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攻略されていたのは、俺
【32】
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「…何…?」
俺の全力の叫びに生徒会長が眉を顰めた。
「…失礼しました。…ここは?」
軽く咳払いをしてから俺は寝ていた身体を起こして、明かりの灯る室内を見渡す。
窓を見れば外は暗くて、俺が刺されてから、かなりの時間が経っているのだろうと思われた。その窓ガラスに映る俺は、青い前開きの検査着みたいのを着せられていた。いつもは結んでいる髪も、ご丁寧に解かれている。そんな俺が居るのは、冷たく硬い床の上では無く、白く柔らかく清潔そうなベッドの上だった。そのベッドの横に、丸椅子を置いた生徒会長が座っている。ちょっとよれているが、きちんと制服姿で、ズボンも履いていた。
「王立病院だ」
「…ああ…」
簡潔な生徒会長の返事に、俺は腹に手をあてて軽く苦笑して頷く。
そりゃ、そうだよな。
出血多量で死んでもおかしくない怪我をしたんだ。
怪我が治った処で『はい、そうですか。お帰り下さい』なんてなる訳がない。
恐らく、色々と検査された後なんだろうな。
「…落ち着いているな…? 君は死にかけたんだぞ? それを彼が…メゴロウが癒した。危機と君は言った。メゴロウが持つ力で世界を救うと。メゴロウの力は、癒しの力だったのだな」
「…違いますよ…メゴロウの力は…いえ…」
これは…言わない方が良いかな?
つい、うっかり話してしまったが、世界の危機も、メゴロウの力も、本来ならばそれは秘密の物だ。
俺の怪我を治す為に…怪我をする前の状態に戻す為に、メゴロウは皆の前で、なりふり構わずに力を使ったんだろう。
「…メゴロウは…他の皆は何処に?」
隅々まで部屋を見ても、俺と生徒会長の他には誰も見当たらない。
「…メゴロウも、他の…あの場に居た者は全員、王宮へと呼ばれた。俺は、まともに話せる状態では無かったから、明日へと持ち越されたが」
ああ、そう言えば、生徒会長は風邪で具合が悪そうだったな。
「お加減の方は宜しいのですか? 熱は? 風邪があるのに無理をしてはいけませんよ。ああ、そう言えば、何故、あの様な事に? ウーパールーパーはどうなったのですか?」
「いや、一度に話すな。君に異常はなく、通常通りだと云うのは良く解った」
はい?
何で額を押さえながら、呻く様に言うんだよ、こいつは?
「あれは、あのウーパールーパーを追い詰めたのは、俺とメゴロウの利害が一致した結果だ。ウーパールーパーへの投書の話はしたな? 以前より、あれへの苦情も来ていたし、俺はイステ、マウ両教諭の辞職も気に掛かっていた。また、ここへ来るのが夢だと語っていた生徒が、不祥事と云う名目の元に辞めて行った事も、俺は知っていた。メゴロウがそれを知っていたのかは、解らない。解らないが、彼は俺に話を持ち掛けて来た」
「…メゴロウが…?」
「ああ。彼は、こう言った『あの気持ちの悪い紫女は、学園を壊す。自分は未来から来たから知って居る。役立たずになりたくなかったら、手を貸せ』と。そう、暗い目をして俺に向かって言って来た」
「…ソウデスカ…」
クイッと人差し指で眼鏡を上げた生徒会長に、両手で頭を抱え、俯きながら、俺はそう言うしかない。
いや、もう、ウチの子が済みませんって云うアレだ。
何言ってるの?
何やってるの?
生徒会長が、やけに俺の話を素直に聞いているなと思ったら、既にやらかしてる奴が居たからなのね!? 未来発言も、お前が元なのね!?
てか、それって、生徒会長を脅しているよね!?
何やってるの、メゴロウ――――――――っ!!
それより、何時の間にそんな話をしていたんだ!?
