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懐
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『あはっ、あひーっ!! ひゃひゃひゃ!!』
『っ~そこっ、うるさい! 笑うな意地悪アニキ!!』
ボスに抱えられてアジトに戻るとロビーで鉢合わせた猿石が固まること数秒。後に腹を抱えて笑い出しこちらを指差すのだ。
何を言いたいかわかるぞ、チクショー!!
『…騒ぐな』
だってボスゥ!!
『アイツが笑ってんのはお前じゃねェ。俺を笑ってんだ。だからお前は気にすんな』
『…え?』
ボスを笑ってる? いやそんな馬鹿なと思うが、冗談を言っているような雰囲気ではない。
笑う男は遂に転がり回り、周囲の兄貴たちにゲシゲシと容赦なく蹴られ始める。哀れな。
『刃斬。連中は』
『既に処理班によって回収済みです。出処を叩いて参りますので少々お待ちください』
知らない単語が飛び交う会話に全然入れずにいたが、何処かへ行こうとしていた刃斬が思い出したように俺の頭を撫でてから数人の部下を連れて違う出口に向かって行ってしまう。
ボスに抱っこされた俺はそのまま私室まで連れて行かれ、ソファにようやく降ろしてもらった。
『刃斬が帰ったら送らせるから、それまで待ってろ。生憎と専属の運転手も別件で出払ってる』
覚さんも今日は違う仕事なんだ。運転手の覚さんがする仕事って…偉い人を迎えに行く、とか?
『風呂行ってくるから…、あんまウロチョロすんなよ。トイレはそこだ』
『うっ。わかりました…。あの、ボス…着物、汚しちゃってごめんなさい』
涙と鼻水つけて申し訳ありません本当にごめんなさい。
『構わねェよ。最後に涎まで垂らさなかったのはむしろ褒めてやらァ』
『…俺は赤ちゃんじゃないんですからね』
クツクツと喉を鳴らして笑うボスは手の甲で俺の頬に触れてから奥にあるらしいお風呂に行ってしまった。完全に見えなくなった部屋の主人。
勿論俺は部屋を全力で探検したとも。
『とは言っても勝手に扉や引き出しは開けられないし、ドラマみたいに変な資料見てお前は…知り過ぎた、とか言われて始末されたくないしなぁ』
ガチのヤクザだしなぁ、この人たち。
普通にあり得るんだよな。
『…これ座り心地良さそうだな』
そんな中で唯一目を付けたのが、いつもボスが座っている社長椅子。革張りでピカピカの椅子はボスが座ることでより完璧な存在となる。
『ちょっと座るくらいなら大丈夫か?』
そっと座らせてもらった社長椅子。だけどそれは思っていたより奥行きがあり座ると同時に吸い込まれるような不思議な感覚で驚いた。しかもフワフワな生地で座り心地は最高。多分三時間映画とか座りながら見ても尻は痛くならないと思う。
『す、すげーっ!!』
興奮していたら足が変なところを押したのか、ゆっくりと足置きまで出て来て完全なるリラックスモード。
『…これがボスの見てる景色かー…』
ぐるりと部屋を見渡すとなんだか胸が擽ったくなる。こんなことで彼に近付けるわけないのに、座っただけで満足するなんて愚かだ。
だけど、此処にいれば必ずボスが帰って来る。
『んー…なんか、眠たくなって、きた』
お風呂だしまだ暫くは帰って来ないだろうとそのまま椅子に身体を横にして眠る。その僅か一分後に半裸でお風呂から出て来たボスに見つかるとは夢にも思っていなかった。
カシャ。
不意に聞こえたシャッター音らしきもの。身動ぎした身体に何かが掛けられ、暖かくてまたすぐに寝入ってしまった。
『おーまーえーはーッ!! おら起きろ!』
なに?! なに!!
