攻略されていたのは、俺

三冬月マヨ

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攻略されていたのは、俺

【20】

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 ムカつく。

『まあ、今の君が面白い事に変わりはないが』

 ムカつく。

『少し前の君は…彼と離れる前の君からは、自信が満ち溢れて居るように見えたのだが』

 ムカつく。

『俺が話した事を良く考えろ』

 ムカつく。

『とにかく、一度じっくりとメゴロウと話す様に』

 ブッチブッチと雑草を抜きながら、時々ぶら下がって来るミミズを土に戻しながら、俺は隣の花壇で、モクモクと雑草を抜く生徒会長の背中を睨んでいた。

 …年下のくせに、好き放題言いやがって。

 前世年齢合わせたら、俺の方が年上なんだからな、この野郎。
 自殺志願者だとか、可愛そうな子だとか、残念な子だとか、何言ってくれてんだ。
 その口にも、目と同じ様に眼鏡オブラートを掛けやがれ。
 が、生徒会長の言う事ももっともだ。
 バカの考え休むに似たり、だ。
 一人でうじうじしていたって、どうにもならない。てか、何時から俺はこんなに弱くなったんだ。

 …あれからか…。

 熱中症で倒れたって聞かされてから…その後で、一緒に寝るのを拒否されてから…。

 ブンブンと頭を振る変わりに、抜いた草を振って根に付いた土を落とす。

 何で、あの時に食い下がらなかったんだ。
 何で、そのまま受け入れてしまったんだ。
 
 冗談じゃない。
 このまま、メゴロウと距離が開いたままで、卒業まで持つのか? いや、持たない。
 深刻なメゴロウ不足だ。
 とんでもなく、メゴロウが欠損している。
 メゴロウとの時間が欲しい。
 メゴロウの笑う顔が見たい。
 メゴロウに俺を見て欲しい。
 メゴロウと何時までも居たい。
 だって、俺達は運命なんだ。
 運命共同体なんだ。
 離れて居られる筈がないんだ。
 お前が居ないと、笑う気にもなれない。
 そんな俺を見て、メゴロウが傷付くなんて嫌だ。メゴロウの前では笑っていたい。
 夢で見た様に、お前に触りたいし、触られたい。

 …ちゃんと話さないとな…。
 何で、俺を避けるのか…。
 もう一度、熱中症で倒れた時の事を謝って、礼を言って。で、また、これまでの様に一緒に居たいって。寝相が悪いなら、ベッドに括り付けても良いし、いびきや歯軋り、寝言が五月蝿いなら、耳栓をしてくれって頼み込もう。
 …キモいって思われたら萎えるし…ブコが好きだから、俺から離れたとか言われたら、めっちゃ落ち込む…が、本人の口から、しっかりと言って貰った方がスッキリするよな。多分、きっと。

 どうだ、こんちくしょう。

 と、俺はまた生徒会長の背中を睨み付ける。

 俺はな、敷かれたレールの上なんか、歩きたくないんだよ。
 俺が、破滅へと敷かれたレールの上を大人しく歩くと思うなよ。
 そうだよ。
 俺は死にたくない。
 生きていたいから、メゴロウと仲良くなったんだ。前世でお世話になった、ラノベや漫画、アニメ、ゲーム、それらが教えてくれた。

 悪役は、悪役らしい事をしなければ死なない。

 それを信じて、実行して来たんだ。
 それを信じて、貫けば良いんだ。
 ちょっと、ブオやブコが出て来たからって、何を怯えているんだ。ブコが隠し攻略キャラだったとして、二人の邪魔をしなければ良いだけの話だろう? メゴロウがブコを好きなら、応援してやれば良いだけだ。何なら、橋渡しをしてやっても良い。

「…っ…」

 …朝、胃薬飲んだのに、また痛くなって来た…薬、変えようかな…。

 ブンブンと、俺はまた抜いた草を振る。
 隣の花壇の生徒会長まで届け、こんにゃろ。

「…何だ?」

 と、勢い良く草を手に振り抜いたら、生徒会長が面倒そうに振り返って来た。

 お? 届いた? 乗用車一台分離れている気がするが、土、根性あるな。

「…………土は届いては居ないが、君の熱い視線は、先程から突き刺さっているからな」

 何で解った!?

 思わず呆然として草を握り締める俺の後ろ…隣の花壇では、メゴロウとブコとブオが、そんな俺の背中を見ていたなんて事は、当然、俺は気付かなかった。

 ◇

 さて。
 話すと決めた物の、メゴロウは何時もの様に、俺と生徒会長を先に帰し、晩飯も二人で食べろと仰せになった。
 俺と距離を取る様になってからの、メゴロウのお決まりのパターンだ。で、メゴロウは自分は食べるのに時間が掛かるから、先に風呂に入って、寝てろと言う。倒れるまでは、一緒に食べてただろうが、ゴラァ。なめんな。過保護、駄目、絶対。俺は、そんなに貧弱じゃない。最初の頃は、起きて待っていたけど、視線を泳がせて『寝て下さい』って、俯き加減に言われたら、言う事を聞かないと悪い気がして、それからは大人しく寝てたが。もう、止めだ止め! 俺らしくない!
 今日は、もう、とにかくムカついて仕方がない。
 俺は男だ。
 ちんこが勃たなくても、立派な男だ。
 見てろよ、ちくしょう。
 俺は、残念な子じゃない。
 俺は、やれば出来る子だ。
 だから、俺は寝たフリをして、メゴロウが帰って来るのを待った。ドアに耳を引っ付けて、今か今かとメゴロウの帰りを待った。で、部屋のドアが開いて、メゴロウが帰って来た。が、まだ、出ない。今出たら、逃げられる。あいつが逃げられない様な場所。そこへ行くまで我慢だ。カチャ、パタンって音がして、少ししてから、また、カチャ、パタンって音がした。で、また、カチャ、パタンって音がした。

 良し、突撃だ。

 そ~っと、寝室のドアを開けて、抜き足差し足忍び足で、その場所へと向かう。で、そこのドアにゆっくりと音を立てない様に、べとりと耳を付ける。パサパサとした音が聞こえる。
 
 良し、順調、順調。

 キイッ…って、音が聞こえて、俺は心の中でゆっくりと三十数えた。

 そろりとドアを開けて、その中に身体を忍び込ませて、ゆっくりと音を立てない様にドアを閉める。気分は、忍びの者だ。俺は、今、忍者だ。
 洗面台の脇には、洗濯籠があり、そこには俺達のシャツやら下着やらが入っていた。
 これを、寮の中にあるクリーニングルームに持って行けば、寮の掃除をしてくれる人が洗ってくれる。
 と、そんな事はどうでも良い。

 ターゲット、ロック・オン。

「メゴロウ、入浴中すまないね。君に話がある…ん…だ…?」

 勢い良く、内開きの摺りガラスのドアを開けて、俺は固まってしまった。

「…ケ…ッ…!?」

 だって…真っ裸でシャワーを浴びるメゴロウのメゴロウが…とても元気におっきしてたから…。
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