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人族と冒険とキングオーク
初めての脅威
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全く酷い目に遭ったものだ。
『…ラック、次は一人で入る…』
『ええ?! どっどうしてです! また一緒に洗いっこしましょう?』
いやマジで酷い目に遭ったの。
ジト目でダイダラを見上げるも、この金色の色男はまるで意味がわかっていないようで純粋に残念がる。脱衣所で着る服がなくて困っているとダイダラが大きなバスタオルを巻いてくれた。
シャワーではオレが怖がっていると勘違いしたダイダラが常に抱っこし、洗われる際はずっと膝の上だ。膝に座らせたオレの髪をゴシゴシ洗う間、ずぅーっと胸に押し付けられるシュールさときたら…。
しかも全身くまなく洗われた!! もうお婿に行けない!
『もうっ』
『あ。コラ、まだ髪を拭き終わってませんよー』
寝室に逃げ込むと、ベッドで身体を拭いていたジゼの隣に座ってホッと一息。
『お前なに全裸で出て来てんだよ…』
『ラックにタオルをあげたのでもうないのです』
変態だ。露出狂だ。通報待ったなし。
それなのに本人はまるで羞恥心の欠片もないようで素っ裸のままその辺を歩くのだ。心が鋼か。
『…はぁ。あんま騒ぐなよ。
ラック、シャワーは気持ち良かったか?』
『ダメ。ママ、むちむち。ラックのこと潰した』
ピッとダイダラを指差してオレの被害内容を告げれば、やれやれとジゼが頭を抱えるも労うように背中を軽く叩かれる。
『今後も面倒見てやってくれ』
『え~?』
どうしようかと唸りながら足をパタパタ動かしていれば、二人が笑いだす。人間になってから笑われてばかりだ。もしかしてオレ、暫くオークだったせいで人間っぽさが失われてる?
しっかりと水気を拭いて乾かし、ジゼの身体も手が届かないところはオレがしっかり綺麗にした。骨が浮いて今にも折れそうな身体を早く戻したくて明日からのギルドのお仕事に俄然やる気が出る。
初めてベッドに三人並んで寝た。外は真っ暗で街外れだから静かなもの。疲れた二人は寝息を立てて夢の中らしい。
『…眠れない』
どうにも、眠れない。
今までずっと深い眠りに落ちていたせいかは不明だが最近しっかり睡眠を取れない。魔族だから問題ないし二人にもバレることはないから平気だけど…少し、困る。
だって、夢の中でしか逢えないのに…。このまま忘れてしまうなんて絶対に嫌なのに。
ずっと起きたまま朝を迎えると最初に起きたジゼにおはようの挨拶をする。すぐにダイダラも目覚めるとすぐに支度をして家を出た。
朝ごはんも用意できないくらい切羽詰まってるから早く稼がなきゃいけない。食べなくても割と平気なのに申し訳なさそうな顔をする二人に笑顔で早く行こうと促す。
『子どもを連れている場合は基本、危ない討伐系や探索クエストには行けないわ。できるのは薬草採取とかね。それでも外じゃ何があるかわからないから最低限二人の保護者同行が規則。
ギリギリ合格ね。じゃ、いってらっしゃいな』
ギルドで見送られて初めてのクエスト。
そこからオレたちのギルド生活がスタートした。
最低限の装備に最低限のお賃金。更に子連れ…、流石の前世持ちのオレもこんな不安しかない冒険の始まりは見たことない。
変わり映えしないギルドでの仕事。少しの報酬を得ては糧を買い、その日を生きる。だけどオレが少食というイメージを与えることに成功したので二人にある程度食べさせることは出来ているのだ。
『ジゼーっ! 薬草いっぱいあった、これで今日のお仕事終わりー』
『ばーか。ちゃんと採取してギルドに戻るまでがクエストだって受け付けさんたちが言ってるだろ?』
回復の兆しは、ジゼの眼にもあった。オレが見せる薬草を確認してよくやったと褒めてくれる…間違いなく、彼の視力は回復している。
服もちゃんとしたやつを買ったし、ダイダラには小さいけど剣もある。ジゼももう少ししたら魔法を発動できるくらいの力もつくだろう。
『ふんふんふーん』
持って来た籠に依頼された薬草、花屋に卸す花、魔獣の落とした羽や鱗を次々と詰める。それらを抱えて二人の元へ行けば優しい赤い眼がオレを写す。
『見てーっ』
『ラックは本当にお手伝いが上手です! 小さなお手てで器用に薬草を摘んで、種類もすぐ覚えてしまいました!』
『そうだな。採取ポイント以外にも偶然、群生地を見付けてくれたから良い薬草や珍しい花が採れる。採取の才能があるらしいな、ウチの子は』
たはー、褒められちったぜー。
街の外でも今まで洞窟暮らしだった二人と五感が冴え渡るオークのオレであれば慣れたもの。数時間の間に採取を終え、必ず夕暮れ前には帰る。これを徹底していれば危険はほぼ回避できるのだ。
昼を過ぎて暫くすると、採取の籠の中身を見たダイダラが頷く。
『枯れやすい薬草もありますし、今日はそろそろ戻りましょうか』
『そうだな。今日もラックがたくさん摘んでくれたから籠が早くいっぱいになったことだ。…奮発してギルドの食堂で夕飯にするか?』
ギルドの食堂!!
