[完結]奪ってもいいでしょうか?[R18]

仲 奈華 (nakanaka)

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T.奪ってもいいでしょうか?

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タリムは焦っていた。あの忌々しい兄から奪った女と連絡が取れない。従順だと思っていた婚約者からも婚約破棄を告げられ、父王が兄を王城へ呼び戻してしまった。もうすぐ俺が王太子に選ばれるはずなのに、上手くいっていたのに、急にいろいろな歯車が狂い始めた。







タリムは、マキシアム王国第2王子として生を受けた。前王妃アナリリスが第一王子出産直後に王城で殺害された。タリムの母ナリミアは、アナリリスと共に王妃候補として教育を受けてきた才女だった。アナリリスの死後すぐに、ナリミアが王妃に選ばれた。

王も、議会も、貴族達も初めは国母となったナリミア王妃に好意的だった。清楚で慎ましいナリミア王妃。第一王子の世話をしながら、自身も王子を産み育てる。だれもがナリミア王妃の事を褒めたたえていた。

タリムが5歳の時、兄が王城からいなくなった。城内が酷く騒がしかった事を覚えている。兄は殺されかけたらしい。黒髪で整った顔立ちの兄と、タリムは殆ど交流が無かった。兄はいつも塔から出てこない。母だけが塔に入り、兄の世話をしていた。

兄を殺そうとしたのは、母のナリミア王妃だったらしい。

そう知らされたのは、タリムが10歳になる時だった。

兄は王城から姿を消した。第一王子の命を守る為、どこかの貴族へ養子に出されたらしい。母も必死に兄の所在を探しているらしいが、どこに兄がいるのか分からなかった。

兄の所在を知っている父王は、常に兄の成績とタリムを比較してきた。

第一王子は剣術大会で優勝した。第一王子は学院の成績が常にトップでとても優秀だ。第一王子は、学術誌で学会長賞を取った。

それに比べて、第2王子のお前は…

父が、母ナリミア王妃の事を疑っている事をタリムは薄々感じ取っていた。
父王と、母はもう何年もまともに会話をしていない。

父は、兄王子とタリムを比べて、タリムを貶める事で、王子を城から出さなければいけなかった鬱憤を母とタリムにぶつけてきているようだった。
王子として、男としてタリムも、必死に鍛錬を積もうとした。優秀な家庭教師をつけられ、夜遅くまで勉強をする。

だけど、どうしても剣術も、成績も伸び悩む。優秀だと言われる兄には遠く及ばない。

父は会う度に、兄とタリムを比較し、失望した目を向けてくる。

お前など決して王太子に選ばれるはずがないと言われているようだった。




母のナリミア王妃が、ロザリー・グロッサー公爵令嬢を婚約者に選んできた。グロッサー公爵家は、マキシアム王国で最も力がある貴族になる。ロザリー公爵令嬢が妻になるならば、国の半分の貴族の支持を得る事ができる。王太子はタリムに決まったようなものだった。

王子を名乗る事をやめた兄は、女嫌いらしい。父王が必死に養子先の貴族と共に婚約者を選んでいるようだが、何度も破談になっていると聞く。

結婚も、子供もできない王子など、王太子に選ばれるはずがない。



だが、学院を卒業し、城で働き始めた兄に婚約者が出来たらしい。

青髪の美しい娘ルーナ・ギブソン。相手は子爵令嬢だ。取るに足りない相手だと分かっている。だけど、タリムは危機感を募らせた。もし、兄が結婚したら、子供が出来たら。優秀な兄は既に宰相補佐として頭角を現し、もうすぐ副宰相へ出世すると聞く。王子の身分を隠しているはずなのに、優秀だと噂になっている。

兄には何も敵わない。王太子に選ばれるのは自分のはずなのに、不安が付きまとう。

父から認められない鬱憤を、母からのプレシャーを、忘れるようにタリムは女達と毎晩のように遊んでいた。女達に囲まれて、遊んでいる時だけは、兄への劣等感を忘れられるような気がした。

ある日、何人もの貴族子女を集めた乱交パーティで、青髪の美しい娘が近づいてきた。彼女はルーナ・ギブソンと名乗った。兄の婚約者に選ばれた女性だ。タリムはチャンスだと思った。

あの優秀な兄から、父から賞賛される兄から、タリムがどうしても勝つことが出来ない兄から奪ってやるのだ。兄の唯一の婚約者を奪ってしまえば、彼奴は王太子に選ばれる事がない。もう何度も婚約破棄を繰り返し、やっと得た婚約者のルーナ・ギブソン子爵令嬢。

「ルーナ・ギブソン?とてもかわいいね」

「ありがとうございます。タリム様」

「君さえよかったら、向こうの部屋へ一緒にいかないか?楽しい事をしよう」

乱交パーティでは、すでに沢山のカップルが体を合わせている。タリムは、目の前のルーナの腰に手を当て、引き寄せた。

「ふふふ。タリム様。ロザリーはいいのですか?」

ルーナは、タリムに近寄り体に手を当て撫で上げながら言う。

「あのつまらない女の事は口にするな。僕は君みたいな可愛くて楽しめる子が好きだ。ここに毎晩来てもいい。欲しい物は何でも与えてあげるよ。ルーナ」

「ふふふふ。つまらない女。ロザリーがかわいそう。ふふふ」

ルーナは、タリムに抱き着いてきて、甘く口づけをしてきた。

(兄に勝った。この女は俺の物だ。国も、地位、女も全て兄から奪ってやる。幾ら優秀でも、父から認められたとしても関係ない。俺が次の国王だ)

