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カエデ
4.虹光
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母と共にエレベーターへ乗り込む。
商業施設が併設されている鬼柳タワーの高速エレベーターの電子天井壁画面に数字が映し出されて高速で数が減っていく。虹色の光の洪水が壁に映し出されて異空間にいるような錯覚に陥る。
カエデは、母へ尋ねた。
「鬼柳家に関りがある女性らしいですが、母さんには心当たりがありますか?」
「私には、姉がいたわ。貴方の叔母になるわね。私が鬼柳財閥の後継者に決まった後、彼女は海外旅行中に事故で亡くなったの。もう20年以上前の事だわ。私とあなた以外に鬼柳を名乗る者は存在しないはずよ」
『ドアが開きます』
1階エントランスホールにたどり着き、ドアがゆっくりと開かれた。
高い吹き抜けのエントランスホールの南ガラスから青みがかかった温かい日差しが差し込んできている。白とシルバーを基調とした鬼柳財閥のエントランスホールの中央に、数人の人が集まり、甲高い叫び声を発する女性を取り囲んでいた。
「鬼柳ウメに合わせて。彼女にどうしても伝えたい事があるの」
「落ち着いてください。ここは貴方が騒ぐような場所じゃない」
「私の娘は鬼柳財閥の相続人だわ。私は彼女に会う権利がある。ここを通しなさい!」
中央で叫び声を上げている女性は、杖をつき前かがみの姿勢を取っている。長い黒髪には白髪が混じり、乱雑にまとめられている。皺が目立つシャツと、ゆったりとしたシルエットの紺ズボンを履いていた。
カエデは、彼女が老人だと錯覚した。近づくにつれ、そうではない事がわかる。
母と同年齢か、もしかしたらもっと若いかもしれない。
「母さん。彼女は知っている女性ですか?」
「いいえ。初めて見る人だわ。どうして鬼柳財閥の相続人だなんて。ありえないわ。私の子供は貴方だけよ」
応援に駆け付けたのか、数人のガードマンがカエデに近づいてきた。
カエデは、母とガードマン達と共に、女性にゆっくりと近づいていった。
人だかりが割れ、カエデの前が開ける。
杖をついた目の前の女性は、カエデに気がつき言った。
「貴方は、鬼柳ウメの息子の阿地カエデでしょ。鬼柳ウメを連れて来て。彼女に伝えたい事があるの。」
ガードマンに囲まれた母の事には気がついていないみたいだ。
「どなたでしょうか?母からは、僕以外の相続人がいると聞いた事がありません。」
「私は、ボタンの母親よ。ボタンは鬼柳マサキの実子なの。認知だってされている。どうしてもマサキの死亡診断書が必要なの。鬼柳ウメに合わせて。家族からの申請でなければ死亡が認められないなんてあんまりだわ。もう私にはなにも残されていないのに!」
カエデは、母ウメに寄り添っていたマサキの姿を思い浮かべながら驚いた。
鬼柳マサキが、母の殺人未遂に関係していると聞いていたが、彼は心から母の事を愛していると感じていた。どうやら思い違いをしていたらしい。
彼には愛人だけでなく、非嫡出子までもいた。
カエデは、少しだけ振り返り母を見る。
母は、表情を変えずに冷静に騒ぐ目の前の女性を見つめていた。
「母から、マサキさんに子供がいたと聞いた事がありません。仮に本当に貴方の娘がマサキさんの子供だとしましょう。鬼柳財閥は母の物です。貴方達は関係ないのではないですか?それに、マサキさんが行方不明になってから、まだ9か月しか経っていません。どうして彼が死亡したと断言できるのですか?」
「ボタンが引き継ぐはずだったのよ。彼はいつも言っていたわ。鬼柳ウメと離婚してボタンに全てを残すって。あの家も、鬼柳財閥も、なにもかも将来はボタンの物になるって何度も何度も。それなのに、今は何も残されていない。私は、あの事故の後、必死でリハビリをしたわ。やっと歩けるようになって退院したのに、もう現金がないの。ボタンの墓を建てる事さえできない。マサキの死亡が確認されたら保険金が手に入るのよ。私にはどうしても必要なの!!ボタンは亡くなってしまったけれど、保険さえおりれば、母である私が保険金を相続できるはずよ。鬼柳ウメを出して。妻である彼女がマサキの死亡を申請すれば!」
カエデは、杖をつきながら必死の形相で迫ってくる中年女性を押しとどめようとした。
マサキの子供も、死についても初耳だ。マサキが本当に不倫をしていたとしても、果たしてこの女を彼が相手にするだろうか?足が不自由で、身だしなみを整える事さえできない目の前の女を、あのマサキが相手にするとは思えない。
カエデは、目の前の女が嘘を言っていると感じた。
