上 下
5 / 55
限界離婚

空の冷蔵庫

しおりを挟む
1階のキッチンへ行くと、そこには義祖母の文がいた。

椅子に座り、テレビを見ている。

文は、鈴奈に気が付き、声をかけてきた。

「鈴ちゃん。来てくれたんだね。ありがとう。」

82歳になる義祖母の文さんは、短い白髪の女性だ。共働きの息子夫婦の為に、丸田家の家事や育児のほとんどを担ってきたらしい。夫の良もお婆さんに育てられたと言っていた。鈴奈は良と結婚して初めて文さんと会った時から、「鈴ちゃん」と義祖母に呼ばれて可愛がられている。文さんは両膝の手術を去年受けたらしい。それから立ち仕事が辛くなったと言っていた。

「御祖母さん。少し買い物に行ってきますね。なにか必要なものはないですか?」

鈴奈は、冷蔵庫や棚の中を開けてみる。今から買い物に行って、献立を考えないといけない。義母は鰻がいいと言っていたが、夫や義父がいないのに、鰻を昼食で食べるつもりはなかった。

冷蔵庫の中は、驚くほど何もなかった。

卵や牛乳でさえない。以前は文が買い物に行き、綺麗に整頓された食材が並んでいたはずだった。

鈴奈は違和感を持った。

文は笑って言った。
「鈴ちゃんが来てくれただけで十分だよ。嬉しいね。お金は足りているかい?これを持ってお行き。」

鈴奈は言った。
「ふふふ。御祖母さん。ありがとうございます。」

鈴奈は、食費を渡されたと思い、財布に入れて息子と買い物へ出かけた。

正直文さんに息子を預けられたらと思ったが、3歳の息子は活発に動き回る。時折、机や椅子の上に登って遊ぼうとする事もあり、足が悪い義祖母に任せるのは心配だった。

「勇くん。お買い物にいこうかな。」

「うん。行く!お菓子!おもちゃ!」

「お菓子は1個だけだよ。お約束。」

「お約束!」

鈴奈は、勇太の手を引いて買い物へ出かけた。
しおりを挟む

処理中です...