いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう

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裏社会の仕事

『あの暴君は猿石。見た通り無茶苦茶な野郎でな、暫く務所にぶち込まれてたんだが刑期を終えて出て来たわけだ。

 …戦力としては申し分ねぇんだがな。クソみたいな性格で役に立たねぇ』

『災害って、ああいうのを言うんだなぁって思いました』

 しみじみと先程のことを思い出していると刃斬に無言で頭を撫でられる。色々あってもう十七時を回ってしまったが、本来は仕事があって呼ばれたわけだから早速お仕事の現場まで向かう。

 黒塗りの高級車に乗ると刃斬と共に後部座席に乗り込み、目的地へ。

『お前にはその体質を存分に活かして働いてもらう。内容は主に護衛だな。力で歯向かう連中はいくらでも対処できるが、バース性が関わると話が変わる。

 そこでお前だ。面倒なサイクルを無視してどんな局面だろうが自由に動けるお前の体質はこっちじゃ金や宝石より俄然がぜん、価値がある。これやるから顔は隠しておけよ』

 刃斬から渡されたのは黒いマスクだった。右下に弐条の代紋が刺繍されたそれは思っていたより通気性が良くて心地良い。

 耳も全然痛くないし、長時間しても気にならなそう!

『なくなったらいつでも言えよ。取り敢えず予備も渡しておく。制服だとマズイからな…これから行くとこで服も新調するぞ』

『はい!』

 すっかり暗くなった街を走っていたのに妙に外が明るい。ハッとして窓の向こうを見ればそこは、夜の街。様々な店に色鮮やかなネオンが光る大人の街だ。

 車が停車してから刃斬が降りるので、後を追う。すると建物の前で綺麗に一列に並んだ人々が。

『『お疲れ様です!!』』

『…ああ。ご苦労さん』

 ふと横を見れば様々な男たちの顔写真が載ったパネルに、キラキラの源氏名。

 間違いなくコレは…ホスト! ホストクラブ!!

『宋平。なにしてんだ、早く来い』

『わっ、はーい』

 いつの間にか店の入り口に立つ刃斬に置いて行かれてしまったと、慌てて後を追いかける。中にはまだお客さんはいないようでキラキラと光るミラーボールだけが喧しく存在感を放つ。

 刃斬の護衛なんだから近くにいないと、と側にいたが首根っこを掴まれホストたちの方に向けられた。

『お前ら、コイツに服見繕っとけ。本人が気にいるならなんでも良い』

『お任せください!! さぁさ、こちらへどうぞ!』

 あれよあれよとホストたちに奥に連れて行かれ、裏にある控え室のような場所へと案内される。ホストたちが次々とダンボールやらをひっくり返して新品の服をテーブルの上に所狭しと並べた。

『好きなのを選んでください! どれも新品か、クリーニングには出しているので清潔ですよ!』

『気に入ったものがあれば新品のを買って来ます!』

 流石は接客業…、丁寧な対応に細やかな気配り。そんな彼らに頭を下げると手近なものから見ていく。出来ればあまり目立たず地味で高そうじゃないやつが良い。

 もしかしたら荒事に巻き込まれるかもだし、動きやすいやつが…。

『………』
 
 ダメだ、わからん。

 面の良いホストたちに囲まれて服を決めるとか拷問かよ。あと、俺そんなにセンスないわ。

『っ、兄貴ぃ…』

 ガシガシと頭を掻きながら立ち上がって部屋を出ると割と大きな声を出して刃斬を呼ぶ。どうした? と奥にやって来る彼に手招きをして部屋に戻ればホストたちが呆然としている。

『ごめんなさい、俺服よくわからなくて…』

『ああ。別にそいつらに頼んでも良かったんだぞ?』

 お叱りを受けると思ったのか、若干みんなで固まってガタガタと震えるホストたち。

『だけど兄貴たちと一緒にいるんだし、みんなと馴染む服が良い。…兄貴決めてよ』

 お願いお願い、と腕を引いてテーブルの前までやって来れば刃斬は俺の言葉に少し驚いたような顔をしつつ、あまり重くないため息を吐いた。

『ったく、手の掛かる弟分だぜ。さっさと決めるぞ』

『やた! はーい!』

 刃斬が手にしたのは黒いシャツにズボン、それから灰色のベストだった。前はチェックで背中は黒い生地をしたベストに、靴は動きやすい方が良いだろうと淡い紫と黒のスニーカーを選んでもらった。

『兄貴お洒落ですね!』

『ま。馬子にも衣装ってとこだな。タグ全部取ってから来い。店のモンが案内するから』

 去り際に頭を撫でられると、先に部屋から出て行ってしまう。即座にホストの皆さんがタグを切り、着ていた服を袋に入れて手渡してくれる。

『っ勉強になりました! ありがとうございます!』

『…はい?』

 次々とお礼を言われるが、一体何をしたのか…まるでわからない。着替えを手伝う練習とか? いや、それはないか…。

 あ!! なるほど、兄貴のファッションセンスの勉強か! なんだよ、そうか。直接言えないから俺に伝えたわけね。

『流石は兄貴、ファッションセンスも一流か…』

『…いや。そうではなくて対人スキル…』

 え? と首を傾げれば、何故か妙に生温かい視線を受ける。訳がわからないままだが、取り敢えず着替えを終えたので部屋を出るとボーイらしき人が一礼してから道案内をしてくれた。

