14 / 19
生家
しおりを挟む
イリーナは、微笑みながら母と妹を見た。
1年にも満たない間にグロッサー男爵家は、没落し荒れ果てていた。
雑草が生い茂る庭に、手入れされていない屋敷。そんな中で、目の前の母ルチア・グロッサーと妹のルアンナ・グロッサーだけが異様な存在だった。食事も満足に食べられていないのか肌が荒れ、青白い二人は、それでも沢山の宝石を身に着けて、豪華なドレスを着ている。
あまりにも、屋敷の現状と彼女たちの姿がそぐわない。
(一度手に入れた贅沢を手放しさえすれば、楽に暮らせるはずなのに。)
イリーナは、連れてきた二人の屈強な護衛と共に、懐かしい屋敷の中へ入って行った。
母のルチアは、顔を顰めイリーナを睨みつけている。妹ルアンナは、かなり痩せたようだった。
イリーナは言った。
「先ほど伝えた通り、私が経営するリム商会がグロッサー貿易会社の株式を買い占めました。今後は、私がグロッサー貿易会社の経営者となります。」
母は言った。
「そんな事はあり得ないわ。貴方はグロッサー男爵家から追放されたのよ。その貴方が経営者になるなんて!」
イリーナは言う。
「まさか、乗っ取りを想定されないまま、あんなに膨大な量の株を売却されたのですか?」
母は言った。
「それは、、、とにかく、返しなさい。グロッサー貿易会社は貴方の物ではないわ。株を買い占めて経営者になると言うのなら、返して頂戴。イリーナ!」
「お母様。そもそもグロッサー貿易会社は父が大きくして私が引き継ぐ予定だったのです。本来の主を迎えるだけですわ。貴方の意見は、もう関係ありません。」
母は言った。
「そうやって、私を、、、私を排除しようとするのね。その銀の髪、暗い瞳、あの人にそっくりだわ。冷たく残酷な所だって!私は愛していたのよ!なのに、私を拒絶したから悪いのよ。貴方が私を受け入れてくれさえいたら!」
イリーナは戸惑う。
母が誰に対して怒っているのかが分からない。
イリーナではない、他の誰かに対して訴えているようだった。
「お母様?あの人って、、、、、」
ドーーーーン
その時、屋敷のドアが開き、数人の黒ずくめの男達が押し入ってきた。
5人程の黒ずくめ男達を二人の護衛が必死に押しとどめようとする。
だが、護衛は切りつけられ倒れてしまった。
「キャアーーー」
入り口付近にいた母や妹は逃げようとした所を後ろから切られ、蹲っている。
数人の男達は、イリーナを指さし言った。
「銀髪の娘だ。あれがターゲットだ。」
(私?どうして私を、、、、)
イリーナは後ずさり部屋の隅へ追い詰められ、恐怖に震えた。
(もうダメだわ。私が、復讐なんて考えていなければ、自分の境遇を受け入れていれば、こんな事にならなかったかもしれない。ああ、オージン、貴方に気持ちを伝えたかった。)
イリーナは、死を覚悟して瞳を閉じた。
「イリーナ!」
その時、オージンの声が聞こえた。
キーン、ドタ、ドタ、バタン。
イリーナがゆっくり目を開けると、そこには倒れた黒ずくめの男達と、オージンがいた。オージンの後ろの数人の兵士は、黒ずくめの襲撃者を捕えているようだった。
「オージンなの?」
イリーナは、声をかける。
「無事でよかった。イリーナ。」
オージンは、微笑んで言った。
イリーナは、興奮した勢いで、オージンへ抱き着き伝えた。
「オージン。貴方の事を愛している。好きなの。私、貴方の事が、、、もうダメかと思ったわ。」
オージンは、イリーナを強く抱きしめ返して言った。
「イリーナ。嬉しいよ。君が無事でよかった。」
捕らえられた黒ずくめの男達は取り調べで『皇妃』に雇われたと口を割った。オージン・マクラビアン公爵子息と自分の娘を婚約させる為だとしたら、行き過ぎた皇妃の行動に気味悪さを感じる。
まさか命が狙われるなんて思っていなかった。
皇妃とは一度も話をした事がない。
理由が分からない。
母のルチア・グロッサーと、妹のルアンナ・グロッサーは、体に刀傷を受けた。特に妹は酷く落ち込んでいる様子だと聞く。現在は王立救護院に入院して手当てを受けているらしい。グロッサー貿易会社はリム商会が買収し、母と妹の生活費は底をついたはずだった。
