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攻略されていたのは、俺
【19】
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「…鬱陶しい…」
おはようございます。今日も爽やかな朝です。
爽やかな朝に相応しく、俺は寮の食堂で、正面に座る生徒会長から、爽やかな笑顔と爽やかな声で爽やかな言葉を投げつけられています。
って、おちゃらけないとやってられないぜ。
生徒会長の視線が痛い。声が冷たい。言葉も冷たい。どんよりと落ち込んでいるんだから、ちょっとは慰めてくれよ、ケチ。
「…メゴロウが…朝…コーヒーだけを用意して…顔も見せずに出て行ってしまったんです…」
察してくれない生徒会長に、俺はエビとホタテのクリームリゾットをスプーンで突きながら、俯いてぼそぼそと言った。
久しぶりに…内容はどうであれ…最近離れていたメゴロウが夢に出て来て、ちょっと、ちょおぉっと、いや、かなり嬉しかったのに…。何だ、この仕打ちは。朝、一緒に出る事は無くなっても、メゴロウの顔を見る事は出来ていたのに。それなのに。いや、部活に行けば見る事は出来るが、ブオとブコが居るし、なんならこいつも付いて来るかも知れないから…メゴロウと二人きりには、なれないんだよな…。部屋では二人きりだろうって? あいつ、俺と寝るのを止めてから、自分の部屋に閉じ篭ってるから…本当に、朝のあの時間しか無いんだよな…。
「何だ、その目は。何か言いたい事があるのか」
顔を俯かせて、じとりと上目遣いで睨めば、思い切り眉を顰められた。
「…特にありませんよ。…ただ、メゴロウと二人の時間が懐かしいだけです…」
懐かしいなんて言う程離れては居ないと思うが、メゴロウと二人で寝たり、メゴロウの顔を見ながらコーヒーを飲んだり、そんな俺を嬉しそうに見るメゴロウとか、メゴロウに朝飯、昼飯、晩飯を食わせてやれば、いつも美味しそうに黙々と口を動かしていて。その膨らんだ頬をぷにぷにしたりするのも楽しかった。あれらが、これからはブコの物になるのか…。
「…全部、聞こえているからな。それより、ブコが何だって?」
あれ。聞こえてたのか。地獄耳だな。
「ブコがメゴロウの相手だと云う事に気付いただけですよ。トイセ会長は私がそうだと言いましたが、彼女の方がヒロインに相応しいでしょう。普通の女の子ですが、メゴロウにはそう云う子の方が似合うと思います。肩肘張らずに、自然と笑顔が零れ、息が出来る相手…」
「…だから、君は俺の話の何を聞いていたんだ。何故、そうなる。君の頭の中はどうなっているんだ。メゴロウの気持ちも確かめずに、勝手に暴走して落ち込むのはよせ。君はそこまで自分で話していて何故気付かない? 前世の記憶があると云う事は、そこで生きて来た経験も活かされて…」
右手を前髪へと差し込んで、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜていた生徒会長の手が、不意に止まった。
「どうしました?」
軽く首を傾げて生徒会長を見れば、彼は残念な子を見る様な目で俺を見て来た。
…何だ、その目は…。
「…前世で…恋人が居た事は?」
「は?」
何だ、いきなり?
恋人なんて、そんなの………。
「…そうか、解った。いや、言わなくて良い」
いや、片手で顔を隠して、もう片方の手を振るなよ。何だよ。何で今ので、年齢=恋人居ない歴って解るんだよ?
「…まあ、流石に…俺から言う訳には行かないし…彼より俺が先に聞いたとなれば、何を言われる事か…」
いや、だから、顎に指をあててぶつぶつ一人で言っているなよ。何だよ、だから、一人で納得するなよ。
「そう言えば、昨日聞くのを忘れたんだが…」
「何でしょうか?」
いきなり生徒会長が声を潜めたから、俺も自然と声を潜めた。
今日は日曜日で、学園は昨日に引き続き休みだ。
今は七時で、食堂に居る人間もまばらで、俺達の周りのテーブルに人は居ないが、普通のトーンで話せば、その内容を聞こうと思えば聞こえてしまうかも知れない。まあ、聞き耳を立てている様な奴は、今の処居ないみたいだけどな。
「…危機は何時、訪れる? それはどんな物だ?」
お?
「信じていないのでは無かったのですか?」
生徒会長が両腕をテーブルの上に置いて、手を組んでずずいっと前のめりになって来たから、俺も同じ様に肘を置いて組んだ手の上に顎を乗せて、少しだけ前のめりになった。
「当然だ。しかし、単純に気になる」
…あー…あれか。前世での大昔の預言者。それの予言を信じる訳じゃないが、その内容は気になるって奴か。それを利用して、宗教や何やら流行ったもんなあ。結局、人類が滅亡する事は無かったんだが。
…けど…。
「…危機ですか…それは…」
「…それは…?」
「記憶にありません」
「は?」
あ、目が点になった。
だって、仕方が無いだろう?
エロゲだぞ?
メインで、それが出て来る訳でも無いし。
オープニングとエンディングで、クソ長いテロップを流されるだけで終わる危機だぞ? ぶっちゃけ、ケタロウが断罪されるあの場面まで、危機の事とかすっからかんに忘れていたし、その後はご褒美エッチで箱ティッシュ用意して、で、賢者タイム突入だぞ? そんな時に、エンディングでそんなの流されて頭に入るか? 否、入る筈が無い。次は、どの娘とイチャイチャしようかと考えてだな。と云う事を話していたら、生徒会長が片手で頭を押さえ、それが両手になり、終いにはトレイを避けて、テーブルに突っ伏してしまった。何だよ、男のロマンだろうが。
「…とにかく…君が非常に残念な人種だと云う事は良く解った」
何で!?
