女神は推考する

仲 奈華 (nakanaka)

文字の大きさ
17 / 21
第一章

衰弱

しおりを挟む
実兄の大兄王子が、新しい大王に選ばれた。
兄には、既に数人の皇子や皇女が産まれている。中でも厩戸皇子は神童として、才覚を表していた。
だけど、兄と私の母は妃で、皇后ではない。正式な嫡男は正妻の皇子でなければいけない。亡くなった夫の嫡男は、あの広姫の息子の広彦皇子と、私の竹田皇子と幼い尾張皇子になる。兄の次の大王は、私の竹田皇子が選ばれるはず。そう思っていた。

兄は、大王になってからよく体調を崩すようになった。
蘇我出身の母を持ち、正妻も蘇我一族の姫を娶っている兄に対して、蘇我以外の豪族の目が厳しい。今では国で一番影響力がある蘇我一族だが、ただの豪族である事には変わりがない。

兄は、蘇我と他の豪族に挟まれて上手く纏め上げる事ができていないようだった。








兄の調子が悪いと聞き、私は兄を尋ねて行った。

兄は窶れ、眼の下には隈ができていた。

私は兄に声をかける。
「兄様。お加減はいかがでしょうか?」

大兄大王は私を見て言った。
「額田部。すまない。もう私は、大王を続けれそうにない。私は大王の器ではなかった。」

私は、兄に言った。
「何をおっしゃいます。兄様。まだ頑張っていただかないと、皇子達はどうなります。お願いです。兄様。」

大兄大王は言う。
「額田部。蘇我はやりすぎた。蘇我への恨みはどんどん強くなっている。それに、穴穂部は蘇我を裏切ったようだ。守屋と手を組みなにやら企んでいる。あいつはお前に執着していた。気を付けろ。」

兄の手はやせ細り骨と皮だけになっていた。
食事も満足に取れていないらしい。

私は、兄の手を両手で持ち上げ、頭をつけて懇願する。
「本当に、もう無理なのでしょうか?」

兄は、かすかに微笑み言った。
「すまない。額田部。私の子供達を頼む。蘇我の叔父は信用できない。太后である其方にしか頼めない。」

私は、目を潤ませながら頷いた。


結局、兄は2年間大王の位につき亡くなった。亡くなる前の半年間、体調を崩した兄は、蘇我の叔父に政を任せて療養の為に本宮を離れた。

殯宮で、私を助けてくれた三輪逆は、穴穂部皇子と、物部守屋に殺された。

政を私物化する蘇我一族と、穴穂部皇子を援助する物部一族との対立が明確化していた。




大王の地位を争う戦争になる。




もし、穴穂部皇子が大王になったら、、、

その事を想像して私は震えた。

守らないといけない。私の皇子や皇女を。








たとえ、幼馴染の従弟を殺す事になったとしても、、、、
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...