攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺

【16】

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 何をって…。

「…えぇと…ゲームでは、まずメゴロウの転校初日に、彼の足を引っ掛けて転ばせて、寮の部屋を見て、分不相応だから、ここに相応しい人間になれとか言ったりして…まあ、チクチクとした嫌味と…畑…菜園を荒らしたり、壺を落としたり、小さな動物や虫の死骸をプレゼントしたり…」

 …だよな?
 まあ、壺落としやら畑荒らしとか死骸とかは、ケタロウがやった描写は無かったが、周りがケタロウがやったって言って…。…え…? …あ、れ…?

「は?」

「え?」

 何かが引っ掛かったが、生徒会長の間の抜けた声に、それは霧散した。

「それだけか?」

「ええ…ゲームの描写では、それだけ…ですね…」

 うん、それだけ、だよな?

「それだけで、悪役になり、君は殺されると?」

 うん、ケタロウは何度も死んでたぞ。

「はい。ゲームの役割として、必要だったのでしょう。メゴロウは、いずれ来る災厄を回避する為に必要な存在ですから、例え些細な事でも、それがメゴロウを苛むものであるのなら、排除しなければならない。そう言われて、俺は絞首台へと上げられるのです」

 そう。
 善人の主人公を引き立てる為に、ケタロウと云うキャラクターが作られたんだからな。ゲームや物語では良くある設定だろ? 魔王が良い例じゃないか。魔物が溢れて、人が虐げられる世界。それを生み出しているのは魔王だから、倒して平和な世を手に入れましょうって。見える敵、悪が居るのは解り易いだろ?

「…有り得ない…。幾ら、彼が重要な人物とは言え、それだけで、絞首刑だと? 衆人環視の前で? 人の命を見世物に? そんな物が、まだ、この国には残っているのか…。命の尊厳を何だと思っているんだ!」

 ダンッ! って、生徒会長が片手で拳を作ってテーブルを叩いて、俺はちょっと身を竦ませた。
 おおお…怒ってらっしゃるよ…。他人ひと事なのに…。熱い、熱いよ、生徒会長。

「いえ…あの、ゲームの世界の事ですから…」

 どうどうと、宥める様に俺は両手を軽く上げて生徒会長をいなす。
 てか、ゲームを知らない人間からしたら、これが普通の反応なのかと驚いた。当たり前の事って、受け入れていたが、確かにそうだよなとも思う。
 もし、前世を思い出していなかったら、俺はどうしていただろう?
 メゴロウに足を引っ掛けて転ばして、チクチクと虐めていたのか? そして、あの日にメゴロウの正体を知って、絞首台に…。

 ふっ、と、あの時のケタロウの笑顔が頭に浮かんだ。

 あ、れ…?
 待てよ…?
 何で、ケタロウはあの時笑ったんだ?
 俺を…プレイヤーを、主人公を、メゴロウを見て…笑ったんだよな?
 心配するなとでも言いたそうな…そんな…あ、れ?

「それで。今の君は、彼に何をした?」

「は?」

 そこで、また生徒会長に声を掛けられて、思考は中断された。

「ゲームの通りに、彼に嫌がらせをしたのか?」

「いいえ、していません。あ、足を引っ掛けようとはしましたが、それは失敗して、未遂に終わっています。それで、前世を思い出して、死にたくないので、主人公であるメゴロウと仲良くしようと…」

 軽く首を振って、俺は肩を竦めてみせる。
 うん、失敗して良かったよ。 
 でなければ、前世を思い出す事も無かっただろうしな。

「そうだな。今の君は、彼に何の嫌がらせもしていない。それなのに、何故、そう怯える?」

「え…」

 …怯えてる?
 …俺が?

「君は、これが隠しキャラの攻略の道だと言ったな? それまでの道では、確かに君は死んでいたのだろう。だが、この隠しキャラの道では、どうなんだ?」

 テーブルの上に両肘を置いて手を組んで、生徒会長がずずいっと俺を見て来た。

「…どう、とは…?」

 その威圧に、内心ビビりながら俺は聞き返す。
 何だ? 何が言いたいんだ?

「先にも述べた様に、俺はウーパールーパーを好かない。それは、他の皆も同じだろう。また、これまでの君と彼を見ていて、俺も、皆も、君達が恋人同士だと疑いもしなかった。だから、君の言葉を借りれば、隠し攻略キャラは、君を置いて他ならないだろう。それは、君達二人が居るのが、とても自然だったからだ。それに、今の君は悪役では無い。どちらかと言えば、ウーパールーパーがそれにあたるのではないか? 今の君は、何処か抜けたお人好しで自覚無しの馬鹿だ。そんな君の死を誰が望む? 何故、その作られた物語に沿おうとする? 今、こうして俺と話している処は見ていない、君はそう言った。話は…未来は変わっている。変える事が出来る。だから、君はメゴロウと仲良くなろうとしたのだろう? 未来を変える為に。ならば、こう考えろ。この隠された道は、君を救済する道だと。知らない道は、自分で作って行けば良い」

 なんですと? 
 いや、何かしれっと、失礼な事をブッ込んで来なかったか?

「繰り返すが、メゴケタくっつけ隊や、数々の投書。どれも、君達を応援する物だ。誰も、君の死など望んでいない。もちろん、俺も」

「…は…っ…」

 余りにも余りな生徒会長の話に、俺は何時の間にか息を詰めていたらしい。
 喉に手をあてて、息を吐く。

 待てよ…。
 何だよ、それ?
 そんなの、ケタロウに都合良すぎるだろ?
 救済?
 俺の?
 悪役の俺の?
 あの、悪役殺し大好きの田中サンが書いたシナリオだぞ? その、田中サンが悪役を救済? 嘘だろ? どんなに人気のある悪役だって、ばっさりすっぱり情け容赦無く切って来た、あの田中サンだぞ? あれ? でも、田中サン絡みで何か変な噂があった様な? あれ? 何だっけ?
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