おはようございます。今日も爽やかな朝です。
爽やかな朝に相応しく、俺は寮の食堂で、正面に座る生徒会長から、爽やかな笑顔と爽やかな声で爽やかな言葉を投げつけられています。
って、おちゃらけないとやってられないぜ。
生徒会長の視線が痛い。声が冷たい。言葉も冷たい。どんよりと落ち込んでいるんだから、ちょっとは慰めてくれよ、ケチ。
「…メゴロウが…朝…コーヒーだけを用意して…顔も見せずに出て行ってしまったんです…」
察してくれない生徒会長に、俺はエビとホタテのクリームリゾットをスプーンで突きながら、俯いてぼそぼそと言った。
久しぶりに…内容はどうであれ…最近離れていたメゴロウが夢に出て来て、ちょっと、ちょおぉっと、いや、かなり嬉しかったのに…。何だ、この仕打ちは。朝、一緒に出る事は無くなっても、メゴロウの顔を見る事は出来ていたのに。それなのに。いや、部活に行けば見る事は出来るが、ブオとブコが居るし、なんならこいつも付いて来るかも知れないから…メゴロウと二人きりには、なれないんだよな…。部屋では二人きりだろうって? あいつ、俺と寝るのを止めてから、自分の部屋に閉じ篭ってるから…本当に、朝のあの時間しか無いんだよな…。
「何だ、その目は。何か言いたい事があるのか」
顔を俯かせて、じとりと上目遣いで睨めば、思い切り眉を顰められた。
「…特にありませんよ。…ただ、メゴロウと二人の時間が懐かしいだけです…」
懐かしいなんて言う程離れては居ないと思うが、メゴロウと二人で寝たり、メゴロウの顔を見ながらコーヒーを飲んだり、そんな俺を嬉しそうに見るメゴロウとか、メゴロウに朝飯、昼飯、晩飯を食わせてやれば、いつも美味しそうに黙々と口を動かしていて。その膨らんだ頬をぷにぷにしたりするのも楽しかった。あれらが、これからはブコの物になるのか…。
「…全部、聞こえているからな。それより、ブコが何だって?」
あれ。聞こえてたのか。地獄耳だな。
「ブコがメゴロウの相手だと云う事に気付いただけですよ。トイセ会長は私がそうだと言いましたが、彼女の方がヒロインに相応しいでしょう。普通の女の子ですが、メゴロウにはそう云う子の方が似合うと思います。肩肘張らずに、自然と笑顔が零れ、息が出来る相手…」
「…だから、君は俺の話の何を聞いていたんだ。何故、そうなる。君の頭の中はどうなっているんだ。メゴロウの気持ちも確かめずに、勝手に暴走して落ち込むのはよせ。君はそこまで自分で話していて何故気付かない? 前世の記憶があると云う事は、そこで生きて来た経験も活かされて…」
右手を前髪へと差し込んで、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜていた生徒会長の手が、不意に止まった。
「どうしました?」
軽く首を傾げて生徒会長を見れば、彼は残念な子を見る様な目で俺を見て来た。
…何だ、その目は…。
「…前世で…恋人が居た事は?」
「は?」
何だ、いきなり?
恋人なんて、そんなの………。
「…そうか、解った。いや、言わなくて良い」
いや、片手で顔を隠して、もう片方の手を振るなよ。何だよ。何で今ので、年齢=恋人居ない歴って解るんだよ?
「…まあ、流石に…俺から言う訳には行かないし…彼より俺が先に聞いたとなれば、何を言われる事か…」
いや、だから、顎に指をあててぶつぶつ一人で言っているなよ。何だよ、だから、一人で納得するなよ。
「そう言えば、昨日聞くのを忘れたんだが…」
「何でしょうか?」
いきなり生徒会長が声を潜めたから、俺も自然と声を潜めた。
今日は日曜日で、学園は昨日に引き続き休みだ。
今は七時で、食堂に居る人間もまばらで、俺達の周りのテーブルに人は居ないが、普通のトーンで話せば、その内容を聞こうと思えば聞こえてしまうかも知れない。まあ、聞き耳を立てている様な奴は、今の処居ないみたいだけどな。
「…危機は何時、訪れる? それはどんな物だ?」
お?
「信じていないのでは無かったのですか?」
生徒会長が両腕をテーブルの上に置いて、手を組んでずずいっと前のめりになって来たから、俺も同じ様に肘を置いて組んだ手の上に顎を乗せて、少しだけ前のめりになった。
「当然だ。しかし、単純に気になる」
…あー…あれか。前世での大昔の預言者。それの予言を信じる訳じゃないが、その内容は気になるって奴か。それを利用して、宗教や何やら流行ったもんなあ。結局、人類が滅亡する事は無かったんだが。
…けど…。
「…危機ですか…それは…」
「…それは…?」
「記憶にありません」
「は?」
あ、目が点になった。
だって、仕方が無いだろう?
エロゲだぞ?
メインで、それが出て来る訳でも無いし。
オープニングとエンディングで、クソ長いテロップを流されるだけで終わる危機だぞ? ぶっちゃけ、ケタロウが断罪されるあの場面まで、危機の事とかすっからかんに忘れていたし、その後はご褒美エッチで箱ティッシュ用意して、で、賢者タイム突入だぞ? そんな時に、エンディングでそんなの流されて頭に入るか? 否、入る筈が無い。次は、どの娘とイチャイチャしようかと考えてだな。と云う事を話していたら、生徒会長が片手で頭を押さえ、それが両手になり、終いにはトレイを避けて、テーブルに突っ伏してしまった。何だよ、男のロマンだろうが。
「…とにかく…君が非常に残念な人種だと云う事は良く解った」
何で!?
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