夢を見ていた気がする。忘れたけど、なんか幸せだったのを覚えている。だけど耳元で響いた声に驚き起き上がると椅子で寝ていたのを忘れて落ちそうになるのを抱えられる。
『ったく! 何処の世界に上司の椅子を奪ってソファで仕事させる奴がいるんだよ』
『おい、うるせェ…。テメェの声が一番迷惑だ』
『すみません』
あの人の声だ。
誰かに床に下ろされると何故か手に持っていた羽織りらしきものを抱えてヨロヨロと歩き出し、未だ何かを話す人の所へ行く。思考が定まらないが兎に角近くに行きたい一心で歩くとその人がいるソファの横に座ってクタリと身体を預ける。
『宋平…? 寝てやがる…』
『コイツまたっ』
『黙ってろ』
眠たい。なんでだろうな、あんなに眠たくても眠れない日々が嘘みたいだ。
『寝たんなら起こすなよ。顔色見て気付かなかったのか。そいつ寝不足だ』
『猿石テメェ、いつ入って…、あ? 寝不足?』
熱を感じる腕にしがみ付き離れないで欲しいと切に願う。お願いだ。絶対に涎とか垂らしたりしないから。
『昼寝さそうとしてもダメだった。責任持って寝かしてやれよ、どうせなんかの仕事中に嫌なことでもあって眠れなくなったんだろ』
『何を根拠に…。仕事中っても…あ。あー、アレか。あん時のか…』
誰かが俺を指差す。
化け物と、指を差す。
何度も言われた。何度だって語られた。みんなと違うと言われ続けた。それを否定してくれるのは一部だけ。大多数に否定されようと、肯定してくれるのは少数の家族。
でも。
…その、少数も…失ったら。
『宋平』
遠くで声が聞こえる。人の声なんて聞きたくないのに、その人の声はやけに耳に馴染む。
『間違えんなよ。お前はウチが…弐条が預かった。この俺の庇護下にお前はいる』
…俺が、護られてるってこと…?
バランサーの俺が? 庇護下?
『俺が欲しくて、お前を受け入れた』
ほしい?
うけいれた?
『お前だから、欲しかったんだぜ? …わかったならもう少し寝てろ』
わからない。あなたは知らないかもしれないけど、俺は最強の性別を持つ者だ。世界で数例しかいない。この国で俺以前にいたのはもう百年以上前だって聞いたんだ。その証拠にバランサーなんて数が少な過ぎて今では都市伝説レベル。一般には存在すら公開されない。
そんな希少種のバランサーが好き勝手に生きていけるのは、本当に最強だからなんだ。
…そしてあなたを騙しているんだ。
『今は、あの頃よりずっと欲しいなァ』
嬉しいのに悲しい。こんな気持ちを得たのは、初めてだ。
優しく頭を撫でられて幸せな気持ちのまま久しぶりに眠った気がする。寝たのか寝てないのかわからない睡眠ばかり繰り返していたのに、今はスッキリと目覚めることが出来た。
目が覚めたのは真っ暗な部屋で、だけどなんだか知っている匂いがする場所。ベッドから降りる時に足に掛け布団が絡まって落ちてしまった。
『起きたか。…大丈夫か?』
『ぁ、れ? ボス…?』
え? なんで俺…、ちょっと待てよ? 確かお風呂に行ったボスを見送って、それから。それからなんかあった気がするけど、あれは夢か?
『どっか痛めたのか…? 悪ィ、扉は開けとくべきだったな』
まだ混乱する頭を捻っているとヒョイと抱き上げられて部屋の外に出る。男子高校生を軽々と抱える腕は存外太く、筋肉質でしっかりしていた。出て来たのはかなり奥に設置された仮眠室だったようで少し歩けばよく見るボスの部屋に出る。
ソファには刃斬と猿石がいて、俺が連れて来られた姿を見ると刃斬がテキパキと帰る支度を整えてくれている。
…あれ? いつもならこの辺で、ボスに迷惑掛けるなって小言が飛んでくるのに変だな…。
『ソーヘー。お前すげぇなぁ』
『凄いのはアニキだろ、そんなにダラけて。腹出てるぞ全く』
伸び伸びと横になる彼の長い足がソファから飛び出ている。捲れ上がった服を直してやると手が伸びてお腹に猿石の腕が回った。
戯れるな戯れるな。
『宋平、送ってやるから帰るぞ』
『はぁい。アニキ放す』
『えぇ~やだぁ』
子どもみたいにくっ付く猿石。試しに顎の辺りを撫でてみたら少し擽ったかったようだが、気に入ったのか更にグイグイと擦り寄ってきた。
猫ちゃんかよ。
『ソーヘーも此処に住めば良いのに』
『また来ますから。…じゃあ、今度はアニキが迎えに来てくださいよ。ね? 待ってますから』
『オレがぁ? …ふーん、まぁ良いけど』
納得したのか腹から腕を解いてのそのそとソファで体勢を変える猿石。挨拶をするとやる気のなさそうな手の振り方をされて苦笑い。
『弁当箱は洗っておいた。後、三日後にスーツ来るから学校終わる時間連絡しとけ、合わせるからな。
…後処理はしたが少し赤いか』
目が赤い?
