目のくせに高身長で、なんだってそつなくこなせる頼もしい親友。後ろから倒してしまった自転車を直して笑うのは、唯一顔がハッキリとわかる親友。それを見て、堪えて来た何かが壊れるように涙が止まらなくって彼のお腹に突っ込むように突進した。
『いやー、多々良場が暑さで暴走したかと思ったわ。でもマジで大丈夫かー?』
『なんかちょっと顔赤くね? 飲みかけで良かったら俺のお茶飲むかね』
顔が見えない仲間たちが心配する中、散々揶揄われたオレはすっかり小さくなって仲間から貰ったお茶を飲む。隣を歩く唯一顔が見える親友に自転車を持ってもらい、とぼとぼと歩き出す。
『ありがと……。なんか、夢でも見てた気分で』
『俺知ってる、それ白昼夢じゃん! しっかり寝ろよー。お前の大切な成長期なんだぞぉ』
うるせぇ、と小さな声で言えば仲間たちが大爆笑する。平和な世界で絶えず笑い声が飛び交う幸せな世界。
隣で一緒に歩いてくれる親友も楽しそうに笑って、オレたちの下校はいつだって騒がしい。
なんでコイツだけ、顔が見えるんだ? みんなの顔はモヤがかかったように見えないのに。不思議だなと思いながらもみんなと歩き出す。
『でも体調悪いならちゃんと言えよ? 暑いしどっかファミレスでも寄るか』
『良いかもな。多々良場も休んでもう少し水分と塩分摂った方がいいだろうし。まぁ一番小っちゃいから誰でもおんぶしてやれるけどな!』
『よーし、押し潰してくれるわテメェら!!』
男のギャーギャーという騒がしい声が河川敷に響き渡り、なんとも暑苦しい夏の一日。他愛無い雑談に学校での出来事。下らない問答に昨日見たテレビの話。全部全部、まだ終わらないと思っていた。
……なんでオレ、死んだんだろう。
『……ごめん。オレ……忘れ物あるから、一緒に行けねぇわ。先行っててくれるか?』
振り返った仲間たちの顔は、見えないまま。みんな暫く黙っていたけど一人が道の先を指差した。
『良いのか? お前のお袋さんたちも心配してるぞ。いっぱい辛い思いして、悲しんで、痛い思いも何度もしただろ。
それでも、行くの? またお前……痛い思いするかもしんねーのに?』
道の先に待つ、薄っすらと見えるシルエット。覚えがあるその人影に涙を流しながらも、うんと頷いて一歩後ろに足を引く。
『そっか。じゃあ……大丈夫だな。
先に行ってるから、ゆっくり来いよな』
バイバイ、と言って手を振る三人。顔は見えないけど、きっと笑顔なんだろうと思うとまた涙が止まらなくなった。自転車を持つ親友を見れば、彼もオレの肩を叩いて眩しいくらいの笑顔で見送ってくれる。
無言のまま振り向いて、その先を指差す彼に頷き……オレは駆け出した。
『ありがとう、みんなっ……最後に会えて本当に嬉しかった!!
今まで、ありがとうっお前ら全員大好きだよ、マジで!! ……っ、さようなら』
もう一緒に帰る場所は、この世界にはない。オレにまだあの世界に留まれる資格があるなら、オレの帰る場所はもう一つしかない。
あの人のいる場所に、帰りたいっ……!
『アイツ、ちゃんと帰れた?』
『ん。行ったな。……あーあ、一緒に帰りたかったけど、多々良場が決めたんなら仕方ないか』
『好きな人が出来たみたいだぞ? アイツ中々ロマンチストな野郎だな』
『愛かぁ、そっかー。確か王子様だろ? メルヘンだな。いつからアイツお姫様になったんだ』
『いやいや、守護者だからお姫様ってより従者とか騎士だよな。ナイト様ってか? ……なんかお姫様のが似合ってね?』
『本当にな。次はこんなとこまで来るような怪我をしないでほしいんだがな』
『それな。次来たら問答無用でお持ち帰りしようぜ、お前ら』
『黒鬼、行こうぜ』
『ああ。楽しかったな、アイツに会えて』
.
いいや、今までのが夢で……ここが現実?
