攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

文字の大きさ
77 / 141
攻略されていたのは、俺

【18】

しおりを挟む
「…っ…!!」

 ぺとりと額と額をくっつけた途端、メゴロウの身体がビシッと音を立てて固まった気がした。

「ケタロウ先輩…っ…!」

「メゴロウ先輩、しっかり…っ…!!」

 双子のそんな声が聞こえたと思ったら、グイッと腕を掴まれて、俺の身体が後ろに引っ張られて、メゴロウとの距離が開いて行く。
 うおっ! と、たたらを踏んで、メゴロウを見れば、ブルーシートを抱えたブコに後ろから引っ張られているのが見えた。

 な、何だ?

「どうしたんだい? いきなり? 私はメゴロウの具合が悪そうだったから、発熱があるのかどうか確認をしたかっただけなのだが…。昼食は食べたのかい? もしかして空腹で元気が無いのかい? それとも休憩をしっかり取ってなくて、この陽気にやられてしまったのかい? 水分は摂っていたのかい?」

 今日は朝から気温が高かったから、バテているのかも知れない。三人とも学園での活動だからか、真面目に制服姿だし。いや、流石にブレザーは脱いでいるけどな。

「大丈夫です! お昼も食べましたし、水分も休憩もこまめに取ってました!」

「それなら、メゴロウは何故元気が無いんだい?」

「お腹が空いているんですよ! 差し入れありがとうございます! 食べましょう! ほら!」

 ブオと遣り取りをしていた間に、菜園の脇にブルーシートが敷かれていて、その上にはメゴロウが、ちょこんと卵を抱えたまま座っていて、ブコが紙袋からパック詰めされたベーコンやら、ビニール袋に入れられたサラダやら、紙に包まれたトーストやら紙皿やらを取り出して並べていた。

 うん、まあ、空腹なら腹を満たせてやらないとな。

「ああ、私の分は要らないよ。朝に食べて、まだそれが残っているのでね。そうだ。寮の食堂から水を貰って来よう。ベーコンやゆで卵を切るのに、ナイフも必要だね」

「え、自分が行きますよ」

「いや、少しでも動いて消化させないとね」

 駆け出そうとするブオを止めて、俺は寮の方へと足を向けた。
 先に寄って来れば良かったなと思ったが、後の祭りだ。
 三人は菜園の世話で疲れているだろうし、ここは俺が動かないとな。
 って、そう云えば『種を蒔いた』とか、生徒会長言っていたな? 何時の間に蒔いたんだ? そんな場所あったかな? それとも違う処か? 何を作る気なんだ? まあ、良いか。
 ウーパールーパーや、前世、ゲームの話、生徒会長の説教(?)、とにかく、頭が疲れた。今は身体を動かして気分転換をしよう。考えるのは後だ。

 ◇

 ぽたり、ぽたりと顔に何かが落ちて来て、俺は目を開けた。
 暗い室内にぼうっと浮かび上がる、ベッドで寝る俺の上に圧し掛かる影。
 そして、下半身…尻の違和感。

 …あー…。
 久しぶりに見るな、この夢…。
 でも、これまでとは違う。

「…メゴロウ…?」

 手を伸ばして、メゴロウの濡れた頬に触れば、ぴくりとその頬が動いた。
 
「…何故、泣いているんだい?」

 また、勝手に俺の尻にちんこ突っ込んでと思ったが、今は、そんなのどうでも良い。いや、良くはないんだが、どうでも良い。そんなのより、メゴロウが泣いている事の方が重要だ。

「…泣かないで…」

 頬にあてた手を動かして、流れる涙を拭う。
 何、泣いているんだよ?
 泣くなよ。
 何か、苦しくなるだろ?

「…ごめんなさい…」

「何故、謝るんだい?」

「良い子でいるって…決めたのに…」

「うん? 君は良い子だよ? 何かいけない事でもしたのかい?」

 …まあ…。
 俺の許可なく、尻にちんこ突っ込んでいるのは良く無い事だが。でも、これは夢だしな。
 …それに…。
 久しぶりに、こんな近くでお前を見られるのが嬉しい。昼間は無理矢理引き離されたからな。こうして、触れる事が嬉しい。夢だけどな…。

「…僕が…お願いしたのに…」

「うん?」

 お願い? 何を?

「…やきもち…やくなんて…」

「…うん…?」

 焼き餅? ヤキモチ? やきもち? …嫉妬…?
 え? 誰に? って、嫉妬って事はメゴロウは好きな奴が居るって事だよな?
 え? 何時の間に?
 え?
 え?
 誰だよ、それ?
 やっぱり、ウーパールーパーなのか? いや、あれは俺が許さん。あれは駄目だ。あれの本性を知った今、あれがヒロインとか有り得ない。
 が、他に思い当たるキャラなんて…。
 …いや…。
 居るな。
 俺とメゴロウが離れてから出て来たキャラが。ビジュアルの有無は、この際どうでも良い。
 モ・ブコだ。
 メゴケタくっつけ隊とか生徒会長は言っていたが…それは仮の姿で、隠し攻略キャラはブコだったって事か? マジか。どんだけのダークホースなんだ。けど、差し入れ、並んで食べてたもんな。俺と場所変われと思ったが、あ~んはして無かったから、良しとした。あれをやるのは俺だけで良い。

 …ん…?
 って、何考えてんだ俺?

「…ここも…僕のせいで…ごめんなさい…」

 身体を離して、メゴロウが元気の無い俺のちんこに触る。

 いやん、やめて。
 情けない俺のちんこに触らないで。
 突っ込まれてるのに、何の反応も見せないで悪いな。
 悪いのは俺だから、男の自信失くすなよ?
 てか、夢なんだから反応して見せろよ。
 おとこを見せろよ、俺のちんこ。
 うう、これもマグロって言うのか?

 …けど…。

「…泣かなくて良い…。謝らなくて良い…。…笑っておくれ…」

 俺は両腕を伸ばして、メゴロウに笑い掛ける。
 駄目出しを喰らった王子様スマイルだけどな!

「…ケタロウ様…」

 伸ばした手に。
 俺の掌に、メゴロウが顔をぐしゃぐしゃに歪めて、そっと頬をあてて擦り付けて来る。
 猫が飼い主の手に頭を押し付けて、グリグリするような感じだ。

「君が泣くのを見るのは辛いよ…。…明るく元気な君を見せておくれ…」

 泣くなよ。
 笑えよ。
 お前が笑うなら、俺は何だってするから…。
 だから、笑ってくれよ…な?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...