イリーナは、住み慣れたグロッサー男爵家を眺める。荒れ果てた生家に残った宝飾品を売り、母と妹の治療費と生活費に充てる事にした。嫌がるグロッサー貿易会社の職員へ母と妹の世話を任せて、イリーナはオージンと共に帝国へ再び行く事にした。
確認しなければならない。憔悴する母からイリーナは本当の父親について聞いた。父親は信じられない相手だった。
皇妃に立ち向かわなければ、
もう2度と、不本意に奪われたりしたくない。
私には愛している人がいる。
愛する人との未来を守るのだ。
イリーナは馬車に揺られ、帝国へ向かった。
窓から見える深緑の木々が移ろい流れていく。生きているように風に吹かれ移動する雲。
太陽の光を浴び、煌めく川に沿って馬車は移動していた。
同じ馬車に乗るオージンは、言った。
「怖くないの?イリーナ?相手は皇妃だ。」
イリーナは返事をする。
「ええ、貴方と一緒だから、怖くないわ。愛している。オージン。」
オージンは、イリーナの手を握りしめて言った。
「君の事は絶対に守るよ。たとえ相手が皇帝だったとしてもね。」
1年にも満たない間にグロッサー男爵家は、没落し荒れ果てていた。
雑草が生い茂る庭に、手入れされていない屋敷。そんな中で、目の前の母ルチア・グロッサーと妹のルアンナ・グロッサーだけが異様な存在だった。食事も満足に食べられていないのか肌が荒れ、青白い二人は、それでも沢山の宝石を身に着けて、豪華なドレスを着ている。
あまりにも、屋敷の現状と彼女たちの姿がそぐわない。
(一度手に入れた贅沢を手放しさえすれば、楽に暮らせるはずなのに。)
イリーナは、連れてきた二人の屈強な護衛と共に、懐かしい屋敷の中へ入って行った。
母のルチアは、顔を顰めイリーナを睨みつけている。妹ルアンナは、かなり痩せたようだった。
イリーナは言った。
「先ほど伝えた通り、私が経営するリム商会がグロッサー貿易会社の株式を買い占めました。今後は、私がグロッサー貿易会社の経営者となります。」
母は言った。
「そんな事はあり得ないわ。貴方はグロッサー男爵家から追放されたのよ。その貴方が経営者になるなんて!」
イリーナは言う。
「まさか、乗っ取りを想定されないまま、あんなに膨大な量の株を売却されたのですか?」
母は言った。
「それは、、、とにかく、返しなさい。グロッサー貿易会社は貴方の物ではないわ。株を買い占めて経営者になると言うのなら、返して頂戴。イリーナ!」
「お母様。そもそもグロッサー貿易会社は父が大きくして私が引き継ぐ予定だったのです。本来の主を迎えるだけですわ。貴方の意見は、もう関係ありません。」
母は言った。
「そうやって、私を、、、私を排除しようとするのね。その銀の髪、暗い瞳、あの人にそっくりだわ。冷たく残酷な所だって!私は愛していたのよ!なのに、私を拒絶したから悪いのよ。貴方が私を受け入れてくれさえいたら!」
イリーナは戸惑う。
母が誰に対して怒っているのかが分からない。
イリーナではない、他の誰かに対して訴えているようだった。
「お母様?あの人って、、、、、」
ドーーーーン
その時、屋敷のドアが開き、数人の黒ずくめの男達が押し入ってきた。
5人程の黒ずくめ男達を二人の護衛が必死に押しとどめようとする。
だが、護衛は切りつけられ倒れてしまった。
「キャアーーー」
入り口付近にいた母や妹は逃げようとした所を後ろから切られ、蹲っている。
数人の男達は、イリーナを指さし言った。
「銀髪の娘だ。あれがターゲットだ。」
(私?どうして私を、、、、)
イリーナは後ずさり部屋の隅へ追い詰められ、恐怖に震えた。
(もうダメだわ。私が、復讐なんて考えていなければ、自分の境遇を受け入れていれば、こんな事にならなかったかもしれない。ああ、オージン、貴方に気持ちを伝えたかった。)
イリーナは、死を覚悟して瞳を閉じた。
「イリーナ!」
その時、オージンの声が聞こえた。
キーン、ドタ、ドタ、バタン。
イリーナがゆっくり目を開けると、そこには倒れた黒ずくめの男達と、オージンがいた。オージンの後ろの数人の兵士は、黒ずくめの襲撃者を捕えているようだった。
「オージンなの?」
