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5.灰紅の交渉
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私に用意されたのは、最北にある部屋だった。
ダークブラウン色のカーテンは部屋をより暗くみせている。
元々物置だったのか、部屋の隅には段ボールに入れられた荷物が残されていた。
「モナリーン様。できるだけ片付けたのですが」
「大丈夫よ。メアリー。ありがとう。今日はもう下がっていいわ」
メアリーは、一礼をして部屋から出て行った。
疲れ切った私は、白のドレスを着たままベッドに横になった。
『僕が守るよ』
あの日、婚約したばかりの彼が約束してくれた。
目を閉じて、想いを馳せると温かく幸せを感じたあの日の事を思い出せる。
でも、、、
今日の彼は、険しい表情をしていた。なんだか人が変わってしまったようだ。
そんなはずはない。
私はずっと彼の為に、、、
ガイグロア王国で、執務と時間に追われる日々が始まった。クロアは学院へ通い執務室に顔を出す事がない。膨大な量の仕事は全てモナリーンに振り分けられた。貴族会議や諸外国との交渉、書類仕事だけでなく、徐々に王がすべき全ての仕事をモナリーンが行うようになった。
モナリーンがガイグロア王国へ嫁いできてから3年が経った。祖国の父王からは何度も帰ってくるように連絡が届く。侍女メアリーが、父王へガイグロア国でのモナリーンの現状を伝えているのだろう。モナリーンは帰るつもりはなかった。クロアを愛している。約束したのだ。一生支え続けると。今年はクロアが成人する。正式に結婚したらクロアの態度も変わるはずだ。そう思っていた。
ガイグロア王国は、大陸東端の小国になる。背後には広大な帝国領土が広がり、山林部が国の大部分を占め、食料を含め資源の多くを輸入に頼っていた。数年前に皇帝が変わって、帝国は毎年のように輸出入品への増税が続いている。新しい取引相手として、海運業を営む流亜会と交渉をする事になった。流亜会は、数年前に頭角を現した会社だが、急激に流通域を広げ、海に面するほとんどの国に交流域を持つようになった。彼らとの交渉がうまく纏まれば、輸入品の多くが半値で取引ができるようになる。絶対にまとめたい交渉だった。
交渉テーブルについた流亜会の代表者は若い男性だった。
灰黒色の髪に、猛禽類の瞳を思わせる紅眼の整った面立ちをしている。すらりとした筋肉質な体は隙がなく一緒の部屋にいるだけで、緊迫感が伝わってくる。背後に立つ顔に傷跡がある壮年の男性も一因しているのだろうか。
「初めまして。ガイグロア国王妃のモナリーンです。」
私は自己紹介をして、握手をしようと手を差し出した。
目の前の男性は、その手を不満そうに睨みつけ言った。
「流亜会のジークだ。」
私の手は握られる事がなかった。
(絶対まとめなければならない交渉なのに、厳しいかもしれないわ。多少条件を緩めてもいい。もうこれ以上の圧税は耐えられないわ。今年の冬はもしかしたら餓死者が出るかもしれない)
私は、差し出した手を戻し言った。
「他国と同じように我が国も帝国からの輸出入の重税に悩んでいます。流亜会では、多くの穀物を扱っていると聞きます。我が国は、あなた方からできるだけ多くの資源を買い入れたいと思っています。」
私は丁寧に提案をしているつもりだった。だが話せば話すほど、ジークの表情が険しくなり不機嫌になっていく。
「利益は1割、いいえ3割の取っていただいてもかまいません」
「王妃。それでは、わが国の買い取り金額が、相手はただの商会です。」
隣の補佐官が小声で伝えてくる。
私は、隣の補佐官の発言を片手で押さえ留めた。
(絶対にこの交渉をまとめなければならない。帝国はさらなる増税を予定している。多少金額が増えたとしても彼らから購入する方がまだいい)
ジークは、私だけを見つめながら言った。
「利益は無くていい。だが条件がある」