瞬く間に瞳を輝かせるオレに気付いたジゼがダイダラを見ると、彼もまた頷く。つまりOKのサイン!
『やったっ、やったー! うれしー! ねぇ早く帰ろう、帰ろうよー』
『やれやれ。…まぁ、事実一番役に立っているんだから道理だな』
『ですね!』
籠を持ちながらピョコピョコ飛び跳ねるオレに二人が注意を促しつつ、笑顔で手を差し伸べる。すぐにそれを握るべく籠を背中に回そうとした。
ギルドの食堂! あのファンタジーで正にギルドって感じの食堂は、夢とロマンに溢れてる。骨付き肉に始まり見知った料理やデザートも豊富。前から憧れてるのはホットケーキだ!
しかも、アイスが付いたやつ!!
『帰ろ~』
幸せな午後のひと時。だけど、不意に背後から何か違和感を感じたオレは伸ばしていた手を止めてから立ち止まり、振り返って茂みを見つめる。
…なんか来る。
『っ助けてぇ!!』
『いやぁあああっ!!』
奥の森から現れたのはまだ若い冒険者たち。細身の男魔導師と軽装の女は腕や足から血を流しながらも必死に助けを求めて走る。
そしてその更に奥から現れた者たちに一気に場の空気が変わってしまう。
恐怖を与えるような雄叫びを発し、武器を持ちながら冒険者たちを追い掛けて来たのは魔族だった。よく知る種族でゴブリンとデビルだ。ゴブリンは小鬼とも呼ばれるしデビルは羽を有した魔法に長けた魔族。
へー、この辺りはゴブリンやデビルがいるんだ。
『っ殿下! 私が退路を…』
『バカか! 儂のことなんかより!』
若い冒険者たちがオレを追い越して走り抜ける。混乱した女性がダイダラに助けを求め縋り付くと、その動きが遅れて一気に魔族が迫る。
魔族たちは傷付いた冒険者たちよりもすぐ近くにいたオレに狙いを定め、ゴブリンがジゼたちの動きを止めている間にデビルがオレを捕まえた。
『っラック!! くそ、退けっ…その子を離せ!!』
薬草がたくさん入った籠を抱えながら空を飛び、徐々に上昇するともうジゼたちに打てる手はなく只管彼らの叫び声が響いていた。
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『…ラック、次は一人で入る…』
『ええ?! どっどうしてです! また一緒に洗いっこしましょう?』
いやマジで酷い目に遭ったの。
ジト目でダイダラを見上げるも、この金色の色男はまるで意味がわかっていないようで純粋に残念がる。脱衣所で着る服がなくて困っているとダイダラが大きなバスタオルを巻いてくれた。
シャワーではオレが怖がっていると勘違いしたダイダラが常に抱っこし、洗われる際はずっと膝の上だ。膝に座らせたオレの髪をゴシゴシ洗う間、ずぅーっと胸に押し付けられるシュールさときたら…。
しかも全身くまなく洗われた!! もうお婿に行けない!
『もうっ』
『あ。コラ、まだ髪を拭き終わってませんよー』
寝室に逃げ込むと、ベッドで身体を拭いていたジゼの隣に座ってホッと一息。
『お前なに全裸で出て来てんだよ…』
『ラックにタオルをあげたのでもうないのです』
変態だ。露出狂だ。通報待ったなし。
それなのに本人はまるで羞恥心の欠片もないようで素っ裸のままその辺を歩くのだ。心が鋼か。
『…はぁ。あんま騒ぐなよ。
ラック、シャワーは気持ち良かったか?』
『ダメ。ママ、むちむち。ラックのこと潰した』
ピッとダイダラを指差してオレの被害内容を告げれば、やれやれとジゼが頭を抱えるも労うように背中を軽く叩かれる。
『今後も面倒見てやってくれ』
『え~?』
どうしようかと唸りながら足をパタパタ動かしていれば、二人が笑いだす。人間になってから笑われてばかりだ。もしかしてオレ、暫くオークだったせいで人間っぽさが失われてる?