イリーナは、声をかける。
「無事でよかった。イリーナ。」
オージンは、微笑んで言った。
イリーナは、興奮した勢いで、オージンへ抱き着き伝えた。
「オージン。貴方の事を愛している。好きなの。私、貴方の事が、、、もうダメかと思ったわ。」
オージンは、イリーナを強く抱きしめ返して言った。
「イリーナ。嬉しいよ。君が無事でよかった。」
捕らえられた黒ずくめの男達は取り調べで『皇妃』に雇われたと口を割った。オージン・マクラビアン公爵子息と自分の娘を婚約させる為だとしたら、行き過ぎた皇妃の行動に気味悪さを感じる。
まさか命が狙われるなんて思っていなかった。
皇妃とは一度も話をした事がない。
理由が分からない。
母のルチア・グロッサーと、妹のルアンナ・グロッサーは、体に刀傷を受けた。特に妹は酷く落ち込んでいる様子だと聞く。現在は王立救護院に入院して手当てを受けているらしい。グロッサー貿易会社はリム商会が買収し、母と妹の生活費は底をついたはずだった。
イリーナは、住み慣れたグロッサー男爵家を眺める。荒れ果てた生家に残った宝飾品を売り、母と妹の治療費と生活費に充てる事にした。嫌がるグロッサー貿易会社の職員へ母と妹の世話を任せて、イリーナはオージンと共に帝国へ再び行く事にした。
確認しなければならない。憔悴する母からイリーナは本当の父親について聞いた。父親は信じられない相手だった。
皇妃に立ち向かわなければ、
もう2度と、不本意に奪われたりしたくない。
私には愛している人がいる。
愛する人との未来を守るのだ。
イリーナは馬車に揺られ、帝国へ向かった。
窓から見える深緑の木々が移ろい流れていく。生きているように風に吹かれ移動する雲。
太陽の光を浴び、煌めく川に沿って馬車は移動していた。
同じ馬車に乗るオージンは、言った。
「怖くないの?イリーナ?相手は皇妃だ。」
イリーナは返事をする。
「ええ、貴方と一緒だから、怖くないわ。愛している。オージン。」
オージンは、イリーナの手を握りしめて言った。
「君の事は絶対に守るよ。たとえ相手が皇帝だったとしてもね。」
1,109
あなたにおすすめの小説
思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する
ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。
その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。
シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。
皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。
やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。
愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。
今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。
シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す―
一部タイトルを変更しました。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
完結 この手からこぼれ落ちるもの
ポチ
恋愛
やっと、本当のことが言えるよ。。。
長かった。。
君は、この家の第一夫人として
最高の女性だよ
全て君に任せるよ
僕は、ベリンダの事で忙しいからね?
全て君の思う通りやってくれれば良いからね?頼んだよ
僕が君に触れる事は無いけれど
この家の跡継ぎは、心配要らないよ?
君の父上の姪であるベリンダが
産んでくれるから
心配しないでね
そう、優しく微笑んだオリバー様
今まで優しかったのは?
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる