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アーバン商会会長は決心した。
姪のラミアを父親に会わせてやろう。
例えそれが、異母妹であるルナリーの意向と違ったとしても。
マイク・アーバンは、アーバン商家の跡取りとして生を受けた。
母親は、マイクが2歳の時に家を出て行った。マイクを産んだのも、夫に強請られたからで、母は子供が欲しくなかったと周囲へ漏らしていたらしい。
マイク・アーバンは母親に捨てられたのだ。
マイクは、父やアーバン商会で働く多くの人達に育てられた。父は穏やかな人物で、マイクにとても優しかった。多忙な父は外出する事が多かったが、休みの日はマイクとよく遊んでくれた。マイクにとって親と言う存在は父親の事を示していた。
父は、マイクが8歳になり、学業やスポーツクラブに忙しくしている時、よく外出するようになった。父が言うには恋人ができたから、マイクに新しい母親ができるかもしれないと言うのだ。
マイクは、新しい母親が欲しいとは思わなかった。母という存在がいた事が無く父さえいれば十分だと思っていた。
結局、父は結婚しなかった。時折、外出し恋人と会ってきたと言う事があったが、一向にアーバン商会へ連れてくる気配がない。父に確認すると、プロポーズをしたが断られたと悲しそうに言った。マイクの異母妹になる娘を恋人が産んだらしい。父さえも一度も会った事がない異母妹の名前はルナリーと言うと父は話していた。
マイクは、父の発言を疑った。アーバン商会は国内で最大の商会だ。その商会長となると資産は貴族をも上回る程の額を持つ。そんなアーバン商会長の妻になる事を断る女性が存在するとは思わなかった。
父は、マイクの母が家から出て行った時は、数日落ち込んでいたらしい。妄想の妻と娘を作るほど寂しかったのかと、マイクは父に同情した。
そんな、マイクが18歳の時、父の恋人と異母妹が実在する事を知った。表のアーバン商会の跡取りとして、父と共に裏ギルドを尋ねた時だった。案内された裏ギルドの部屋で会ったのは、父の恋人と異母妹だった。
父の恋人は裏ギルド長の跡取り娘で、表のアーバン商会へ嫁ぐことができない存在だったらしい。仲睦まじい父と恋人の姿は、長い年月を感じさせた。
異母妹は父にそっくりだった。黒髪で茶髪の娘は、素朴な顔立ちをしている。美人でも不細工でもなく、特徴がはっきりとしない顔立ちだが、眼や耳の形、髪の色等要所要所で父の遺伝子を引き継いでいる事がはっきりと分かる。
マイクは本当に、父の恋人と異母妹が存在した事に驚いた。
それから、裏ギルドへ定期的に訪れる度に、異母妹と会った。
異母妹のルナリーは凄腕の裏ギルド員らしく、成人前には実母の実力を抜いており、次期ギルド長になるとも言われていた。
マイク・アーバンは、20歳半ば頃から、父親に変わってアーバン商会の仕事を引き継いでいた。
商会で知り合った妻とも結婚し、子供も産まれた。
マイクは、自分が与えられなかった揃った両親の愛情を我が子に与えてやりたいと思っていた。幸いな事に妻とは仲が良い。
マイクは子供が出来て初めて、幼い時、母親がいなくて寂しかったと気がついた。我が子は、よく笑い元気に大きくなっている。
ふと、異母妹を思い出す。異母妹のルナリーは、マイクとは逆で父親にずっと会えなかった。
いくら裏ギルド長の跡取りと言っても、なんとかならなかったのかとマイクは思っていた。
そんなある日、異母妹から連絡があった。
ライル・オーガンジス侯爵と結婚したいから手伝って欲しいと言うのだ。病で伏せる事が多くなっていた父は喜んだ。一生表に出てこないと思っていた娘が侯爵と結婚するというのだ。式や披露宴も上げ、侯爵夫人になるらしい。
マイクも、ほっとした。異母妹の子供は、両親が揃った侯爵家で大事に育てられる事になるだろう。自分や異母妹のように片親で寂しい幼少期を過ごさなくていいはずだ。
異母妹やこれから生まれてくる子供の為に、マイクは、できるだけの事をしようと心に決めた。
だが、異母妹が結婚した後、しばらくして父が亡くなり、父の恋人が後を追うようになくなってから雲行きが怪しくなった。
裏ギルド長は、高齢だ。情報を取りまとめる裏ギルドが機能していないのか、正確な情報が回ってこない事が多くなった。