 真っ赤な扉を開いた向こう側には、ソファに座る刃斬の兄貴が煙草を片手に何やら資料とスマホを見て忙しくしている。向かい合って座るのは若干胡散臭い風貌ふうぼうの装飾品をジャラジャラ付けた派手な出立いでたちの男。

『…来たか。宋平、こっち座ってろ』

 派手な男に一礼をしてから座ると向こうも姿勢を正してから頭を下げてくる。少し顔色の悪い派手男は多分、この店のオーナーだろうか。

『んで? 詳しく聞こうじゃねぇの。報告にあったその巫山戯た店についてな』

『は、はい…。店の存在は我々も詳細はわかりませんが確かに実在しているようなんです。恐らく半年程前にはこの街にあったようで』

『事実この辺りから落ちてるからな』

 刃斬の隣で座っていると、売り上げらしきものが書かれた紙を彼がペラペラと持っている。

『確かに常連の客まで消えていき…、さっ最近では従業員まで消える始末でして…。売り上げがそこそこ安定していた者まで突然消えるんです…!』

『…確かに売り上げは別に安定してるが、それでも消える奴は消えるだろ』

『親しかった従業員が個人的に連絡を取っても連絡がつかないんです。その上、ロッカーにある荷物も全部そのままで…』

 突如として落ちるお店の売り上げに、失踪するホスト。そして全容は謎に包まれた新たなライバル店。

 普通に考えればその新しい店とやらに客や従業員が流れたと思うが、何かきな臭いようだ。

『面白れぇ。ウチのシマで無断で巫山戯た商売するような奴等がいるなら炙り出してやろうじゃねぇか』

 灰皿に煙草をねじ込んだ刃斬が資料をテーブルに放ると煙を吐き出しながら立ち上がる。ビクリと反応して後から立ち上がったオーナーが小走りで扉まで行き、それを開いてから頭を下げた。

『宋平』

 はいはい、と刃斬の後を追って行くと迷いなく建物の外へ出た。従業員一同が追ってきて車に乗る刃斬に挨拶をするが彼は一切応えなかった。

 …あれ? なんか兄貴怒ってるのかな。

 兄貴の後に俺も車に乗り込むとすぐにドアが閉ざされて発車した。兄貴は長い足を組んでからすぐに何処かへ電話を掛け始める。

『あと五分で突入しろ。…ああ、黒だ。全部ひっくり返して来い』

 突入? 黒?

『お疲れ様です。例の店は黒でした。…はい、今実行部隊に連絡をして突撃の合図も出しました。これから数軒寄ってから戻ります。

 …ええ。良い子にして座ってますよ、目も隠した方が良かったかもしれませんね』

 前半の報告はピリピリした雰囲気だったのに最後のは少し穏やかな口調だ。一体なんの話なんだろうと終始疑問に思っていたが、そんな俺の矮小わいしょうな頭を兄貴が再び撫でくり回す。

 やめろ、禿げちゃうだろ。

『宋平。これから数軒、店を回るが車からは降りねぇ。だがお前はこれから回るとこの違和感があれば後で俺に教えな。

 良いな?』

『違和感…? はい、わかりました…』

 なんだ? 違和感て…まぁ、なんか感じ取ったら兄貴に伝えれば良いんだ。

 それから街のあちこちを巡って来たが本当に車からは降りずに数秒間停車してからまた出発を繰り返した。兄貴は仕切りにスマホを弄るからよく酔わないなぁ、と感心していたがやっぱり辛くなったのか後半からは少し目頭を押さえ始めていた。

 そんなこんなで小一時間。着替えとドライブだけをして俺たちはアジトに帰って来た。

『で? ウチの可愛い末弟は、何を咥えて帰って来たわけだ』

 どうしてこうなった。

 アジトに戻ったら兄貴に連れられ、例の左のエレベーターに乗ってボスルームに押し込まれてしまった。ボスは俺の姿を見てから少し笑い、椅子からソファへとわざわざ移ってきた。

 そんなに服に着られてる感あったか…?

『っ、ごめんなさい…』

 白紙のメモ帳をテーブルに置いてから両手を膝の上に置いて肩をすくめる。

 …なんにもわからなかった。統一性もないし客層もバラバラ、これといった違和感なんて皆無。いやあったのかもしれないが俺にも何一つわからない。

 怒られてしまうと身構えていたのに、隣に座っていた刃斬は何故か肩を震わせていて…恐る恐る見上げたボスは真っ直ぐと俺を見ていたが、その顔に怒りはなくむしろ笑みすら浮かべている。

『…そうか』

 え? なに…、なんで二人して笑ってるの?

『宋平。実は今のはお前の体質を調べる為の調査だ。どの程度のものか把握したかったんだが、

 …お前本物なんだな』



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