タリムは、ルーナに覆いかぶさり、何度も何晩も、ルーナと体を繋げ合わせた。ルーナは、どの女よりも恍惚とした表情で、悶え喜びタリムに何度も愛を囁いてくる。

何もかも上手くいく。

そう思っていたのだ。




ある日、婚約者のロザリー・グロッサーが尋ねてきた。長い金髪を美しく結い上げ、複雑な刺繍が施された最高級のドレスを着てタリムの居城に現れた彼女は、依然見た時より美しく妖艶になった気がした。

もうすぐ彼女と結婚する事になる。

高貴で従順な妻と、奔放で何度も愛を告げてくる愛人。婚約者のロザリーは、とても美しい。愛人達と一緒に彼女と愛し合う日をタリムは想像してニタリと笑った。

ロザリーは、タリムに向かって言った。

「タリム様。お久しぶりですわ。」

「ああ、ロザリー。君も元気そうだね。珍しく頬が赤いようだ。化粧でも変えたのか?」

「いいえ。ただ少し…ふふふ。タリム様に伝えたい事があってきましたの。神宝ってご存じでしょうか?」

「神宝?確か父が、兄と私に伝えてきた事がある。国を治める者が持つ宝だと」

「そうですわ。その神宝の事です。その神宝を持つ者は、強力な守護魔法の恩恵を受けるそうですわ。国王になるタリム様にこそ相応しい宝だと思いませんか?」

「そう、君の言うとおりだ。もうすぐ私達は結婚する。そうなれば私が王太子に選ばれ、すぐに神宝を手にする事になるだろう」

「いいえ、それでは遅いですわ。すぐにでも神宝を手に入れないと。」

「ロザリー?何を言っている。ただの迷信だろ。焦る必要など、」

「滅んだミンティア国の残党が、わが国を狙っているのです。タリム様も襲われるかもしれません。もしあなたが死んでしまったら、なにもかもおしまいです。神宝さえ持っていれば、守護の魔法で安全が保障されるのですよ。タリム様は直ぐにでも手に入れる必要がありますわ。そうでしょう」

「守護の魔法?もし、兄が父から譲り受けたら」

「タリム様が、王太子に選ばれるべきです。神宝を決して第一王子にも、王にも渡してはなりません」

「そうだな。神宝か。父が厳重に保管している。だが、それさえ手に入れたら」

「王になれますわ。神さえ侵略できない強固な国の素晴らしい王に」

タリムの両手を持ち、微笑みながら父王から神宝を奪ってこいというロザリーの瞳はギラギラと輝いていた。










タリムは、父王の宝物庫へ侵入し、最奥に設置されている星形のペンダントを手に取り居城に戻った。どう見ても、ただの星形の古いペンダントだ。これにそんな力があるなんて信じられない。だが、もし本当ならもう2度と兄に劣等感を抱く事も、兄の存在に怯える事もないだろう。

だが、手に入れたと思った神宝は無くなってしまった。あの日、女達と楽しんでいる部屋に乱入してきたロザリー・グロッサー公爵令嬢はタリムに婚約破棄を告げてきた。凡庸なタリムが、優秀な兄を出し抜いて王太子に選ばれる為にはロザリーとの婚約がどうしても必要なのに、神宝を失った日からロザリーはタリムからの連絡を全て無視する。

兄から奪ったはずのルーナ・ギブソンは、マクスフェア侯爵家へ行ってから帰ってこない。なんどもルーナに連絡を取ろうとするが、ルーナの所在が分からない。伝令を送っても、手紙を送ってもルーナから返事がない。そもそもマクスフェア侯爵家は兄の存在を守る為に、徹底的な秘密主義を貫いている貴族だ。兄は婚約者を溺愛していると噂があり、ルーナが捕らえられたという事はないはずだが、タリムは不安を感じていた。


神宝を失った父が、兄をマキシアム城へ呼び戻してしまった。


副宰相の地位を自力で得て、数十人の屈強な護衛を連れ、兄は亡くなったアナリリス元王妃の離宮に滞在している。母のナリミア王妃が、殺意を込めて睨みつけても、表情一つ変えない。




もう、あれを、手に入れるしかない。

武術も、能力も兄にはかなわない。公爵令嬢との婚約は破棄寸前で、兄から奪ったはずの女とは連絡が取れない。神宝を奪った罪をきせたはずのルーナの妹は行方不明になり、父王からの信頼は失落した。任された職務もなく、女達と遊びすぎて貴族からの評判も良くない。

あれを、神宝を手に入れて、兄より優位に立つしか、タリムには手だてがなかった。







マキベリー商会で開催されるアマリリスチャリティーオークションに神宝が競売にかけられるらしい。

タリムは、ふくよかな体に耐える重量級の馬車に乗り、オークション会場へ向かった。

絶対に奪い返してやる。神宝さえ手に入れたなら、婚約者も、愛人も、父からの信頼も、王位への道も何もかも手に入る。タリムは、そう強く思っていた。
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