旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【旦】星空の夢

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「む…う…」

 俺は今、人生何度目かになるかは解らないが、盛大に悩んでいた。

 やはり、雪緒ゆきおと云えば無垢な白だろうか…。しかし、それでは楠と同じになってしまう。それはそれで気に入らない。

 何だかんだでお馴染みになってしまった、悪徳百貨店の中にある服飾品売り場の一角で、俺はただひたすらに悩んでいた。
 早く帰らねば雪緒が心配するだろうと思うのだが、中々決まらない。

 白以外で、雪緒に合う色とは何だ?

 何やら賑やかな曲が流れる店の一角で、俺は顎に拳にした手をあてて、ひたすら悩んでいた。
 かれこれ、半刻は経っただろうか?
 これでは、女性の買い物は長いなぞと言えんな。
 雪緒と同じく、俺も手作りが出来ればそれが良いのだろうが…生憎と俺の手先は器用では無いからな。その分、雪緒に似合う物、雪緒が喜ぶ物を贈りたい。貰った襟巻きの返礼だと言えば、雪緒も受け取ってくれるだろう。

「…むう…」

「…あの…お悩みの様ですが…何方かへの贈り物ですか…?」

 幾度目かの呻き声を漏らした時、後ろから声が聞こえた。振り返れば、そこに居たのは、この売り場の店員で、更に言うなら、俺がここに足を止めてからじっと見ていた者だった。

「…ああ…ゆき…伴侶への贈り物なのだが…色が決まらなくてな…似合う色が…どの様な色でも似合うと思うのだが、それで適当に選びたくは無い…」

「まあ。クリスマスプレゼントですか。幸せな奥様ですね。どの様な方なのでしょう? お好きなお色は?」

「む…」

"奥様"では無いのだが。だが、雪緒の事を話して変に興味を持たれても嫌だな。

「好きな色か。好きな色は…」

 店員に答えようとして、俺は口籠ってしまった。

 ……………………………何だ? 雪緒の好きな色…? 雪緒は何色が好きなんだ? 知らんぞ。そんな話すらした記憶が無い。

「ゆ…きおは…あいつは、優しくて落ち着いていて、穏やかで、かと思えば偶にこちらの予測もつかない突拍子も無い事を仕出かして…まあ、それもそれで良いのだが、真面目で楚々としていて、何時も俺で釣り合いが取れるのだろうかと不安に」

「ああああの、奥様がお大事にされていらっしゃる物は?」

 そちらから訊いて来たくせに、遮るとは何事か。まあ、良い。

「大事な物か…箱だな。青い空色の箱だ」

 これは迷う事等無く言える。
 鞠子まりこから、雪緒へと贈られたチョコレートの入った箱だ。
 青い色で、金色の星が映える物だ。
 あれ以上の物なぞ思い浮かばない。
 幾度も修復して、今も大切に飾ってある、ぽかぽかとした想いの詰まった箱だ。
 雪緒が、恐らく初めて手にした宝物だ。

「青色ですか。空に近い色…それでしたら…」

 店員が棚から次々と青い襟巻きを手に取り、俺に見せて来るが、どれもしっくりと来ない。
 もう少し青い物を、澄んだ空の青をと伝えるが、どれもこれもあの青とは違う。
 近い色で妥協しようか…いや、それでは意味が無い。
 あれなら、雪緒も喜ぶだろう。
 俺が味わった喜びを雪緒にも教えてやりたい。
 だから…。

「…ん?」

 店員は背が低く、差し出される襟巻きを持つ手の高さが低くて、曲げていた首を戻し、解そうとそこに手をあてた時、それが目に入った。
 
「…あれは…」

 売り場の一角にある、人型の飾り物。見本として衣服を着せたりする物だ。それが首から肩に掛けて巻いている物に目が行った。

「あちらはストールになりますね。お贈りしたいのは…」

 襟巻きばかりに目が行っていたが、あれも同じだ。首を覆えれば良い。何より、あの青が良い。

「…いや…あれが良い。あの色なら星も映えるだろう」

「まあ、浪漫ちっくですね」

 浪漫だとかはどうでも良いが、そこでストールを買い、飾り売り場を案内所で訊けば、やたらと愛想良く対応してくれた。

 ……知り合いだったか…?
 まあ、良いか。
 次は星の形の飾りだ。
 この青だけでは物足りない。

 飾り売り場でも、やはり難航したが、何とか一点だけ気に入る物を手に入れる事が出来た。
 外へ出れば、入る時は未だ陽が出ていたのに、すっかりと暮れてしまっていた。
 やはり、仕事帰りに寄るべきでは無かったか?
 しかし、思いがけず、予定より早くにあの山から帰る事が出来たのだ。
 雪緒から貰った幸せを早く返したいではないか。
 外気に晒されたせいで、身体がぶるりと震える。
 だが。

「…暖かいな…」

 首にある襟巻きに触れれば、穏やかに笑う雪緒の姿が浮かぶ。
 この暖かさを。
 この温もりを。
 一刻も早く届けたい。
 一刻も早く知って欲しい。

 走り出しそうになる足を宥め、俺は帰路へと着いた。

 ◇

「雪緒!?」

 余りにも雪緒が幸せそうに笑う物だから、つい、接吻だけでもと手を伸ばしたら、こいつは目を伏せたと思った途端に、俺に凭れ掛かって来た。
 そして、聞こえるのは健やかな寝息だ。

「…ああ…」

 そうだな…雪緒が大人しくしている筈が無かったのだ…。
 あの親父が『休む様に言っておいたからね』と、口にしていたが…甘い…。

「…まあ…幸せな夢を見ろよ…」

「…ひゃい…」

 そっと雪緒の髪を撫でてやれば、聞こえているのか、それとも寝言なのか、そんな緩んだ返事が返って来た。
 それに小さく笑ってから、俺は雪緒を抱えて立ち上がり、茶の間を後にした。
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