奔放な第一王子の行動を把握しきれず、隣国との関係が怪しくなっている時に、情報の不全は致命的だった。
遂に裏ギルド長は、ルナリーを呼び戻す事にしたらしい。
ルナリーがライル・オーガンジス侯爵と結婚してからも、メアリージェンという女がライルと恋人関係を続け、オーガンジス侯爵家をマクベラ夫人と共に支配しているのは周知の事実だった。
異母妹が上手くいかない結婚生活に見切りをつける事も必要だろうと、マイクは思っていた。
ライル・オーガンジス侯爵と離婚し、下町へ帰った異母妹は妊娠していた。
異母妹が裏ギルド長を継ぎ、すぐに隣国との問題は解決した。オーガンジス侯爵家に居座るメアリージェンとマクベラ夫人を追い出す確実な情報を渡してきた異母妹の能力にマイクは感心した。
異母妹は、裏ギルド長を名乗りながらライルとの子供をひっそりと産んだ。
マイクは姪を見るたびに、後悔が押し寄せてくる。
ルナリーが離婚した時は、それが最善だと思ったが、父親に一度も会う事ができない姪はとても可愛く、不憫だ。
姪が泣く度に、父親がいなくて寂しがっているのかもしれないと、マイクはふと思う。
マイクは自分の子供がとても可愛い。今では子供がいない生活なんて考えられない。
だが、ルナリーを必死に探しているライル・オーガンジス侯爵は自分の子供がいる事さえ知らないのだ。
相変わらず何度も尋ねてくるライル・オーガンジス侯爵と話をしていた時に、異母妹の事を忘れた方がいいと助言した。
何が琴線に触れたのか、ライル・オーガンジス侯爵は裏ギルド長がルナリーに関係ある事に気が付いてしまったらしい。
その後、問い詰められたマイク・アーバン商会会長は、決心した。
強情な異母妹を説得しようと。
異母妹のルナリーが何故あそこまで頑ななのかは分からない。ルナリーが希望した結婚は呆気なく破綻した。まるで、初めから妊娠さえすれば離婚するつもりだったかのように。
両親が揃う家庭はマイクの夢だった。姪に辛い思いはしてほしくない。
ライル・オーガンジス侯爵は、頼んでくる。
「お願いです。ルナリーと合わせてください。」
マイク・アーバン商会会長は言った。
「ええ、私もそれがいいと思います。それに異母妹には娘がいます。貴方との子供です。」
ライルは驚き、マイクを見る。
「まさか。なぜ、、、、、、、裏ギルドとの取引か!」
どうやら、身に覚えがあるらしい。
マイクは言った。
「異母妹は一筋縄ではいきません。だが、私にも伝がある。先に姪に会ってみますか?」
ライル・オーガンジス侯爵は頷いた。
マイクは、前裏ギルド長に相談した。
ルナリーの祖母も、離婚の事について罪悪感を持っていたらしい。ルナリーは、ライルを愛していた。離婚してもルナリーはライルに会いに行くだろうと思っていたらしい。
だが、離婚後ルナリーは頑なにライルを避けている。ルナリーの祖母も困惑していた。
ルナリーの祖母が連れてきた、もうすぐ3歳になるラミアとライル・オーガンジス侯爵は秘密裏に対面した。
輝く金髪、整った顔立ち。二人はとても良く似ていた。
ラミアは、何かを感じたのかライルに近づき、笑っている。
ライル・オーガンジス侯爵は涙ぐんでいた。
ラミアはライルに近づき、その手を撫でながら声をかけた。
「いたーい。いたーい。ないないの。」
ライルは言う。
「ありがとう。ありがとう。ラミア。」
数十分だけの対面だったが、マイクは自分の事のように満足感を感じていた。
物心がついた時から1度も会った記憶がないマイクの母は、10年前に亡くなっている。もし、母が死ぬ前に会えたなら、マイクから歩み寄る事ができただろうか?もうマイクの母の事はいい。だが、異母妹や姪には、後悔がないように生きて欲しい。
前ギルド長に手を引かれ帰ろうとする異母妹へマイクは声をかけた。
「ラミア。今日はどうだった。」
ラミアは笑って言った。
「たのちかった。またあいたい。」
マイクは姪へ言った。
「そうだね。また会えるといいな。でも、今日の事は秘密だから誰にも言ったら駄目だよ。」
ラミアは言う。
「ひみつってなあに?」
マイクは言った。
「ひみつは難しいね。
じゃあ、ラミア。
忘れてくれ。
もっと遊べるようになるからね。」
ラミアは不思議そうに笑って言った。
「ラミア。わすれたよ。」
