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アケビ
2.願会
しおりを挟む「地守さん?大丈夫でしょうか?」
声を掛けられるが、頭を上げる事ができない。
彼女はアケビを助けてくれた。それなのに、孫の罪を彼女に着せてしまった。
彼女は何も悪くない。それなのに…
「地守さん。私の主人は、一刻も早くアヤメさんの解放を望んでいます。示談に了承していただけるのであれば、金銭面だけでなく、我々は貴方がずっと探していた、お孫さんについての情報を提供する事もできます。田中サカキについて」
田中サカキの名前が出た瞬間、アケビは頭を上げて、目の前の男性を凝視した。
もしかして、孫が見つかったのだろうか?孫が犯罪者として捕縛されたかもしれない。それなら、アケビがした事は何の意味があったのだろうか?
「サカキが?孫が見つかったのですか?」
風姿ワタと名乗った男性は、顔を上げたアケビを見て安堵の表情を浮かべた。
「ええ、我々は田中サカキと連絡を取りました。」
「サカキは、、、孫のサカキは無事なのですね。私はずっと彼を探してきました。娘の代わりに、土家家の全てを彼に委ねたいと願ってきました。今彼はどこに??」
風姿ワタは、眉間に皺を寄せて複雑な表情で言った。
「無事とは言い難いです。先ほど事件に巻き込まれ田中マサキさんは今、この病院に入院しています」
「え?」
アケビは、車いすに乗り集中治療室まで連れて来て貰った。
ガラス越しに中の様子が伺える。手術を終えたばかりの孫が、青白い顔色で横たわっていた。両手足に、電極を付けられ、点滴と、人工呼吸器を設置されている。サカキは、胸を貫かれている所を発見された。刃は心臓から僅かに外れており一命をとりとめる事が出来たが、細菌感染を起こし、脳を含め全身の炎症により意識が回復していない。
ピッピッピッ。
アケビは、窓に向けて手を伸ばした。
もし、昨晩の犯人がサカキだと警察に告げていれば、彼はこんな状態になる事はなかったのだろうか?
サカキを守る為に、犯した罪は彼をより深い闇に押しやってしまったのかもしれない。
ただ、たった一人の孫の為に、彼を守る為についた嘘が、とんでもない事に。
罪を償わなければいけない。そうしなければ救われない。
アケビも、孫のサカキも。
アケビは言った。
「風姿さん。アヤメさんは犯人ではありません。警察に本当の事を伝えます。」
償わなければいけない。でも、その相手は亡くなった娘でも、孫のサカキでもない。
娘にそっくりなのは外見だけで、孫のサカキは、あの忌々しい男の血を濃く受け継いだのかもしれない。
もういい。諦めよう。
跡取りも、血縁者もいなくてもいい。
自分自身を誇れるように生きていきたい。
アケビは、変わり果てた孫の姿を見ながら涙を流し決めた。
正直に打ち明けることを。たとえそれが、唯一残された孫を見捨て、縁を切ることになったとしても。
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