その時、母がカエデの後ろから進み出て来て言った。
「貴方が草陰ユリですね」
商業施設が併設されている鬼柳タワーの高速エレベーターの電子天井壁画面に数字が映し出されて高速で数が減っていく。虹色の光の洪水が壁に映し出されて異空間にいるような錯覚に陥る。
カエデは、母へ尋ねた。
「鬼柳家に関りがある女性らしいですが、母さんには心当たりがありますか?」
「私には、姉がいたわ。貴方の叔母になるわね。私が鬼柳財閥の後継者に決まった後、彼女は海外旅行中に事故で亡くなったの。もう20年以上前の事だわ。私とあなた以外に鬼柳を名乗る者は存在しないはずよ」
『ドアが開きます』
1階エントランスホールにたどり着き、ドアがゆっくりと開かれた。
高い吹き抜けのエントランスホールの南ガラスから青みがかかった温かい日差しが差し込んできている。白とシルバーを基調とした鬼柳財閥のエントランスホールの中央に、数人の人が集まり、甲高い叫び声を発する女性を取り囲んでいた。
「鬼柳ウメに合わせて。彼女にどうしても伝えたい事があるの」
「落ち着いてください。ここは貴方が騒ぐような場所じゃない」
「私の娘は鬼柳財閥の相続人だわ。私は彼女に会う権利がある。ここを通しなさい!」
中央で叫び声を上げている女性は、杖をつき前かがみの姿勢を取っている。長い黒髪には白髪が混じり、乱雑にまとめられている。皺が目立つシャツと、ゆったりとしたシルエットの紺ズボンを履いていた。
カエデは、彼女が老人だと錯覚した。近づくにつれ、そうではない事がわかる。
母と同年齢か、もしかしたらもっと若いかもしれない。
「母さん。彼女は知っている女性ですか?」
「いいえ。初めて見る人だわ。どうして鬼柳財閥の相続人だなんて。ありえないわ。私の子供は貴方だけよ」
応援に駆け付けたのか、数人のガードマンがカエデに近づいてきた。
カエデは、母とガードマン達と共に、女性にゆっくりと近づいていった。
人だかりが割れ、カエデの前が開ける。
杖をついた目の前の女性は、カエデに気がつき言った。
「貴方は、鬼柳ウメの息子の阿地カエデでしょ。鬼柳ウメを連れて来て。彼女に伝えたい事があるの。」
ガードマンに囲まれた母の事には気がついていないみたいだ。
「どなたでしょうか?母からは、僕以外の相続人がいると聞いた事がありません。」
「私は、ボタンの母親よ。ボタンは鬼柳マサキの実子なの。認知だってされている。どうしてもマサキの死亡診断書が必要なの。鬼柳ウメに合わせて。家族からの申請でなければ死亡が認められないなんてあんまりだわ。もう私にはなにも残されていないのに!」
カエデは、母ウメに寄り添っていたマサキの姿を思い浮かべながら驚いた。
鬼柳マサキが、母の殺人未遂に関係していると聞いていたが、彼は心から母の事を愛していると感じていた。どうやら思い違いをしていたらしい。
彼には愛人だけでなく、非嫡出子までもいた。
カエデは、少しだけ振り返り母を見る。
母は、表情を変えずに冷静に騒ぐ目の前の女性を見つめていた。
「母から、マサキさんに子供がいたと聞いた事がありません。仮に本当に貴方の娘がマサキさんの子供だとしましょう。鬼柳財閥は母の物です。貴方達は関係ないのではないですか?それに、マサキさんが行方不明になってから、まだ9か月しか経っていません。どうして彼が死亡したと断言できるのですか?」
「ボタンが引き継ぐはずだったのよ。彼はいつも言っていたわ。鬼柳ウメと離婚してボタンに全てを残すって。あの家も、鬼柳財閥も、なにもかも将来はボタンの物になるって何度も何度も。それなのに、今は何も残されていない。私は、あの事故の後、必死でリハビリをしたわ。やっと歩けるようになって退院したのに、もう現金がないの。ボタンの墓を建てる事さえできない。マサキの死亡が確認されたら保険金が手に入るのよ。私にはどうしても必要なの!!ボタンは亡くなってしまったけれど、保険さえおりれば、母である私が保険金を相続できるはずよ。鬼柳ウメを出して。妻である彼女がマサキの死亡を申請すれば!」
カエデは、杖をつきながら必死の形相で迫ってくる中年女性を押しとどめようとした。
マサキの子供も、死についても初耳だ。マサキが本当に不倫をしていたとしても、果たしてこの女を彼が相手にするだろうか?足が不自由で、身だしなみを整える事さえできない目の前の女を、あのマサキが相手にするとは思えない。
カエデは、目の前の女が嘘を言っていると感じた。
その時、母がカエデの後ろから進み出て来て言った。
「貴方が草陰ユリですね」
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