攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺?

【01】

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 それは、天啓としか言えなかった。
 本当に、いきなり、頭にビビッと来たんだ。
 けど、何もこんな時に思い出さなくても良いんじゃないか?

 ◇

 ここは、ゲームの世界だ。
 その世界に俺は転生していた。
 何を言っているのか解らない?
 安心してくれ。
 俺も何を言っているのか解らない。

『君色の風』

 そんなタイトルだった気がする。
 この世界にはあちらの世界での貴族の様な階級がある。この世界では、松竹梅がそれに当たる。松がもっとも階級が高く、梅が一番低い。更には梅の梅、梅の竹、梅の松と、そこでも階級分けがされる。面倒臭いが、それがこの世界では常識なのだから、仕方が無い。因みに、俺は松の竹だ。それより上は、王族しか居ない。そう、王族も居るんだよ、この世界は。恋愛ゲームに、なんでもかんでも突っ込んでくれるなよ。
 で、梅はまあ、貧民層と云うか…まあ、あまり裕福では無い人達。竹は、そこそこの人達。松は、金に余裕が有り、王都にある全寮制の学園に、所謂子息・令嬢を通わす事の出来る人達。
 まあ、お嬢ちゃんや坊ちゃんが通う名門学園を舞台に繰り広げられる、甘酸っぱい青春ラブロマンスが売りの、そんなゲームだ。の男の子向けの。
 主人公はそこで様々なヒロインと出逢い、様々なロマンスを繰り広げて行く。
 最終的に結ばれるのは、その中の誰か一人。
 勿論、順風満帆とは行かない。
 お約束とばかりに、主人公を目の敵にする奴がいる。それが、この俺、ウ・ケタロウだ。
 ケタロウは梅の主人公が、この学園に居るのがとにかく気に入らない。
 虐める理由なんて、何でも良いのだ。
 降って湧いた金で、この学園へと来たらしいが、それも気に入らない。貧乏人のくせにと、とにかく苛め抜く。で、そんな主人公の支えとなるのが、攻略対象の五人のヒロイン達。天然系からツンデレ、姐御、と取り揃えてある。そんな彼女達にモテモテの主人公が、また気に入らない。そんな気に入らない、気に入らないばかりを繰り返し、鬱々とした鬱憤をケタロウは主人公のセ・メゴロウにぶつけるのだ。
 とにもかくにも、プレイヤーのヘイトを一身に集めるのが、ケタロウと云うキャラクターだ。
 そんなキャラなら、当然不細工だろと思うだろ?
 ところがどっこい。身長は180センチの高身長。適度に肉が付いていて、ひょろりとしたイメージは無い。肩まで掛かる金色の髪は項より高い位置で、一つに結ばれている。深い海の様な瞳は涼やかで、形の良い鼻梁、分厚過ぎず、薄過ぎない形の良い唇。
 かたやメゴロウは身長170センチの、黒髪に黒目と至って平凡だ。まあ、プレイヤーが自分に重ねやすい様にと、設定されたんだろうな。俺も平々凡々とした見た目だったから、解る。うん。だから、良い男の部類に属するケタロウが主人公のメゴロウを虐めるのが、とにかく許せない。お前には、その顔があるだろ。そんなにメゴロウを虐めるなよ、と。
 まあ、そんなケタロウは卒業式に、罰を受ける。
 ここで、初めて知る。
 メゴロウが持つ力は稀有な物で、将来、国を襲う未曽有の危機に大いに貢献する物なのだと。
 そんな救世主である、メゴロウへのケタロウが行って来た数々の仕打ちは目に余ると。
 その卒業式で、ケタロウは絞首台へと送られて、死ぬ。
 みっともなく、泣け叫びながら。
 その醜い内面に相応しく、色んな物を垂れ流しながら無残に。
 メゴロウが止めるも『流石は救世主となる方だ。こんな罪人にもお優しい。しかし、罪は罪。彼には罪を贖って貰わねばなりません』とか何とか言われて、唇を噛んで頷くんだ。そんなメゴロウを慰めるのが、プレイヤーが選んだヒロインで、そこで初めてメゴロウとヒロインは結ばれる。
 で、ずっら~と、長いテロップが流れて、国の危機にヒロインと手に手を取り立ち向かう一枚絵が表示されて終わりだ。
 あっけないラストだが、恋愛がメインだからそんなもんなのだ。

 ◇

 で、だ。
 俺こと、ケタロウはそのメゴロウと運命の出会いをした。
 ケタロウとメゴロウの出会いは、ケタロウが二年生の春。メゴロウがケタロウのクラスに転校生として現れた処から始まる。お約束だな。
 教師からクラス委員長として、代表として挨拶をと言われて、俺は席を立ってメゴロウと握手をしようと、颯爽と教壇の脇に立つ彼の元へと歩いて行った。内心では、こんな梅のくせにとか思いながら。まあ、軽く恥を掻かせてやるかと、爽やかスマイルを浮かべながら右手を差し出して、教壇の陰で見えない足を引っ掛けて転ばせてやろうと思いながら。実際、ゲーム内では主人公はそれで転倒して、真っ赤になっていた。
 いたんだよ。
 それなのに。
 
 俺は今、下半身を露出させて、床に頭を打って倒れて居る。

 …何で?
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