旦那様と僕~それから~

三冬月マヨ

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それぞれの絆

【旦】天の川の先に・一

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「…え…ゆ、かりさま…?」

 仕事を終えて帰宅した雪緒ゆきおが目を丸くして俺を見た。
 …気持ちは解る。
 俺も、何がどうしてこうなったと、言いたいぐらいだ。
 仏間で、俺は黒の紋付袴を着て、少しだけ遠い目をして、抱えていた鞠子まりこの肖像画を強く抱え直した。

「ささっ、ほら、雪緒君も!」

「僭越ながら、お手伝いしますね」

「ふえ?」

 みくに手を引かれ、月兎つきとに背中を押され、雪緒が仏間から出て行く。
 遠くからは、あの親父とせいの五月蝿い…賑やかな声が聞こえて来ている。

「ほら、ゆかりん。目が死んでいるぞ」

たける君の言う通りだよ~。記念日なんだから~笑って笑って~」

 仏間に残った天野と相楽さがらが、にやにやと笑いながら、俺を囃し立てて来る。
 俺は無言で二人を睨み付け、開けっ放しのままの障子の向こう…更に開けっ放しの廊下の戸の向こうを見た。そこでは、早咲きの向日葵がさわさわと揺れていた。

 ◇

ゆかり君はさ~。雪緒君と結婚式挙げないの~?』

 と、相楽から電話があったのは一週間前の事だった。

「…何だ、藪から棒に」

 結婚式なぞ考えた事も無かった。
 俺と雪緒の事は周知の事実なのだ。わざわざ他人に見せびらかす必要も無いだろう。そんな事をして雪緒が困ったらどうする。

『…って、思ったでしょ~?』

 と、今思った事を言い当てられ、俺は臍を噛んだ。

『同性婚が認められて何年経ったと思っているの? …まあ、良いか~。解ったよ~。じゃあね~』

 少しだけ低い声を出した相楽に、思わず身体が固まるが、直ぐにそれは何時ものからかう声に変わり、電話が切れた。

「は?」

 何がしたかったんだと思う俺の耳には、ツー、ツー…としたやけに冷たく響く音だけが残った。

 ◇

 そして、今日、七月七日の十五時過ぎ。
 俺は玄関先で、間抜け面を晒していた。

「やあ~。来ちゃった~」

 と、笑いながら片手を上げるのは相楽だ。

「…は…?」

「さあ、準備をしようかね」

 と、手に風呂敷を持ち、勝手知ったる様に草履を脱ぐのは、みくだ。

「星、笹は取り敢えず庭に置いて来なさい」

 低く野太い声を出すのは、あの親父だ。

「ん!」

 それに軽く答えるのは、言わずもがなの星。

「っは~! 今日も暑いなあっ! ゆかりん、麦茶貰うぞ!」

 と、言いながらずかずかと上がり込み、台所へと向かうのは熊…天野だ。

「…は…?」

「紫君、台所を借りるよ。星、月兎は真っ直ぐこちらに来るのかね?」

「おー! 学校が終わったら来るぞー!」

 俺の肩を叩きながら、親父が草履を脱ぎ、星がその後に続く。

「…は…?」

「ちょっと! 雪緒君のダンナッ! ぼうっとしてないで、こっち!」

「あ、おい!?」

 家の中に消えたと思ったみくが、手ぶらで戻って来て俺の腕をぐっと掴み、そして引く。
 細いその身体に見合わず、みくには、かなりの力がある。
 ぐいぐいと腕を引かれ、気が付けば仏間に座らされていた。そんな俺の両隣には、相楽と天野が居る。

「何だ、これは?」

「さあて…どう料理してくれようかね?」

 目の前に立つみくに聞いてみるが、案の定返事は無かった。
 右隣に居る相楽を見れば。

「取り敢えず~脱がして~」

 と、眼鏡を光らせ。
 左隣に居る天野を見れば。

「よし、任せろ!」

 と、俺の着物の帯に手を伸ばして来たから、胡座を掻いていた脚を崩して腹を蹴った。

「あだぁっ!?」

「アンタッ!!」

「あ~あ~、駄目だよ~、紫君~」

「痛いだろー、ゆかりんー。何するんだよー」

「それは俺の言葉だ。この集まりは何だ? 事と次第によっては、班毎の休暇を失くす様に上に掛け合うぞ」

 そう。この春から、個別の休暇だったのだが、班毎の休暇へと変わったのだ。その方が、常に同じ班の人間で行動出来るからと云う理由でだ。
 お蔭で休みの日には、ほぼ必ずと言って良い程、天野やみくが来るし、星は来るし、休みが土日と被ると、月兎に、橘や楠も家にやって来る。はっきり行って鬱陶しい。
 更には、今日は里に居る筈の相楽に親父まで居る。一体、何なのだ?

「何って、相楽のダンナから聞いていないのかい? 祝言を挙げるんだよ。雪緒君とダンナの。ほら」

 そう言ってみくが風呂敷から取り出して見せて来たのは、黒の紋付袴だった。

「…は…?」

「そんな訳で~、ちゃちゃっと着替えようね~。猛君、お腹じゃなくて~紫君を押さえて~」

「ゆずっぺ、ひでぇ。けど、まあ、ほらよ!」

「おいっ!?」

 相楽の言葉に、天野が俺の背後に回り込み、脇の下に腕を通し、腕を持ち上げられた。天野の肘で脇を固められ、動く事が出来ない。
 
「んっふふ~。苦しゅうない、近うよれ~。あ~れ~、なんてね~」

 笑いながら帯を解く相楽に、俺は腹に力を入れて叫んだ。

「こっの、阿呆共が―――――――――っ!!」

 ◇

 そして、身支度を整えられ『鞠子ちゃんにも、良く見せておあげよ』と、みくに鞠子の肖像画を渡され、助けてくれと縋り付いた処で雪緒が帰って来た。
 雪緒の帰宅前には月兎が来ていて、俺の髪を良い様に弄ってくれた。
 仕事でもないのに、前髪を後ろへと流すのは、どうにも落ち着かない。
 いや、風呂上がりには雫が垂れて来るから、後ろへと流しているが。それ以外は…ああ、昔、洗濯機を買いに行って以来か。あの洗濯機は今も現役だ。
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