攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略していたのは、僕

【23】

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「あらぁ~、そんな触り方をしたら駄目よ」

 紫の声に、僕の指先に置かれたケタロウ様の手がぴくりと動いた。

 …まだ居たの。紅茶を渡してすぐに出て行ったと思ったのに。出入口のトコで、僕達をからかう様に見ている紫の顔は、やっぱり気持ち悪い。けど、声を掛けられた事にちょっと安心する。

「…っ、あ、の、ケタロウ様…手を…」

「あ、す、すまなかったね。震えていたから、つい…暖めようかと思ったのだが…驚かせてしまったようだね…」

 慌てたケタロウ様の手が僕から離れて行く。ちょっと寂しいけど。これで良い。あのままだったら、ケタロウ様を襲ってた。
 …だって、ケタロウ様の手が、ケタロウ様の意思で僕に触って来ているんだって思ったら、もう、身体中がぞわぞわして落ち着かないんだ。肩を抱かれた時は服の上からだったけど…何もない僕の手に、ケタロウ様のすべすべの手が、って考えたら…。それも、僕の事を考えて、あっためてくれようとしてくれてたなんて…本当に…ケタロウ様は何て優しいんだろう? 
 驚いたけど、僕なんかに気安く接していたら、他の皆にあまり良くない印象を持たれるんじゃないかって、言ったら『君は、私に触られるのは嫌なのかい?』って、悲しそうに言うから、そんな事は無いって、つい力んで言ってしまった。そうしたら、ケタロウ様は蕩ける様に、ふわりと香る蜂蜜の様に甘い表情で笑うから、僕は慌てて直視を避けて顔を俯かせた。
 そんな僕に、ケタロウ様は良かったって安心した様に言って、荷物の整理を手伝うって…っ…!! いや、ケタロウ様の荷物の整理の申し出は、今回が初めてじゃないけれど。でも、こんな甘い感じじゃなくて、確か食堂でピンコさんがそう言ったのを聞いたケタロウ様が、ピンコさんを窘めて、で、渋々って感じだった。こんなに、好意的じゃなかった。
 それなのに。
 それが、だよ!?
 本当に、今回のケタロウ様はどうしちゃったの!?
 こんなにグイグイ来られたら、僕の心臓が持たない!

 ちらりと目線を上げて、その顔を見れば、やっぱり蕩けそうな笑顔で僕を見ていて…。

 …無理ぃっ!! 僕、ケタロウ様に殺されるかも知れないっ!!

 ◇

「…は…?」

 ケタロウ様が僕の部屋を見て固まってしまった。

「あ…ケタロウ様にこのような部屋を見せるのは…不敬…でいいのかな…? そうなりますよね…すみません、僕、配慮が足りなくて…」

 うう…ごめんなさい、こんな部屋で。
 ケタロウ様の目が潰れないと良いんだけど…。

「ああ、いや、そこではない。君が気にする必要は微塵も無い。誰が、君をこの部屋に案内したんだい?」

 え?

「解った。部屋の割り当ては寮監に一任されている筈だ。行くよ」

 えええ?

 お、怒ってる? 僕に? ううん…この部屋に…? 僕が、この部屋に居る事に?
 ど、どうしよう…嬉しくて泣きそうなんだけど…。

 それから、ケタロウ様の後に付いて、カーンさんのトコへ行って…凄かった…ケタロウ様がカッコ良過ぎた…。

『例え、どの様な理由があろうと、健全な学生をあんな部屋に案内するだなんて、あなたの、学園の品位が疑われる。一人の少年の未来を潰したかも知れない、それを良く考える事だね。これ以降の決定は、私の、ウ・ケタロウの意思だ。異論は認めない。いいね?』

 そう毅然とカーンさんに言って、僕が、ケタロウ様と同室になる事を認めさせてしまったんだ…!

 えええええええ~!?
 僕は嬉しいけど、ケタロウ様は良いの!?
 梅の、底辺の僕なんかと居ても、メリットなんてないよ? 何回目かの時に、そう言ったのはケタロウ様だよ?

 …ねえ…?

 これまでのケタロウ様と、今のケタロウ様…どっちが本当のケタロウ様なの…? 今のケタロウ様の方が自然に見えるのは…僕の気のせいなの…? 絞首台に上がる前に見せる、あの笑顔の意味は?
 …ケタロウ様…あなたは…何を知って…何を隠しているの…?

 そんな風に混乱する僕をケタロウ様は自分の部屋に招き入れて、ゲストルームに案内されてベッドに座らされて。少し話したら、ケタロウ様が跪いて僕を見上げて『運命』って言い出したから、もう、本当に、死んでも良いって思ってしまった。死なないけど。
 こんなケタロウ様残して死ぬなんて出来ない…!!
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