そうだ。いい子だ。ラミア。異母妹のルナリーに、今は知られるわけにはいかない。
だからラミア。
今日の事は忘れてください。
マイクは、姪のラミアの金髪をそっと撫でた。
姪のラミアを父親に会わせてやろう。
例えそれが、異母妹であるルナリーの意向と違ったとしても。
マイク・アーバンは、アーバン商家の跡取りとして生を受けた。
母親は、マイクが2歳の時に家を出て行った。マイクを産んだのも、夫に強請られたからで、母は子供が欲しくなかったと周囲へ漏らしていたらしい。
マイク・アーバンは母親に捨てられたのだ。
マイクは、父やアーバン商会で働く多くの人達に育てられた。父は穏やかな人物で、マイクにとても優しかった。多忙な父は外出する事が多かったが、休みの日はマイクとよく遊んでくれた。マイクにとって親と言う存在は父親の事を示していた。
父は、マイクが8歳になり、学業やスポーツクラブに忙しくしている時、よく外出するようになった。父が言うには恋人ができたから、マイクに新しい母親ができるかもしれないと言うのだ。
マイクは、新しい母親が欲しいとは思わなかった。母という存在がいた事が無く父さえいれば十分だと思っていた。
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マイクは、父の発言を疑った。アーバン商会は国内で最大の商会だ。その商会長となると資産は貴族をも上回る程の額を持つ。そんなアーバン商会長の妻になる事を断る女性が存在するとは思わなかった。
父は、マイクの母が家から出て行った時は、数日落ち込んでいたらしい。妄想の妻と娘を作るほど寂しかったのかと、マイクは父に同情した。
そんな、マイクが18歳の時、父の恋人と異母妹が実在する事を知った。表のアーバン商会の跡取りとして、父と共に裏ギルドを尋ねた時だった。案内された裏ギルドの部屋で会ったのは、父の恋人と異母妹だった。
父の恋人は裏ギルド長の跡取り娘で、表のアーバン商会へ嫁ぐことができない存在だったらしい。仲睦まじい父と恋人の姿は、長い年月を感じさせた。
異母妹は父にそっくりだった。黒髪で茶髪の娘は、素朴な顔立ちをしている。美人でも不細工でもなく、特徴がはっきりとしない顔立ちだが、眼や耳の形、髪の色等要所要所で父の遺伝子を引き継いでいる事がはっきりと分かる。
マイクは本当に、父の恋人と異母妹が存在した事に驚いた。
それから、裏ギルドへ定期的に訪れる度に、異母妹と会った。
異母妹のルナリーは凄腕の裏ギルド員らしく、成人前には実母の実力を抜いており、次期ギルド長になるとも言われていた。
マイク・アーバンは、20歳半ば頃から、父親に変わってアーバン商会の仕事を引き継いでいた。
商会で知り合った妻とも結婚し、子供も産まれた。
マイクは、自分が与えられなかった揃った両親の愛情を我が子に与えてやりたいと思っていた。幸いな事に妻とは仲が良い。
マイクは子供が出来て初めて、幼い時、母親がいなくて寂しかったと気がついた。我が子は、よく笑い元気に大きくなっている。
ふと、異母妹を思い出す。異母妹のルナリーは、マイクとは逆で父親にずっと会えなかった。
いくら裏ギルド長の跡取りと言っても、なんとかならなかったのかとマイクは思っていた。
そんなある日、異母妹から連絡があった。
ライル・オーガンジス侯爵と結婚したいから手伝って欲しいと言うのだ。病で伏せる事が多くなっていた父は喜んだ。一生表に出てこないと思っていた娘が侯爵と結婚するというのだ。式や披露宴も上げ、侯爵夫人になるらしい。
マイクも、ほっとした。異母妹の子供は、両親が揃った侯爵家で大事に育てられる事になるだろう。自分や異母妹のように片親で寂しい幼少期を過ごさなくていいはずだ。
異母妹やこれから生まれてくる子供の為に、マイクは、できるだけの事をしようと心に決めた。
だが、異母妹が結婚した後、しばらくして父が亡くなり、父の恋人が後を追うようになくなってから雲行きが怪しくなった。
裏ギルド長は、高齢だ。情報を取りまとめる裏ギルドが機能していないのか、正確な情報が回ってこない事が多くなった。
奔放な第一王子の行動を把握しきれず、隣国との関係が怪しくなっている時に、情報の不全は致命的だった。
遂に裏ギルド長は、ルナリーを呼び戻す事にしたらしい。
