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それぞれの絆
【旦】旦那様と割烹着・三
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「ああ、そうだ。ゆぅっくり、ゆっくりとな。力を入れるなよ、それでもう十本駄目にしてんだからな!」
早い物で、俺が食堂の厨房に出入りする様になってから、三日が経った。今日は十一日。雪緒の誕生日当日だ。
今は、焼き上がった伊達巻きを鬼すだれで巻いている最中だ。これが中々に力加減が難しく、もう十本を潰してしまっていた。それらは、この厨房に居る者達や、食堂に訪れた者達の胃袋の中に消えて行った。見た目は悪くとも、味は悪くは無いのだ。自画自賛だろうと思うだろうが、伊達巻きはみくのお蔭で食い慣れているからな。
雪緒がみくの伊達巻きを気に入り、年末年始関係無く、日常的に食って来た。その当たり前が、もう当たり前では無いのだ。みくが作って来たから、雪緒は伊達巻きを作った事は無い。それを、俺が作る。悪くは無い考えだと思った。雪緒の好きな食い物を、俺でも作れるのだ。雪緒ならば、きっと喜んでくれる。
楠の『背伸びをするな』、『作れる物を作れ』との言葉が耳に痛い。
やはり、味を知っている物と知らぬ物との差は大きいのだと実感した。
「うん、良い感じだ。じゃあこれは預かっておくから、仕事終わりに取りに来てくれ」
バンと、料理長が俺の背中を叩き太鼓判を押した。と、同時に食堂内に歓声が沸き起こった。
「良かったー!! これで、仕事をしてくれるーっ!!」
「天野、お前苦労してたんだなあっ!! 何時も笑ってたから気付かなかったよっ!!」
「伊達巻き旨かったけどさー!!」
「ゆかりんたいちょの伊達巻き終わりか? 余ってないのか?」
「記念に、伊達巻きと一緒に割烹着姿の写真を撮りましょう。もう、見る事も無いでしょうから」
「お、おい、優士…」
失礼極まりない言葉が聞こえた気がするが、今夜の雪緒の笑顔を思い浮かべ、俺はそれらを帳消しする事にした。
無論、伊達巻きだけで終わらすつもりは無い。
練習の合間に、料理長の郷土にある料理も教えて貰っていたし、そちらも作ってみた。
それは、味は違うが、やはり食い慣れている物だから、何の問題も無い。俺が作った物だとは気付かずに、皆も食っていたしな。
今夜の雪緒の驚く顔や喜ぶ顔を頭に描きながら、俺は溜まった報告書を片付ける事にした。
◇
「お帰りなさいませ。直ぐにお出掛けになりますか? それとも一息入れてから行きますか?」
自宅へと帰れば、雪緒が笑顔で土間まで迎えに出て来る。何時もの事だが、それに俺は何時も口元を緩めてしまう。
「いや、すまんが今年は出掛けない」
手にしていた紙袋を二つ式台の上へ置き、弁当箱を包んだ風呂敷包みを雪緒へと渡す。
「え? あ、何処かお加減が宜しく無いのですか? ここ数日、出勤がお早かったですから、お疲れが? ああ、何か滋養のある物をお作りしますね。今からですからお時間が掛かりますので、お部屋で横に…ふが」
風呂敷包みを受け取りながら、一気に語る雪緒の言葉を鼻を摘まむ事で止めた。
「いや、落ち着け。俺は何処も具合なぞ悪くは無い。そら、隊の皆から、お前への誕生日の贈り物だ…まあ、チョコレートだが…」
式台に置いた紙袋を一つ手に取り差し出せば、雪緒は目を丸くしながらそれを受け取る。
「…こんなに…」
「それだけ、お前が皆に好かれていると云う事だ。どれが誰のだか解る様に名前を書いて貰ってあるから、土曜か日曜か、会った時に礼を言えば良い。それから、今夜は俺が飯を作るから、茶でも飲んで待っていてくれ。ああ、あとストーブを点けておいてくれ」
「え? 紫様がですか?」
ちらりと見せた不安気な雪緒の表情に、俺の胃がちくりと痛んだ。
「…今宵の主役はお前だ。この数日、練習して来た。料理長から太鼓判も貰ってある。安心しろ」
しかし、前回の様な失敗はしない。俺は成長したのだ。
「…あ…この数日出勤がお早かったのは…僕の…ふえぇえぇ~…」
と、雪緒の顔がみるみると赤くなって行ったと思ったら、パタパタと足音を立てて茶の間へと引っ込んで行った。恐らくは俺が頼んだストーブを点けて、茶も淹れて心を落ち着けようと云うのだろう。