刃斬が頬に手を当ててから親指で目元に触れる。変な時間に寝たせいかと納得していると今度は後ろからボスが来て首をクイ、と上に向けた。
ぐわっ?!
『赤ェな。…待ってろ』
奥の部屋に行って何かを取りに行ったボスだが、そんなことよりも俺は強面イケメンとミステリアスな儚げ美丈夫にサンドイッチにされた衝撃が抜けない。
し、心臓に悪いんですけど。
『変な時間に寝たからな。寝れなくなったら持ってろ。寝てる間、離さなかったから良い塩梅なんだろォよ』
手に持っていたものが広げられ、そっと俺に羽織らせたのはえんじ色の綺麗な羽織だ。明らかに高そうなそれを断ろうとしたのに、それよりも先に刃斬に肩を掴まれ有無を言わさずエレベーターまで連れて行かれてしまった。
そして車の助手席へ乗せられ車は走り、十八時過ぎに家の近くに降ろされた。
『家入るとこまで見ててやるから早よ入れ』
『…もー。そこまでしなくても…』
『お前はちったぁ危機感を持ちやがれ。スマホは持ったな?』
ちゃんとスマホを掲げればドアが開かれ、家の中に入る手前。丁度家の前をゆっくりと通る刃斬の兄貴に手を振れば早く入れと手を払う仕草をしている。
その日。
案の定、寝る時間になっても目が冴えた俺だったが試しにボスがくれた羽織を抱きしめたらスヨスヨと呆気なく眠りに落ちてしまうのだった。
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『っ~そこっ、うるさい! 笑うな意地悪アニキ!!』
ボスに抱えられてアジトに戻るとロビーで鉢合わせた猿石が固まること数秒。後に腹を抱えて笑い出しこちらを指差すのだ。
何を言いたいかわかるぞ、チクショー!!
『…騒ぐな』
だってボスゥ!!
『アイツが笑ってんのはお前じゃねェ。俺を笑ってんだ。だからお前は気にすんな』
『…え?』
ボスを笑ってる? いやそんな馬鹿なと思うが、冗談を言っているような雰囲気ではない。
笑う男は遂に転がり回り、周囲の兄貴たちにゲシゲシと容赦なく蹴られ始める。哀れな。
『刃斬。連中は』
『既に処理班によって回収済みです。出処を叩いて参りますので少々お待ちください』
知らない単語が飛び交う会話に全然入れずにいたが、何処かへ行こうとしていた刃斬が思い出したように俺の頭を撫でてから数人の部下を連れて違う出口に向かって行ってしまう。
ボスに抱っこされた俺はそのまま私室まで連れて行かれ、ソファにようやく降ろしてもらった。
『刃斬が帰ったら送らせるから、それまで待ってろ。生憎と専属の運転手も別件で出払ってる』
覚さんも今日は違う仕事なんだ。運転手の覚さんがする仕事って…偉い人を迎えに行く、とか?