「…それは…何時の話なのですか…」
「君が、熱中症で倒れたと話を聞かされた後だな」
「…そんな頃からですか…」
…いや…違うか…。
…俺が…倒れたからだ…。
…俺が、救護室へ行って…俺が…。
「…っ…!」
ズキッと腹が痛んで、俺は眉を顰めた。
今は、傷痕なんてないが、そこは確かに刺された。
「痛むのか? 痕は欠片も残っていないし、レントゲンも…」
「…大丈夫です…幻肢痛と言うのでしょうか? それですので…」
「そうか? 話を続けるぞ? また、その時にメゴロウから、君の傍に居る様にとも頼まれた。君を一人にしたくないからと。俺に頼まなくても、君が居るだろうと言えば、自分にはその資格が無いと言って来た。もう少し良い子に…大人になるまでは、君から離れると」
「は? 何を言っているのですか? メゴロウほど素直で可愛くて純真な良い子はいませんよ?」
「…………………………………………………………まあ、良い」
何だよ、その間は!?
「未来で、ウーパールーパーは生徒を襲い、その生徒を死へと追いやったと彼は言った。ウーパールーパーは己の欲を満たす為に、常習的にそれを行っている筈だと。そして、これは俺の見解だが、それには協力者が居る筈だ。それを何度も繰り返していれば、流石に誰かしら気付いてもおかしくは無いだろう。あんなウーパールーパーなんだし。学園内の事は調べられるとしても、それ以外となると手が足りない。そう言えば、彼は『知り合いのお兄さんを紹介する』と。…彼らが只者では無いと思ってはいたが…」
そこで生徒会長は一旦言葉を止めて、長い息を吐いた。
…まあ…そうだよな…。
メゴロウがどんな風に生徒会長に話したのかは知らないが、王宮のSPが出て来るとかは思わないよな、普通。
…けど…何だろうな…?
何か、こう背中がムズムズするのは?
何か、メゴロウが俺の為に…だよな? 色々と動いていたのを知れて嬉しいって思うなんて、俺、何処かおかしいのかな?
俺の全力の叫びに生徒会長が眉を顰めた。
「…失礼しました。…ここは?」
軽く咳払いをしてから俺は寝ていた身体を起こして、明かりの灯る室内を見渡す。
窓を見れば外は暗くて、俺が刺されてから、かなりの時間が経っているのだろうと思われた。その窓ガラスに映る俺は、青い前開きの検査着みたいのを着せられていた。いつもは結んでいる髪も、ご丁寧に解かれている。そんな俺が居るのは、冷たく硬い床の上では無く、白く柔らかく清潔そうなベッドの上だった。そのベッドの横に、丸椅子を置いた生徒会長が座っている。ちょっとよれているが、きちんと制服姿で、ズボンも履いていた。
「王立病院だ」
「…ああ…」
簡潔な生徒会長の返事に、俺は腹に手をあてて軽く苦笑して頷く。
そりゃ、そうだよな。
出血多量で死んでもおかしくない怪我をしたんだ。
怪我が治った処で『はい、そうですか。お帰り下さい』なんてなる訳がない。
恐らく、色々と検査された後なんだろうな。
「…落ち着いているな…? 君は死にかけたんだぞ? それを彼が…メゴロウが癒した。危機と君は言った。メゴロウが持つ力で世界を救うと。メゴロウの力は、癒しの力だったのだな」
「…違いますよ…メゴロウの力は…いえ…」
これは…言わない方が良いかな?
つい、うっかり話してしまったが、世界の危機も、メゴロウの力も、本来ならばそれは秘密の物だ。
俺の怪我を治す為に…怪我をする前の状態に戻す為に、メゴロウは皆の前で、なりふり構わずに力を使ったんだろう。
「…メゴロウは…他の皆は何処に?」
隅々まで部屋を見ても、俺と生徒会長の他には誰も見当たらない。
「…メゴロウも、他の…あの場に居た者は全員、王宮へと呼ばれた。俺は、まともに話せる状態では無かったから、明日へと持ち越されたが」
ああ、そう言えば、生徒会長は風邪で具合が悪そうだったな。
「お加減の方は宜しいのですか? 熱は? 風邪があるのに無理をしてはいけませんよ。ああ、そう言えば、何故、あの様な事に? ウーパールーパーはどうなったのですか?」
「いや、一度に話すな。君に異常はなく、通常通りだと云うのは良く解った」
はい?