「良し!」
俺は両手で頬を軽く叩いて気合いを入れた。
早い物で、俺が食堂の厨房に出入りする様になってから、三日が経った。今日は十一日。雪緒の誕生日当日だ。
今は、焼き上がった伊達巻きを鬼すだれで巻いている最中だ。これが中々に力加減が難しく、もう十本を潰してしまっていた。それらは、この厨房に居る者達や、食堂に訪れた者達の胃袋の中に消えて行った。見た目は悪くとも、味は悪くは無いのだ。自画自賛だろうと思うだろうが、伊達巻きはみくのお蔭で食い慣れているからな。
雪緒がみくの伊達巻きを気に入り、年末年始関係無く、日常的に食って来た。その当たり前が、もう当たり前では無いのだ。みくが作って来たから、雪緒は伊達巻きを作った事は無い。それを、俺が作る。悪くは無い考えだと思った。雪緒の好きな食い物を、俺でも作れるのだ。雪緒ならば、きっと喜んでくれる。
楠の『背伸びをするな』、『作れる物を作れ』との言葉が耳に痛い。
やはり、味を知っている物と知らぬ物との差は大きいのだと実感した。
「うん、良い感じだ。じゃあこれは預かっておくから、仕事終わりに取りに来てくれ」
バンと、料理長が俺の背中を叩き太鼓判を押した。と、同時に食堂内に歓声が沸き起こった。
「良かったー!! これで、仕事をしてくれるーっ!!」
「天野、お前苦労してたんだなあっ!! 何時も笑ってたから気付かなかったよっ!!」
「伊達巻き旨かったけどさー!!」
「ゆかりんたいちょの伊達巻き終わりか? 余ってないのか?」
「記念に、伊達巻きと一緒に割烹着姿の写真を撮りましょう。もう、見る事も無いでしょうから」
「お、おい、優士…」
失礼極まりない言葉が聞こえた気がするが、今夜の雪緒の笑顔を思い浮かべ、俺はそれらを帳消しする事にした。
無論、伊達巻きだけで終わらすつもりは無い。
練習の合間に、料理長の郷土にある料理も教えて貰っていたし、そちらも作ってみた。
それは、味は違うが、やはり食い慣れている物だから、何の問題も無い。俺が作った物だとは気付かずに、皆も食っていたしな。
今夜の雪緒の驚く顔や喜ぶ顔を頭に描きながら、俺は溜まった報告書を片付ける事にした。
◇
「お帰りなさいませ。直ぐにお出掛けになりますか? それとも一息入れてから行きますか?」
自宅へと帰れば、雪緒が笑顔で土間まで迎えに出て来る。何時もの事だが、それに俺は何時も口元を緩めてしまう。
「いや、すまんが今年は出掛けない」
手にしていた紙袋を二つ式台の上へ置き、弁当箱を包んだ風呂敷包みを雪緒へと渡す。
「え? あ、何処かお加減が宜しく無いのですか? ここ数日、出勤がお早かったですから、お疲れが? ああ、何か滋養のある物をお作りしますね。今からですからお時間が掛かりますので、お部屋で横に…ふが」
風呂敷包みを受け取りながら、一気に語る雪緒の言葉を鼻を摘まむ事で止めた。
「いや、落ち着け。俺は何処も具合なぞ悪くは無い。そら、隊の皆から、お前への誕生日の贈り物だ…まあ、チョコレートだが…」
式台に置いた紙袋を一つ手に取り差し出せば、雪緒は目を丸くしながらそれを受け取る。
「…こんなに…」
「それだけ、お前が皆に好かれていると云う事だ。どれが誰のだか解る様に名前を書いて貰ってあるから、土曜か日曜か、会った時に礼を言えば良い。それから、今夜は俺が飯を作るから、茶でも飲んで待っていてくれ。ああ、あとストーブを点けておいてくれ」
「え? 紫様がですか?」
ちらりと見せた不安気な雪緒の表情に、俺の胃がちくりと痛んだ。
「…今宵の主役はお前だ。この数日、練習して来た。料理長から太鼓判も貰ってある。安心しろ」
しかし、前回の様な失敗はしない。俺は成長したのだ。
「…あ…この数日出勤がお早かったのは…僕の…ふえぇえぇ~…」
と、雪緒の顔がみるみると赤くなって行ったと思ったら、パタパタと足音を立てて茶の間へと引っ込んで行った。恐らくは俺が頼んだストーブを点けて、茶も淹れて心を落ち着けようと云うのだろう。
「良し!」
俺は両手で頬を軽く叩いて気合いを入れた。
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