『風呂行ってくるから…、あんまウロチョロすんなよ。トイレはそこだ』
『うっ。わかりました…。あの、ボス…着物、汚しちゃってごめんなさい』
涙と鼻水つけて申し訳ありません本当にごめんなさい。
『構わねェよ。最後に涎まで垂らさなかったのはむしろ褒めてやらァ』
『…俺は赤ちゃんじゃないんですからね』
クツクツと喉を鳴らして笑うボスは手の甲で俺の頬に触れてから奥にあるらしいお風呂に行ってしまった。完全に見えなくなった部屋の主人。
勿論俺は部屋を全力で探検したとも。
『とは言っても勝手に扉や引き出しは開けられないし、ドラマみたいに変な資料見てお前は…知り過ぎた、とか言われて始末されたくないしなぁ』
ガチのヤクザだしなぁ、この人たち。
普通にあり得るんだよな。
『…これ座り心地良さそうだな』
そんな中で唯一目を付けたのが、いつもボスが座っている社長椅子。革張りでピカピカの椅子はボスが座ることでより完璧な存在となる。
『ちょっと座るくらいなら大丈夫か?』
そっと座らせてもらった社長椅子。だけどそれは思っていたより奥行きがあり座ると同時に吸い込まれるような不思議な感覚で驚いた。しかもフワフワな生地で座り心地は最高。多分三時間映画とか座りながら見ても尻は痛くならないと思う。
『す、すげーっ!!』
興奮していたら足が変なところを押したのか、ゆっくりと足置きまで出て来て完全なるリラックスモード。
『…これがボスの見てる景色かー…』
ぐるりと部屋を見渡すとなんだか胸が擽ったくなる。こんなことで彼に近付けるわけないのに、座っただけで満足するなんて愚かだ。
だけど、此処にいれば必ずボスが帰って来る。
『んー…なんか、眠たくなって、きた』
お風呂だしまだ暫くは帰って来ないだろうとそのまま椅子に身体を横にして眠る。その僅か一分後に半裸でお風呂から出て来たボスに見つかるとは夢にも思っていなかった。
カシャ。
不意に聞こえたシャッター音らしきもの。身動ぎした身体に何かが掛けられ、暖かくてまたすぐに寝入ってしまった。
『おーまーえーはーッ!! おら起きろ!』
なに?! なに!!
夢を見ていた気がする。忘れたけど、なんか幸せだったのを覚えている。だけど耳元で響いた声に驚き起き上がると椅子で寝ていたのを忘れて落ちそうになるのを抱えられる。
『ったく! 何処の世界に上司の椅子を奪ってソファで仕事させる奴がいるんだよ』
『おい、うるせェ…。テメェの声が一番迷惑だ』
『すみません』
あの人の声だ。
誰かに床に下ろされると何故か手に持っていた羽織りらしきものを抱えてヨロヨロと歩き出し、未だ何かを話す人の所へ行く。思考が定まらないが兎に角近くに行きたい一心で歩くとその人がいるソファの横に座ってクタリと身体を預ける。
『宋平…? 寝てやがる…』
『コイツまたっ』
『黙ってろ』
眠たい。なんでだろうな、あんなに眠たくても眠れない日々が嘘みたいだ。
『寝たんなら起こすなよ。顔色見て気付かなかったのか。そいつ寝不足だ』
『猿石テメェ、いつ入って…、あ? 寝不足?』
熱を感じる腕にしがみ付き離れないで欲しいと切に願う。お願いだ。絶対に涎とか垂らしたりしないから。
『昼寝さそうとしてもダメだった。責任持って寝かしてやれよ、どうせなんかの仕事中に嫌なことでもあって眠れなくなったんだろ』
『何を根拠に…。仕事中っても…あ。あー、アレか。あん時のか…』
誰かが俺を指差す。
化け物と、指を差す。
何度も言われた。何度だって語られた。みんなと違うと言われ続けた。それを否定してくれるのは一部だけ。大多数に否定されようと、肯定してくれるのは少数の家族。
でも。
…その、少数も…失ったら。
『宋平』
遠くで声が聞こえる。人の声なんて聞きたくないのに、その人の声はやけに耳に馴染む。
『間違えんなよ。お前はウチが…弐条が預かった。この俺の庇護下にお前はいる』
…俺が、護られてるってこと…?
バランサーの俺が? 庇護下?
『俺が欲しくて、お前を受け入れた』
ほしい?
うけいれた?
