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限界離婚≪再≫
再構築
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修は後大脳動脈の脳梗塞と診断された。両側の後頭葉に梗塞がみられている。
修は、未来都市の総合病院へ転院した。
そこでは、再生医療の治験が始まっている。
発症後、間もない脳梗塞患者に神経細胞を再生させるナノサイズの再生物質を注入する。
リハビリと併用する事で、脳神経が活性化され、脳細胞の回復を図る新たな医療だった。
以前参加した、学会で元嫁の麗奈が、再生医療の新しい試みの治験募集を手伝っていると聞き、修はその事を覚えていた。
あいかわらず、修の目の前の世界は崩壊している。
顔が判別できない沢山の人達。
鉛筆と箸さえ、認識できず、食事でさえ介助が必要な状態。
起き上がろうとしても、地面や壁も捻じ曲がっているように見え、上手くバランスがとれない。
院長夫人として自信に満ち触れていた妻の綾乃はだいぶ参っているようだ。
こんな状態だが、修にはまだやるべき事がある。
もとに戻りたい。
その為にはできる事は試してみるつもりだった。
どれだけの事を認識できているか検査が始まった。
物体の認識、文字の認識、表情の認識、形の認識。様々な用紙を見せられ一つ一つ確認される。修にはほとんどの問いに答える事ができなかった。
検査が終わり、修には「物体失認」「失読」「相貌失認」「色彩失認」「構成障害」が生じている事が分かった。
体は動く。
目も見えている。
だけど、見えているものが判別できない。
何もかもが崩壊している。
すぐに未来都市の総合病院で、再生医療の治験が始まった。
毎日点滴を受け、一日3時間のリハビリをする。
積み木の組み合わせ。無数の線と、形を書き移す。実物を触りながら、その名前を答える練習。数字を探す練習。
毎日同じような事をひたすら繰り返す。
何度も何度も、、、、
妻の綾乃は毎日見舞いに来て、できるだけ修に付き添うようになった。
修が人物や物体を認識できていない事を知ると、綾乃が、見舞い客が誰なのか、何が目の前にあるのか、修に伝えてくれるようになった。
半年のリハビリを得て、修の世界は元の形を取り戻しつつあった。
食事が運ばれてくる。
箸がある。
お椀がある。
ご飯が盛られている。
魚に、ほうれんそうの和え物が添えられている。
修は、迷わず箸に手を伸ばし、目の前のご飯を食べだした。
医師からの説明では、相貌失認だけを残し、その他の失認は改善したと説明された。見せられた脳のMRI画像では、右後頭葉の一部に黒い梗塞部位が残っているが、それ以外の部位については灰色の脳が再構築されている。
脳が再生した。
それと共に、修の崩壊した世界も再構築された。
退院後しばらくして、修は医師に復帰した。
非常勤医師として瑠蛇総合病院で診察を請け負っている。
院長の仕事は副院長へ譲り、整形外科長は優秀な甥へ引き継いだ。
仕事中は看護師が、顔が判別できない修をフォローしてくれる。私生活では妻の綾乃が、人と会う時は必ず側にいて目の前の人物が誰か教えてくれるようになった。
もう、修の目の前の世界は崩壊していない。
取り戻した世界で、修は妻へ感謝を伝えた。
「綾乃ありがとう。君のおかげで、よくなったよ。これからもよろしく。」
綾乃は少し涙目で、修に言う。
「ええ、よかったわ。本当に。」
綾乃の顔は、修から見ると認識できないままだ。
だけど、その声や気配で、目の前に最愛の妻がいる事が分かる。
人の顔だけが元に戻らなかった。認識できるようにならなかった。
だがいい。
脳神経は生涯成長する。死ぬまでには、妻の顔をまた認識できるようになるかもしれない。
何度でも感謝を伝えよう。
修は、妻を見て満足そうに笑った。
修は、未来都市の総合病院へ転院した。
そこでは、再生医療の治験が始まっている。
発症後、間もない脳梗塞患者に神経細胞を再生させるナノサイズの再生物質を注入する。
リハビリと併用する事で、脳神経が活性化され、脳細胞の回復を図る新たな医療だった。
以前参加した、学会で元嫁の麗奈が、再生医療の新しい試みの治験募集を手伝っていると聞き、修はその事を覚えていた。
あいかわらず、修の目の前の世界は崩壊している。
顔が判別できない沢山の人達。
鉛筆と箸さえ、認識できず、食事でさえ介助が必要な状態。
起き上がろうとしても、地面や壁も捻じ曲がっているように見え、上手くバランスがとれない。
院長夫人として自信に満ち触れていた妻の綾乃はだいぶ参っているようだ。
こんな状態だが、修にはまだやるべき事がある。
もとに戻りたい。
その為にはできる事は試してみるつもりだった。
どれだけの事を認識できているか検査が始まった。
物体の認識、文字の認識、表情の認識、形の認識。様々な用紙を見せられ一つ一つ確認される。修にはほとんどの問いに答える事ができなかった。
検査が終わり、修には「物体失認」「失読」「相貌失認」「色彩失認」「構成障害」が生じている事が分かった。
体は動く。
目も見えている。
だけど、見えているものが判別できない。
何もかもが崩壊している。
すぐに未来都市の総合病院で、再生医療の治験が始まった。
毎日点滴を受け、一日3時間のリハビリをする。
積み木の組み合わせ。無数の線と、形を書き移す。実物を触りながら、その名前を答える練習。数字を探す練習。
毎日同じような事をひたすら繰り返す。
何度も何度も、、、、
妻の綾乃は毎日見舞いに来て、できるだけ修に付き添うようになった。
修が人物や物体を認識できていない事を知ると、綾乃が、見舞い客が誰なのか、何が目の前にあるのか、修に伝えてくれるようになった。
半年のリハビリを得て、修の世界は元の形を取り戻しつつあった。
食事が運ばれてくる。
箸がある。
お椀がある。
ご飯が盛られている。
魚に、ほうれんそうの和え物が添えられている。
修は、迷わず箸に手を伸ばし、目の前のご飯を食べだした。
医師からの説明では、相貌失認だけを残し、その他の失認は改善したと説明された。見せられた脳のMRI画像では、右後頭葉の一部に黒い梗塞部位が残っているが、それ以外の部位については灰色の脳が再構築されている。
脳が再生した。
それと共に、修の崩壊した世界も再構築された。
退院後しばらくして、修は医師に復帰した。
非常勤医師として瑠蛇総合病院で診察を請け負っている。
院長の仕事は副院長へ譲り、整形外科長は優秀な甥へ引き継いだ。
仕事中は看護師が、顔が判別できない修をフォローしてくれる。私生活では妻の綾乃が、人と会う時は必ず側にいて目の前の人物が誰か教えてくれるようになった。
もう、修の目の前の世界は崩壊していない。
取り戻した世界で、修は妻へ感謝を伝えた。
「綾乃ありがとう。君のおかげで、よくなったよ。これからもよろしく。」
綾乃は少し涙目で、修に言う。
「ええ、よかったわ。本当に。」
綾乃の顔は、修から見ると認識できないままだ。
だけど、その声や気配で、目の前に最愛の妻がいる事が分かる。
人の顔だけが元に戻らなかった。認識できるようにならなかった。
だがいい。
脳神経は生涯成長する。死ぬまでには、妻の顔をまた認識できるようになるかもしれない。
何度でも感謝を伝えよう。
修は、妻を見て満足そうに笑った。
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