ルナリーがライル・オーガンジス侯爵と結婚してからも、メアリージェンという女がライルと恋人関係を続け、オーガンジス侯爵家をマクベラ夫人と共に支配しているのは周知の事実だった。
異母妹が上手くいかない結婚生活に見切りをつける事も必要だろうと、マイクは思っていた。
ライル・オーガンジス侯爵と離婚し、下町へ帰った異母妹は妊娠していた。
異母妹が裏ギルド長を継ぎ、すぐに隣国との問題は解決した。オーガンジス侯爵家に居座るメアリージェンとマクベラ夫人を追い出す確実な情報を渡してきた異母妹の能力にマイクは感心した。
異母妹は、裏ギルド長を名乗りながらライルとの子供をひっそりと産んだ。
マイクは姪を見るたびに、後悔が押し寄せてくる。
ルナリーが離婚した時は、それが最善だと思ったが、父親に一度も会う事ができない姪はとても可愛く、不憫だ。
姪が泣く度に、父親がいなくて寂しがっているのかもしれないと、マイクはふと思う。
マイクは自分の子供がとても可愛い。今では子供がいない生活なんて考えられない。
だが、ルナリーを必死に探しているライル・オーガンジス侯爵は自分の子供がいる事さえ知らないのだ。
相変わらず何度も尋ねてくるライル・オーガンジス侯爵と話をしていた時に、異母妹の事を忘れた方がいいと助言した。
何が琴線に触れたのか、ライル・オーガンジス侯爵は裏ギルド長がルナリーに関係ある事に気が付いてしまったらしい。
その後、問い詰められたマイク・アーバン商会会長は、決心した。
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両親が揃う家庭はマイクの夢だった。姪に辛い思いはしてほしくない。
ライル・オーガンジス侯爵は、頼んでくる。
「お願いです。ルナリーと合わせてください。」
マイク・アーバン商会会長は言った。
「ええ、私もそれがいいと思います。それに異母妹には娘がいます。貴方との子供です。」
ライルは驚き、マイクを見る。
「まさか。なぜ、、、、、、、裏ギルドとの取引か!」
どうやら、身に覚えがあるらしい。
マイクは言った。
「異母妹は一筋縄ではいきません。だが、私にも伝がある。先に姪に会ってみますか?」
ライル・オーガンジス侯爵は頷いた。
マイクは、前裏ギルド長に相談した。
ルナリーの祖母も、離婚の事について罪悪感を持っていたらしい。ルナリーは、ライルを愛していた。離婚してもルナリーはライルに会いに行くだろうと思っていたらしい。
だが、離婚後ルナリーは頑なにライルを避けている。ルナリーの祖母も困惑していた。
ルナリーの祖母が連れてきた、もうすぐ3歳になるラミアとライル・オーガンジス侯爵は秘密裏に対面した。
輝く金髪、整った顔立ち。二人はとても良く似ていた。
ラミアは、何かを感じたのかライルに近づき、笑っている。
ライル・オーガンジス侯爵は涙ぐんでいた。
ラミアはライルに近づき、その手を撫でながら声をかけた。
「いたーい。いたーい。ないないの。」
ライルは言う。
「ありがとう。ありがとう。ラミア。」
数十分だけの対面だったが、マイクは自分の事のように満足感を感じていた。
物心がついた時から1度も会った記憶がないマイクの母は、10年前に亡くなっている。もし、母が死ぬ前に会えたなら、マイクから歩み寄る事ができただろうか?もうマイクの母の事はいい。だが、異母妹や姪には、後悔がないように生きて欲しい。
前ギルド長に手を引かれ帰ろうとする異母妹へマイクは声をかけた。
「ラミア。今日はどうだった。」
ラミアは笑って言った。
「たのちかった。またあいたい。」
マイクは姪へ言った。
「そうだね。また会えるといいな。でも、今日の事は秘密だから誰にも言ったら駄目だよ。」
ラミアは言う。
「ひみつってなあに?」
マイクは言った。
「ひみつは難しいね。
じゃあ、ラミア。
忘れてくれ。
もっと遊べるようになるからね。」
ラミアは不思議そうに笑って言った。
「ラミア。わすれたよ。」
そうだ。いい子だ。ラミア。異母妹のルナリーに、今は知られるわけにはいかない。
だからラミア。
今日の事は忘れてください。
マイクは、姪のラミアの金髪をそっと撫でた。
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