『多々良場ぁー! 何してんだよ、置いて行っちゃうぞー!』
眩しい夏空。痛いくらいに照らす太陽。爽やかに体を撫でる風。青々とした草木の匂いに、額から流れる汗。遠くから聞こえる蝉の鳴く音。靴に触れた砂利道。
そう、これは……自分が最後に覚えている前世の記憶。だけど、あまりにも鮮明なそれに呆然としたまま立ち尽くす。両手は自転車を支え、着ているのは守護魔導師としての服ではなく高校の制服。白いシャツに黒いズボン……背負っているのも、ビローデアさんに貰った鞄ではなく通学カバンだ。
『え……? なに、オレ……え!?』
『オーイ。どしたん、お前さん本当に置いてくよーん』
ハッとして目の前を見れば、そこにいた人たちを見て思わず自転車を支えるのも忘れて倒してしまった。何故か顔が見えないものの……そこにいたのは自分と小学生の頃から連んできた三人の仲間たちだった。
そして、
『多々良場。具合でも悪いのか?』
自分と同じ黒髪黒目のくせに高身長で、なんだってそつなくこなせる頼もしい親友。後ろから倒してしまった自転車を直して笑うのは、唯一顔がハッキリとわかる親友。それを見て、堪えて来た何かが壊れるように涙が止まらなくって彼のお腹に突っ込むように突進した。
『いやー、多々良場が暑さで暴走したかと思ったわ。でもマジで大丈夫かー?』
『なんかちょっと顔赤くね? 飲みかけで良かったら俺のお茶飲むかね』
顔が見えない仲間たちが心配する中、散々揶揄われたオレはすっかり小さくなって仲間から貰ったお茶を飲む。隣を歩く唯一顔が見える親友に自転車を持ってもらい、とぼとぼと歩き出す。
『ありがと……。なんか、夢でも見てた気分で』
『俺知ってる、それ白昼夢じゃん! しっかり寝ろよー。お前の大切な成長期なんだぞぉ』
うるせぇ、と小さな声で言えば仲間たちが大爆笑する。平和な世界で絶えず笑い声が飛び交う幸せな世界。
隣で一緒に歩いてくれる親友も楽しそうに笑って、オレたちの下校はいつだって騒がしい。
なんでコイツだけ、顔が見えるんだ? みんなの顔はモヤがかかったように見えないのに。不思議だなと思いながらもみんなと歩き出す。
『でも体調悪いならちゃんと言えよ? 暑いしどっかファミレスでも寄るか』
『良いかもな。多々良場も休んでもう少し水分と塩分摂った方がいいだろうし。まぁ一番小っちゃいから誰でもおんぶしてやれるけどな!』
『よーし、押し潰してくれるわテメェら!!』
男のギャーギャーという騒がしい声が河川敷に響き渡り、なんとも暑苦しい夏の一日。他愛無い雑談に学校での出来事。下らない問答に昨日見たテレビの話。全部全部、まだ終わらないと思っていた。
……なんでオレ、死んだんだろう。
『……ごめん。オレ……忘れ物あるから、一緒に行けねぇわ。先行っててくれるか?』
振り返った仲間たちの顔は、見えないまま。みんな暫く黙っていたけど一人が道の先を指差した。
『良いのか? お前のお袋さんたちも心配してるぞ。いっぱい辛い思いして、悲しんで、痛い思いも何度もしただろ。
それでも、行くの? またお前……痛い思いするかもしんねーのに?』
道の先に待つ、薄っすらと見えるシルエット。覚えがあるその人影に涙を流しながらも、うんと頷いて一歩後ろに足を引く。
『そっか。じゃあ……大丈夫だな。
先に行ってるから、ゆっくり来いよな』
バイバイ、と言って手を振る三人。顔は見えないけど、きっと笑顔なんだろうと思うとまた涙が止まらなくなった。自転車を持つ親友を見れば、彼もオレの肩を叩いて眩しいくらいの笑顔で見送ってくれる。
無言のまま振り向いて、その先を指差す彼に頷き……オレは駆け出した。
『ありがとう、みんなっ……最後に会えて本当に嬉しかった!!
今まで、ありがとうっお前ら全員大好きだよ、マジで!! ……っ、さようなら』
もう一緒に帰る場所は、この世界にはない。オレにまだあの世界に留まれる資格があるなら、オレの帰る場所はもう一つしかない。
あの人のいる場所に、帰りたいっ……!
『アイツ、ちゃんと帰れた?』
『ん。行ったな。……あーあ、一緒に帰りたかったけど、多々良場が決めたんなら仕方ないか』
『好きな人が出来たみたいだぞ? アイツ中々ロマンチストな野郎だな』
『愛かぁ、そっかー。確か王子様だろ? メルヘンだな。いつからアイツお姫様になったんだ』
『いやいや、守護者だからお姫様ってより従者とか騎士だよな。ナイト様ってか? ……なんかお姫様のが似合ってね?』
『本当にな。次はこんなとこまで来るような怪我をしないでほしいんだがな』
『それな。次来たら問答無用でお持ち帰りしようぜ、お前ら』
『黒鬼、行こうぜ』
『ああ。楽しかったな、アイツに会えて』
.
あなたにおすすめの小説
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
神子は二度、姿を現す
江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結
ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。
死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが
神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。
戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。
王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。
※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。
描写はキスまでの全年齢BL
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【8話完結】勇者召喚の魔法使いに選ばれた俺は、勇者が嫌い。
キノア9g
BL
勇者召喚の犠牲となった家族——
魔法使いだった両親を失い、憎しみに染まった少年は、人を疑いながら生きてきた。
そんな彼が、魔法使いとして勇者召喚の儀に参加させられることになる。
召喚の儀——それは、多くの魔法使いの命を消費する狂気の儀式。
瀕死になりながら迎えた召喚の瞬間、現れたのは——スーツ姿の日本人だった。
勇者を嫌わなければならない。
それなのに、彼の孤独に共感し、手を差し伸べてしまう。
許されない関係。揺れる想い。
憎しみと運命の狭間で、二人は何を選ぶのか——。
「だけど俺は勇者が嫌いだ。嫌いでなければならない。」
運命に翻弄される勇者と魔法使いの、切ない恋の物語。
全8話。2025/07/28加筆修正済み。