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エンド
2.菖蒲
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アヤメは、鬼柳第一病院の特別室へ向かった。
彼に、アヤメ以外の女性がいても大丈夫。
私だけを愛していなくても気にしない。
大事なのは私の気持ちと、これからどうするかだ。
彼の側にいる。結婚する時にそう誓った。
どんなことがあっても、彼を支えていく。その気持ちに変わりがない。
アヤメは、特別室の前に辿り着いた。
自動でドアが開き、明るい病室の中央ベッドに、カエデが眠っていた。
夫にゆっくりと近づいていく。
「カエデ?」
ベッドの側に立ち、アヤメは彼に声をかけた。
彼はゆっくりと目を覚ました。
「アヤメ?ここは?確か示談の為に、ダリアの婚約者に会いに行ったはずなのに」
「もういいの。アケビさんが間違って証言したみたい。私はここにいるわ」
カエデは、体を起こし、アヤメに抱き着いてきた。
「アヤメ。心配したよ。よかった」
アヤメは、彼を抱きしめ返した。
「ええ、貴方も無事でよかったわ」
二人で談笑していると、刑事が訪ねて来た。
カエデが巻き込まれた昨日の事件について聞きたいとの事だった。
「義妹のダリアの婚約者が、土家さんの孫だと知り、彼と示談について相談しようと指定された場所に行きました。奥のドアを開けて進んでいった時、急にスプレーのようなものを吹きかけられて、そこから記憶がありません」
「そのスプレーは現場に残されていました。麻酔薬を霧状にしたものです。スプレーを吹きかけた相手を見ましたか?」
「一瞬の事で、あまり覚えていませんが、女性だったと思います。」
「昨晩、貴方が倒れていた現場には、他に3人の人物がいました。正面玄関で、刺され重傷を負った男性。彼は田中サカキでした。現在は意識不明の重体で集中治療室に入っています。黒髪の小柄な女性は、頭部を強く打ち救急搬送時に一瞬意識を回復し阿地ダリアと名乗りました。彼女があなたの義妹で、田中サカキの婚約者ですね」
「ええ、阿地ダリアは、義理の妹になります」
「わかりました。阿地ダリアさんも、まだ意識が戻らず入院されています。状況によっては開頭手術の検討が必要と言われていました。また医師から説明があるでしょう。もう一人現場に倒れている女性がいました。金髪で下着姿の妊婦です。心当たりがありますか?」
「…分かりません。俺があの建物についた時、誰にも会わなかったと思います。俺にスプレーを吹きかけてきた女性は紫色の服を着ていたと思います。」
「そうですか?阿地ダリアさんが、意識がある時に婚約者の不倫相手を殺そうとしたと言っていたそうです。状況からして彼女がその不倫相手だったかもしれないですね。」
「だったとは?もしかして、その女性は」
「その妊婦は搬送され、緊急帝王切開となりました。胎児は無事に生まれましたが、母親の方は残念ながら…現在彼女の親族を探しています。所持していた身分証明書は偽装された物で、妊婦検診も受けた事が無かったみたいでしてね」
アヤメは、金髪の妊婦と聞き、エリカの事を思い浮かべた。
「その子供はどうなるのでしょうか?」
「母親は亡くなりましたが、父親が生きています。産まれてすぐに田中サカキとのDNA検査をして、親子関係が証明されました。その子については、田中サカキの血縁者である土家アケビさんが引き取る事になりそうです。」
その子の父親は、土家アケビさんの孫らしい。だったら、亡くなった妊婦はエリカではないのだろう。家族もおらず、子供だけを残し一人亡くなった見ず知らずの可哀想な女性を想い、アヤメは彼女の為に黙祷を捧げた。
「ご協力いただき、ありがとうございました。お大事になさってください」
刑事は、病室から出て行った。
ぼんやりと宙を見るカエデの手を、アヤメはそっと握った。
温かい。
彼は確かに生きている。ここに一緒にいる。
信じよう。目の前の彼を。
夫はアヤメの手を握り返し、微笑みかけて来た。
