女神は推考する

仲 奈華 (nakanaka)

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第一章

縁談

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異母弟の泊瀬部皇子が新しい大王となった。泊瀬部大王は就任後しばらくして私を訪ねてきた。
「太后様、相談がございます。」

私はにこやかに泊瀬部大王に挨拶をする。
「大王。相談とは?なんの事でしょう?」

泊瀬部大王は言った。
「縁談が来ております。嫁いでいただきたい。」

私は驚き返事をする。
「まあ、縁談とは?我が皇女はまだ幼く、、、」

泊瀬部大王は言う。
「いえ、太后様、縁談の申し込み相手は貴方様です。広彦皇子から申し入れがありました。今の大王は私です。太后様の力はもう必要ありません。」

私は否定する。
「まさか!広彦皇子は私にとっては義息子になるのですよ。婚姻なんて出来るはずがありません。」

泊瀬部大王は言う。
「嫁を相続する事はよくある事でしょう。なにを驚かれるのですか?こんなにいい縁談はありませんぞ。蘇我の叔父は、なにかにつけて太后様から承認を得ていると口にします。ただの豪族が、大王である私に意見するなんて気分が悪い。貴方が宮を離れたら、叔父も少し大人しくなるでしょう。」

私は驚く。
どうやら叔父である蘇我馬子と大王は意見の食い違いがあるらしい。だが、そんな事より、、、

私は言った。
「私の子供達はどうなります。竹田皇子はまだ歩けそうにありませぬ。子供達はまだ小さい。私がここを離れるわけにはいきませぬ。」

泊瀬部大王は言う。
「貴方の子供は、広彦皇子にとっても異母兄弟でしょう。連れていかれては、、、、」

私は泊瀬部大王を見て言った。
「貴方なら、迎え入れますか?兄弟を、それが敵対するものであったとしても、、、」

泊瀬部大王は、同母兄弟である穴穂部皇子と仲違いしていた。友に食事を取ったのは何年も前だと聞く。

泊瀬部大王は言った。
「そうですね。私が大王になりましたが、広彦皇子と竹田皇子は大王の座をかけて対立していたはずです。自分を追い出した太后を嫁に迎えたいなんて、なにか裏があるに違いない。」

私は、頷く。

泊瀬部大王は言う。
「いいでしょう。ですがここに残られるなら、蘇我の叔父ではなく、私の味方になっていただきたい。太后様を慕っている家臣は多い。よろしく頼みますよ。」

私は、安堵しながら微笑み言った。
「もちろんです。大王。私も皇族の一員です。大王を支持いたします。」

息子の竹田皇子は、戦から帰ってから一命を取り留めたものの、徐々に弱ってきているようだ。

あんな状態の息子や、幼い子供達をつれて広姫の息子の元へ嫁ぐわけにはいかない。広彦皇子は、きっと広姫と同じように私の事を恨んでいるだろう。


広姫が産まれたばかりの竹田皇子を殺そうとした時の事を思い出し、私は身震いをした。


私の子供達を守らなければ、、、、
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