しっかりと水気を拭いて乾かし、ジゼの身体も手が届かないところはオレがしっかり綺麗にした。骨が浮いて今にも折れそうな身体を早く戻したくて明日からのギルドのお仕事に俄然やる気が出る。
初めてベッドに三人並んで寝た。外は真っ暗で街外れだから静かなもの。疲れた二人は寝息を立てて夢の中らしい。
『…眠れない』
どうにも、眠れない。
今までずっと深い眠りに落ちていたせいかは不明だが最近しっかり睡眠を取れない。魔族だから問題ないし二人にもバレることはないから平気だけど…少し、困る。
だって、夢の中でしか逢えないのに…。このまま忘れてしまうなんて絶対に嫌なのに。
ずっと起きたまま朝を迎えると最初に起きたジゼにおはようの挨拶をする。すぐにダイダラも目覚めるとすぐに支度をして家を出た。
朝ごはんも用意できないくらい切羽詰まってるから早く稼がなきゃいけない。食べなくても割と平気なのに申し訳なさそうな顔をする二人に笑顔で早く行こうと促す。
『子どもを連れている場合は基本、危ない討伐系や探索クエストには行けないわ。できるのは薬草採取とかね。それでも外じゃ何があるかわからないから最低限二人の保護者同行が規則。
ギリギリ合格ね。じゃ、いってらっしゃいな』
ギルドで見送られて初めてのクエスト。
そこからオレたちのギルド生活がスタートした。
最低限の装備に最低限のお賃金。更に子連れ…、流石の前世持ちのオレもこんな不安しかない冒険の始まりは見たことない。
変わり映えしないギルドでの仕事。少しの報酬を得ては糧を買い、その日を生きる。だけどオレが少食というイメージを与えることに成功したので二人にある程度食べさせることは出来ているのだ。
『ジゼーっ! 薬草いっぱいあった、これで今日のお仕事終わりー』
『ばーか。ちゃんと採取してギルドに戻るまでがクエストだって受け付けさんたちが言ってるだろ?』
回復の兆しは、ジゼの眼にもあった。オレが見せる薬草を確認してよくやったと褒めてくれる…間違いなく、彼の視力は回復している。
服もちゃんとしたやつを買ったし、ダイダラには小さいけど剣もある。ジゼももう少ししたら魔法を発動できるくらいの力もつくだろう。
『ふんふんふーん』
持って来た籠に依頼された薬草、花屋に卸す花、魔獣の落とした羽や鱗を次々と詰める。それらを抱えて二人の元へ行けば優しい赤い眼がオレを写す。
『見てーっ』
『ラックは本当にお手伝いが上手です! 小さなお手てで器用に薬草を摘んで、種類もすぐ覚えてしまいました!』
『そうだな。採取ポイント以外にも偶然、群生地を見付けてくれたから良い薬草や珍しい花が採れる。採取の才能があるらしいな、ウチの子は』
たはー、褒められちったぜー。
街の外でも今まで洞窟暮らしだった二人と五感が冴え渡るオークのオレであれば慣れたもの。数時間の間に採取を終え、必ず夕暮れ前には帰る。これを徹底していれば危険はほぼ回避できるのだ。
昼を過ぎて暫くすると、採取の籠の中身を見たダイダラが頷く。
『枯れやすい薬草もありますし、今日はそろそろ戻りましょうか』
『そうだな。今日もラックがたくさん摘んでくれたから籠が早くいっぱいになったことだ。…奮発してギルドの食堂で夕飯にするか?』
ギルドの食堂!!
瞬く間に瞳を輝かせるオレに気付いたジゼがダイダラを見ると、彼もまた頷く。つまりOKのサイン!
『やったっ、やったー! うれしー! ねぇ早く帰ろう、帰ろうよー』
『やれやれ。…まぁ、事実一番役に立っているんだから道理だな』
『ですね!』
籠を持ちながらピョコピョコ飛び跳ねるオレに二人が注意を促しつつ、笑顔で手を差し伸べる。すぐにそれを握るべく籠を背中に回そうとした。
ギルドの食堂! あのファンタジーで正にギルドって感じの食堂は、夢とロマンに溢れてる。骨付き肉に始まり見知った料理やデザートも豊富。前から憧れてるのはホットケーキだ!
しかも、アイスが付いたやつ!!
『帰ろ~』
幸せな午後のひと時。だけど、不意に背後から何か違和感を感じたオレは伸ばしていた手を止めてから立ち止まり、振り返って茂みを見つめる。
…なんか来る。
『っ助けてぇ!!』
『いやぁあああっ!!』
奥の森から現れたのはまだ若い冒険者たち。細身の男魔導師と軽装の女は腕や足から血を流しながらも必死に助けを求めて走る。
そしてその更に奥から現れた者たちに一気に場の空気が変わってしまう。
恐怖を与えるような雄叫びを発し、武器を持ちながら冒険者たちを追い掛けて来たのは魔族だった。よく知る種族でゴブリンとデビルだ。ゴブリンは小鬼とも呼ばれるしデビルは羽を有した魔法に長けた魔族。
へー、この辺りはゴブリンやデビルがいるんだ。
『っ殿下! 私が退路を…』
『バカか! 儂のことなんかより!』
若い冒険者たちがオレを追い越して走り抜ける。混乱した女性がダイダラに助けを求め縋り付くと、その動きが遅れて一気に魔族が迫る。
魔族たちは傷付いた冒険者たちよりもすぐ近くにいたオレに狙いを定め、ゴブリンがジゼたちの動きを止めている間にデビルがオレを捕まえた。
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