何で額を押さえながら、呻く様に言うんだよ、こいつは?
「あれは、あのウーパールーパーを追い詰めたのは、俺とメゴロウの利害が一致した結果だ。ウーパールーパーへの投書の話はしたな? 以前より、あれへの苦情も来ていたし、俺はイステ、マウ両教諭の辞職も気に掛かっていた。また、ここへ来るのが夢だと語っていた生徒が、不祥事と云う名目の元に辞めて行った事も、俺は知っていた。メゴロウがそれを知っていたのかは、解らない。解らないが、彼は俺に話を持ち掛けて来た」
「…メゴロウが…?」
「ああ。彼は、こう言った『あの気持ちの悪い紫女は、学園を壊す。自分は未来から来たから知って居る。役立たずになりたくなかったら、手を貸せ』と。そう、暗い目をして俺に向かって言って来た」
「…ソウデスカ…」
クイッと人差し指で眼鏡を上げた生徒会長に、両手で頭を抱え、俯きながら、俺はそう言うしかない。
いや、もう、ウチの子が済みませんって云うアレだ。
何言ってるの?
何やってるの?
生徒会長が、やけに俺の話を素直に聞いているなと思ったら、既にやらかしてる奴が居たからなのね!? 未来発言も、お前が元なのね!?
てか、それって、生徒会長を脅しているよね!?
何やってるの、メゴロウ――――――――っ!!
それより、何時の間にそんな話をしていたんだ!?
「…それは…何時の話なのですか…」
「君が、熱中症で倒れたと話を聞かされた後だな」
「…そんな頃からですか…」
…いや…違うか…。
…俺が…倒れたからだ…。
…俺が、救護室へ行って…俺が…。
「…っ…!」
ズキッと腹が痛んで、俺は眉を顰めた。
今は、傷痕なんてないが、そこは確かに刺された。
「痛むのか? 痕は欠片も残っていないし、レントゲンも…」
「…大丈夫です…幻肢痛と言うのでしょうか? それですので…」
「そうか? 話を続けるぞ? また、その時にメゴロウから、君の傍に居る様にとも頼まれた。君を一人にしたくないからと。俺に頼まなくても、君が居るだろうと言えば、自分にはその資格が無いと言って来た。もう少し良い子に…大人になるまでは、君から離れると」
「は? 何を言っているのですか? メゴロウほど素直で可愛くて純真な良い子はいませんよ?」
「…………………………………………………………まあ、良い」
何だよ、その間は!?
「未来で、ウーパールーパーは生徒を襲い、その生徒を死へと追いやったと彼は言った。ウーパールーパーは己の欲を満たす為に、常習的にそれを行っている筈だと。そして、これは俺の見解だが、それには協力者が居る筈だ。それを何度も繰り返していれば、流石に誰かしら気付いてもおかしくは無いだろう。あんなウーパールーパーなんだし。学園内の事は調べられるとしても、それ以外となると手が足りない。そう言えば、彼は『知り合いのお兄さんを紹介する』と。…彼らが只者では無いと思ってはいたが…」
そこで生徒会長は一旦言葉を止めて、長い息を吐いた。
…まあ…そうだよな…。
メゴロウがどんな風に生徒会長に話したのかは知らないが、王宮のSPが出て来るとかは思わないよな、普通。
…けど…何だろうな…?
何か、こう背中がムズムズするのは?
何か、メゴロウが俺の為に…だよな? 色々と動いていたのを知れて嬉しいって思うなんて、俺、何処かおかしいのかな?
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