『お前だから、欲しかったんだぜ? …わかったならもう少し寝てろ』
わからない。あなたは知らないかもしれないけど、俺は最強の性別を持つ者だ。世界で数例しかいない。この国で俺以前にいたのはもう百年以上前だって聞いたんだ。その証拠にバランサーなんて数が少な過ぎて今では都市伝説レベル。一般には存在すら公開されない。
そんな希少種のバランサーが好き勝手に生きていけるのは、本当に最強だからなんだ。
…そしてあなたを騙しているんだ。
『今は、あの頃よりずっと欲しいなァ』
嬉しいのに悲しい。こんな気持ちを得たのは、初めてだ。
優しく頭を撫でられて幸せな気持ちのまま久しぶりに眠った気がする。寝たのか寝てないのかわからない睡眠ばかり繰り返していたのに、今はスッキリと目覚めることが出来た。
目が覚めたのは真っ暗な部屋で、だけどなんだか知っている匂いがする場所。ベッドから降りる時に足に掛け布団が絡まって落ちてしまった。
『起きたか。…大丈夫か?』
『ぁ、れ? ボス…?』
え? なんで俺…、ちょっと待てよ? 確かお風呂に行ったボスを見送って、それから。それからなんかあった気がするけど、あれは夢か?
『どっか痛めたのか…? 悪ィ、扉は開けとくべきだったな』
まだ混乱する頭を捻っているとヒョイと抱き上げられて部屋の外に出る。男子高校生を軽々と抱える腕は存外太く、筋肉質でしっかりしていた。出て来たのはかなり奥に設置された仮眠室だったようで少し歩けばよく見るボスの部屋に出る。
ソファには刃斬と猿石がいて、俺が連れて来られた姿を見ると刃斬がテキパキと帰る支度を整えてくれている。
…あれ? いつもならこの辺で、ボスに迷惑掛けるなって小言が飛んでくるのに変だな…。
『ソーヘー。お前すげぇなぁ』
『凄いのはアニキだろ、そんなにダラけて。腹出てるぞ全く』
伸び伸びと横になる彼の長い足がソファから飛び出ている。捲れ上がった服を直してやると手が伸びてお腹に猿石の腕が回った。
戯れるな戯れるな。
『宋平、送ってやるから帰るぞ』
『はぁい。アニキ放す』
『えぇ~やだぁ』
子どもみたいにくっ付く猿石。試しに顎の辺りを撫でてみたら少し擽ったかったようだが、気に入ったのか更にグイグイと擦り寄ってきた。
猫ちゃんかよ。
『ソーヘーも此処に住めば良いのに』
『また来ますから。…じゃあ、今度はアニキが迎えに来てくださいよ。ね? 待ってますから』
『オレがぁ? …ふーん、まぁ良いけど』
納得したのか腹から腕を解いてのそのそとソファで体勢を変える猿石。挨拶をするとやる気のなさそうな手の振り方をされて苦笑い。
『弁当箱は洗っておいた。後、三日後にスーツ来るから学校終わる時間連絡しとけ、合わせるからな。
…後処理はしたが少し赤いか』
目が赤い?
刃斬が頬に手を当ててから親指で目元に触れる。変な時間に寝たせいかと納得していると今度は後ろからボスが来て首をクイ、と上に向けた。
ぐわっ?!
『赤ェな。…待ってろ』
奥の部屋に行って何かを取りに行ったボスだが、そんなことよりも俺は強面イケメンとミステリアスな儚げ美丈夫にサンドイッチにされた衝撃が抜けない。
し、心臓に悪いんですけど。
『変な時間に寝たからな。寝れなくなったら持ってろ。寝てる間、離さなかったから良い塩梅なんだろォよ』
手に持っていたものが広げられ、そっと俺に羽織らせたのはえんじ色の綺麗な羽織だ。明らかに高そうなそれを断ろうとしたのに、それよりも先に刃斬に肩を掴まれ有無を言わさずエレベーターまで連れて行かれてしまった。
そして車の助手席へ乗せられ車は走り、十八時過ぎに家の近くに降ろされた。
『家入るとこまで見ててやるから早よ入れ』
『…もー。そこまでしなくても…』
『お前はちったぁ危機感を持ちやがれ。スマホは持ったな?』
ちゃんとスマホを掲げればドアが開かれ、家の中に入る手前。丁度家の前をゆっくりと通る刃斬の兄貴に手を振れば早く入れと手を払う仕草をしている。
その日。
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