旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【雪】空と星のストール

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 パンパンとした音が、青空の下に響いています。

「山の天気は変わりやすいと言いますが…」

 布団叩きを手に、僕は真っ青な空を見上げました。
 数時間前までは、朝だと云うのに暗い山の中に居たとは思えません。
 僕と菅原先生は山へ行った時と同じく、えみちゃん様が運転されるお車にて、お屋敷まで送って戴きました。

『強行軍で疲れただろう? 今日は何もしないでゆっくりとお休み』

 と、えみちゃん様が仰って下さいましたが、言う程に疲れてはおりませんので、留守にしていた間、干せなかったお布団を干しています。

「僕は疲れてはいませんけれど、ゆかり様はお疲れでしょうからね」

 暖かく柔らかなお布団で寛いで貰いましょうね。
 大掃除も、お手伝いして下さるとの事でしたが、せっかくのお休みなのですから、ゆっくりとして戴きたい物です。
 車から荷物を下ろしたり、現地の様子を軽く報告したりと、えみちゃん様が仰ってましたからね。僕の様に、ただ帰れば良いと云う訳ではありません。
 ですので、せっかくのお申し出ではありますが、僕一人で片付けてしまいましょう。

「…それにしても…」

 ふふっ、と、自然と頬が緩んでしまいます。
 
「大勢での旅行と云う物も楽しい物なのですね…」

 布団叩きを手に縁側から屋内へと入りまして、暖かい内にお風呂のお掃除をしてしまいましょうと、僕は廊下を歩きます。
 いきなり連れ出された時は、本当に驚きましたが…お昼を届けに行きます時とは違う、紫様のお勤めの姿を見られたのは望外の喜びでした。
 皆様ととても仲が宜しいのは知っていましたが、御入浴の際は、あれ程にはしゃがれるだなんて、何てお可愛らしいのでしょうか。
 お仕事着の紫様は、とても凛々しく颯爽として見えます。あ、いえ、普段がだらしないとか、そう云う訳ではありませんが。ピンと張り詰めた空気を纏ってらっしゃるのも、また素敵で、お仕事の巡回の時等はさぞかし人目を…。

「ああ、僕は何を言っているのでしょう? ふわっ!?」

 つい、ぶんぶんと洗っていました桶を振り回してしまいましたら、中に入っていた水を頭から被ってしまいました。少量ではありますが、風邪を引いて紫様を心配させてはいけません。慌てて僕は手拭いを取りに、お風呂場から出ました。
 これは醜い嫉妬心を見せました僕への罰なのでしょう。
 ですが、今回の事で、紫様はやはり素敵な方だと思ってしまいました訳で…その紫様と僕が…と思いますと、どうしても…その…卑屈だと…情けないとは思うのですが…僕で良かったのかと思ってしまうのです。この様な事を伝えましたら、恐らくは怒られてしまうでしょうし、悲しませてしまうかも知れません。勿論、お隣に立てます様にと、並んで恥ずかしくない様にと、努力はしているつもりですが…それが実って居るかどうかは甚だ疑問です。皆様、お優しい方ばかりですからね…。

「うぅん、後ろを向くのはやめましょう。明るい事を考えましょうね」

 明るい…と云えば、瑞樹みずき様と優士ゆうじ様でしょうか…?

 髪を乾かすついでにと、一休憩と決めて、茶の間にて淹れたお茶をこくりと飲んで、保養所でご一緒に入浴をした時の事を僕は思い出します。
 恥ずかしくはありましたけれど、お二人の参考になれば良いと思い、お話ししましたが…うぅん、今、思い出しますと、顔が熱くなって来ますね。旅行とは恐ろしい物です。普段の自分からは考えられない程、開放的と言いますか…浮ついていたと言いますか…。

「…ですが…それも良い経験ですよね…」

 知らなかった自分を知る事が出来ると云うのも、嬉しい事です。
 本当に、生きると云う事は日々勉強なのだと思います。
 団体での行動は難しい物ですが、それを纏める紫様を見る事が出来ましたのは…。

「ああっ…! 相楽さがら様へのお礼を考えませんと…!」

 またも熱くなりました頬を押さえて、僕は別の事を考える事にしました。
 えみちゃん様のお話しですと、こちらで年越しをされるとの事でしたものね。
 何が宜しいのでしょうか?
 相楽様も相楽様で、物欲と云う物をお持ちでは無いですから…うぅん、悩みますね。

 ◇

「え? こちらを僕に…ですか?」

「…ああ。…その、これをくれた時にサンタクロースだと言っていただろう? だから…俺もだな…」

 夕餉の後の晩酌時に、隣で胡坐を掻いて座る紫様から渡された包みに、僕は目を丸くしてしまいました。
 お返し等、僕は思ってもいませんでしたから。

「開けて見てくれないか? お前も…その、首元が寒いだろう?」

 何処か照れた様に首を掻きながら、紫様が言います。

「…はい…」

 と云う事は、こちらの中身は僕が紫様に贈りました物と同じ襟巻きなのでしょう。
 何故でしょう? 何やら胸が擽ったいです。えみちゃん様のお話しですと、それ程遅くの帰宅にはならないとの事でしたが、紫様は、普段のお勤めの時と同じ時間にお帰りになりました。それは…こちらを選んでいたから…僕の為に、こちらを選んで下さっていたから…。…ああ、また顔が熱くなって来ました。

「…ふわ…」

 どきどきとする胸を落ち着かせながら、綺麗な包みを開けて行きますと、青い青い抜ける様な空色の幅のある襟巻きが現れました。

「…素敵です…」

「お前には白が似合うかと思ったが…空の色が好きだろう…? 後、これを…」

 柔らかい空色のそれを手に取り見惚れていましたら、そっと膝の上に小さな包みを置かれました。
 襟巻きを膝の上に置き、代わりにその包みを手に取り、開けて見ます。

「ふわ…」

 ころりと、掌の上に零れ落ちたそれは、お星様の形をした金色の留め具でした。

「…これを首に巻いてだな…こうして留めるんだ」

 そちらに見惚れて居ましたら、紫様が膝の上に置いてありました襟巻きを僕の首に巻いて行きます。そうして、合わせ目にお星様の留め具を…。

「…ふわぁ…暖かいです」

 幅がありますおかげで、背中も肩も覆われて、とても暖かいです。
 それに…お空とお星様の組み合わせは…あの宝の箱と同じです。
 それを、こうして身に纏う事が出来るだなんて、何て贅沢で幸せな事なのでしょう。
 嬉しくて嬉しくて、胸の奥からぽかぽかとした物がじわりと染み出て広がって行きます。

「ありがとうございます。大切にしますね」

「ああ、俺も大切に使わせて貰う」

 きゅっと襟巻きを押さえまして、軽く紫様を見上げましたら、優しい目と視線が合いました。

「…あ…」

 と、思いましたら、紫様の大きな手が僕の頬に伸びて来ましたので、僕はそっと目を伏せました。

 …その筈だったのですが…気が付きましたら、朝の光の中のお布団の中で、僕は自分のお部屋の天井を見ていました。
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