旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【旦】雪旦那と紫緒【二】

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 項垂れる俺の様子にそれらを察したのか、五十嵐司令は『私も、事情を知る天野君と物の怪について調べてみますので、君達も出来る限りの範囲で調べて下さい。…あ…ああ、いえ、何でもありません』と、何かに気付いた様だったが、それは口にせずに僅かに視線を泳がせていた。

「…では、書店へ行きましょうか? 物の怪に関する本を集めましょう」

「ああ、そうだな」

 五十嵐司令の背中を見送った後で、雪緒ゆきおが言った言葉に俺は頷いた。
 頷いたのだが。
 店が並ぶ通りに出て、俺は片手で額を押さえていた。閑古鳥の鳴き声が聴こえる様だ。

「…日が悪い…」

 雪緒が言っていたではないか、今日は一月一日だと。
 昨夜は破魔の鐘を聴きながら、雪緒が打った蕎麦を食べ、新年の挨拶と共に軽く盃を交わし、船を漕ぎ始めた雪緒を抱き上げ運び、共に眠ったのだ。それなのに、目覚めた時の衝撃で、総て吹き飛んでしまっていた。あの衝撃は去ったと、落ち着いたと思っていたが、未だ混乱していた様だ。いや、それは五十嵐司令も同じか。でなければ、ああは言うまい。

「…そうですよね…。あ、ああ、そうです。あそこでしたら、開いていますね!」

 きっちりと戸締まりのされた店を一通り見た後、雪緒がポンと手を叩いた。

「あそこ?」

 首を傾げる俺に雪緒は微笑みながら、左手を差し出して来た。

 …手を繋げと云う事なのだろうか? 俺が何時もそうしている様に?
 な、何故かは知らんが顔が熱いな…。
 しかし、俺に断ると云う選択肢は無い。
 雪緒が望んでいるのだ。
 雪緒が望む事ならば、叶えてやらねばな。

 そっと右手を出して、その上に重ねれば雪緒の唇が緩やかに弧を描いた。
 鏡で嫌と云う程に見慣れた自分の顔の筈なのだが、その柔らかい笑みにドキリとしてしまった。
 中身が雪緒だからだろうか? 
 俺はこんな風に笑うのだろうか? 
 それとも、俺が笑う度に雪緒はこうして胸を鳴らしているのか? 
 何だ、それは。
 もう、幾度となく手を繋いで来ただろう?
 それなのに?
 本当に、何なのだ、この胸の高鳴りは。
 やたらと煩い心臓の音を聞きながら、雪緒に手を引かれて俺は歩き出した。

 ◇

「おー! 帰って来たか、ゆきおー!」

 百貨店にある書店で物の怪に関する本を購入して帰宅し、家の門を潜ろうとしたら、そこから隊服姿のせいが飛び出して来た。

「なっ!?」

「ふえっ!?」

 何故、今時分に星が? との疑問は、星が俺の姿の雪緒に抱き着いた事で搔き消えてしまった。

 天野か!
 あいつ、信じていなかったのではないのか!?

「おー! ほんとにゆきおだな!」

「せ、星様? 何故、僕だとお判りになられたのですか?」

「あ~。お帰り~二人共~」

「おや、本当に雪緒君だねえ!」

「わあ、雪兄様素敵です」

「彼らが噂のお二人ですか? 背の高い方が旦那様で、低い方が雪緒さん?」

「ふむ。纏う雰囲気が違うね」

 雪緒のその疑問に星が答えるより早く、相楽さがらが、みくが、月兎つきとが、見知らぬひょろりとした男が、そして四角い親父が門からぞろぞろと出て来た。
 それらを俺は何処か遠い目をして眺めていた。
 ああ、うん、知っていた。
 何処からか、そんな呟きが聞こえた気がした。

 ◇

 星は朝、着替えている時に天野から俺達の話を聞いたそうだ。『他の奴には言うなよ?』と、天野に言われた星は、天野が五十嵐司令に呼び出された隙に『忘れ物したから、帰る!』と、職務を投げ出して飛び出して来た、と。
 …頭が痛い…。
 みくはみくで、当然の様に俺と天野の遣り取りを天野の肩に寄り掛かりながら聞いていた、と。そして、また当然の様に、天野を送り出した後に親父に連絡した、と。親父の処には月兎が居る。今は相楽も、ついでに見知らぬ男…富田と名乗った…も、居るのに、みくは連絡したのだ。
 …頭が痛過ぎる…。
 今更だが、五十嵐司令が視線を彷徨わせた理由に、身を持って知る事になるとは…。
 新年早々、俺達で遊ぶ気満々の面子を見て、俺は軽く舌打ちをした。
 そうすれば。

「雪緒君が舌打ちしたッ!!」

「雪兄様は舌打ちをしませんし、そんな風に睨んだりもしませんっ!!」

 雪緒が汁粉を作って持ってくれば。

「わあ~。美味しいなあ~。あの無骨な手からこんな繊細な甘さを出せるなんて、流石雪緒君だね~」

「うむ。ゆっくりと甘さが沁みて来る…これはこれは…」

「ですが、何処か懐かしい味がしますね」

「ゆきお、おかわり!!」

「星! お前、何杯目だ! さっさと職場へ戻れっ!!」

「あだっ! ん? 痛くない?」

 条件反射の様に星の頭に拳を落とせば、星は喚いて両手で頭を押さえる素振りをしたが、直ぐに首を傾げた。

「何て事をするのですか! 雪兄様の綺麗な手が傷物になってしまいます!!」

 そして、月兎が俺の右手をそっと両手で包んで、キッと睨み付けて来た。

「そうだよ、そうだよ! 雪緒君の身体はダンナと違って繊細なんだからねッ! 大切におしよッ!!」

「雪緒君が~、暴力を奮う姿は見たくないなあ~」

「自分には良くは解りませんが、暴力はいけません」

「うんうん。まあ、こんな雪緒君を見る事等無いから、新鮮ではあるがね」

「帰れーっ!!」

 口々に散々な事を言われ、俺は目元を痙攣させながら、力の限りに叫んだ。

 ◇

 そして。
 二人きりとなり、静けさを取り戻した茶の間で、俺と雪緒は向かい合って座り、互いに顔を俯かせていた。

『あ、そうそう~。姫初めは~?』

 との、相楽の置き土産によって。
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