良かった。彼が無事で。また、こうして微笑み合う事ができる。
アヤメは、安堵の笑みを浮べた。
彼に、アヤメ以外の女性がいても大丈夫。
私だけを愛していなくても気にしない。
大事なのは私の気持ちと、これからどうするかだ。
彼の側にいる。結婚する時にそう誓った。
どんなことがあっても、彼を支えていく。その気持ちに変わりがない。
アヤメは、特別室の前に辿り着いた。
自動でドアが開き、明るい病室の中央ベッドに、カエデが眠っていた。
夫にゆっくりと近づいていく。
「カエデ?」
ベッドの側に立ち、アヤメは彼に声をかけた。
彼はゆっくりと目を覚ました。
「アヤメ?ここは?確か示談の為に、ダリアの婚約者に会いに行ったはずなのに」
「もういいの。アケビさんが間違って証言したみたい。私はここにいるわ」
カエデは、体を起こし、アヤメに抱き着いてきた。
「アヤメ。心配したよ。よかった」
アヤメは、彼を抱きしめ返した。
「ええ、貴方も無事でよかったわ」
二人で談笑していると、刑事が訪ねて来た。
カエデが巻き込まれた昨日の事件について聞きたいとの事だった。
「義妹のダリアの婚約者が、土家さんの孫だと知り、彼と示談について相談しようと指定された場所に行きました。奥のドアを開けて進んでいった時、急にスプレーのようなものを吹きかけられて、そこから記憶がありません」
「そのスプレーは現場に残されていました。麻酔薬を霧状にしたものです。スプレーを吹きかけた相手を見ましたか?」
「一瞬の事で、あまり覚えていませんが、女性だったと思います。」
「昨晩、貴方が倒れていた現場には、他に3人の人物がいました。正面玄関で、刺され重傷を負った男性。彼は田中サカキでした。現在は意識不明の重体で集中治療室に入っています。黒髪の小柄な女性は、頭部を強く打ち救急搬送時に一瞬意識を回復し阿地ダリアと名乗りました。彼女があなたの義妹で、田中サカキの婚約者ですね」
「ええ、阿地ダリアは、義理の妹になります」
「わかりました。阿地ダリアさんも、まだ意識が戻らず入院されています。状況によっては開頭手術の検討が必要と言われていました。また医師から説明があるでしょう。もう一人現場に倒れている女性がいました。金髪で下着姿の妊婦です。心当たりがありますか?」
「…分かりません。俺があの建物についた時、誰にも会わなかったと思います。俺にスプレーを吹きかけてきた女性は紫色の服を着ていたと思います。」
「そうですか?阿地ダリアさんが、意識がある時に婚約者の不倫相手を殺そうとしたと言っていたそうです。状況からして彼女がその不倫相手だったかもしれないですね。」
「だったとは?もしかして、その女性は」
「その妊婦は搬送され、緊急帝王切開となりました。胎児は無事に生まれましたが、母親の方は残念ながら…現在彼女の親族を探しています。所持していた身分証明書は偽装された物で、妊婦検診も受けた事が無かったみたいでしてね」
アヤメは、金髪の妊婦と聞き、エリカの事を思い浮かべた。
「その子供はどうなるのでしょうか?」
「母親は亡くなりましたが、父親が生きています。産まれてすぐに田中サカキとのDNA検査をして、親子関係が証明されました。その子については、田中サカキの血縁者である土家アケビさんが引き取る事になりそうです。」
その子の父親は、土家アケビさんの孫らしい。だったら、亡くなった妊婦はエリカではないのだろう。家族もおらず、子供だけを残し一人亡くなった見ず知らずの可哀想な女性を想い、アヤメは彼女の為に黙祷を捧げた。
「ご協力いただき、ありがとうございました。お大事になさってください」
刑事は、病室から出て行った。
ぼんやりと宙を見るカエデの手を、アヤメはそっと握った。
温かい。
彼は確かに生きている。ここに一緒にいる。
信じよう。目の前の彼を。
夫はアヤメの手を握り返し、微笑みかけて来た。
良かった。彼が無事で。また、こうして微笑み合う事ができる。
アヤメは、安堵の笑みを浮べた。
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