「あんたが、ガイグロア王と離婚する事だ」
紅い瞳が私を喰いつくすように睨みつけていた。
ダークブラウン色のカーテンは部屋をより暗くみせている。
元々物置だったのか、部屋の隅には段ボールに入れられた荷物が残されていた。
「モナリーン様。できるだけ片付けたのですが」
「大丈夫よ。メアリー。ありがとう。今日はもう下がっていいわ」
メアリーは、一礼をして部屋から出て行った。
疲れ切った私は、白のドレスを着たままベッドに横になった。
『僕が守るよ』
あの日、婚約したばかりの彼が約束してくれた。
目を閉じて、想いを馳せると温かく幸せを感じたあの日の事を思い出せる。
でも、、、
今日の彼は、険しい表情をしていた。なんだか人が変わってしまったようだ。
そんなはずはない。
私はずっと彼の為に、、、
ガイグロア王国で、執務と時間に追われる日々が始まった。クロアは学院へ通い執務室に顔を出す事がない。膨大な量の仕事は全てモナリーンに振り分けられた。貴族会議や諸外国との交渉、書類仕事だけでなく、徐々に王がすべき全ての仕事をモナリーンが行うようになった。
モナリーンがガイグロア王国へ嫁いできてから3年が経った。祖国の父王からは何度も帰ってくるように連絡が届く。侍女メアリーが、父王へガイグロア国でのモナリーンの現状を伝えているのだろう。モナリーンは帰るつもりはなかった。クロアを愛している。約束したのだ。一生支え続けると。今年はクロアが成人する。正式に結婚したらクロアの態度も変わるはずだ。そう思っていた。
ガイグロア王国は、大陸東端の小国になる。背後には広大な帝国領土が広がり、山林部が国の大部分を占め、食料を含め資源の多くを輸入に頼っていた。数年前に皇帝が変わって、帝国は毎年のように輸出入品への増税が続いている。新しい取引相手として、海運業を営む流亜会と交渉をする事になった。流亜会は、数年前に頭角を現した会社だが、急激に流通域を広げ、海に面するほとんどの国に交流域を持つようになった。彼らとの交渉がうまく纏まれば、輸入品の多くが半値で取引ができるようになる。絶対にまとめたい交渉だった。
交渉テーブルについた流亜会の代表者は若い男性だった。
灰黒色の髪に、猛禽類の瞳を思わせる紅眼の整った面立ちをしている。すらりとした筋肉質な体は隙がなく一緒の部屋にいるだけで、緊迫感が伝わってくる。背後に立つ顔に傷跡がある壮年の男性も一因しているのだろうか。
「初めまして。ガイグロア国王妃のモナリーンです。」
私は自己紹介をして、握手をしようと手を差し出した。
目の前の男性は、その手を不満そうに睨みつけ言った。
「流亜会のジークだ。」
私の手は握られる事がなかった。
(絶対まとめなければならない交渉なのに、厳しいかもしれないわ。多少条件を緩めてもいい。もうこれ以上の圧税は耐えられないわ。今年の冬はもしかしたら餓死者が出るかもしれない)
私は、差し出した手を戻し言った。
「他国と同じように我が国も帝国からの輸出入の重税に悩んでいます。流亜会では、多くの穀物を扱っていると聞きます。我が国は、あなた方からできるだけ多くの資源を買い入れたいと思っています。」
私は丁寧に提案をしているつもりだった。だが話せば話すほど、ジークの表情が険しくなり不機嫌になっていく。
「利益は1割、いいえ3割の取っていただいてもかまいません」
「王妃。それでは、わが国の買い取り金額が、相手はただの商会です。」
隣の補佐官が小声で伝えてくる。
私は、隣の補佐官の発言を片手で押さえ留めた。
(絶対にこの交渉をまとめなければならない。帝国はさらなる増税を予定している。多少金額が増えたとしても彼らから購入する方がまだいい)
ジークは、私だけを見つめながら言った。
「利益は無くていい。だが条件がある」
「あんたが、ガイグロア王と離婚する事だ」
紅い瞳が私を喰いつくすように睨みつけていた。
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